──アルバム『ピース』を作るにあたり、構想やテーマなどはあったのでしょうか?
Rover「僕の中では、ツアー(「ベリーグッドマン 47都道府県TOUR2023 〜Road to 甲子園〜)」のための作品作りみたいな考え方で。“ライブで届けたい音楽”を詰め込もうと思いました。今回のツアーは47都道府県、全48公演あるので、48回歌い続けても魂を込められる歌を作ったつもりです」
MOCA「今回はライブハウスツアーなので、バンドサウンドだったり盛り上がりやすいパーティソングだったりを多めに入れられたら良いなというのはありましたね。最初は全然違うコンセプトだったんですよ。「I'm Home」というRoverのソロ曲があって“初めて行く場所でも「ただいま」と言える関係でスタートできるのはいいな”と思ったので、「I'm Home」を軸にしようと思っていたんです。でも「夢物語」という曲ができてから、“ピース”が軸になりました。
──アルバムを聴かせていただいて、全体に初期の楽曲っぽさがあるというか、ベリーグッドマンらしい作品だなって感じたんですが、今のお話を踏まえると、そうなったのはライブハウスでのツアーが控えていたからなんでしょうか?
Rover「あー、そうかもしれないですね」
MOCA「特に「マスターピース」は、ベリーグッドマンとして初めて作った曲、「コンパス」を新たに作り直したような感覚があるので、そう感じてもらえているならうれしいです」
Rover「ここ最近は、TEPPAN MUSICを立ち上げて最初に出したアルバム『TEPPAN』(2020年10月リリース)を超えたいと思って、『必ず何かの天才』(2021年10月リリース)や「チョベリグ」(2022年4月リリース)では、今までとは違う角度で曲を作ってみたんです。でもそうしていく中で、正解がわからなくなってきていたのが正直なところで…。このタイミングで「I'm Home」を軸に全国を回ったら、今後の流れがだいぶ変わってくるなと思ったんです。でも“「I'm Home」という曲はすごく良い曲だけど、ベリグとしては、今この曲を軸にするのは違うのかな?“と。そこで”新たに曲を作ろうと思う“とメンバーに話をしたんです。そのとき、HiDEXがちょうどインディーズのときのレーベルの社長と連絡を取っていて、”ベリーグッドマンは「コンパス」に立ち返るべき“と言われたという話をしてくれたんです。そこでビビビっときて、”原点回帰した曲を作ってみよう“と思ってできたのが「マスターピース」なんです。この曲ができてようやく気持ちが落ち着きました。まだライブでやっていないので不安もありますけど」
──ファンの方の反応も楽しみですね。
Rover「はい。ただ、この曲が「コンパス」を超えることは絶対にないんです。それは僕の中での話なんですけど。そもそも“超えるって何だろう?”と思って。「コンパス」や「ライオン」の良さもあるし、「コンパス」や「ライオン」を超えた良さもたまたまあるというだけ。ただ「コンパス」を出したときに20代だった人が、今35歳なわけで。「コンパス」を知らなかった人が、「マスターピース」を聴いて、その方にとって「コンパス」くらいの安心感や強みのある曲だと思ってもらえたら良いのかなと思います」
MOCA「それこそ僕たちはずっと応援歌を作ってきましたけど、仲の良い友達と飲みに行ったら“背中押しすぎやで”って言われたんですよ。“引っ張っていきすぎ。もうしんどいわ。もっと力抜いていこ”って。それが強烈に刺さって“応援しすぎたらあかんねや”って思ったんです。そのすぐあとにコロナ禍になって。それもあって応援歌以外に挑戦してみたのが「アイカタ」だったんです。それが良い感じの広がりを見せたので、そのあと「花束」とか「それ以外の人生なんてありえないや」をリリースしました。自分たちとしては“えっ、応援歌じゃないの?”みたいな声もあったらうれしいなという気持ちも込めて」
──そして、今回また応援歌に戻って来たと。
Rover「そうですね。かと言って、『ピース』に応援歌がたくさんあるわけではないんですが。次はまた思い切り応援歌を作りたいなと思っています。コロナが落ち着いてきた今なら作れるんじゃないかと」
──逆に言うと、コロナ禍では応援歌をあえて封印していたんでしょうか?
Rover「その側面は、正直ありますね。ライブでも一緒に歌えないし、それぞれのパーソナルな部分を大切にするような時期だったので、応援歌よりもラブソングとかのほうが合うんじゃないかと思っていて。ようやくコロナ禍でも落ち着いてきたので、次は高校野球のテーマソングくらいの“THE応援歌”を作りたいですね」
──「マスターピース」という言葉には代表作や最高傑作という意味がありますが、この曲に「マスターピース」というタイトルを付けた想いを教えてください。
MOCA「「マスターピース」というタイトルは、僕の中に何年か前からあったんですよ。“僕たち人間が生まれたこと自体がもう最高傑作”という意味で、いつかそういう曲を作りたいと思っていました。“どんな見た目でも関係ない、生まれて来ただけで最高やん”って思っているんで。自分たちの音楽を3人が選んでやっているということも最高やし、この3人で奏でる“マスターピース”というものを作ってみたいと思っていて、やっとこのタイミングで作れたという感じです」
──“『ピース』に応援歌がたくさんあるわけではない”という話もありましたが、7曲目の「Ame」なんかは、まさに『TEPPAN』以降の模索があったからこそできた曲なのではないでしょうか。応援歌のイメージのあるベリーグッドマンとは全然違う印象の楽曲ですが、この曲ができた背景を教えてください。
MOCA「よくYouTubeでインストのフリー音源を聴いて曲のイメージを沸かせるんですけど、雨が降っているときに聴いていたら“雨の曲を作りたいな”と思いたちまして。鬱陶しいからこそ、雨が好きになるきっかけになる曲があったらいいなと思って、雨の曲を考えていきました。こういうジャズヒップホップみたいなサウンドは3人とも好きなんですよ。だから俺が勝手にサビとバースを作って“トランペットは絶対に入れてほしい”と言ってRoverに投げたら、あとは全部彼がやってくれました」
Rover「聴いて“めっちゃええやん!”ってなって、僕もバースの半分くらいをすぐに録りました。トランペットを入れたくて僕の高校の吹奏楽部のときの先輩に声をかけてみたらすごく喜んでくれて。ただ、その人はめちゃくちゃトランペットうまいんですけど、元気な感じのトランペットを吹く人だったこともあって、最初に入れてくれたのは、僕の中のイメージと違う吹き方でした。そこで“吐息みたいな音で吹いてください”とか“もっと崩してほしいです”とかいろいろ注文をつけてしまって。“申し訳ないな”と思っていたんですけど、完成したものを聴いてもらったら“こんなんになるとは思えへんかった”、“さすがやな”って喜んでくれて。やって良かったなと思いました」
──冒頭でも「夢物語」がアルバムの軸になったというお話がありましたが、「夢物語」はアルバムの軸であり、ベリーグッドマンの結成10周年への想いも込められた1曲だと思います。これまでの道のりや10周年の想いを曲にしようと思ったのはどうしてですか?
Rover「アイディアとしてはMOCAです。去年かな?」
MOCA「そうやな。甲子園でのライブの開催も発表して、“夢を叶えた人としての歌を歌ってもいいんじゃないか?”と思って、この曲を隠し刀のようにスッと提案しました。そこで3人共通で“感謝の歌しかないな”となりましたね」
──夢を叶えた人として歌うなら“感謝の歌しかない”と。
MOCA「はい。でも曲の全貌が見えてきてからは、この曲って“頑張れ”という言葉は使っていないけど“こいつらでもいけたんやったら、俺らもいけんちゃうか?”とか“私たちも頑張っていたら良いことがあるんじゃないか?”って感じてもらえる応援歌になったんちゃうかなと思いましたね。結局、この曲って自分たちの生き様を歌っているだけなんですよ。僕たちがベリーグッドマンとして生きていく中で、いろんな人と巡り合って、いろんな奇跡が積み重なって、自分たちの力だけじゃ来られなかったところに立てている。だから感謝の歌ではもちろんあるんですけど、聴いた人にとって励みになるかもしれないという意味では応援歌でもあります」
──この曲は3人がベリーグッドマンとなり夢を叶えるまでの道のりがリアルに綴られていて、ものすごく説得力があります。MOCAさんのバースは、MOCAさんの高校時代のリアルなエピソードでもありますが、高校球児として甲子園を目指していた当時のご自身に、今、声をかけるなら何と言いますか?
MOCA「“野球、もうやめとき!”ですかね。まったく才能がなかったので。高校最初の練習の日に、同級生25人のうち僕だけホームランが打てなくて、その日の夜、おかんに“手短に言うけど、レギュラーは無理やと思う。おやすみ”って電話しました。でも“辞めたい”と思ったことは一回もないんですよ。もちろんレギュラーになれないのはめちゃめちゃ悔しかったですけど、才能がないのはわかっていたし、甲子園への憧れは強く持っていたし。それでも同級生に負けるというのは人生で一番と言っていいほどに悔しい瞬間でしたね。試合をしてもみんなは試合に出ているのに、俺だけグラウンド整備をしていて…」
──それは悔しいですね。
MOCA「はい。そういう意味では、甲子園球場に対してここまで強い気持ちを持てたのは野球をやっていたからだと思います。それが17年越しに<バットじゃなくマイク握って>という歌詞になったんだと思いますし。この歌詞、地下鉄に乗りながら書いていたんですけど、書いてたら悔しくなって泣いてしまって。電車の中で、自分のストーリーを書きながら泣くヤバイやつですよ。でもそれくらい強い気持ちで今も活動できているのは、あの時期の経験があったからかなと思います」
Rover「僕たちは大した才能があるわけでもなく、この曲で歌っているみたいに、本当に馬鹿みたいに夢を信じてきた人で。小さい夢を繋いできたから今がある。僕たちは今、それを言いたいんです。“最後の試合でバッターボックスに立ってヒットを打つ”とか、そういう小さい夢を繋いで、甲子園への大きな夢が始まって。その大きな夢も、のちのち何かにつながる小さな夢になっていけばいいなって思います。だから、焦らずとにかく信じるということの大切さを伝えたいという意味でこの曲を作りました。僕たちが甲子園球場でこれを歌っているとき、どういう表情をしているかは見てほしいところでもありますね」
──想像するだけでグッときますね。
Rover「…からの「オドリバ★ジャポニカ」、みたいな(笑)」
──その緩急も、このアルバムの良さですよね。
Rover「はい。本当に僕たちがやりたいのはそこなんですよね。真剣な曲を響かせるためにふざけるっていう」
MOCA「どれがほんまのメッセージか分からん(笑)」
――歌詞とかメロディだけの問題じゃないんですよね、きっと。この空気感というか、全然ベタに聴こえないのがすごいなと思いました。
Rover「そこはNagachoさんという先輩がすごい多忙の中、末端である我々に(笑)曲を提供するっていう」
MOCA「ははは」
Rover「で、憧れがずっとある僕たちの師匠であるDef Techにも絶対これ完成したら聴かれる…と。だから中途半端なことができないっていう、まずそんな大前提であって。で、三回か四回ぐらいサビを書き直したんですけど、平均点をとるのにすごい恐怖を覚えて。かといってNagachoさん本人は何を作っても“いいね”って言ってくれると思うんですけど、そこに僕は結構すべてを賭けた感があって。サビのメロディとかも、Def Techに敬意を持ちながらも、僕たちの節を使って。あとはド頭の歌も、最近の僕たちらしさを盛り込んだんですけど、結構過酷でしたね。決していい気分ではなかったです、作ってる時は」
――(笑)。
Rover「だから、ここまでいいものができたと信じてます」
──そんなアルバム『ピース』ですが、どのようなアルバムになったと思いますか?
MOCA「過去の自分たちの曲も愛しながら、新しい今のベリーグッドマンを感じてもらえる1枚になったと思います。これを聴いて“ライブ行きたい!”と思ってもらえたらうれしいです」
Rover「11月18日の甲子園球場でのワンマンライブ(「ベリーグッドマン 〜甲子園 LIVE 2023〜」)への切符みたいな感じで手に取ってもらえるといいですね。ライブハウスツアーも大きな思い出にしつつ、この切符を持って甲子園に来てください!」
(おわり)
取材・文/小林千絵
RELEASE INFORMATION
LIVE INFORMATION
ベリーグッドマン結成10周年 × 阪神甲子園球場100周年記念事業
ベリーグッドマン 47都道府県”ピース”TOUR2023 〜Road to 甲子園〜
47都道府県、全48公演
ベリーグッドマン結成10周年 × 阪神甲子園球場100周年記念事業
ベリーグッドマン 〜甲子園 LIVE 2023〜
公演日:2023年11月18日(土)
開場 15:00/開演 17:00
会場:阪神甲子園球場
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