若くして不慮の自動車事故で亡くなってしまったクリフォード・ブラウンは、極めて短い活動期間にもかかわらず、多くの名盤を残しています。それは一にも二にも、彼の演奏技術が優れていたからです。トランペットいう楽器の特性を完璧に生かした、輝かしく勢いのある彼のサウンドは誰にも真似できません。

ブラウニーと愛称されたクリフォード・ブラウンは、デビュー時から完璧なトランペット技術でファンを驚かせました。最初にご紹介するアルバム「ザ・ビギニング・アンド・ジ・エンド」(Columbia)は1952年の録音で、ラテン・バンドのサイドマンとしての初録音です。音楽自体はちょっとレトロな感じですが、後半に登場するブラウニーのソロは既に完成されています。

次にご紹介する「ジャズ・イモータル」(Pacific Jazz)は、珍しくブラウニーがズート・シムス他、ウェスト・コーストのミュージシャンたちと共演したアルバムで、彼がどのようなタイプのジャズマンとも合わせられることが良くわかる、実に心地よい演奏です。

有名なアート・ブレイキーの「バードランドの夜Vol.2」(Blue Note)では、まさにハードバップの夜明けを告げるブラウニーの熱演が記録されていますね。共演のルー・ドナルドソンも元気一杯。そしていよいよマックス・ローチとの双頭バンドです。「スタディ・イン・ブラウン」、「クリフォード・ブラウン・アンド・マックス・ローチ」(共にEmarcy)では、サイドのテナー奏者、ハロルド・ランドの好演も手伝って、どちらも彼らの代表作にふさわしい名盤です。

しかし気が付きにくいのがローチの役割で、メロディ楽器の陰に隠れがちですが、実は演奏を隅々までコントロールしているのは、むしろ年上のローチなのですね。彼がしっかりとリズム・キープしているおかげで、ブラウニーはじめ、ランドもまた彼らの個性を自在に発揮できるのです。

ブラウニーはトランペットの圧倒的技術を誇るだけでなく、「歌心」においても優れていました。ストリングスとの共演では、シンプルにメロディを歌わせるだけで聴き手を魅了する表現力を持っているのです。ですからブラウニーは当然歌伴もうまく、サラ・ヴォーンはじめ、ヘレン・メリルなどと優れたヴォーカル・アルバムを録音しています。サラの「バードランドの子守唄」も、メリルの「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」も、歌い手がいいのは当然ですが、サイドに登場するブラウニーの輝かしいソロが華を添えているのも、大きな聴き所となっているのです。

ローチとの双頭バンドは途中からテナー奏者が当時の新人、ソニー・ロリンズに変わります。「アット・ベイジン・ストリート」(EmArcy)は、まだちょっと荒削りなところが垣間見えるロリンズを相手に、ブラウニーならではの輝かしく勢いのあるトランペットが堪能できる名演です。彼、相手によってけっこう頑張っちゃうんですね。

そして最後にご紹介するのは、冒頭と同じアルバムに収録されているブラウニーの死の1年前の録音です。発売当初は「死の直前」とされていましたが、近年もっと前の記録であったことがわかりました。地方の無名ミュージシャンたちとの気軽なジャム・セッションにもかかわらず、「チュニジアの夜」にしても「ドナ・リー」にしても、その気合の入り加減は尋常ではありません。

こうした演奏を聴くたびに、ジャズマンという人種の表現に賭ける意気込み、凄みに心底圧倒される思いです。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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