10年ほど前のお話となりますが、2014年の3月に始まった『ジャズ100年』、そして2013年の『ジャズの巨人』に続き、私が監修を務める小学館のCD付隔週刊ムックの第3弾として『ジャズ・ヴォーカル・コレクション』が創刊されました。今回はその魅力的な内容の一部をご紹介したいと思います。(※現在は音源付属無の電子書籍版が販売されています)

こちらの新シリーズではジャズ・ヴォーカルの魅力を幅広く知っていただくため、世界最高峰のジャズ・ヴォーカリストをすべて網羅しました『エラ、サラ、カーメン』と称された黒人3大女性ヴォーカリストは言うに及ばず、ジャズ・ヴォーカルの世界では別格扱いされる伝説の大歌手ビリー・ホリディ。白人女性ヴォーカルの第一人者、アニタ・オディ、日本で人気の高いヘレン・メリルといった女性ヴォーカリストだけでなく、ジャズ・ヴォーカルの開祖と言われたルイ・アームストロングからアメリカを代表する大歌手フランク・シナトラ、そしてポピュラー・シンガーとしても知られたナット・キング・コールに至る男性歌手もすべて収録しています。

また、あまり知られることの無い「昭和のジャズ歌」として、美空ひばり、雪村いずみらのジャズ・ナンバーも2回に渡ってご紹介しており、改めて彼女達の歌唱力の素晴らしさを堪能していただければと思います。

最初に収録したのは、エラ・フィッツジェラルドが得意とするスタンダード・ナンバーの名唱『シングス・ザ・コール・ポーターVol.2』(Verve)。続いてサラ・ヴォーンとクリフォード・ブラウンの良く知られたアルバムから名曲《バードランドの子守唄》。そして大御所ホリディの絶唱は《奇妙な果実》です。

ぐっとシックな歌声はカーメンの名盤『ブック・オブ・バラード』(Kapp)から。そしてオスカー・ピーターソンをサイドにしたスインギーなアニタの名唱、ヘレン・メリル、ジューン・クリスティと白人女性ヴォーカルが続きます。

このシリーズの特徴として、歌手別だけでなく「ボサ・ノヴァ特集」などカテゴリー別の巻もあることです。60年代に一世を風靡したセルジオ・メンデスの《マシュ・ケ・ナダ》やアストラッド・ジルベルトの歌声など、ブラジル音楽の魅力もお楽しみください。

美空ひばりというと歌謡曲、あるいは演歌歌手のイメージが強いのですが、彼女の《恋人よ我に帰れ》をお聴きになれば、そうした先入観は一掃されることと思います。また美空ひばり、江利チエミとともに「元祖3人娘」と言われた雪村いずみの個性的な声質は、やはり貴重。もちろん歌唱力も素晴らしい。

ジャズもポピュラーもどちらもこなすのがナット・キング・コールです。一般には《ルート66》などポピュラーなナンバーで知られていますが、リー・モーガンの名盤『キャンディ』のタイトル曲をキング・コールは軽快に歌います。そしてアメリカン・ポピュラー・ミュージックの象徴とも言うべきフランク・シナトラは、ぜひ聴いていただきたい男性歌手ですね。

歌の世界ではヴォーカル・チームの魅力も欠かせません。ジャッキー&ロイのおしどりコンビやら、フランスを代表するジャズ・ヴォーカル・グループ「スウィングル・シンガース」とMJQの共演はまさに絶好の組み合わせです。彼ら白人チームと対照的なのが黒人ヴォーカル・グループの元祖、ミルス・ブラザースです。そして最後を飾るのがジャズ・ヴォーカルの開祖と言われたサッチモことルイ・アームストロングの極め付き《聖者の行進》です。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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