――『Naked』は家入さんにとって約4年ぶりのアルバムですが、リリースの発表に際して、「この4年、すごく長かった」とコメントされていたのが印象的だったのですが、改めて振り返ってみるとどうですか?
「やっぱり長かったです(笑)。私の音楽活動の中で、デビューしてから最初の数年間は1年に1枚のアルバムと3枚のシングルをリリースするっていうペースだったので、そう考えると、結果的に贅沢な制作期間になったということなんですけど」
――結果的に、というのは?
「15歳のときにデビュー曲「サブリナ」を作って、16歳で上京して、17歳でデビューして。音楽の道に進むと決めて歩んできたけど、その判断で良かったのかとか、東京に来ていろんな人との出会いがあるなかで“自分なんて”と思う機会も増えたりとか。いろいろ揺らぎ始めたときに、ちょうどコロナ禍に差し掛かったんです」
――まさに『Naked』の制作期間と重なってますね。
「そうなんです。そこでもがいて、そのなかで“私は音楽が好き!続けていきたい!”と思えた。音楽を作り続けることで、その気持ちに辿り着けたという過程を全部詰め込んだのが今回の『Naked』なので。たぶん、何十年後かにこのアルバムを聴いて、“私の20代前半はすごくキツかったけど、ここが最高の幕開けになったな”と思えるような1枚ができたと思います」
――音楽が好きという気持ちも、揺らいでしまうことがあったんですか?
「好きという気持ちは変わってなかったと思うんですけど、自分に向いてないのかもしれないっていう考え方をするようになっていました」
――そう思うようになってしまった理由は?
「私、中高大とエスカレーター式の女子校に通ってたんですけど、中学1年生のとき、ふと“何か一言でも人間関係に亀裂が入ることを言ってしまったら、私はこの先10年、友達っていうものを持たずに学生生活を送らなきゃいけないんだ”と思って、そこから表面的なことしか言えなくなっちゃったんですね。嫌われたくないから。でも徐々に、当たり前ですけど、友達との会話のなかで本音と建前で葛藤するようになって……それで、音楽のなかでだったら自分の気持ちを曝け出せると思って曲を作りはじめて。その中の1曲が「サブリナ」だったんです。自分を究極まで曝け出した曲がデビュー曲になって、全国にこんなにも私と同じ気持ちを抱えてる人がいたんだっていうことに、東京に来たからこそ気付けた。でも、もともと自分のセラピーのために作っていたはずの音楽が、いつの間にか、他者の共感だったり、みんなの気持ちを受け止めたいっていう気持ちのほうが大きくなっていて、それを優先させていくうちにどんどん自分がなくなっていってしまって……」
――外から見ていると、家入さんの音楽活動はとても順調のように感じていたんですけど、実は人知れずそんな気持ちを抱えていたんですね。
「もちろん、デビュー以降、自分の恵まれた環境や、いろんな人が力を貸してくださっていることにすごく感謝していますし、嘘はひとつもないです。ただ、そこに対して自分自身が耐えきれなくなってきた時期が4年前でした。10代でデビューして、高校に行きながら音楽活動させていただいた。それは自分で選んだ道でもあったんですけど、みなさんが体験していたことを自分は経験できていないんじゃないかっていうコンプレックスにも悩まされていて。そんな自分が書いた曲は、誰の心にも響かないんじゃないかなっていうような思考になってしまっていたんですね、そのときは。だから、自分からいろんな出会いを求めて、最初は同じ音楽をしている方、それからお芝居をしている方など、同じ世界の人たちの話を聞いたりしていたんです。でも、それだとどうしても視野が狭くなってしまって。もっともっと大きな視点で物事を捉えるといいのかなと思い、最終的に、当たり前に生活をすることから始めてみたんですよ。恥ずかしい話、新幹線のチケットを取るってことも、一度もしたことがなかったので。だから、まずはそういうところから普通に生活をしていく。それから、保育園でボランティアとしてお手伝いをさせていただいたこともありました」
――保育園でボランティア!家入さんが?
「はい。コロナ禍に入る前ですけど、2歳児のクラスをお手伝いさせていただきました。そのときに、寒天を手で握ってみるっていうワークショップがあって、部屋が汚れないようにブルーシートを敷いたんですね。それを見た子供たちが、“先生、海が広がってるね”って」
――素敵な発想ですね。
「そうなんですよ!そのとき、ハッとして。今までの自分は、音楽やお芝居をする表現者の人、飲食業をやられている人、銀行員の人など、無意識に自分とは違う人だってカテゴライズしていたのかもしれないなと思って。みなさんが経験していることを経験していないことにコンプレックスを感じていたのも私の勝手な思い込みであって、人間ってみんな一緒なんだっていうことを、そこで気付けたんです。それで、いろんな人の期待に応えるっていうのを一度傍に置いて、私がいま思うことを正直に曝け出したら、それはイコール、みんなのことを大事にしていることに繋がっていくんだなと思ったんですよね。まずみんなじゃなくて、まず私。そのことに気付いて作ったアルバムなので、『Naked』というタイトルにしたし、作っていく過程で私自身が救われて、それが誰かの光になると思っています」
――今のお話を聞くと、アルバム制作に着手するまでにはちょっと時間を要した?
「前作『DUO』以降、ずっと曲は作っていたんですけど、ストックで止まったりとかしてましたね。やっぱり、自分が書くものに自信が持てなくて。周りのスタッフさんとかは“すごくいいと思うよ”と言ってくれるけど、肝心な心が入らないっていう状態をずっと繰り返している感じでした」
――アルバムに収められているのは、先ほどの気付きがあった後に、新たに作った楽曲になるんですか?
「ストックにあったものもあります。違うと思って散々距離を取っていたけど、もう一度音楽をやると決めてその曲を抱きしめたら、すごく愛を注げたんですよね。それが「Winter」と「悩みたいだけ」なんですけど」
――アルバムの1曲目と2曲目ですね。
「はい。この2曲は、私が葛藤した渦中にあったものなので、そういう意味でも“Naked”な楽曲だと私は思ってます」
――制作するにあたって、何かコンセプトを決めたんですか?
「正直、1枚通してのテーマとかコンセプトはまったくなくて。一曲一曲に自分のすべてを注いだ結果、1枚のアルバムになったという感じです」
――確かに、アルバムを通して聴くと、家入さんの覚悟のようなものが伝わってきました。たとえば、“絶対にこうしよう”、あるいは“これだけは絶対にしない”と決めたことはありますか?
「それで言うと、“決まりごとを作らない”っていうのはありましたね(笑)。“これをしなきゃダメ”とかではなく、そのとき作っている曲だけに集中する。そこで関わってくださる人たちから必ずインスピレーションをいただけるので、自分の考えなんて、どんどん移り変わっていって当たり前だと思うから。昨日までこう考えていたけど、今日の制作でこういう考え方もアリだと思ったから、次はそれを試してみようって。それは今回、曲を作っていく上でいい循環になったと思います。それから、今回の制作では楽曲に対してプロットとなるちょっとした短編小説を作ったりもしました」
――短編小説というのは、文字どおり、登場人物がいて、こういう出来事があって……というような、私たちがふだん手にする小説を想像していいですか?
「『DUO』のときは、私はシンガーに徹して、自分で作詞作曲した2曲以外は提供曲だったんですね。でも、今回はこの4年間に起こったこと、そこで感じた私自身の気持ちを伝えたいと思ったから、まずはプロットを書いて、その曲に出てくる人が何を言いたいかっていうのを、私以外の人が読んでもわかるようにして。それをスタッフの方だったり、参加してくださった作曲家さんやアレンジャーのみなさんと共有して、“これは家入印だね”とか、“これは家入印ではあるけど、ちょっと伝わりづらいんじゃないか”とか、いろんな意見をいただきながら歌詞へと昇華しました。すごく濃密なやりとりをしながら作ったので、想いありきのアルバムになっています」
――なるほど。その想いの強さゆえか、自分もどこか似たような経験だったり、気持ちだったことを思い出したりして、途中、聴くのが辛くなることがあったんです。“そんな気持ちも引き出されちゃうんだ !?”って。
「それは、さっき言ってくださった、覚悟みたいなものなのかもしれません。私自身、自分の心に正直になって書いた歌詞たちなので。それが、本当の意味での心と心の繋がりを生み出すというか。ここは触れられたくなかったって気持ちにも、言えなかったことを言ってくれたっていう気持ちにもなる作品だと思います」
――そのなかで、「悩みたいだけ」に出てくる<私は私をやめたい>というフレーズは、結構衝撃でした。以前の家入さんだったら、そういう表現はしなかったような気もして。この楽曲に限らず、家入さん自身、歌詞の変化を感じることはありますか?
「歌詞を書くときに以前と変わったのは、前は、曲を作ることは自分にとってのセラピーだったんです。なので、書きながら“実は私、あの人のあの言葉で傷付いていたんだな”とか、忙しさでなんとなく流れていってしまったことも、曲を書くことによって“私は本当はこれが言いたかったんだな”と真実に辿り着くものだったんですね。でも、「Naked」は作り手として、ひとつの出来事から10にも100にもするってことが楽しくてしょうがないフェーズに入っていて。「愛は鎖じゃない」とかも、<俺>という一人称が男性なんですけど、彼氏にはしたくないけど友達にはしたいみたいな、“こいつ、面白い”っていうものを書きたいなと思って。これも、ある出来事が自分の人生に起こったことがきっかけで生まれた曲で、ノンフィクションなんですけどフィクションなんですよね」
――楽曲の素となるきっかけはちゃんと自分の中にある、と?
「そうなんです。今は、それを曲が面白くなるようにどんどん調理していくのが楽しいというスタンスで制作しているので、「悩みたいだけ」も、“もっとグサッとくる言葉を置いたほうが面白いかも”とか、“こういう言い方を敢えてしてみよう”というところから<私は私をやめたい>というフレーズが出てきたというか……でも、今言われて、そのときは正直そんなに余裕もないぐらい本音だったんだなって思いました。そう思うと、この曲順は、セラピーと思って書いていたものから、だんだん曲作りが面白くなっていく過程になってるかもしれません」
――この曲順が、ある意味この4年間の家入さんの心の流れになっている?
「そんなふうに、今、思いました。誰かの期待に応えたいとか、人の気持ちや状況を優先しすぎて自分がどんどんダメになってしまっていくっていう。でも苦しいって言葉にしたら最後な気がして、結果的に期待に応えるどころか迷惑をかけてしまったり。自分のなかに溜めると自分がダメになるってことも経験して。“どうしたらいいんだろう?”っていうときに、“私には音楽があるじゃん!”と思って、自分の気持ちを昇華させるために「Pain」という曲を作って。そこでちゃんと本音を言えたことによって、「かわいい人」ができたんです。そういう流れもあったので、気持ちを正直に言ったほうが、ファンの人にも、自分に対しても、誠実なんだなって学んだんですよね」
――「Pain」はすでに配信リリースされていますが、自分の本音を曝け出した楽曲がどんなふうに受け止められるか、不安はありませんでしたか?
「めちゃくちゃ不安でした。これを聴いたファンの方が、“あの時期、私たち、僕たちが応援していた家入レオって嘘だったの?”とか、“応援してた気持ちをどうすればいいの?”みたいな気持ちにさせてしまったらどうしようって。でも、「Pain」をリリースしたときに、ファンの方たちが“おかえり”と言ってくれたんですね。“これでこそ家入レオ”と背中を押してくれて、やっぱりこれでいいんだと思えたというか……「Pain」をリリースできたことで、私自身、いろんな意味で鼓舞されました」
――「Pain」は、原点回帰のようなロックサウンドも印象的ですよね。また、「嘘つき」のストリングスやコーラスワーク、どこか浮遊感のある「奇跡が足りない」など、サウンド面での変化というのも今作では顕著だったように思います。なかでも家入さんがこだわった点、ご自身で変化を感じている部分というのは、どういったところになりますか?
「今回で一つ、大きな変化だったと思うのは、わからないことを躊躇なくわからないと言えるようになったことでした。私が自信を持って“これはこう”と言えるのは歌のことだけで、あとは直感的に生きてるタイプなので…。“これがどうしてこうなるのかわからない”っていうことを、ちゃんと受け止めてくれる人たちと制作をさせていただきました。なかでも、「嘘つき」でご一緒した石崎 光さんは、私がこういう曲を作りたいっていうことに対して、一緒に深いところまで降りてきてくださって。“レオちゃんがやりたいことって、こういうことなんじゃない?”というので、あのストリングスをはじめとするサウンドの不協和音が生まれたんです。他の曲も濃いですけど、「嘘つき」は石崎さんの狂気的なエネルギーが出ていて、ちょっと異質ですよね」
――まさに「嘘つき」は“新しい家入レオ”って感じがしました。そんなふうに、完成した楽曲を聴いて、家入さんが自分でも新しいなと感じる楽曲があったりするのでしょうか?
「どの曲も語り出したら止まらないんですけど(笑)。でも、「Boyfriend」を作ってみて、いろんな方と一緒に作るのも大好きだけど、自分だけで作るってことも大事にしていきたいなと思いましたね。メロディを作る過程で一緒に出てきた歌詞、ギターのコードを弾きながらメロディと共に出てきた言葉ってやっぱり特別だなって」
――メロディと言葉が密着している感じですか?
「そうなんです。それは、自分で作らないと体験できないこと。自分ですべてを完結させることにこだわりたいわけじゃないけど、そういう道もちゃんと大事にしていきたいなと思いました」
――「Boyfriend」は、ずっと傍にいてくれた人の大切さに気付き、恋が生まれたエピソードが描かれています。大事なものは、実は意外と傍にあるって、よく言われることですけど、なかなか気付けなかったりもしますよね。
「それもデビューしてからの時間の経過のなかで変わったことで。前は、恋ってドキドキするものだと思ってたし、相手のことを好きになることだと思ってたけど、今は、その人と一緒にいる自分が好きっていうこと、その心地よさが私にとっての幸せであり、恋なんだなって。そう気付けて書いたのがこの曲で、自分で書いた曲ですけど、大好きです」
――さっき、途中で聴くのが辛くなったと言ったんですけど、実は続きがあって、アルバムの最後に「かわいい人」と「Boyfriend」があることで、すごく救われた気持ちになったんですよ。
「わあ!良かった……本当、曲順には苦労したんですよ。「かわいい人」で終わるか、「Boyfriend」で終わるかをすっごく迷って。逆に、「Winter」から始めるのはずっと決めていたんですね。暗いモードから始めたいっていうのがあったんですけど、でも、「かわいい人」で終わると流れがきれいすぎるような気がして。これはちょっと“Naked”らしくないと思って、自分で作詞作曲した「Boyfriend」を最後に置くことにしました」
――家入さんの4年間が詰まった、すごいアルバムができましたね。
「もう本当に濃い4年間でした。その間、楽しいだけじゃなかったから信じられるなと思います。メロディが出なくて悩んだりとか、歌詞が書けないって言ったこともたくさんあったし。そういうことを経て、このアルバムが作れて本当に良かった。今の私には、“幸せ貯金”がいっぱいあると思います(笑)」
――それは頼もしいです(笑)。それこそ、このアルバムを携えてのライブが楽しみなのでは?
「そうですね。やっぱり歌うことが好きだし、ライブでみんなに会うのがすごく楽しみだし。しかも、ライブで何が一番面白いかって、目の前にお客さんがいるわけじゃないですか。ステージで歌いながら、“あ、今日はこういう空気感なんだ”とか、どんどんコミュニケーションが取れるのがうれしいんですよね。そこで、自分を曝け出したこの楽曲たちが誰かの人生の一つの感情とか物語になることがあったら、一つひとつの楽曲を、そしてこのアルバムを作った意味があるなって思います」
(おわり)
取材・文/片貝久美子
写真/平野哲郎
LIVE INFO
家入レオ TOUR 2023 ~NOT ALONE~
5月19日(金)柏PALOOZA
5月25日(木)Live House 浜松窓枠
5月27日(土)高松オリーブホール
5月29日(月)京都 磔磔
6月7日(水)仙台 darwin
6月9日(金)cube garden(北海道)
6月17日(土)DRUM LOGOS(福岡)
6月18日(日)広島 CLUB QUATTRO
6月22日(木)梅田 CLUB QUATTRO
6月23日(金)名古屋 CLUB QUATTRO
6月30日(金)Shibuya WWW X
家入レオ TOUR 2023 ~NAKED ~
10月7日(土)Zepp Namba(OSAKA)
10月8日(日)Zepp Nagoya
10月12日(木)Zepp Fukuoka
10月21日(土)仙台GIGS
10月27日(金)Zepp Haneda(TOKYO)
11月3日(金)高松 festhalle
11月4日(土)BLUE LIVE 広島
11月11日(土)KT Zepp Yokohama
11月18日(土)サッポロファクトリーホール(北海道)
DISC INFO家入レオ『Naked』
2023年2月15日(水)発売
初回限定盤A(CD+DVD)/VIZL-2146/5,500円(税込)
Colourful Records
家入レオ『Naked』
2023年2月15日(水)発売
初回限定盤B(CD+DVD)/VIZL-2147/4,620円(税込)
Colourful Records
家入レオ『Naked』
2023年2月15日(水)発売
通常盤(CD)/VICL-65773/3,300円(税込)
Colourful Records
家入レオ『Naked』
2023年2月15日(水)発売
ビクターオンラインストア限定盤(CD+GOODS)/NZS-905/4180円(税込)
Colourful Records
家入レオ『THE BEST ~8th Live Tour~』
2023年3月29日(水)発売
Blu-ray/VIXL-396/5,940円(税込)
Victor Entertainment
家入レオ『THE BEST ~8th Live Tour~』
2023年3月29日(水)発売
DVD/VIBL-1094/5,390円(税込)
Victor Entertainment
…… and more!
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