開演時間となり、宗本康兵(P)、村中俊之(Cello)、若森さちこ(Per)というこの日のための特別なアコースティック編成のバンドメンバーに続き、家入レオがステージに向かってゆっくりと歩を進めると、会場からは温かく大きな拍手が贈られた。
プレミアムなライブのオープニングを飾ったのは、今年2月20日(日)に東京ガーデンシアターで行われた、有観客のワンマンとしては約2年半ぶりとなるワンマンライブ「家入レオ 10th Anniversary Live」のために作られた「花束」。10年間を支えてくれたファンへの感謝を込め、音楽を通して絆を確かめ合う楽曲だ。リラックスした雰囲気の中で歌い出すと、場内からは自然とクラップが沸き起こり、家入はお客さん一人一人の目をまっすぐに見つめながら「これからもよろしくね」という約束をメロディにのせて伝えた。
「みなさん、素敵な夜を一緒に作っていきましょう」と最初の挨拶をした後、バンドメンバーを含む4声による美しいハーモニーから始まる「a boy」へ。大人と子供の狭間にいた19歳の時に発表した2ndアルバムの表題曲。彼女は<見ているからね>や<逃げないからね>というフレーズを観客を優しく抱きしめるかのように歌った。と、同時にドアを開けて、その先で泣いている誰かを救い出すかのように手を差し伸べる仕草もあった。暗闇から煌めく光の中へと引っ張り上げる。27歳になった家入の視線の先には、孤独と痛みを抱えていた上京前の子供の自分も見えていたかもしれない。そんな想像をしてしまうくらい、1つ1つの表情や仕草に物語性を感じるパフォーマンスだった。
最初のMCではデビュー10周年を迎えたことを報告し、初のビルボードライブに対して、「10年経っても初めてのことってたくさんがあるんだな。これからどんな景色が待ってるんだろう」と期待を込めて語った。そして、今回のアレンジに関して、「自分の中で凝り固まっていたものがいい感じに解けて、この曲はまだこんな一面を持っていたのねという新鮮な発見があった」ことを明かし、1stアルバム『LEO』の収録曲「Second Dream」の演奏を始めた。弦の調べが不穏なムードを引き起こす中で、家入は路上を彷徨うかのようにふらつきながら、時に、周りを威嚇するような視線を見せたかと思えば、かぶりをふり、ぶらりと下がった腕の先で拳を握る。アニメ映画『コードギアス 復活のルルーシュ』のオープニング主題歌「この世界で」では、弦とともに悲しみや絶望を語るように歌い出し、ピアノとパーカッションが加わっていくにつれて、心の叫びにも似たエモーショナルな歌声へと拡大していき、観客の心にその歌声をまっすぐに突き刺した。アコースティックギターを弾きながら歌った「Silly」では4人だけの編成ながらも厚みのあるダイナミックな合奏を展開。「未完成」ではマイクスタンドを持ち、身体中のエネルギーを歌声に込めるかのようなパワフルな歌声で観客の心を揺さぶった。ジャズの4ビートへの変化や、たっぷりと間をとった歌唱は、この編成でないとできないアレンジだっただろうし、真実の愛を追い求めてすぎて、迷路に入ってしまった思いを解放してくれる、まるで舞台「家入劇場」を見ているかのようなパートとなっていた。
中盤ではバンドメンバーと和やかなトークを繰り広げた後、このビルボードライブで初披露となる新曲を持ってきたことを報告した。「11年目、20周年を目指すべく、チームで日々、いろいろとアイデアを出し合ってます。デビュー当初とは曲の作り方も変わってきてまして。以前はメロディが先にあって、自分の中にあるものがまとまっていたんですけど、最近は短編小説のようなものを先に書いて、それを一緒に制作してくれる方と共有してからメロディと詞の制作をしています。そうすることで、曲の密度がより濃くなっていくような気がしています。これから歌う曲のキャッチフレーズは“届きそうで、届かないものばかり、僕らに見せ続けるのはもうやめてよ、神様。”です。SNSやテレビで素敵なものをたくさん目にするけど、私たちの手のなかに入るのかなっていうインスピレーションをきっかけに作りました」
そんなMCを経て披露された新曲「奇跡が足りない」はウーリッツァーの音色を基調としたアーバンR&Bとなっていた。家入といえば怒りや不安、焦燥や戸惑いを吐き出すロックというイメージも強いが、今の彼女にはメロウなグルーブもよく似合う。都会の夜の空を見上げ、神様に向かって「降りてきてよ」というセリフもフューチャーされており、伸びやかで感情的なフェイクで締め括られた楽曲はとても映像的でもあり、早くMVを制作してほしいという気持ちにもなった。そして、そのままオルガンの伴奏とチェロの弦弾きを中心にラブバラード「ずっと、ふたりで」を優しく温かい歌声で歌唱。<明日は僕が君を照らすから>というフレーズが耳元で歌われてるような臨場感があったのはこの会場ならでわだろう。
ここから雰囲気は一転。コンガのリズムに合わせてクラップが起こり、そのクラップを使った家入と観客のコール&レスポンスが実現。そのクラップに合わせて、家入は「男の子とか女の子とか、性別は関係ない!私は私らしく生きたい!そんな思いで作りました。この会場にいる皆さんも時には、なんで私、自分らしくいれないんだって感じることがあると思う。でも、絶対に大丈夫。私が守るから。あなたはあなたらしく生きてください。お守りになるように歌います」と語り、「Spark」で突き抜けるような高らかな歌声を響かせると観客は手を左右に振り始め、いつしか会場全体が音楽で一体となっていった。さらに、間奏中に家入は「楽しい気持ちを、ワクワクする気持ちを信じて生きていこうね」と語りかけ、観客のクラップだけをビートにして熱唱。そして、ラストナンバーは、家入が中学3年生の時に作り、17歳でのデビュー曲となった「サブリナ」。「ライブに来てくれた皆さんと一緒にいけるところまでいきたい」と声を上げた彼女はアコギを弾きながら、10年経っても変わらない情熱とますます磨きのかかった鋭い歌声で本編を熱く激しく締め括った。
アンコールでは、デビュー当時からのバンドメンバーで、今回のビルボードライブツアーのバンドマスターでもある宗本と二人で「空と青」をセッション。家入がステージ上を自由自在に動き回り、ステップを踏みながら歌うとステージ後方のカーテンが開き、東京の夜景が広がった。彼女が楽しそうに歌う姿勢そのものが「一緒に楽しく生きていこうね」というメッセージになっていたように思う。再びバンドメンバーを呼び込み、アコギ、オルガン、チェロ、パーカッションの4人編成で歌った最後の曲は「Hello」だった。観客が高く掲げた手を左右に振る中で、家入は歌詞を<忘れないよ/今夜、ビルボードで皆さんにお会いしたこと>と変えて歌い、どんなに離れていても繋がってるというメッセージを送った。2日間で4ステージのビルボードライブツアーを終えた彼女が「名残惜しいですね」と感想を述べながら、観客一人一人と目を合わせて挨拶し、両手を上げて手を振り、ステージを去っていくと、場内からはまだまだこの特別な編成とアレンジのライブを聴いていたいという声を表すかのような長い拍手がわきおこっていた。
なお、家入レオは「10th Anniversary Live at 東京ガーデンシアター」のライブBlu-ray / DVDを7月6日に発売する。また、2022年10月~11月にかけて全国9箇所に及ぶホールツアー「家入レオ 8th Live Tour 2022 〜THE BEST〜」の開催も決定している。
取材・文/永堀アツオ
写真/ray otabe
ビルボードライブツアー家入レオ Billboard Live 〜10th Anniversary〜
SET LIST
M1. 花束
M2. a boy
M3. Second Dream
M4. この世界で
M5. Silly
M6. 未完成
M.7 奇跡が足りない ※新曲
M.8 ずっと、ふたりで
M9. Spark
M10. サブリナ
En-1. 空と青
En-2. Hello
家入レオ(Vocal)
宗本康兵(Piano)/村中俊之(Cello)/若森さちこ(Percussions)
┗2022年6月12日(日)@Billboard Live TOKYO 2nd Stage
Live Information家入レオ 8th Live Tour 2022 〜THE BEST〜
10月1日(土) 神奈川県 相模⼥⼦⼤学グリーンホール(相模原市⽂化会館)
10月8日(土) 石川県 ⾦沢歌劇座
10月10日(月) 静岡県 三島市⺠⽂化会館
10月14日(金) 愛知県 ⽇本特殊陶業市⺠会館 フォレストホール
10月21日(金) 兵庫県 神⼾国際会館 こくさいホール
10月23日(日) 群馬県 渋川市⺠会館
10月29日(土) 福岡県 福岡市民会館
10月30日(日) 広島県 広島JMSアステールプラザ ⼤ホール
11月18日(金) 東京都 中野サンプラザホール
Release Information10th Anniversary Live at 東京ガーデンシアター
2022年7月6日発売
Blu-ray Disc/VIXL-380/5,940円(税込)
Colourful Records
Release Information10th Anniversary Live at 東京ガーデンシアター
2022年7月6日発売
DVD-Video/VIBL-1067~8/5,390円(税込)
Colourful Records