ジョン・コルトレーンに対するイメージは世代によって異なっているかもしれません。私自身を含めた「団塊世代」の方々は「フリー・ジャズの巨人」、あるいは「激動の60年代のシンボル」といった見方が代表なのではないでしょうか。他方、70年代に青春を迎えた現在50代後半のみなさんは、マイケル・ブレッカーやデイヴ・リーヴマンに影響を与えたテナーの巨人、あるいはロック・ミュージシャンをも魅了したジャズの異端児といった見方もあるかもしれません。
今回はそうしたコルトレーンの演奏を時代を追ってご紹介することで、なるべく客観的に彼の業績を辿ってみようと思います。まず冒頭に収録したのは彼の記念すべき初リーダー作、プレスティッジの『コルトレーン』です。さあ何かをやってやるぞという意気込みが聴き手に伝わって来ますね。同じくプレスティッジの『ライク・サムワン・イン・ラヴ』も、多くの「50年代ハードバッパー」とは一線を画した斬新なスタンダード表現が魅力的です。
そしてコルトレーンの足跡を辿る上で欠かせないのが、セロニアス・モンクとの出会いです。彼はモンクのバンドに属することで格段の音楽的進歩を遂げました。『モンク・ウィズ・コルトレーン』(Jazzland)に収録した、いかにも演奏しにくそうなモンクのオリジナル曲をコルトレーンは闊達に演奏しています。
その成果が現れたのがブルーノートの看板アルバム『ブルー・トレーン』です。ここでのコルトレーンは、リー・モーガン、カーティス・フラーを従えた3管セクステットで典型的ハードバッパーとしての顔を見せています。他方、ワンホーンで吹きまくる壮絶なコルトレーンが『ソウルトレーン』(Prestige)収録の《ロシアの子守唄》。コルトレーン・ミュージックの代名詞ともなった、空間を音で埋め尽くすような「シーツ・オブ・サウンド」の登場です。
そして面白いのが意外なコルトレーンの柔軟性です。『ケニー・バレル&ジョン・コルトレーン』(Prestige)にしろミルト・ジャクソン&ジョン・コルトレーンによる『バグス&トレーン』(Atlantic)にしても、ちゃんと相手の音楽性に合わせつつ、自分の持ち味を出しています。
いよいよ「巨人」がその第一歩を歩み始めたのが、その名も『ジャイアント・ステップス』 (Atlantic)です。率直に言って、ここまでのコルトレーンは優れたテナー奏者の一人に過ぎませんでしたが、1959年に吹き込んだこの作品を境として文字どおり前人未到の世界に足を踏み入れたのです。
フリー・ジャズの旗手、オーネット・コールマンの相棒であるドン・チェリーと共演した『アヴァン・ギャルド』(Atlantic)は、彼のフリー・ジャズへの関心の高さを示しています。
そして記念すべきインパルス・レーベルへの移籍第1弾が『アフリカ・ブラス』です。『ライヴ・アット・ヴィレッジ・ヴァンガード』(Impulse)収録のスタンダード・ナンバー《朝日のように爽やかに》は、もはや完全にコルトレーン・ミュージックと化した快演と言えるでしょう。
アップテンポの情熱的演奏がコルトレーンの特徴と思われがちですが、人気アルバム『バラード』(Impulse)で見せるスタンダード解釈はなかなかのものです。
数あるコルトレーンの代表曲《マイ・フェイヴァリット・シングス》の最高ヴァージョンが収録されているのが、『セルフレスネス・フィーチャリング・マイ・フェイヴァリット・シングス』(Impulse)です。最後に収録した彼の最高傑作『史上の愛』(Impulse)の後半部分には、コルトレーンの特異な音楽観が現れているように聴こえます。
文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)
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東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。