――現在、全国ツアー「家入レオ8th Live Tour 2022〜THE BEST〜」を開催中ですが、どんな思いで回ってましたか?

「待ち望んでくださってた方たちが全国にこんなにたくさんいたんだなという実感があって。胸がいっぱいですね」

――全国ツアーとしては、2019年5〜7月に開催された「家入レオ7th Live Tour 2019〜DUO〜」以来、3年ぶりですからね。すでに9カ所中8カ所の公演が終わってます。

「1公演1公演、本当にお客さんに力をいただきました。しかも、“みんな”じゃなくて、“ひとりひとり”と繋がれるライブになっていて。今回、“音楽でハグをする”っていうのが私の中での一つテーマになっていたんです。会場に来てくださったお客さんが最後、本当に溢れんばかりの笑顔になっているのが、マスク越しでもわかって。音楽は…これからも形を変えていくかもしれないけど、ずっと私たち人間の生活にあり続けるものなんだなってことを再確認したライブであり、ツアーでした」

――今、あった“ハグ”というテーマに至った経緯も聞かせてください。今年の2月には東京ガーデンシアターで1日だけの「10th Anniversary Live」があり、6月には「Billboard Live 〜10th Anniversary〜」もありました。

「東京ガーデンシアターは自分の内面に潜っていくようなスタイルのライブだったんですね。今、私が1人のアーティストとして届けられる10周年ということで、“自分の世界観を見ていただく”っていうものだったんです。ビルボードは10周年ならではの特別なもの、お客さんと近い距離感だからこそできるライブになっていて。今回はシンプルに“THE BEST”というツアータイトルだったので、まず、10周年の中でリリースしたシングル全部、届けたいなって。そして、来た人たちに笑顔になってもらいたい、ハグしたいっていう。私よりもまずみんなに喜んでもらうこと。“この10年を一緒に駆け抜けてきたね”って言えるようなものになったらいいなっていう思いで、ハグっていう言葉が出てきました」

――自分の世界観や表現を魅せるというよりは、みんなが聞きたい曲を届けるっていう気持ちの方が大きかった?

「大きかったですね。その気持ちがあって、セットリストを組んでいたんですけど、1公演1公演やっていくうちに、スタートした時よりも、どんどん、その気持ちが大きくなって。本当に目の前に、待ち望んでくださってる方たちがいた。そして、その方たちが求めていることに応えていきたいと思った。…それはただストレートに応えるだけじゃなくて、揺さぶりをかけたり、ハグしたり、突き放したりっていうところも含めて、すごく楽しいツアーだなっていうふうに思いました」

――シングル全曲やるってすごく潔いですよね。ご自身で過去の楽曲たちを歌いながら感じたことは何かありましたか?

「本当に色んなタイプの曲を歌ってきたなーと感じました。今回のツアーでしか聞けないメドレーもあるんですけど、そのメドレーを歌っていると特に、“感情の切り替えがちょっと難しいね”っていうぐらい激しい振り幅があるなと思いますね」

――アコースティックコーナーもあるんですよね。

「はい。どの席に座ってるお客さんにも、“距離なんて関係ない”って感じてもらえたらいいなと思って伝えています。全部どストレートな球を投げていると、お腹いっぱいになりすぎるなと思ったので、ギターを弾くスタイルでもお届けできると緩急がつくかな?っていうのと、より私の声や演奏の音の粒立ちを感じてもらえるかな?っていうのもあって」

――各地で違う楽器とセッションをしてると聞きました。

「本当に仕込みも何もなしで、その日そのときその場所で、例えば、“(玉田)豊夢さん、今日一緒にお届けしましょうよ”ってお声がけして。その公演のバージョンでしかない、その時にしか聞けないものを届けるっていうコーナーがありますね。全部違うので、ファイナルはどうしようかな?と今から思案中です」

――これまでの公演で特に印象に残ってる出来事はありますか?

「全部、濃かったんですよね〜。全て120%でやってきてはいるんですけど、ちょっと私が歌詞を飛ばした公演があって。せっかく“THE BEST”で、“シングル全部やります!”って言ってるのに、その曲だけ伝えられないのは不甲斐ないなと思って。アンコールのときに“もう1回、やらしてください!”って土下座したんですよ」

――あはははは。どこでどの曲ですか?

「群馬公演の「Bless You」です。でも、みんなはアンケートに、“逆にすごく心に残った!”って書いてくれて」

――一生忘れられないライブになりますね。アンコールでは無事に?

「はい、一発で決めました」

――(笑)

――そして、初日公演からこれまでのシングル曲だけじゃなく、配信シングルとしてリリースされた新曲も披露してますよね。

10年を皆さんに見ていただきつつ、11年目の今、こういう気持ちで音楽をやってるよっていう両方を見ていただきたいなっていう想いがあって。初日の神奈川公演で新曲第2弾「Pain」(928日リリース)を初披露したんですけど、スタッフの方が“新曲でお客さんがあんなに盛り上がってるのを初めて見た”って言ってて。新曲としてリリースしてからあまり日数が経ってなかったんですけど、それくらいみんなが聞き込んでライブに足を運んでくださっているんだなって感じたし、“おかえりなさい!”っていう反応を頂いたことも心に残ってますね」

――10代の頃の家入さんが抱えていた怒りや苛立ちが戻ってきたような感覚がありますよね。

「そうですね。10周年の節目で原点回帰したいなと思って。心にある叫びを言葉にしたら、ああいうサビができて。あの歌詞を書けたことで前に進めました」

――上京してからのどんな心の変化を描いてますか?

「これまでの過去を振り返ってるというよりは、今、現在から先の話かな。どんなに東京でぐちゃぐちゃになっても、私はそれを音楽に還元していくし、私の歌を待ってくれる人がいる限り、私はこのステージから歌い続ける。地獄みたいな天国から歌い続けるっていう決意です」

――サビ”の<地獄みたいな天国>というインパクト大のフレーズですよね。

「私だけじゃなくて、何かを極めたいと思って日々を生きてる人って、やっぱりその場所が地獄に感じる日もあるし、天国に感じる日もあると思うんですよ。それは、営業されてる方だったり、保育士や料理人の方でもそうだと思います。自分がなりたい自分になろうとしてる人は、少なからずそういう風に感情がジェットコースターみたいになりながら、それでも必死に食らいついて生きてるんじゃないかなと思います」

――作曲と編曲はロックバンド、THE KEBABSのメンバーとしても活躍されているギタリストでプロデューサーの新井弘毅さんですが、家入さんとは初タッグになります。

「本当に勉強になりました。すごく客観的に物事を見ながらも、自分の直感は無視しない方で。自分の納得がいくテイクを最後まで追い求める、その姿勢をレコーディング当初から感じていたので、私もボーカルレコーディングのときに気が済むまでやったし、おこがましいですけど、お互いの仕事に対するスタンスが似ているのかなと感じて」

――こだわりや情熱のあり方が似てる気がします。

「私、面倒くさい人がすごく好きなんです。新井さん、面倒くさいなって思いました。笑」

――あはははは。褒め言葉ですね。

「めちゃくちゃ褒め言葉です。私と一緒だなって。しっかりと自分の作った作品に責任を持ちたいからこそ、お互いが本音で伝え合おうっていう姿勢で、それが曲の栄養分になっていくし、本当に何度もメロディも再構築してくださって。だからこそ、奮い立つものもありました」

――音源を聴くと、奮い立って、歌入れに臨んだことがひしひしと伝わってきます。でも、Dメロだけ、これまでにはない歌い方を感じました。

「歌入れも凶暴化してましたね(笑)。でも、<地獄みたいな天国>っていう言葉が強い分、ともすればひねくれたことを言ってる、みたいな。それこそ、面倒くさい人みたいに映るのが嫌だなと思って。どっかで嘲笑ってたりとか、この状況を楽しんでる余裕感というか。感情を飼い慣らして、ハンドリングしていた方がいいなって思ったので、自分でも追えないぐらい感情を出すところと差をつけてて。Dメロは笑ってる感じで歌ったのがよく音に乗ったなとは思います」

――その前に新曲第1弾「レモンソーダ」を8月17日リリースしてます。こちらは、XⅡX(テントウェンティ)のベーシスト須藤優さんとの共作です。

「以前、須藤さんが作ったトラックに自分でメロディーを乗せて返すっていう往復書簡みたいなことをしていたことがあって。夏にリリースする爽やかな曲が欲しいなと思った時に、この曲だと思いました。ちょうど炭酸を飲んでるときに、シュワーって喉に小さな痛みを感じて。人を好きになったときの気持ちに似てるなっていうところから歌詞を書き進めていきました」

――青春時代を思い出すような甘酸っぱい痛みですよね。

「そうですね。でも、青春時代を思い出しながらも、“今、青春できないのか?”と言われたら、年齢も性別も関係なく、自分の気持ち次第で青春できると思うんです。例えば、好きな人とコンビニに行って、缶チューハイを買って、乾杯するだけで相当楽しい夜になるかもしれない。“今、楽しむ気持ちが自分の中にありますか?”って問うてるような曲でもあるのかもしれないですね」

――サウンド的には爽やかながらも少しEDMのような高揚感もあります。

「こんな曲にしたいっていう私の想いを須藤さんにお伝えして、感じたままにアレンジしていただいたんですけど、バランス感覚が抜群で。私がマデオン(フランス人DJ)やシガーラ(イギリス人DJ/プロデューサー)も聞いたりするっていう話をしたので、そういう何気ないところをしっかり拾ってくれたんだなと思います」

――「レモンソーダ」と「Pain」、どっちも観客がシンガロングできるパートが入ってますよね。やっぱりライブに向けて作ったからでしょうか。

「とにかくライブがしたかったんですよ。その気持ちが隠しきれてないですね(笑)」

――まだライブでは一緒に歌えませんが。

「でも、このツアーでジャンプしたり、クラップしたりは十分に見せていただいて。いつになるかわかんないけど、<WOWOWOW>という掛け声を重ねられる日が来たらいいなと思います」

――ちなみにジャンル感っていうのはどう考えてましたか。「レモンソーダ」がEDMポップ、「Pain」がソリッドなロック、そして、この後の新曲第3弾「かわいい人」も全く異なるジャンルとなってます。

「実はあんまり統一感みたいなのを考えてないというか、考えなくていいって思ってるぐらいなんです。私が歌ったらちゃんと私の曲になるし、自分も含めて、世の中の音楽の聞き方が変わってきてるんじゃないかな?って思ってて。これだけサブスクがあって、アルバム1枚、正直好きなアーティストでも聞くか聞かないか、みたいな人が多いと思うんですね。でも、聞き方は変わってきてるけど、11曲に丁寧に真心を込めていく作り方は今も昔も変わってない気がしていて。だから、私も、その時に作りたいと思った曲に全力になった結果、こんなに振り幅の激しい3曲ができたっていう形です」

――11月に配信リリースされる新曲第3弾「かわいい人」はthe chef cooks me(ザ・シェフ・クックス・ミー)のヴォーカル&キーボードで、チャットモンチーの男陣メンバー(ギター担当)としても知られる下村亮介さんとの、これまた初タッグになります。

「もう、ほんっっっとに、作れてよかったと思ってます。メロディーをいただいたときに、自分の中でパッとちっちゃい頃の記憶が蘇ってきて。私が怒ったり、駄々捏ねたり、拗ねたりしてると、母親に“かわいい、かわいい”って言われてて(笑)。赤ちゃん扱いされることによって、安らいでる自分と恥ずかしい自分がいたんですけど、“かわいい”っていい言葉だなと思ったんです。“頑張ってるね”とか、“大丈夫だよ”って言われるよりも、もっと肩の力が抜けるっていうか。そこで、<かわいい>っていうワードを使いたいんですって言って。どんどん一緒に作っていったって感じなんですけど、改めて、下村さんの引き出しの多さに驚いたし、本当に本当に、いろんなことを学びました」

――ゴスペル調のR&Bになってますけど、クワイアだけでなく、子供の声の合唱も入ってます。それも、家入さんの子供の頃と繋がりがありますよね。

「そうですね。今回、かもめ児童合唱団にお願いしたんですけど、“子供たちのコーラスを入れたい”っていうのも私からのお願いだったんです。ちっちゃい子から大人まで聞けるような幅広い曲になったらいいなと思ったんですけど、ほんとにそうかもしれないです。私は元々、合唱をやっていて。自分のちっちゃい頃の体験があったから、そういうアイディアが出たのかもしれないです」

――歌詞の前半にある<きみ>は小さい頃の自分ですよね。

「そうです。「Pain」とは違う形で、失敗したこと、転んだこと、あの一生懸命だった自分をやっと笑えるようになったんですよね。“かわいかったな、あのときの私”って。それも多分、「Pain」を作れたからこそ、心に余裕が生まれたと思うんですけど、自分のことをようやく、かわいいねって言えたときに、街を歩いていてバンってぶつかってくるような人も“あ、かわいいな”って思える自分になれたというか」

――うんうん。2番からは他者である<きみ>に<あなたはかわいい人よ>と言ってますよね。この<あなた>はリスナーやファンもイメージしてますか?

「そうですね。本当に皆さんから頂いたメッセージを読むと、すごく真面目に未来のことを考えている方が多いんですよ。そこで“大丈夫?”って声をかけると、その人が深刻になってしまったりするじゃないですか。そうではなく、例えば、悩んでいたり、疲れていたりする時でも、みんなで一緒に明るい方に行けたらいいなと思って。“かわいいね”って言われると、なんかちょっとみんなほっこりするなーって。おじいちゃんもお父さんもお母さんも友達も。そういう魔法がかかってる言葉な気がします」

――応援歌やエールソングでもありますか?

「応援歌とは、あんまり言いたくなくて。もっと近い感じというか。ただ単に、“サンタさんがいるって信じた方が人生楽しくない?”、“魔法がある方が人生きらめかない?”って感じのワクワクだけでいいっていうイメージですね」

――歌声も背中を押すと言うよりは、優しく語りかけるように歌ってて。

「下村さんの仮歌を聞いたときに、“これ、まずいな”と思ったんですよね。やっぱりR&Bの血が、私の根本的なDNAには入ってないから。これだけいいメロディを書いていただいて、歌詞もすごくいいのに、“どういうふうに歌えば、この曲が良くなるんだろう?”って思って。だから、R&Bのグルーヴを少しでも体に入れるように、起きてる間はずっと、下村さんの仮歌を聞く日々を過ごしていました。ハリボテになるのは嫌なので、ハートはしっかりと自分のものを出して、グルーヴっていうところを下村さんから分けてもらうみたいな形でしたね。新しい扉を開けれたなと思いました」

――中野サンプラザホール公演は、U-NEXTで生配信されることが決定しました。

「中野サンプラザホール公演は、ありがたいことにチケットがソールドアウトしていて、行きたいけど参加できない方がいる中で生配信できることはすごく嬉しいです。また、今回、映像のモニターを用意していないので、私がどういう表情をしてるか、バンドメンバーとどんなアイコンタクトをしてるかが、どうしても見えづらい部分があって。それは、五感で感じてほしいという意図もあったんですけど、U-NEXTの配信では、画面を通して、そういう機微みたいなものがしっかり映り込んでくると思うので、音楽を耳でも目でも楽しんでもらたら嬉しいです」

――ファイナルはどんなライブになりそうですか?

「スケジュール的に結構空くので、ツアーというか1DAYぐらいの気持ちになりそうな自分もいるんですけど、今の自分で楽しく、みんなに笑顔になってもらえたらいいなって思います」

――生配信を楽しみにしてる方にメッセージをお願いします。

「この10年間でシングルリリースしてきた曲はきっと、皆さんの人生の瞬間と結びついてると思います。家入レオのパフォーマンス、バンドメンバーの演奏にも注目してほしいのはもちろん、やっぱりご自身の人生と向き合うタイミングになったらいいなと思いますよね」

――家入さんは本ツアーを通して、11年目、この先は何か見えてきましたか?

「見えてきました。すごく地道だと思います。ライブであれば、11本を大事にやっていくっていうことだと思うし、曲を自分で作るにせよ、誰かと作るにせよ、提供していただくにせよ、いただいたものを、とにかく少しでも光らせられるように磨いていくこと。シンプルなことなのかもしれないです」

(おわり)

取材・文/永堀アツオ

RELEASE INFORMATION

家入レオ「かわいい人」

2022年1116日(水)配信
Colourful Records

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家入レオ「Pain」

2022年928日(水)配信
Colourful Records

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家入レオ「レモンソーダ」

2022年817日(水)配信
Colourful Records

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LIVE INFORMATION

家入レオ 8th Live Tour 2022 〜THE BEST〜

2022年1118日(金) 東京 中野サンプラザホール

U-NEXT独占見放題ライブ配信
【配信時間】
ライブ配信:2022 11 18 日(金)18:30 ~ ライブ終了まで
見逃し配信:準備完了次第~ 2022 11 20 日(日)まで
詳細はこちら >>>

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