──HAND DRIPはそれぞれソロで活動していた4人に、音楽関係者から“グループでやった方がいい”と声をかけられたことがきっかけで結成されたそうですが、どのような方向性、どのような活動を目指して始めたのでしょうか?
菅田好貴(以下、すがちゃん)「“1ギター、3ボーカル”という形が新しい形だったので、そこを強みにしていこうというのが大きいです。あとは、ボーカル3人共が曲も作れて、コーラスもラップもできるし、ギターの(堀次)一輝も前に出て歌うようなギターを弾いていたので、そこは強みにしていきたいなと思っていました。最初からすごくワクワクしていましたね」
岡田大毅(以下、だいちゃん)「そもそも僕たち4人、仲が良いんですよ。4人がめっちゃ仲良いからこそ、ぶつかりにくかった時期もあったんですが、ぶつかることで“お互いのリスペクトしている部分を大事にして生かしていきたい”という共通認識を持てるようになって。それは武器かな?と思います。グループの強みでいうと、曲のジャンルの幅の広さです。HAND DRIPってめっちゃいろんな音楽をやっていると思うんですよ。ロックもあれば、ヒップホップもあるし、R&Bもあるし、ポップスもある。だからどんな方にも刺さる音楽ができているんじゃないかなと思います。以前、ある方に“ディズニーランドみたいやね”と言われたことがあって。HAND DRIPのライブは、テーマパークのように一つの施設でいろんな遊び方ができる、いろんな感情を持って帰ってもらえる場所だと思います」
──その楽曲の幅の広さは、4人全員が曲を作ることによるものですか?
だいちゃん「それもあると思いますけど、たぶん、4人ともがいろいろなものに興味があるし、日常のいろんな刺激を受けるものを音楽で消化していっているからだと思います。いろんな感情をすべて音楽にしているから」
──では、そんな皆さんのパーソナルな部分も深掘りさせてください。それぞれのルーツになった音楽、特に音楽をする上で影響を与えた音楽を教えてもらえますか?
hunch(以下、はんち)「ボーカルのhunchです!主にラップを担当していますが、メロディももちろん歌いますし、コーラスもやります。変化球的な立ち位置でやっています。僕のルーツはR&Bとヒップホップで、好きなアーティストはスティーヴィー・ワンダーさん。昔からヒップホップを聴いていたので、そのリズム感が今に活きているのかなと思います」
堀次一輝(以下、かずき)「僕はたった一人のギターリストの堀次一輝です。僕のルーツは基本的にロック。ハンドリにおいてロックの代名詞=堀次一輝、みたいなところがあります。影響を受けたのはディープ・パープルの「Burn」。あの“タマホーム!!”(歌う)ですね」
──歌もお上手なんですね!
かずき「はい、一応、ボーカル目指しているんで(笑)」
──(笑)。ロックバンドがお好きということですが、HAND DRIPはバンドではないですよね。最初はそこに抵抗はなかったのでしょうか?
かずき「もちろんバンドは好きですけど、僕の中ではHAND DRIPはバンドなんですよ。歌にリズム感もあるし、コーラスにはグルーヴ感もあって。歌というビートに乗っかっているという感じなんで、そこに対して抵抗はないですね」
──なるほど。ありがとうございます。
だいちゃん「僕は、初めて買ったCDはアッシャーのアルバムですけど、昭和歌謡もめっちゃ好きだし、影響を受けたアーティストはたくさんいて。でもルーツというと、路上ライブになるのかなと思います。そもそも18歳まで音楽をやりたいと思っていなくて…“カラオケの派生”というのが一番近いかもしれません。友達に誘われて遊びでやった路上ライブで、聴いてくれた人が僕の歌で泣いてくれてお金を頂けて。それがきっかけで音楽を始めました。だから“誰の影響で音楽を始めましたか?”と言われると、あのとき路上ライブで泣いてくれたおっちゃんです」
すがちゃん「ちなみに、そのおっちゃんは今?」
だいちゃん「知らない。名前も知らないし、顔も覚えてない…ただ、そのときにもらった2,000円は『ベッカムのボールはなぜ曲がるのか?』という本にまだ挟んであります」
すがちゃん「僕は親戚がおっちゃんバンドを組んでいて、毎年夏祭りにやぐらの上でライブをしていて。それをいつも見に行っていたんです。僕が小学4年生のときにそこでおっちゃんがエレファントカシマシさんの「今宵の月のように」を弾き語りしていて。それを見て“ギターをやりたい!”と思ってギターを触り出して、ゆずさん、コブクロさん、秦基博さん…とフォーク系を聴くようになりました。それからは学校の文化祭で毎年弾き語りを披露していたので、学校でも“歌といえば”みたいな存在になっていたんですけど、中学生のときに後輩に“すがちゃんより歌がうまいアーティストが出てきたよ”って言われて。それが清水翔太さんで。近くのイオンモールに来たので観に行って、完全に影響を受けました」
──ありがとうございます。4人の音楽的ルーツも本当に様々ですね。先ほど、だいちゃんが“4人がすごく仲が良い”とおっしゃっていましたが、もともとは別々に活動していた4人が、そこまで仲良くなれたのはどうしてなのでしょうか?
だいちゃん「かずきが主催しているイベントに各々ソロで出ていたり、よくライブが被っていたんです。良くも悪くも、僕らがやっていたちょっとアンダーグラウンドな大阪の音楽シーンというのが狭かったから。お互いに“こいつすげぇな”と思っていたので、お互いのワンマンライブのコーラスとして参加したりするようになって。その流れで、遊びみたいな感じで、あるとき難波の路上でこの4人で路上ライブをしたんです。それがきっかけでHAND DRIPを結成することになったという。で、今が6年目です」
──皆さんそれぞれのキャリアがあるからか、楽曲にもパフォーマンスにも6年目とは思えない貫禄がありますよね。
すがちゃん「けっこう周りにも言われるよね。でも結成した当初は、ほんとにいろんな人にいろんなことを言われて。“1ギター、3ボーカル”があんまりない形だったんで”こんなことやったほうがいい“とか”あんな曲書いたほうが良い“とか」
だいちゃん「今でこそ、ライブを見て“しっかり見れる”と言ってもらえるようになりましたけど、俺ら自身はずっとあたふたしていて…何が正解か分からなくて」
すがちゃん「このスタイルがほかにないから、いろいろ挑戦して、結局、今のスタイルに落ち着いたという感じですね」
──今の形に落ち着いたのはいつ頃ですか?
すがちゃん「…去年?」
だいちゃん「コロナ禍を経てですかね。というのも、コロナ禍に解散の危機がありまして。何もできない状況の中で、必死にSNSを動かしていたんですけど、ふと“何をやってるんだろ?”みたいな気持ちになって、全員が自分を見失ってしまって。でもそれをなんとか乗り越えて去年の暮れにはクラウドファンディングをして、47都道府県フリーライブツアーを回って。そういういろんな経験をして、今の形になった感じがします」
すがちゃん「アコースティックでフリーライブを回って、この形で落ち着いた感じがあるよね。“また来年には違う形でやっていくのか?“と考えると、そんな気もしないから」
──解散の危機は、どうやって乗り越えたのでしょうか?
すがちゃん「じっくり腹を割って話し合いました。“今どう?”、“正直しんどい”みたいな。ギターのかずきが“俺、いる意味あるんかな?”とか言い出したりして。それくらい、それぞれが思っていることを全部話した結果、“もう一回、自分らを信じてやってみよう!”となって。そこでリリースしたのが「言えない」なんです。それがありがたいことに、僕らの一番の代表曲になり、そこから少しずつ前を向けるようになりました」
だいちゃん「「言えない」のタイミングで、それまで一緒にやっていたプロデューサーさんともお別れしたんですよ。その一発目が「言えない」だったので、それもまた一つの自信になりましたね」
──それこそ、今作は「言えない」のバイラルヒットのあとに出す作品になりますが、「言えない」のヒットは、プレッシャーになりましたか?それとも単純に活力に?
すがちゃん「活力にもなりましたけど…」
はんち「「プレッシャーですね」
すがちゃん「うん。もちろんうれしかったし、“ラッキー”という気持ちはありましたけど、自分たちの中では、どうして「言えない」がここまでヒットしたのかがわからなかったから。とはいえ、スタッフは“「言えない」みたいな曲を出そう”みたいになっていて。いろんな葛藤がありましたね」
──そんな葛藤を乗り越えて出来上がったアルバム『ROUTE TO DREAM』ですが、聴かせていただいて、グループとしての想いや人生の応援歌のような楽曲の多い、力強い作品だなと感じました。今作のアルバムにはそういった構想はあったのでしょうか?
すがちゃん「今回のアルバムは、それまでに貯まっていた曲を集めたみたいな作品なんです。ただその貯まっていた曲というのが、47都道府県をフリーライブで回っているときにできた曲なので、そう感じてもらえるのかもしれないです」
──11曲目「僕らはまだ旅の途中」はまさに47都道府県フリーライブツアーを終えた心情が綴られていますが、お話をお伺いすると、この曲に限らず、このアルバムを作る上で、47都道府県フリーライブツアーはすごく大きな出来事だったのではないかなと思いました。皆さんがこのツアーで得たものや感じたものはどういったものでしたか?
はんち「出会いがすごくたくさんありました。それこそ新しい出会いもありましたし、昔の友人や学生時代の友達も見に来てくれて。コロナ禍でなかなか僕たちのライブを見に来られなかったドリッパー(※HAND DRIPのファンの呼称)のところにも会いに行けて。そういう中で、自分たちがどれだけ人に支えられながら音楽ができているかということを再確認できました。あとはメンバーとマネージャーと、これだけ長い間こと一緒にいたことなかったので、みんなで同じ時間を共有したことで、さらにグループの熱量が上がった感じがしています。それが今回のアルバムには反映されているのかな?と思います。反省点もたくさんありますけど、47都道府県を回って良かったなと思います」
かずき「47都道府県って、普通に生きていたらなかなか全部は行けないじゃないですか。だからまずは47都道府県に行けたこと、無事故で帰ってこられたことに感謝です。各地では「言えない」がどれだけ広まっているかという答え合せができたというか、確認できたのもよかったなと思います。道ゆく人が“あっ、その歌、知ってる”と言ってくれたりして」
だいちゃん「そもそも47都道府県フリーライブを回れたのは、クラウドファンディングに協力してくれたドリッパーや、家族や友人、周りの人のおかげ。さらに、47都道府県、どこの会場にもドリッパーがいないということがなくて。もちろんその土地に住んでいる方だけじゃなくて、遠征してきてくれた人もいると思いますけど、47都道府県すべてにドリッパーがいたということで、僕たちのやってきたことに間違いはなかったなと思えたし、ドリッパーの愛の深さをさらに確認できました。同時に、こういう人たちをもっと増やして、もっともっと音楽で愛を返していかないといけないなと再確認する機会にもなりました」
すがちゃん「ほとんど3人が言っていたことと同じなので、それにプラスするなら…シンプルに47都道府回ったということは、すごいことだし、一生自慢できることやなと思います。“俺ら、すげぇことしたな”って。ただ、“もう1回47都道府県ツアーをやるか?“と言われたら、”車移動は嫌やな“とは思うんですけど」
一同「あはは(笑)」
すがちゃん「でも、はんちがさっき言ったように“もっと、あんなこともできた”とか“次、行ったら、こういうことをしたいな”とかいろんなことが見えたので。また全国47都道府県ツアーをやる機会があれば、去年より成長したライブを見せたいなと思っています」
──そんな47都道府県ツアーを経て、アルバム『ROUTE TO DREAM』が完成したわけですが、完成した手応えはいかがですか?
すがちゃん「個人的には、ベストアルバムくらいの手応えがあります。捨て曲なし!って。だいちゃんも言っていましたが、絶対に誰かの人生に当てはまる楽曲がある。そんなアルバムになっていると思います」
──おっしゃる通り様々な楽曲が収録されているので、特に好きなフレーズや好きな曲などを、お一人ずつ教えてください。
はんち「僕は「Milk or Black??」ですね。僕らの中で、“RIP SLYMEさんのような、2000年代のヒップホップのような楽曲を作りたいね”というざっくりしたイメージがあって。それを実現できたのが、この「Milk or Black??」なんです。ライブでもすでに披露していますが、結構人気なんですよ。アレンジもヒップホップに強い方にお願いして、すごくカッコよくなって。今までのHAND DRIPの楽曲の中でもかなり自信のある1曲になりました。歌詞はコミカルで、そのバランスもすごく気に入っています」
かずき「僕は「会えない」が一番好きです。この曲って、起承転結がすごくエモいんですよね。ピアノから始まってしっとりした曲かと思いきや、だんだんバンドサウンドになっていくっていう。ギターもはじめはアコギで、途中からエレキに変わっていく。あの高揚感がいいです。ミュージックビデオでは、僕が雨に降られながらギターを弾いているので、MVもぜひ見てほしいです。素晴らしい俳優さんも出てくれているので。チェックお願いします!」
だいちゃん「迷いますが、僕は「Your song.」が一番グッときます。リアルな歌詞が、歌っていてもグッとくるし、聴いている方も自分に置き換えて聞けるんじゃないかな?って。あと、僕、これまでファルセットが出なかったんです。でも今回のレコーディングではちょっとずつ出るようになって。この曲でもファルセットを使っていて、そこは聴いていても特にグッときますね」
──ファルセットが出るようになったというのは大きいですよね。ボーカルとしての武器が一つ増えたということですもんね。
だいちゃん「そうですね。僕が大事にしているのは感情の表現。僕にとっては、ファルセットは高い音を出すための声ではなくて、地声で歌うよりも切ない感情が表現できるという手法の一つで。そういう意味で、感情の表現が一つ増えた感覚です」
すがちゃん「僕が1曲を挙げるなら「Bitter Love」ですね。ソロ期間も含めて、“自分がやりたかった曲がやっとできた”と思えたのがこの曲なんです。ギターの音色も、メンバーの声の乗せ方も、メロも完璧で、“やりたかったのはこれやねん!”って。歌詞は、若い時の恋愛について書かせてもらったんですけど、それも含めて完璧な曲ができました」
──そんな多彩な楽曲が収録されたアルバムのタイトルは『ROUTE TO DREAM』。47都道府県ツアーのタイトルとも同しですが、HAND DRIPの目指す“DREAM”とは何なのでしょうか?
すがちゃん「せーので言っていいですか?」
──はい、お願いします。
すがちゃん「せーのっ…」
一同「大阪城ホール!」
はんち「ジャケットにも大阪城が描いてあるんですよ。“僕たちは大阪城ホールに向かっています”というストーリーを忍ばせました」
すがちゃん「結成2年目くらいのときに、事務所の先輩であるベリーグッドマンさんの大阪城ホールのライブを見させていただいたんです。プライベートでもよくご一緒させていただいている先輩が、あのステージに立っている姿を4人で見て感動して。すぐ、“大阪城ホールでのライブ”を目標の一つとして掲げました」
──6年目の現在、その目標に近付いている実感はありますか?
だいちゃん「はい、近付いていると思います」
すがちゃん「今年の1月には、今までの最大キャパであるなんばhatchでのライブも終えて。確実に近付いています」
──4月からはまたツアーが始まりますしね。最後に、このツアーの意気込みを聞かせてください。
すがちゃん「このツアーは無料ライブと有料ライブが混合したハイブリッド型ツアーになっているんです。去年フリーライブツアーをやらせていただいたので、今年もフリーライブをやりたいけど、有料ライブもやりたい。その気持ちから、このハイブリッド型ツアーになりました。前回のフリーライブを見た方はぜひ有料ライブを見に来ていただきたいです。今回フリーライブを見に来た方は次からはぜひ有料ライブに来ていただいて。そうやってみんなで大阪城ホールに行けたらいいなと思っています。アルバムに入っている曲はもちろん、今、制作中の新曲もやる予定なので、そんなことも楽しみに来ていただけたらと思います!」
(おわり)
取材・文/小林千絵
RELEASE INFORMATION
HAND DRIP『ROUTE TO DREAM』
2023年3月8日(水)発売
ZLCP-0424/2,750円(税込)
ARIGATO MUSIC/VAA
LIVE INFORMATION
HAND DRIP ROUTE TO DREAM〜Milk or Black?? Tour 2023〜
無料ライブと有料ライブが混合したハイブリット型ツアー!!
アコースティックでミルキーなHAND DRIPとロックでブラックなHAND DRIP
あなたはどっちが好み?
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