今回は現在も第一線で活躍するテナー・サックスの巨人、ソニー・ロリンズの初期の足跡にスポットを当ててご紹介いたします。なんと言っても興味深いのは、ロリンズはデビュー当時から彼ならではの特徴が現れているところ。それは1951年に吹き込まれた彼の初リーダー作『ソニー・ロリンズ・ウィズ・M.J.Q.』(Prestige)の演奏を聴けばわかります。

その特徴とは、ロリンズの代名詞ともなっている「歌うようなフレージング」と、巧みなリズムへの乗り方。《ウィズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート》にしろ、《スロー・ボート・トゥ・チャイナ》にしろ、気軽に鼻歌を歌うような節回しが心地よい。そしてリズムに対しても必ずしもピッタリ合わせず、彼なりのタイミングで微妙にズラしていくところが小粋です。

あまり知られていませんが、巨匠セロニアス・モンクと共演した『セロニアス・モンク~ソニー・ロリンズ』(Prestige)はロリンズとモンクの相性がぴったりなのがわかる隠れ名演。『ワーク・タイム』(Prestige)はロリンズの名が名実とも確立された出世作。彼はこの頃クリフォード・ブラウンのサイドマンを務めていましたが、まったく同じメンバーでロリンズがリーダーとなったのが『ソニー・ロリンズ+4』(Prestige)です。そしていよいよロリンズの代表作にしてモダン・ジャズの名盤『サキソフォン・コロッサス』(Prestige)です。このアルバムでジャズ入門を果たしたジャズ・ファンは数知れません。

当時「2大テナー」と称されたロリンズとジョン・コルトレーンが、がっぷり四つに組んだ傑作が『テナー・マッドネス』(Prestige)です。お互いに相手を意識したのか、ちょっとフレージングが似ていたりするのもご愛嬌。

ソニー・ロリンズのもう一つの特徴が良く現れた名演が『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』(Blue Note)です。このライヴ・セッションにはピアニストがいません。ロリンズのようにフレージングを自由に歌わせようとすると、コード・サウンドをはっきりと出してしまうピアノはむしろ邪魔。おそらくそういう意図がベース、ドラムスのみを従えた変則テナー・トリオという楽器編成となったのでしょう。こうした手法は同じように自由にメロディを歌い上げるオーネット・コールマンにも見られますね。

もちろんロリンズは一般的なワン・ホーン・カルテット、つまりテナー、プラス、ピアノ・トリオのフォーマットでも安定した実力を発揮しています。『ニュークス・タイム』(Blue Note)はそうした名盤です。『ソニー・ロリンズVol.2』(Blue Note)はより編成を拡大し、J.J.ジョンソンのトロンボーンが加わった2管クインテット。ここでもロリンズは安定した貫禄を示しています。『ビッグ・ブラス』(Metro Jazz)は大編成とトリオ演奏の二つのセッションが収録されていますが、ここでもトリオ編成の演奏が名演です。

ロリンズが西海岸のミュージシャンたちと共演した『ソニー・ロリンズ・アンド・ザ・コンテンポラリー・リーダーズ』(Contemporary)に収録された《アイヴ・ファウンド・ア・ニュー・ベイビー》は、「モールス符号」などと揶揄されましたが、同じ音だけで音楽を感じさせてしまうロリンズのリズム感こそが聴きどころなのです。そして同じく西海岸で吹き込んだ『ウェイ・アウト・ウエスト』(Contemporary)は、ロリンズのほのぼのとした面が出た好盤です。最後に収録した『アルフィー』(Impulse)は映画のテーマ・ソングですが、ロリンズの新生面を啓いた人気盤でした。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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