――20周年記念のコンサートが開催されますが、意外にも周年コンサートは初めてなんですね。

「そうなんです。実はこれまで、10周年、15周年とチャンスはあったんですが開催はしてこなかったんですよね。これはわざとそうしていたのかと言われたら決してそうではなく、ただぼんやりしていて(笑)」

――ぼんやりですか!?(笑)

「はい(笑)。タレントとしてのデビューなのか、ミュージカルのデビューなのか、CDのデビューなのかそれで年数も違うので、どこを持って周年とするのか決めかねていたところもあって。ほぼ毎年コンサートツアーはやらせてもらっていたのでなんとなくズルズルと...(笑)。でも、今は子育て優先で舞台の本数を減らしているので、”そういえば20周年だよね”と思い立ったタイミングで、コンサートのスケジュールを組みやすかったという感じですね。ファンのみなさんに感謝を込めて、念願の20周年記念コンサートを開催する運びとなりました」

――20周年と一言で言っても、すごく長いですよね。

「そうですね。自分の力だけでは絶対に到達できない節目ですし、お仕事をいただけなかったらそのキャリアは続いていかないので、恩返しという意味も含めて、フルオーケストラの皆さんとのコラボレーションで、いつものコンサートとは違う味付けでお送りしようと思っています」

――すでにセットリストもできているんですか?

「候補曲は出揃っていて、今は最終的な選別をしているところです。これは外せないという曲新しく挑戦してみたい曲ファンの皆さんが聞きたいであろう曲などを全部詰め込んでいくと、自分で自分の首を絞めるようなセットリストになってしまって…(苦笑)。あんまり100m爆走が続くようなハードな曲ばかりだと喉もキツイし、それこそ聴いてる人も疲れちゃうだろうし、バランスが難しいですね。でもせっかくのフルオーケストラとの共演ですし、各地一回ずつの公演なので、基本的には攻めのセットリストでと思っています」

――気持ちと喉の戦いですね…!

「ですね(笑)。私は今まで自分のコンサートにはゲストシンガーをお招きしたことがなくて、当たり前ですが最初から最後まで一人で歌いきるショーになるので、ペース配分は考えないといけません。”ゲストを呼ばない”というのはファースト・コンサートからのちょっとしたこだわりでして...。ミュージカルのガラ・コンサートなどとは違って”新妻聖子コンサート”なので、そこに足を運んでくださるお客様には、たっぷりと、惜しみなく歌声をお届けしたいんですね。いわば自分の名前が冠に付くショーでもあるわけで、まるっと自分の責任でやらなきゃなという想いも強くて。うまく言えないんですが、あくまで私とファンの皆さんのキャラクターがそっち系だったというか...なんか私は”ラマンチャの男”的な、孤軍奮闘的な立ち位置なのかなと勝手に(笑)」

――すごく素敵なこだわりだと思います。

「ありがとうございます。でも、いつも一人のようであって決して一人ではないんですけどね。ステージには心強いミュージシャンの皆さんもいてくれますし、今回に関してはそれこそフルオーケストラですから!マエストロや演奏家の皆さんにもたくさん頼って、一緒に作り上げたいと思っています」

――セットリストは、とても欲張りなものになっていると思うのですが、選曲は大変でしたか?

「大変です!(笑)。一番悩ましいのがメリハリというか、放っておくと悲しい曲ばかりになってしまうんですよ...。私が過去に演じた役って不思議と不幸な役が多くて、致死率9ってよくMCでも言ってるんですが(笑)、大体死んじゃって最後まで生きている確率が極めて低い。そうなると、持ち歌も大体が泣き叫んでるとか、命あげてるとか(笑)、涙を流してドラマチックに歌い上げる曲が大半で。一度『スペリング・ビー』というコメディ作品に出演したんですが、さすがに”今回は泣かずに歌える!”と思ったら、母親の愛を受けられないという悲しい設定の役で、やっぱり号泣して歌ってました(笑)」

――こうやって話してみると、とっても元気でパワフルなのに、正反対の薄幸な役が多いのはなぜでしょう…?

「なんでしょうねでも暗い役って本当に暗い人がやらない方がいいのかもしれないですね。どうしても上演中は役に引っ張られてしまうから、切り替えられる性格の方がラクかも。そもそもミュージカルや演劇は虚構の世界、美しい嘘の世界なので、全く違う役の方が観ている方も本人のキャラクターを忘れて役に入り込める部分があるのかもしれないですよね」

――この本来の元気なキャラクターを確認するためには、コンサートツアーに行くべきですね。

「その通りです!(笑)ソロ・コンサートでは素の、何役でもない、新妻聖子として出ていくので。舞台の時みたいにカツラをかぶったり、豪華なセットや装置も何もないですし、そのままの自分を観ていただくというのは、ごまかしがきかないからこそ特別な場所ですね。何より私のコンサートを観に来てくれるお客様に会える時間は、世界一の味方がこんなにもいてくれるんだと感じられて、本当に毎回ありがたくて涙が出そうになります。すごく安心できる場所だし、私を成長させてくれる修行の場でもあって、今の自分を確かめられるステージだからこそ、なるべく自然体で、歌にも言葉にも嘘が無いようにと心がけています。生のステージって、取り繕っても絶対にボロが出ますしね」

――たしかに、そうかもしれないですね。

「20代の頃はMCで何を言うか台本を書いてしっかりと準備したり、前日は”声が出なかったらどうしよう”と心配で眠れなかったり、ソロ・コンサートというのは有難いけれど怖い場所でもありました。今は年齢と経験も重ねて、お客様と会える喜びやワクワク感の方が勝ってきたので、年を取るのも悪くないなと思っています。でも私はテンションが上がるとすごく自由にマシンガントークしてしまうので、引いている人もいるかもしれません…」

――いやいや、大好きです!とても元気になりますよ。

「あはは。そう言ってもらえたらすごくうれしいですね。でも、毎回ついつい公演時間が長くなっちゃうので、今回はフルオーケストラの皆さんもいますし、しゃべりすぎないように頑張ります!(笑)」

――3年ぶりに声出しがOKになったからこその楽しみもありますよね。

「ありますね。いままで一方通行のように感じていた表現が、お客様が拍手以外の方法で返してくださると思うと、本当に楽しみなんです」

――セットリストの一部が既に公開されているのがすごく新鮮でした。いまからワクワクしますね。

「ありがとうございます。長く応援してくださるお客様に楽しんでもらいたいのはもちろんなんですが、初めて来てくれた人たちにも、”あ、この曲聞けて良かった。あ、この曲知ってる”と楽しんでほしいし、誰も置いてきぼりにしないようにと、普段から意識はしています。”このアーティストのライブでは絶対にこの曲を聴きたい”って、あるじゃないですか。やはり、お目当ての知っている曲を生で聞けるのって、コンサートにおいて絶対に必要な価値だと思うんです。だから”外せない曲”というのはありますね。知られていなさそうな曲に関してはできるだけMCで説明をしてから歌うようにしていますし、『ボディガード』の「I Will Always Love You」などの名曲も必ず入れるようにしています。色んな方に、気負わずに来てもらえたらうれしいです」

――さて、20周年を迎えたからこそやりたい役などはありますか?

「んーそれが特に無いんですよ。それこそ産休中は動けない分、”あの仕事やりたかった…”みたいな野心はありましたが(笑)、その反動で産後に復帰を焦って無理をして、体調を崩してしまったんですね。その時に学んだのが、この声で歌を届けられるのは当たり前ではないという事。だから、派手に転んだ後に運よく立ち直れた今は、もはやボーナスステージというか、歌える事への感謝がずっと続いています。マインドが完全に切り変わったので、ステージに向かう恐怖心とかも無くなったし、”何役がやりたい”とか”あの番組に出たい”とかいう欲も無くなっちゃった。やはり今は息子と過ごす時間が一番大切なので、欲張りすぎず、ちゃんと育児と両立できる仕事量をキープしたいんです。そうするとお断りせざるを得ないお仕事もあって、出会えそうで出会えなかった役もいくつかあります。でも、そのポジションの替わりは居ても、息子のお母さんの替わりはいないから、体が一つしかないならどちらを選ぶかは悩むまでも無いですよね。うん、だから一番やりたい役は息子の母親役です!(笑)」

――素敵です…!

「いえいえ。そうさせてもらえる環境に感謝ですし、その制限の中でやらせてもらえるお仕事や、出会わせてもらえる役に今はじっくり向き合ってやっていきたいなと思っています」

――その時々でのワークライフバランスってありますからね。

「そうなんですよね。本当は体がふたつほしいんですけど…(笑)。どんなご縁もどこかでまたつながると信じて、今やれることを楽しみながら、しっかり生きていきたいなと思っています」

(おわり)

取材・文/吉田可奈
写真/中村功

スタイリング/小堂真里
ヘアメイク/酒井夢美
•ブラウス ¥49,500-
•スカート ¥55,000-
共に マーク•ケイン/三喜商事
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三喜商事(マーク•ケイン) 03-3470-8233
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<問い合わせ先>
アビステ 03-3401-7124

LIVE INFORMATION

新妻聖子 20周年記念コンサートツアー

Seiko Niizuma 20th Anniversary Concert Tour ~HARMONY~

2023年625日(日) 大阪  NHK大阪ホール
開場15:15 / 開演16:00
演奏:日本センチュリー交響楽団

2023年720日(木) 東京 サントリーホール
開場17:30 / 開演18:30
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

チケット一般販売:422日(土)10 時 から、各種プレイガイドで取り扱い

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