──シンガーソングライターとして活動始めて、昨年の9月で5周年を迎えました。
「結構あっという間でしたね。“あ、5年経ったんですか!?”っていうのが、一番正直な感想です(笑)。ただ、振り返ってみると、初めたてのころはもう全くわからないことばっかりで。今までやってきた仕事とシンガーソングライターとしてやってくってことは全然違っていて。自分がやりたいことを、全部、自分で決めていかなきゃいけないっていうのがすごく大変でした。途中からは、“自分がやっていきたいことを見つけるための旅”みたいな感じだったかな…。ここ数年は、めちゃバラードな気分だったんですけど、“またロックがやりたくなってきたな〜”という感じです。ツイッターでもつぶやいたんですけど」
──ツイッターを拝見しました。“エモーショナルバラード「春が来るわ」についてお伺いしたいのに!”って思いながら。
「あははは。実は「春が来るわ」は2〜3年前、“バラード作りたい!”っていう時期に出来ていて。もともとは静かなというか、悲しさに寄り添う曲を書きたいっていう気持ちが強いんですよ。“泣き泣き”みたいな曲が好きだから、やりたいなと思っていたんですけど、“やりたいもの”と“似合うもの”はちょっと違うから、そのバランスが難しいなと思って。ちょっと強めに見られるから、”見た目はあんなに強そうなのに、曲を聴いたら、見た目とは違う”イメージに思われることが多く最近、“う〜ん…”ってなってきて」
──自分の“やりたいこと”と自分に“似合うもの”のバランスの取り方はこの5年で見つかりましたか?
「まだ模索中です。でも、いろいろやってきたことも、これから誰かに曲を書いたりするときの振り幅として役立てられたらいいなって思っています」
──自分の言葉と自分のメロディを歌うシンガーソングライターという手段は揺るぐことはなかった?
「誰かから楽曲をもらうこともやってみたい気持ちはあるんですけど、歌詞への思いは強いので、“歌詞は書きたいな”っていう気持ちです。音楽活動を始めて1〜2年のときは、時間もあり余っていたし、書きたいことも溢れ出していたから、“1日1フレーズでも書く!”って決めていた時期がずっと続いていたんですけど、今は、1フレーズでも、もっとディープに、もっと深いところを描いて、共感性を少し高めるということを課題にしてますね」
──音楽活動とそれ以外、例えば演技のお仕事は別物として捉えてますか?
「“全然違うもんな”っていう感じです。ライブをしているときは、私が書いた台本を私が演じているっていう気持ちに近いかもしれないですけど、曲作りや歌詞を書く時点においては、もう全く別物ですね。求められたことじゃなくて、自分で求めるものを探しに行くっていう。お芝居は渡されたキャラクターを演じるから、“もう全然違うな”って。だから、意識せずとも切り替えはできている感じですね」
──自分のやりたいことを見つけるっていう日々は大変でしたか?
「今でも大変だし、本当に辛いです(笑)。コロナ禍に挫折して、“諦めよう”と思っていた時期もありましたね。何ていうのかな…歌詞のある音楽を聞くのも嫌になっちゃった時期もあって。歌詞を聞くのが辛くなっちゃって、『ハウルの動く城』のサントラばっかり聞いていたんですよね。勉強というか、吸収するのが気持ち悪くなって。今でも模索はしてますけど、取りあえず、“私が好きなことをやる”っていうことが、自分の道には繋がるんじゃないかなと思います」
──繰り返しになるかもしれないですが、その好きなことっていうのは何ですか?
「エロスです!エロスを歌いたいんです、私は。でも、バランスがすごい難しくて」
──歌声は可愛い系だし、爽やかなんですよね。例えば、昨年の6月にリリースした、夢に向かって頑張る人へ向けた「ヒーロー」のようなまっすぐな応援ソングも似合ってました。
「そう、だから、難しいんですよね。私が思うにやっぱり女性らしさって、エロスにあるのかなって思うし、そっちの方が深いところで繋がれる感じがする。もちろん、“エロスをそのままエロく歌いたい”っていうわけではなくて。そこにある前提というか。もう根本の話で、誰にでもあるし、リアルでもっと身近に感じるっていうか…」
──音楽には出さない人の方が多いですよね。性欲や愛欲は表には出さないようにしている…。
「そうですね。あと、軽いものとして扱う人もいるかもしれないけど、私が女だからかな?女として生きる武器にもなるし、すごい邪魔になるときもあって。女性特有のもどかしさみたいなものも感じるんですよね。恋愛ソングを描こうとすると、それが“うぜーな”って思う時もあるし、“最高です!”みたいな時もある(笑)。以前、楽曲提供をした時に、ちょうど下ネタを書きたくて、めっちゃ書いたんですよね。そしたら、めっちゃ赤線が入って戻ってきて(笑)。でも、それは勉強になりました。”ここまでならいいんだ”みたいな。楽しかったし、いつか、そういう歌も歌いたいなと思います」
──「ヒーロー」をリリースした2022年というのはどんな1年でした?
「それこそ自分の方向性にいちばん悩んだかもしれないですよね。事務所が変わったのもあって、自分の中で切り替えというか、“今、このレールにちゃんと合わせるべきだ”みたいな意識があって。“キャラ付けをしっかりしたいな”っていうのを考えた1年だったかもしれないです。それが結果に出てるか?って言ったらまた違う話なんですけど(笑)、これからのことをすごく考えた1年だったかもしれないですね」
──これからの行き先は見えました?
「いやあ、難しいですね、やっぱり。まだ模索中って感じです」
──こうしてお話していても、自然体で飾らずに等身大の人じゃないですか。そのままではダメなんですか?
「そのままだと辛いです(笑)。辛いというか、本音の話でいうと、それこそ弱い曲ばかりになっちゃう気がします。でも、生きる上で、ずっと本音で話してるわけにもいかないじゃないですか。なんというか…例えば、他人とコミュニケーションを交わす際に、私はどちらかというと受け通り側の人間なんですね。人と話すときに発信するのがあんまり得意じゃない。だから、“取り繕ってもいいんだぜ!”って言う方にしていきたい。逃げてもいいし、変わってもいいし、貫いてもいい。本音は、自分が思っていればいいって思うから、“みんなも思う分には自由だぜ!”の方にしていきたいというか。本音をただ吐露する曲はもういいかなっていう気持ちです」
──自分が本音を吐露する側ではなく、本音を吐露出来ないという相談相手の思いを受け取って、ほのかりんさん自身の言葉で返していく側になるというベクトルになってる?
「そうですね。でも、どれが本音かなんて自分でわからなくなりません?例えば、怒りの感情は突発的だから、“これは本物だ”と思うかもしれない。でも、最近、アドラーの心理学の本を読んでて、“感情は後付けの理論”だみたいなことが書いてあって。“確かにそうかも”って思って。だから私、これまでは弱い自分でいたかったのかもしれない。今はもう、“そういうのは大丈夫です”って感じかな」
──もう少し振り返りたいんですが、「ヒーロー」の後に、昨年の12月にはウィンターソング「カフェラテ」をリリースしました。
「実は4年以上前に出来ていた曲なんですよ。クリスマスソングになってるから、リリースのタイミングが合わなくて、なかなか出せなかった曲です。最初はクリスマスソングとして作ったわけじゃなかったんだけど、音的にキラキラさせていたら、“クリスマスソングにしようか?”って言う話になったので、2番にちょっとクリスマスっぽい歌詞を入れて、季節的なものにしたんですけど、それこそ一番弱い曲なんじゃないですかね。ただ見てるだけ、ただ受け止めるだけ、みたいな」
──別れを決めてるっていう曲ですよね。
「そうですね。女の人って、男の人が思ってる以上に気づくことが多いと思うんですよね。“なんかちょっと違うぞ、「あれ?これってさ…”みたいな。そういう些細なことに気づく方が多いと思います。それが全部、本当かはわかんないし、ただのネガティブかもしれないけど、そういう変化を感じる力が強いと思って。それに反発するわけでもなく、水に落とした石が波紋を広げるのをただ見てる、みたいな悲しさ。もがかない悲しさを書きたかったんですよね。…実は古すぎてあんま覚えてないんすけど(笑)」
──今、ほのかりんさんはどう感じますか?
「“一番好きかも”ってぐらい好きなんですよね〜。ライブでも“悲しくなりますね”、歌ってて」
──男の方は思ってるよりも、相手が気付いてるってことに全く気付いてないですけどね。
「“え?もろでかい証拠を落としていってるけど?”みたいなね(笑)」
──その違いが如実に出てるなと思います。
──そして、2023年2月1日に新曲「春が来るわ」がリリースされました。
「私は基本的には曲と歌詞を一緒に作りたくて。ある程度、イメージを思い浮かべてから始めるんですけど、基本的にはメロディと歌詞は同時につけるんですね。「春が来るわ」は1〜2年前かな。確かサビから作って、後からAメロBメロをつけた感じだったんですけど、すごく昔のことを思い出しながら、引きずり出しながらが書いていって」
──サビには<身体の桜の痕>という印象的なフレーズがありますね。
「ミュージックビデオでは切り傷になってますけど、アザとかキスマークのことを指していたんですよ。身体中に舞っている桜の痕を見て、自分でやめるっていう。“もうよくない?やめましょう”っていうラインがわかったとき、それから離れるって大変だなと思って。でも、この曲では、心は後ろ髪を引っ張られる思いで、それを実行した。だから、キスマークなり、あざなり、心の傷なりが癒えるまでは、思うことを許してねっていう曲です」
──この子も自分から別れを決断してますよね。
「結局、自分が一番大事ですからね。自分で離していってしまうけど、絶対にいい決断になってるはずだし、いい方向に向かってる。その後で、“離れた相手のことをあんまり考えちゃダメ、思っちゃダメ”と言う人もいると思うんですけど、私はあんまりそうは思わなくて。“片隅に一生いてもいいし”って思う。だって一緒に過ごした時間は消えることはないでしょう?」
──そうですね。でも、これが、DVの痕だとすると…。
「そう。本当はDVされてる女性に聞いてほしいんです。自分でちゃんと決断していかなきゃいけない。今、真っ只中にいる人はなかなか決断できないし、難しいかもしれない。でも、ちょっとでも自分のために、自分を大事にするために進めるきっかけになればいいなって思います。人間って自分に都合のいい方を信じるんですよ。都合が悪い真実より、都合のいい嘘を選んでしまう。でも、そのことに気づいたらたぶん、さくっと切り替えられる気がします」
──この曲の“私”は乗り越えようとしていますよね。
「はい、しています。少しでも離れることを考えられた時点で…選択肢があるっていうことは、次のステップにいけてると思うんですよね。まだ選べなくても」
──細かいことですけど、歌詞には<春が来るわ、>と句読点がついてます。
「これは、まだ終われてないからですね」
──なるほど!ちょっと歌詞もみんなに見てほしいな。あと、さっきもおっしゃってた<許さないで欲しいな>というフレーズも気になっていて。
「許してくれたら、まだ戻っちゃうじゃないですか。もし自分が弱くなって、戻りたくなっちゃうときに、それを気づかないで欲しいし、受け止めないで欲しい。またその弱さにつけ込んでしまうから、“あんたももう捨てたでしょ”っていうふうにして欲しいっていう希望ですね」
──レコーディングはどんな思いで臨みました?
「全然覚えてないんですよね…自分の中ではちょっと喋ってるふうに録った気がします。私が喋ってるみたいな曲が好きだから、ドラマっぽくしてもらった記憶があります」
──歌の物語の主人公になりきって歌ってますか?
「はい。全部そうですね。自分の実体験も重ねつつですけど、別にあのときが恋しいみたいなわけではなくて。“あのときの感情が愛おしい”みたいな感覚になりますね。目の前にあることって、それが全てみたいになるときがあるじゃないですか。振り返って、“ばっかみたいだね、私”みたいなのも含めて歌ってます(笑)」
──春というのはご自身にとってどんな季節ですか?
「私、学生のときの思い出にあまり思い入れがなくて…だから、“出会いと別れの季節”って思ったことなくて、一番印象が薄い季節かな。でも、やっぱり春が来るとリスタート感はあるし。出会いや別れではなくて、再出発という印象かもしれないですね」
──MVには女優の藤野涼子さんが出演しています。ご自身で演じる選択もあったと思うのですが。
「現場に挨拶に行かしてもらったんですけど、行ったらやっぱやり自分も一緒に演じたくなる気持ちはありましたね。でも、今回は監督に、歌詞と曲を送って、“どんな印象を受けましたか?”って聞いて。ある程度のことは言うけど、監督が思った印象でMVを作ってほしかったんですね。だから、あざやキスマークの話もしましたけれど、監督が受けた印象で、切り傷として作ってくれて。それが新鮮で面白かったです。今までは全部こと細かく説明していたので、人が受け取ってもらった世界観でMVを作ってくれたのが良かったです。これから聞いてくれる人とか、MVを見てくれる人も入りやすいんじゃないかなとは思います」
──ご自身では完成作を見てどう感じましたか?
「ドラマみたいって感じました。私がいろいろと口を出してたら、もっとドロドロしていたかもしれない。でも、すごく綺麗な映像になってて。曲とMVでバランスが取れてるからとっても良かったです。ラスサビに入る前、モノクロからカラーになるところが印象的ですけど、私は意外と、友達と喋ってる時に、絆創膏に気づくところが意外と好きですね。現実に引き戻される感じがして」
──恋人との別れを乗り越えて、新しい一歩を踏み出していく切なくも淡いラブバラードとしても聴けるし、もっと生々しさを感じる人はいるんじゃないかと思います。
「たぶん気づく人は気づくでしょうね。それこそ、経験がある人はそういうふうに感じると思うけど、そうじゃない人には、いわゆる別れの曲に聞こえると思う。基本的には別れの曲として聞いて欲しいです。別に人様の傷をわざわざえぐりたくはないから。でも、求めてる人にだけ届いてくれたら嬉しいですね」
──この曲から2023年が始まりますけど、シンガーソングライターとしてはどんな1年にしたいですか?
「今年はいっぱい曲を作りたいですね。好きなことというか、届けたいものを書きたいです」
——誰に何を届けたいですか?
「私が音楽をたくさん聞いていたときって、何かを我慢するときだったんですよ。怒りとか、悲しみとか。小さい頃って今よりも余計に感情のコントロールができなかったから、なんか暴れてたというか、地団駄を踏んでいたんです。でも、大きい音でヘッドホンで音楽を聞いたら、ちょっと収まって。外の世界や怒ってた感情とは区切られて、音楽の世界に持っていかれるのがよかった。自分のご機嫌取りっていうか、慰めてもらっていたというか。そういう使い方をしてほしいし、そういう人に届いてほしいです。“求める人に届いてくれたらいいな”っていう気持ちで、ずっとそこは変わらず目指してるところです」
──そして、今は悲しいバラードを抜けて、ロックモードになってるんですよね。
「はい、一旦終わりにしたい気持ちなんです。ここ数年、いい子になりたかったんですよね。でも、最近、ちょっとむかついてて(笑)。“そんなことない!”って言いたいことがあるから、また、ちょっとそっちの方を書いていきたいです。本当はね、私、『紅の豚』のマドンナみたいな人になりたいんですよ。エロいけど、品があるって、すごいじゃないですか。いつかはそういうキャラクターになりたい。でも、そこまで大人になれてないからそのバランスがまだ難しいな〜って模索してる感じです」
(おわり)
取材・文/永堀アツオ
写真/野﨑 慧嗣
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