――まずは10月に開催されたビルボードクラシックスでオーケストラと競演した感想を聞かせてください。
「いやー、気持ち良かったですね。オーケストラさんだからこそ、あんなに気持ちよく伸び伸び歌えたなって思います。また、同年代の指揮者である山脇幸人さんとのコラボは、練習でも非常に息を合わせてやっていたんですけれども、本番を重ねれば重ねるほど、息がぴったり合ってくるのがすごくよくわかって。山脇さんの指揮だったから楽しめたっていうのはありますね。数ヶ所しか行けなかったので、本当はもっと一緒にやりたいなっていう思いのまま終わってしまいましたけれども」
――フルオケで「Door」と「愛のせい」という2曲の新曲を披露しましたね。
「緊張感ありましたね。両方とも指揮者の手振りで入る曲だったんです。いつもはイヤモニで耳の中にカウントが入ってたものが、リズムも生っていうのは正直ヒヤヒヤでしたけれども、そのヒヤヒヤも楽しんでやってました」
――その新曲を含むアルバム『FAN FARE』が完成しました。
「2022年の26歳の私だから歌える楽曲が集まったなって感じています。今だからこそ歌える曲もあるし、今だからこそ届けたい曲たちだなって。特にリード曲「Fanfare」は、みんなと一緒に前を歩いてくぞっていうふうに1人の女の子が先頭で旗を振ってるようなイメージで歌わせていただいてて。コロナ禍になって、人との繋がりが遠くなっちゃった今だからこそ、みんなに何か届いてくれたら嬉しいなって思いますね」
――前作『l(エル)』から約2年ぶりとなりますが、制作前はどんなアルバムにしたいと考えていましたか。
「今年に入って小名川さんがプロデューサーでついてくださって。“26歳のさくちゃんが今、いろんな愛の形を歌うことで、同年代も含め、多くの人に響くところがあると思う。3ヶ月連続で配信リリースした恋愛ソングを軸にアルバムのラストまで駆け抜けていこう”という話をしていたので、そういう軸みたいなのはありました」
――ちなみに、前作の最後がご自身で作詞した「抱きしめる日まで」でした。遠距離恋愛になったことでより愛の深さを感じる男性の心理と、ライブで会えなくなったファンとの距離も重ねてました。
「そうですね。ただ、前回と前々回の『Passion』と『l』はちょっと挑戦的な部分があって。英会話を始めたり、海外に行く機会があって、海外の音楽にすごく興味を持っていた時期だったんです。だから、洋楽的なところで活躍されている作家さんと一緒にやったりしてたんですけども、今回は小名川さんがプロデュースすることになって、だいぶJ-POPを歌わせていただいてて。その感じが、前回、前々回とはまたちょっと違うんですよね。デビューからお世話になってる小名川さんとのタッグだったので安心感があるというか」
――では、「いろんな愛を歌う」という提案に対してはどう感じましたか。
「今年に入って、私の周りでも結婚する人が増えて。愛が実っているなっていう実感があって。だから、今のこの年齢でいろんな愛のかたちを歌えるっていうのは確かにちょっと面白いかなって思いましたね。何か共感して欲しいというよりかは、今なら、いろんな愛を歌えるな……っていう感覚でした」
――先ほどもありましたけど、「ファンファーレ」はどんな愛ですか。
「人との繋がりですね。思いやりや絆に気づかされる曲ですし、レコーディングでもコーラスのところでディレクターさんやダンサーさんを呼んだりして。それこそみんなの愛で歌われた1曲だなって思います。<頑張って>って励ます歌っていうよりは、この主人公もポジティブな部分もあればネガティブなものも持っていて。みんなが一緒じゃないと立ち向かえない。だから、一緒に前を向いてみんなで行こうよって、手を取り合ってる感じ。レコーディングは、みんなのコーラスが入らないと、どういう形になるのかが最初は見えなくて。言葉は強さがあるけども、メロディは優しい感じだったし、だいぶ裏声で歌っているので、出来上がりがちょっと想像できないなって思ってたんです。でも、どんどんと人の声を重ねていけばいくほどゴールが見えてきて。こんなに不安だったこともないけど、出来上がりがワクワクしたこともあんまりないというか……」
――目の前が明るく開けてく感じがありますよね。まさに、オープニングっぽいというか……
「そうですね。最初は優しい感じで始まって、ラストに向けての壮大に広がっていく。アルバム始まるぞっていう感じがあるし、最初にメロディーを聞いたときから、これはリード曲になるなって思ってました」
――英語のフレーズのとこはライブでみんなが手を振ってる風景が浮かびます。
「ね。コロナでなかったらみんなと一緒に歌いたいですし、ライブで一番歌いたい曲でもありますね。こんなにも壮大で豪華なコーラスをやったのが初めてなので、「Fanfare」っていうタイトルにふさわしい、すごく厚みのある楽曲が出来たなと思います。私自身、みんなで手を取り合って前を向いてこうっていうときに本当にみんなが歌ってくれてる実感があったし、聞いてくれる人も、本当に隣に人がいるような安心感というか、希望がもてる曲になったんじゃないかなって思いますね」
――アルバムのタイトルにもなってますね。
「この曲をレコーディングするときはまだ決まってなくて。ただ歌詞をいただいたときに、「Fanfare」っていいなって思って。自然の光に応援されてるような、未来の希望が見える感じがしたんです。温かさと力強さもあるし、象徴的だなと思って、「Fanfare」という曲目にして。アルバムタイトルも、3ヶ月連続リリースの曲が、強気な女性が見えるラブソングで、「Fanfare」も前向いていくぞっていうちょっと男勝りな女性だったりもしたので、『FANFARE』というタイトルにしたら、どの楽曲のテーマにもそぐうものがあるなと思って」
――ジャケットの櫻子さんもそんなイメージですね。シスターフッド感が似合います。
「Janne Da Arcっていうワードを一つ上げてて。ボブの赤髪の人が旗を持ってるイメージで、何か強みあるよなと思って。今年の舞台『ザ・ウエルキン』や『ミネオラ・ツインズ』も強い女性が主人公で、女性たちの話だったので、その影響も音楽に組み込まれやすいんだろうなっていう思いますね」
――アルバムのタイトルにはどんな思いを込めました?
「二つぐらい意味があるんですよね。私的にはトランペットでパンパカパーンみたいなイメージだったんですけど(笑)、目に見えない光みたいな意味もあって。すごく前向きで、何か発信していくぞ、出発していくぞっていうイメージでもあったし、励まされてる感じもある。こういうご時世で明るい気持ちになるワードだなっていうのをすごく感じましたね」
――オープニングナンバー「Fanfare」の後、自分自身に戻れる故郷をテーマにした「笑顔の種」、主演ドラマの主題歌として作詞作曲を手がけた、告白直前の胸の高鳴りを感じるキュートなラブソング「ポッピンラブ!」、恋人たちの別れを描いたバラード「Greatest Gift」というシングル収録曲が続き、配信3ヶ月連続リリース第2弾で、元ねごとの蒼山幸子さん作詞の「愛のせい」という流れになってます。
「いろいろ迷っていたんですけども、最初のこの蒼山さんの艶っぽい世界観の曲がくるとだいぶドキっとするだろうなと思って。今までいろんな曲を聞いてくださってた方も、歌い方も含めて、ここまでぐっと大人っぽい曲に挑戦したのは本当に初めてなので、すごく新鮮に感じてもらえると思います。私としては、曲の世界観にどれだけ染まれるかの勝負だったなっていうふうに思いますね」
――どんな主人公を思い描きました?
「テーマ自体は私が設定したんですね。ちょっと勝ち気で魔性な女の子。絶対に自分から思いは伝えないって決めてるけども、実は心が惹かれているのは男性よりも女の子の方かもしれないっていう可憐さも入れたいっていう話をさせていただいて。恋愛に対して強気な女性の歌を歌ったことがあまりなかったんですけど、メロディーを最初に聞いた瞬間にそれがふと降ってきて。今だったら歌えるんじゃないかと思って」
――ブレスの生々しさもあり、歌声がとても大人っぽいですよね。
「そうですね。すごく繊細に歌ってますね。あと、あんまり言葉数が多くなかったので、より喋る感じになってるので、すごく近い距離に聞こえると思います。歌えば歌うほど曲の世界観に入り込めるような楽曲だったので、全部歌い終わった後に、誰かになってたな、みたいな。本当に役を演じてたような感じでしたね」
――そして、この後の2曲なんですが……
「あはははは!ワンちゃんの曲です!」
――(笑)「寄り道」はお姉さんが作詞してます。
「このアルバムでいろんな愛の形を歌いたいって言ったときに、“普通の恋愛ソングじゃなく、飼っているワンちゃんから飼い主への愛を歌うのはどうだろうか?”っていう提案を姉がしてくれて。新しいなと思ったし、私も姉も犬が大好きなんです。でも、飼ったことはなくて」
――え、いないの?おうちにワンちゃん……
「そう、いないの(笑)。全く飼ったこともないので、想像で書いてくれて。でも、ワンちゃんを飼ってる人はきっと向き合い方が変わるんじゃないかと思うし、私も聞いたときに温かい気持ちになって。姉には“人を慰めるときの、さくの<大丈夫だよ>っていう穏やかな感じで歌ってね”って言われて。身近で見てる姉だからこそのオーダーをしてくれたので、歌い方がわかりやすかったです」
――アコギとピアニカとコンガだけのアコースティクなサウンドになってますね。
「もうありったけの優しい感情で、何かを包み込むような思いを大事に歌いました。かつ、レコーディング前に姉から柴犬の写真が送られてきて。“こういうイメージで作りました”ってきたので、その写真を見ながら、その子の気持ちになって歌いました」
――柴犬になって歌ったんですね。作詞作曲をご自身で手掛けた「ふわふわ」は何に対する愛ですか。
「肉とビールに対する愛です! ただ、これは、自分を労って欲しいというか、自分への愛かもしれないですね。コロナは落ち着いてないですけど、仕事はどんどん復活してるじゃないですか。そんなときに、気づかないうちにまた切羽詰まってるんじゃないかと思って。それに気づいて、自分を褒めてあげようっていう曲を作りたいなと思って」
――大切な友達に向けて<あなたは生きているだけでいい>というメッセージを送った前作「チューリップ」とは全然違う曲でしょうか。
「サウンドは違うけど、根元は「チューリップ」と同じですね。実はずっと書いていて。「のり巻きおにぎり」や「愛しのギーモ」のように、1ちょっと面白い曲を1曲入れたいと思ってて。その延長で、いやあ、疲れたときにはやっぱり肉とビールだと思って(笑)。私は本当によく焼肉屋さんに行くので、焼肉屋さんで歌詞を考えたりとかもしてました」
――おにぎり、砂肝ときて、生ビールと焼肉になったんですね。タンの後にハラミを頼んでます。
「そうです。レコーディングの現場で“小名川さん、<あとハラミもお願いします>って喋りを入れるのどうですか?”って相談して決めたり、<乾杯>も何人かで言いたいイメージなんですけどって、その日その場でいろいろご提案させていただいて出来た感じです」
――その後、日常の小さな幸せをテーマにしたシングル「それだけでいい」があって、3ヵ月連続リリースの第1弾「Door」から第3弾「初恋」で締めくくりとなります。
「「Door」の<恋の終わりが見える>っていうテーマは蒼山さんが出してくださって。すごく儚くて切ないんですけど、それだけじゃなくて、ちょっと怨念みたいなのもあるし、面白いなと思って。すごく情景も浮かびますし、歌詞を見たときに、1曲の中でいろんな表情が作れる曲だなって感じたんですよね。すっごく幸せな光景や思い出を思い返すところもあれば、それが幸せであればあるほど、今、憎しみに変わってるのよっていうところもあって。これくらい怖い女性を歌うのは、清々しそうだなと思ったし、ちょっとドキっとさせたいなっていう気持ちもありましたね」
――すれ違ってる恋ですよね。
「どんなに思っててもすれ違ってしまうというか、相手は思ってるふりしてるのかなって感じたりもして。だから、本当に気持ちがスンってなってるんですよね。<バーボンソーダ傾けてあなたはまた言葉を飲む>っていうフレーズがあって。私はそういうおしゃれな友達もあんまりないんですけど(笑)、想像すると、あんなに好きだった横顔が他人に見えるって。うわ、なんか冷めてってんだな、心がっていうのがわかる。悲しいけど、他人に見えるのよっていうのが、ちょっと復讐じゃないけど、強気な女性像がみえて」
――私から去るって決めてるってことですね。
「だから、すっごく冷たく歌ったりしてるところもあれば、逆に笑顔で優しく歌った方が怖いよねって、小名川さんと言いながらレコーディングしてて。<この恋と私が傷に代わって永遠に残るように>とかは、最初、男性スタッフさんが、“ちょっと怖すぎなんじゃない?”って言ってたんですけど、私が“これぐらい言った方がいいと思います”って言って」
――頬に焼きごてされたくらいのイメージです。
「そうなんです。何があったの? っていうね(笑)」
――(笑)そして、最後の高橋久美子さん作詞の「初恋」は一転して。
「とにかく久美子さんにお願いするって決めていて。もう想像していた、ドンピシャな曲だなって思ったんですけど、「Door」「愛のせい」ときて、それらを全部ひっくり返すようなピュアで、まっすぐで、ウキウキしかしてない素直な女の子っていう。なんか楽しかったですね、ジェットコースターに乗ってるたいで」
――友達から恋に変わる瞬間かな?
「私は友達でもないのかなって感じました。それこそ一目惚れなのかも知れない。まだどんな人かもわかんないけど、一緒にいるとドキドキするとか、毎朝見かけるのが嬉しいとか」
――大人ですもんね、主人公は。
「そうですね。初恋の歌じゃない、初恋みたいな歌。だから、初心に帰るような気持ちになりましたね。やっぱりキラッとしているし、なんか思わず笑顔になるっていう、人一番が輝いているときの歌だと思って。久美子さんのこのかわいらしいさを大事に大事にして、笑顔を忘れずに歌ってましたね。ただ、実はサビの高音が難しい曲でもあるんですけど、その難しさを感じさせないようにフレッシュに歌おうと思ってました」
――ちなみに、全10曲の中でご自身に一番近い曲は?
「「ふわふわ」ですよね(笑)。近いというか、自分自身というか」
――いや、すみません。櫻子さんの恋愛観をお伺いしたいので、ラブソングのなかから選んでもらっていいですか(笑)。
「えー、ラブソング?「ポッピンラブ」は役で書いていたので、かけ離れてるかな。意外と勝気なところは「Door」が近いかもしれない。それぐらいの強さがあるかもしれないですね」
――そうなんですね。いろんな愛の形を歌ってみて気づいたこと何かありましたか。
「いろんな方に書いていただいていて、学んだことは多かったですね。それこそ、蒼山さんとご一緒して、自分と見え方は一緒だけど、言葉によってこんなに感情が拡大されるんだっていうことを知ったし、「寄り道」でまさかのワンちゃん案が出てくると思わなかったんですけど、そういう愛の形もあるなっていう発見もありましたね」
――そして、12月にはライブハウスツアーも控えてます。
「アルバムをリリースして、すぐにやっぱり生で届けたいっていう思いが強くあったので、急遽、決めたツアーなんですけど、結構、近い距離感で皆さんにお会いできるのがすごく楽しみです」
――この規模のライブは久しぶりですよね。
「そうですね。ホールで結構しっとり聞いていただくことも多かったですし、今年は、オーケストラの前は、「For You」というバイオリンとピアノと歌だけのリクエストツアーをやって。聴いていただくっていうライブもそれはそれで大好きなんですけれども、ライブハウスでバンドメンバーとちょっと盛り上がって行こうって思ってて。ギュッとした環境で、声出せずともイエイ!ってできるようなライブにしたい。しかも、12月は、イベント以外にライブをあまりやったことがないので、ちょっとクリスマス的なコーナーだったり、忘年会的なコーナーだったりを盛り込みながら、楽曲だけじゃないところでも楽しんでもらえるようにしたいですね。2022年の締めくくりは思いきり楽しもうと思います」
――2022年はどんな1年でしたか。
「いろんなものが忙しなく流れていった年だったかな。いろんな人に話を聞くと、みんな、今年結構ヘトヘトだったよねって言うんですよ。駆け巡ったというより、時の流れが忙しなかったっていう。自分が忙しいんじゃなくて、忙しくさせられる、みたいな感じで。めまぐるしかったですね、私も」
――では、来年はどんな1年にしたいですか。
「とにかくせわしなかった1年が終わり、来年は落ち着くといいなと思います。私自身は今年は舞台では『ミネオラ・ツインズ』『ザ・ウエルキン』と重めな作品が多ったたんですが、来年はミュージカル『おとこたち』でだいぶコミカルに始まるんで、今年より笑ってたいなって思いますね」
(おわり)
取材・文/永堀アツオ
写真/野﨑慧嗣
LIVE INFO大原櫻子LIVE HOUSE TOUR「ライブハウスでFANFARE !!」
2022年12月15日(木)UMEDA CLUB QUATTRO
2022年12月16日(金)NAGOYA CLUB QUATTRO
2022年12月30日(金)新宿BLAZE
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