今回はちょっと趣向を変え、もう一度ジャズ初心者の気持ちを思い出してみようという思いも込め、私がジャズを聴き始めたころはいったいどんなアルバムを聴いていたのか、ご紹介しようと思います。

バド・パウエルの超有名盤『シーン・チェンジス~アメイジング・バド・パウエルVol.5(Blue Note)は、高校生の頃試験勉強をしながら繰り返し聴きました。最初は大方のファンと同じように、エキゾチックな曲想が魅力的な《クレオパトラの夢》が好きでしたが、次第に他の曲も好きになり、また、無意識のうちにバド・パウエルという特異なジャズマンが放つ、ジャズならではの「味の濃い音楽」の魅力に惹かれて行きました。

特にジャズファンでなくとも一度は耳にした事のある超有名曲《テイク・ファイヴ》が収録されたデイヴ・ブルーベックの『タイム・アウト』(Columbia)も、まだ輸入盤が高価だったころ、無理をして購入しました。これも最初はアナログ盤A面の最後に収録された《テイク・ファイヴ》が出てくるまで、じっとガマンして他の曲を聴いているような状態でしたが、そのうち、そのガマンの曲《トルコ風ブルー・ロンド》などもなかなかいいなと思うようになったのを憶えています。飛ばして聴くのがメンドウなアナログ盤ならではの効用でしょう。とは言え、まだ「アドリブ」などというものは、特に意識していなかったと思います。

私がジャズを聴き始めた1960年代はジョン・コルトレーンが一世を風靡していましたが、そのころはあまり過激なジャズは敬遠していました。しかし、ちょっと異国情緒も感じさせる《オレ》は、難しく構えなくともすっと入って行けるので、これもずいぶん愛聴したのを憶えています。要するにこの時期はふつうの音楽ファンと同じように、メロディでジャズを聴いていたのでしょう。

そうした中で、ちょっと特異なのがエリック・ドルフィーの『ファイヴ・スポットVol.1(Prestige)でした。かなり異様な旋律が乱舞する《ファイアー・ワルツ》を、どうしたわけか好きになったのです。しかし、このアルバムを購入したのはジャズ喫茶開店のためでしたから、時期としては最初にご紹介した3枚よりは2~3年後のことでした。「アドリブ開眼」とまでは行かないと思いますが、単にわかりやすいメロディ・ラインに惹かれる段階から、もう少し「演奏の力」みたいなものの魅力が体感できるようになっていたんでしょうね。

そして同じくジャズ喫茶開店当時によく聴いたのが、ビル・エヴァンスの「リヴァーサイド4部作」(名ベーシスト、スコット・ラファロとの共演アルバム)でした。有名な『ワルツ・フォー・デビー』ももちろん好きでしたが、どちらかという同日録音の『サンディ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』や、今回ご紹介した『エクスプロレーションズ』の方をよく聴いていました。とりわけ、アナログ時代B面に収録されていた《ナルディス》のなんともいえない美しさには圧倒されたものです。

最後にご紹介するのはM.J.Q.の『フォンテッサ』(Atlantic)で、これは端正でクラシック的なところが入りやすかったのかもしれませんが、今でも愛聴しているところをみると、表面の優雅さの裏に隠れた、ジャズならではの緊張感のあるコラボレーションの魅力を無意識のうちに聴きとっていたのかもしれません。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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