――まず、「KAELA presents Zepp Tour 2022 CONTRAST」を無事に終えた全体的な感想から聞かせてください。
「まだコロナもある中で、本当に全公演、誰もコロナにかかることなく開催できたこと、すごく安心しました。自分自身だけでなく、周りのスタッフやバンドメンバーのみんなの体調も心配でしたし、そういった意味ではひと安心っていう感じですね」
――今年2月にはビルボードライブツアーを行いましたが、お馴染みのバンドメンバーのライブハウスツアーとしては、2019年の秋に開催された全国ライブハウスツアー「いちご狩り」ツアー以来、3年ぶりとなっていました。どんなツアーにしたいと思っていましたか?
「Zeppだけれども、1人ずつの座席が設けられてるっていうことがあったので、“どうすれば楽しくなるのかな?”っていうのをツアーが決まってからずっと考えていて。座っていても楽しく見れるような落ち着いたライブにするべきか、席があってもスタンディングはO.K.っていうことだったので、テンションが上がって元気になるようなライブにしようか?っていうことを考えていました。そこで、スタッフさんから“デビュー20周年までに約20ヶ月ほどっていうカウントダウンが始まる時期でもあるね”っていう話をされて。だったら、カウントダウンを始める第1弾としてのコンセプトを作った方がいいな?っていうふうに思ったんです」
――そのコンセプトが、タイトルにもなっている“CONTRAST”ですよね。
「はい、そうです。私自身、もともと“現実はモノクロで、夢や希望はカラフル”っていうコンセプトで歌詞を書いたり、ビジュアルを考えたり、作品作りをしていて。今はどうしても、誰もが現実と向き合いながら、明日はどうなるかわからないみたいな状況の中で、夢を抱きながら生きてると思うんです。だから、まず、現実の世界と向き合って、その上で、“木村カエラの音楽は夢に連れてってくれるんだ”という方向性に持っていけたらいいなって思ったんです」
――衣装やヘアメイクなどビジュアル面はどんなイメージでしたか?オープニング映像で、ライブのテーマである “白と黒”“光と影”ポジティヴとネガティヴ“”という世界を提示した後にどピンクのカエラさんが登場しました。モノクロの世界の中でどんな位置づけですか。
「モノクロの世界の中で、私は常にみんなの光でありたいという希望があったので、“光”をイメージして、ピンクという色を選びました。温かみのある、心臓の色。赤やピンク、黄色が自分の中では好ましかったんですけど、今回は、白と黒、そして蛍光のピンクっていう世界が自分の中ではすごくしっくりきて。だから、生きているという心臓だったり、光っていうことをイメージして、あのピンクを選びました。自分の中では、“もう全部ピンクにしちゃえ!”っていうことで(笑)、髪の毛もピンクにして。あとは、やっぱり久々のライブハウスっていうとこで“やってやる!”みたいな感じもあったので、髪の毛も短くしちゃいましたね」
――登場した際のインパクトが大きかったです。これからライブ映像を見る方もいるので、全部を話してしまうのは避けますが、セットリストはどのようなイメージで組んでいきましたか?
「まずは、モノクロの世界の中で自分自身が何を思ってるのか。自分自身と向き合ってる状態を「Deep Blue Sky」(2006年3月リリースの2ndアルバム『CIRCLE』収録)で表しました。この曲を1曲目に選んだ理由は、「Deep Blue Sky」の中の歌詞なんです。今あるこの現状はどんなに考えても何も変わらない。でも、いつも心に青空を持っていたい。そんなふうに毎日、自分自身が生活しているなって感じて。<ほしいのは見つめる心の光>という歌詞を届けたくて1曲目に選んでいます。紗幕越しに歌ったあと、私自身がみんなの前に姿を表して、音楽という魔法をかける。そこから、現実からだんだんと頭を離していくっていうセットリストを作っていきました」
――ライブの中盤でも紗幕を効果的に使ってました。
「そうですね。心の中に魔法をかけた後に、また紗幕が出てきて。それは、自分自身の心と向き合うべき時間というのを紗幕の世界の中で描いていきました。自分が日々頑張っていることを認めてあげること。ひとりひとりが“こうやってつらかったんだな”、“こうやって頑張ってたんだな”、“こうやって楽しかったんだな”みたいなことが浮かぶようなセットリストを考えて。紗幕が再び開いてからっていうのは、現実の自分っていうところに徐々に徐々に目を向けていく時間。そして、最終的には、その全てが自分の彩りをカラフルにしていくんだっていう。結果として、「Color Me」でみんなの心がカラフルになっていくっていう世界でした」
――新曲「ノイズキャンセリング」の披露もありました。照明も落とした中でピアノ演奏のみによるバラードになっいてましたが、セットリストの中ではどんな位置付けですか?
「コロナ禍で自分の中で出てきたメロディーや歌詞だったので、このツアーで「ノイズキャンセリング」を披露したいと思って、セットリストに入れました。コロナ禍で入ってくる情報はネットの情報がほとんどになってて。華やかなものはすごく華やかに見えるけれども、世の中にはしんどいニュースで溢れかえっていて。落ち込むニュースやショッキングなニュースが多い中で、自分はそれとどう向き合っていくのがいいのかをすごく悩んだ時期に作られた曲だったんです」
――自分の心の声を聞くというのは、木村カエラの本質的なテーマでもありますね。
「そうですね。自分自身の心は何て言ってるのか。ニュースやいろんな情報に惑わされて、自分の心が動かされるのではなくて、自分自身の心はどうしたいのか。自分自身の心はなんて叫んでるのか。そういうことを歌詞や曲にすることで、自分の本当の気持ちに気づいていく。そうすると、自分にとって必要なものだったり、必要じゃないものだったりっていうのがわかってくるんですよね。他人に左右されるんではなくて、自分で生きる力、自分を見つめる力っていうのがすごく必要な時期だなっていうふうに思っていたので、自分自身を見つめる曲の前に持ってくることによって、無音の時間になったというか。自分自身と静かに語り合う時間として設けられたのはすごくよかったなと思ってます」
――自分の本当の気持ち本当の幸せを再確認する時間になったなと思います。
――ご自身では特に印象に残っている曲はありますか?
「久しぶりに「HOUCUS POCUS」をやったのが、自分にとっては嬉しくもあり、楽しくもあった時間でしたね」
――2009年6月にリリースされた5枚目のアルバム『HOCUS POCUS』のリード曲で、作曲はクラムボンのミトくん。歌詞には“自分の心のなかにある影の部分もしっかりと受け止めて、ポジティブに明るく変えていければいいな”っていうメッセージが込められていました。
「はい。本当に何年も前の曲なので、現在の私とは違う状況の時に書いているんですけど、今、聴きなおしてみた時に、すごくぴったりしっくりくるような感覚がありましたね。自分にとっても元気になる曲だったなっていうふうに思ってます。「Deep Blue Sky」もそうだったんですけど、改めて、久しぶりにやる過去の曲がまた息を吹き返すというか。そのときそのときで必要になるものって違うんだなと思ったり、これまでやってきたことにすごく意味があるんだなっていうことも感じられた瞬間だったと思います」
――また、観客とはクラップやジャンプだけでなく、ジェスチャーでコミュニケーションを取っていました。ライブを通して対話ができた実感がありましたか?
「やっぱり、会話ができないことや声を出せないことは、とっっても不思議な感覚なんですよね。気持ちだけがダイレクトに、見えないものとして届くという感覚があって。“やれないことは何もないな”っていう感覚で挑んでいたので、声が出せなくても、ああいうジェスチャーでコミュニケーションは取れるし、届けられるものもたくさんあるなっていうふうに実感した瞬間でもありました」
――マスク越しですが、みんなの笑顔は見えましたか?
「みんなの笑顔は見れたと思います。人は目で語るって言いますけど、マスクをしていても目は見えてるので、届いてるんだなとか、届いてないかなとか、目を見ればわかる瞬間もたくさんあって。お客さんが声を出せないからこそ、私自身もいつも以上に皆さんの目を見て歌ったつもりでもあるし、届けようと思って歌っていたつもりでした」
――そして、最初におっしゃってましたが、デビュー20周年まであと20ヶ月というタイミングのツアーでもありました。本ツアーで何か見えたものはありましたか?
「そうですね。本当に明日が一体どうなるかわからないみたいな日々だと思っていて。だからこそ、全力でやりたい、やれるときにやりたないっていう感覚があって。今回、その瞬間を大事にしたという気持ちで歌っていたら、それこそ初めて人前でライブをしたデビュー当時のワンマンライブを思い出すような瞬間がたくさんあったんですね。まるで本当に初めてライブをするような感覚でライブをしていて。歌う喜びだったり、人前で歌えることだったり、直接人と会うことによってエネルギーを交換し合えることだったり。そういうことの大切さを改めて実感した時間でもあって。だから自分自身の歌を通して、
――最後にU-NEXTで配信を楽しみにしている方々にメッセージをお願いします。
「自分なりにすごく一生懸命、楽しくやったツアーです。みんな、それぞれがいろんな思いを抱えて生活している中で、少しでもみんなと寄り添って、楽しい時間を過ごせたらいいなと思ってツアーをしていました。自分自身の気持ちに取り入れるもの、自分に与えるもの…それは、私の音楽でもいいし、他のものでもいいんだけれども、自分自身がカラフルになって輝ける、そんな瞬間をみんなに大切にしてもらいたいな、自分が与えたいな、そんなつもりで歌ったライブです。みんなの心がカラフルになるといいなと思っています。ぜひ楽しんでください!」
(おわり)
取材・文/永堀アツオ
- RELEASE INFORMATION
木村カエラ『MAGNETIC』
2022年12月14日(水)発売
通常盤(CDのみ)/VICL-65746/3,300円(税込)
初回限定盤(CD+Blu-ray)/VIZL-2128/5,390円(税込)
Colourful Records
- U-NEXT:『KAELA presents Zepp Tour 2022 CONTRAST LIVE&DOCUMENTARY』
ライブ配信の詳細はこちら >>>
【配信時間】
ライブ配信:2022年11月16日(水)19:00~ ライブ終了まで
見逃し配信:準備完了次第~11月30日(水) 23:59まで
木村カエラ過去ライブはこちら >>>
【映像作品一覧】<全4本>※独占
KAELA presents PUNKY TOUR 2016-2017 “DIAMOND TOUR”
MTV Unplugged : KAELA KIMURA
KAELA presents GO!GO! KAELAND 2019 -15years anniversary-
KAELA presents on-line LIVE 2020 "NEVERLAND"
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