──2023年に歌手活動5周年を迎えられますが、その間に舞台デビューもされ、幅広く活動をされています。歌手活動は鈴木さんにとってどういう位置にありますか?
「お芝居と歌、両方をやらせていただいていますが、歌もお芝居も“表現するもの”という意識が自分の中にあって、歌もお芝居の一つだと捉えているところがあるんです。歌の中の登場人物になったり、歌で思いを伝えるという意味では、お芝居と通じるところがあるなと思っています。特にここ数年は声優として演じさせていただくキャラクターが増えたおかげで、キャラクターのライヴがかなり増えまして、最初はデビュー作「マクロスΔ」のフレイア・ヴィオンというキャラクターとしてライヴをしていましたが、それ以外にも「アイドルマスター シンデレラガールズ」だったり、「ウマ娘 プリティーダービー」だったり「プロジェクトセカイ」だったり、いろんなライヴに出演していくうちに、どんどん自分の引き出しが増えていって、ステージ上での佇まいなどを学ばせていただいています」
──3rdアルバム『fruitful spring』が1月25日にリリースされます。アルバムの方向性やコンセプトはどのように決まっていったのでしょう?
「今回、いろんなタイミングとご縁が重なって『fruitful spring』というタイトルに決まって、ジャケットが決まってという流れだったので、最初からタイトルを決めて、こういうコンセプトでやろうっていうものではまったくなかったんです。もともと2ndアルバムをリリースして以降に出したシングルが全部入ることが決まっていて、そのシングルすべてが自分にとって新鮮なジャンルに挑戦した楽曲ばかりで、並べるとかなり振り幅が広くなるということはわかっていたので、そのバランスをどういうふうに持っていくか、というところから始まりました。5周年というタイミングでもあるので、今までお世話になった方と、自分にとって大切な方、ずっとやりたいねってお話していた方、すべてを織り交ぜて作りたいということを最初に決めて作り進めて、結果的にコンセプトがなんとなく自分たちの中で決まったなという感じでした」
──そのコンセプトが、そのままタイトルになっているということでしょうか。
「そうですね。このアルバムの中で、特に自分にとって特別な存在になったのが1曲目の坂本真綾さんに作詞していただいた「My Own Story」と、一番最後の尾崎雄貴さん(Galileo Galilei/BBHF)に作詞作曲していただいた「夏のばね」の2曲で、そこからインスピレーションを受けてタイトルを決めたいと思っていたんです。
──『fruitful spring』は直訳すると“実りの春”ですが、鈴木さんのお名前も入っていて。
「2ndアルバムが『上ミノ』というタイトルで、1stアルバムは『見る前に飛べ!』で、この2枚は以前のディレクターさんがタイトルをつけたんですけど、かなりパンチのある印象に残りやすいタイトルだったんですね。今回いざ自分で決めるとなった時に、どうしたものかと悩み、“バネ”だったり“春”という意味の“spring”は入れたいと思っていて、そこから精一杯の自分らしさと、少しのシャレを入れて“実り”の“fruitful”を使いました」
──素敵なタイトルですよね。先ほどご自身にとって特別な存在になったという2曲についてお聞きします。坂本真綾さん作詞の「My Own Story」を聴かれた時、どんな感想を抱きましたか?
「真綾さんに歌詞を書いていただいたのはワルキューレのユニット曲を含めると4度目ですが、今まではキャラクターの心情とか、アニメーションの物語を意識して書かれていたものだったんです。それが今回初めて鈴木みのりの曲として、私だったり私のファンの方に向けて歌詞を書いてくださったので、本当にダイレクトに突き刺さる歌詞が届いたなと感動しました。あと、曲を書いてくださった北川勝利さんもデビューから今まで一番お世話になっている作家さんで、ライヴのバンドマスターとしてもお世話になっている方で、そんな北川さんの曲だからこそ、今までの自分も忘れることなく、自分自身の成長を感じ取ることができました。その絶妙なニュアンスを残して作ってくださったメロディが本当に素敵だったし、仮歌は真綾さんが歌っていたので、その歌声の綺麗さも相まって、感動でちょっとうるっとしました」
──レコーディングではどんなことを意識しましたか?
「声優活動を含めると約7年ぐらいの活動期間があるわけですが、その道のりを辿ると、明るいだけじゃなかったということを、何も言っていないのに真綾さんが汲み取ってくださっていて。それを感じながら歌っていきました。北川さんから、今回真綾さんに作詞をお願いするタイミングで、“私の5周年ということもありつつ、ファンのみなさんや、ファンの方だけでなく聴いてくれたすべての人の背中を押すような詞を書いてほしい”というふうに真綾さんにお伝えしたと聞いて、私も今までを振り返って自分自身を鼓舞しつつ、聴き手の誰かにとっての力になるような歌が歌えるようにと、頭の中で自分と誰かを交互に考えながら歌っていました」
──この「My Own Story」は歌詞の内容も含め、このアルバム一枚を通した鈴木みのりさんの物語のオープニングテーマのような印象を受けました。そして「夏のばね」はそのエンディングテーマ。この曲があがってきた時、どんな印象を受けましたか?
「泣きましたね。念願だったんです。坂本真綾さんもそうなんですけど、私は学生の時からGalileo Galileiが大好きで。Galileo Galileiが活動休止になってBBHFという形になってもずっと応援してきたんです。いちファンとしてGalileo Galileiの音楽をずっと聴いていたので、そんな方に自分の記念すべきタイミングでラストを飾る曲を書いていただけるということが本当に嬉しくて。今までも憧れの方とご一緒するタイミングは何度かあったんですが、それは自分から掴みにいくというより、たまたまご縁が巡って出会ったということが多かったんですが、尾崎さんに関しては自分から掴みにいかないと繋がらないご縁だろうなと、心の中でこの5年間思っていて。今すぐにでもご一緒したいという気持ちはずっとあったんですが、自分の音楽的スキルだったり、タイミングだったり、いろんなことを考えたうえで、やっと今なら尾崎さんにお願いしてもちゃんと歌える気がするし、みんなも受け入れてくれる気がすると思って、今回お願いさせていただきました。活動してきた界隈がそもそも違うので、“どこの誰だ?”状態から尾崎さんは始まるかもと思い自分が今まで尾崎さんの音楽をどれだけ大事に思っているかをどうしても伝えたくて、そして失礼のないように歌いたいと思って、ディレクターさんに“尾崎さんにメールを長文で書くので、それをそのまま送ってください”って言って、ラブレターのようなメールを送っていただいたんです……すみません、しゃべり過ぎてますね(笑)」
──いえいえ、熱い思いが伝わってきます(笑)。そのメールにはどんなことを書かれたのですか?
「尾崎さんが他の方に楽曲提供をされる時、その方の楽曲イメージに合わせて曲を作っていかれるんだなということを聴き手としてすごく感じていて。でも、私は尾崎さんの作った曲、尾崎さんが歌う曲で育ったから、私のことを過度に意識した曲じゃなく、尾崎さんの思うがままに作った曲が欲しいと思ったので、そのことをお伝えして。あと、アルバムを締めくくる楽曲にしたいですっていうことと、尾崎さんの曲で5周年の先を歩けることができたら絶対にいい声優人生、歌手人生になると思うんですっていう話だけをお伝えしました。そしたらこの「夏のばね」というタイトルの曲があがってきて。なんで夏なんだろう?と思いつつも、Galileo Galileiのアルバムの中で私が一番聴いていたのが、夏をコンセプトにした『See More Glass』というミニアルバムがあって、それを声優の養成所に通っている時に新幹線の中で聴いたりしていたんですよ、「Mrs. Summer」っていう曲があって、特にそれが思い出に残っているんですけど、そんな夏要素が偶然に重なって、これはオタクのよくある思い違いなんですがまさに運命を感じました。仮歌を尾崎さんが歌ってくださっていたんですけど、“もうこれで完成じゃん!”みたいな気持ちになっちゃって(笑)。でも頑張らなきゃって思って挑みました」
──尾崎さんには会えましたか?
「レコーディングの前日に、尾崎さんのソロ活動のwarbearのライヴが東京であって、そこにご招待いただいたんです。その時にお会いしました。なんだか夢のようでした。その日に“Galileo Galilei再始動します”と発表されて。“その次の日に私は尾崎さんが作ってくださった歌を歌う。エ、エ、エモい!”と(笑)。いろんな思いが重なって、一番気合いを入れた曲だなと思います」
──尾崎さんから「夏のばね」に込めた思いを聞かれましたか?
「制作中にメールのやり取りで私の思いをお伝えしていただんですが、お会いした時に私が本当にずっと好きだったという気持ちをそのまま受け止めてくださっていて、Galileo Galileiのチームのみなさんが、すごく手間暇かけて作ってくださっていたということを感じました。あと<高く飛ぶ><飛び続ける>というワードが、私をイメージした時に浮かんだことだったそうで、1stアルバムのニュアンスも汲み取ってくださったのかなとも思いました。私的には、<高く飛ぶ あなたより/足りないことは悪くはないと 思う>という歌詞が好きすぎて。私はまわりの人を気にしちゃったりするんですけど、何も言ってないのに私のことをわかってくれているような歌詞で、それは私が尾崎さんの楽曲をずっと聴いてきたからこそ、尾崎さんの曲に寄った人生というか、そういう思考になっているのかなとか、そんなことも思いながら歌ってました」
──この曲はとても繊細なメロディなので、聴いているよりも実際に歌うのは難しいのではないかと思ったりしたんですが……
「難しかったですね!めちゃくちゃ難しくて、しかも音の幅もすごく広くて。音数も少ないから、本当だったら強くいきたいところもいき過ぎるとよくないし、逆に弱く歌ってみると歌詞が伝わらないとか、大切な曲だからということだけでなく、技術的にも本当に難しい曲で、かなり気合が入りました。なのでレコーディングも納得いくまで録らせてくださいって言って、ずっとああでもないこうでもないと言いながらレコーディングしてましたね」
──他に印象深い曲はありますか?
「7曲目の「はじめよう」と8曲目の「Shout!!!」は自分で歌詞を書いたんですけど、今の自分の集大成の歌詞が書けたなって思っているんです。私が人生で初めて作詞に挑戦したのが1枚目のシングルのカップリング曲「20歳の約束」っていう曲だったんですけど、「はじめよう」の歌詞はその時と気持ち的には同じことを言ってるなと書きながら気がついて。成長しても変わらない部分があるんだなと、自分を振り返るきっかけにもなりました。歌詞を書いていると考え方がどんどん変わっていって、自分自身の人間としての成長も感じるし、エンターテインメントをする人間として物の見方もすごく変わってきている気がして、「はじめよう」の歌詞を書いている時間が、自分の成長を感じた時間でした」
──想いの詰まった楽曲が揃いましたね。ご自身ではどんなアルバムに仕上がったと思いますか?
「自分の今までとこれからの両方が込められた一枚になったと思います。2ndアルバム以降、自分の挑戦してみたい曲に挑戦してきて、だけどデビューの頃に歌っていたキラキラとした前向きな曲も忘れないでいたい、そういう思いを抱きながら作っていったので、結果すごくバランスのいい、何も置いていかないし、全部持っていって前に進んでいけるような一枚になったんじゃないかなと思います」
──そして、ニューシングル「ミュージカル」もアルバムと同じ日に同時リリースされます。この曲はタイトル通り、一曲の中にいろんなものが詰め込まれていて楽しいですね。
「ありがたいことに、シングルは毎回アニメのタイアップがついていて、今回もそうなんですけど、明るくポップな楽曲をシングルで歌うのはかなり久々で。デビューの頃はそういう曲も多かったので、ずっと応援してくださっている方にはお待たせしましたっていう気持ちと、アニメに寄り添った楽曲ではあるのですが、私の5周年の第一歩としてもぴったりな歌詞やサウンドになったなと思います」
──年明け早々に新しいアルバムとシングルがリリースされるわけですが、2023年は鈴木さんにとってどんな一年にしたいですか?
「本当にこのタイミングで5周年を迎えられるというのはよかったなと思っていて。音楽活動を通して悩むこともたくさんあったんですけど、いろんな方から言葉をいただいて、自分が成長する機会をたくさんいただけました。やっと自分の歌やお芝居に自信をもって挑もうという気持ちが出てきて、今までの自分より胸を張って表現できていると思いますので、2023年はそんな自分を爆発させられたらいいなと思います。そして3月には東京、大阪、名古屋の順番でツアーを回ります。かなり久々のライヴで、そこで新曲は全部歌えたらいいなと思っています。歌手としてはより多くの方に歌を届けたいって思いがあって。でも、それが必ずしも大きなステージに立つことだけではなく、今の時代に合ったSNSやインターネットなどで声を届けたりとか、逆にもっと初心に戻ってリリースイベントだったりフリーイベントだったり、そういうできることを全部やれたらいいなと思ってます」
(おわり)
取材・文/大窪由香
写真/いのうえようへい
LIVE INFO
鈴木みのり 3rd LIVE TOUR 2023 ~fruitful spring~
3月10日(金)Zepp DiverCity(東京)
3月18日(土) BIGCAT(大阪)
3月19日(日)ダイアモンドホール(愛知)
リスアニ!LIVE 2023
1月27日(金)日本武道館(東京)
THE IDOLM@STER M@STERS OF IDOL WORLD!!!!! 2023
2月12日(日)東京ドーム
ワルキューレ FINAL LIVE TOUR 2023 ~Last Mission~
5月20日(土)、21日(日)有明アリーナ(東京)
5月27日(土)、28日(日)丸善インテックアリーナ大阪
DISC INFO鈴木みのり『fruitful spring』
2023年1月25日(水)発売
初回限定盤(CD+Blu-ray)/VTZL-221/4,730円(税込)
flying DOG
鈴木みのり『fruitful spring』
2023年1月25日(水)発売
通常盤(CD)/VTCL-60568/3,300円(税込)
flying DOG
鈴木みのり「ミュージカル」
2023年1月25日(水)発売
初回限定盤(2CD)/VTZL-222/2,750円(税込)
flying DOG
鈴木みのり「ミュージカル」
2023年1月25日(水)発売
通常盤(CD)/VTCL-35351/1,320円(税込)
flying DOG
こちらもおすすめ!
-
アジア最大規模のアニソンフェス『BILIBILI MACRO LINK - STAR PHASE 2022』開催目前――May'n、内田雄馬からのメッセージ!
USEN/U-NEXT関連 -
内田真礼「聴こえる?」インタビュー――この未来を描くこと
encoreオリジナル -
「GARNiDELiA stellacage tour 2021→2022 "Duality Code" SPECIAL FINAL!!」@中野サンプラザ――ライブレポート
ライブ/イベント情報 -
石原夏織「Starcast」インタビュー――会いたい人を思い浮かべながら
encoreオリジナル -
Wakana、ソロとして初となるビルボードライブ= 「Wakana Billboard Live 2021」ライブレポート
ライブ/イベント情報 -
上坂すみれ「EASY LOVE」インタビュー――ラブと駆け引き
バックナンバー