時代を追うごとに先鋭さを増していったジョン・コルトレーンの音楽を、どこで分けるかは、いくつかの考え方がある。ここでは、コルトレーンが初めてリーダー作を吹き込んだプレスティッジ時代から、明らかに他のハードバッパーとは異なる次元へと突入していった、アトランティック・レーベルに所属していた時期までを、前期コルトレーンとして取り上げた。

『ブルートレーン』はブルーノート唯一のリーダー作で、彼のリーダーとしての一般的名声はこのアルバムで確立されたといっていいだろう。わかりやすい3管ハードバップながら、既に他のハードバッパーとは一線を画す先鋭なアイデアが垣間見られる。

ここに至るまでの道筋を辿ってみると、初リーダー作であるプレスティッジの『ジョン・コルトレーン』では、まだ曲目によっては硬さの感じられるところもあったが、ゆったりとしたバラード《ヴァイオレット・フォー・ユア・ファーズ》ではいい味を出している。

ピアノレスのワンホーン・トリオというフォーマットは、よほどの表現力がないとアイデアに詰まってしまう。その難しい編成で自分の個性を発揮させたアルバム『ラッシュ・ライフ』は、初期の傑作といってよいだろう。その延長線上にある、空間を音で埋め尽くす「シーツ・オブ・サウンド」の典型例が聴ける《ロシアの子守唄》は、モンクのところで修行した成果が如実に現れた凄まじい演奏で、誰もが音だけでコルトレーンと聴き分ける事が出来るオリジナリティを確立させた、記念碑的演奏だ。

さて、ここまでのコルトレーンは、まず楽器を自在にコントロールする技術を見に付け、そして音だけでも個性を聴き分けることが出来るオリジナリティを獲得したとはいえ、大局的に観れば、「優れたハードバッパーの一人」に過ぎなかった。ところがアトランティック・レーベルに移籍してからの名盤『ジャイアント・ステップス』では、完全に「その他大勢組み」から抜け出してしまった。

僕らは「オリジナリティ」という言葉をよく使うが、厳密には二つの意味がある。一つ目は「他の人との違いを聴き分けることが出来る」という場合で、先ほど《ロシアの子守唄》について説明した時の使い方だ。そしてもう一つが「多くのミュージシャンたちとは次元が異なる」という意味で、これはパーカーとかマイルスといった、他に類例のないワン・アンド・オンリーの領域にまで突入していった人たちのことを指している。コルトレーンは『ジャイアント・ステップス』でまさにその一歩を踏み出したといってよい。

《マイ・フェイヴァリット・シングス》はその後何度も繰り返し演奏され、コルトレーン・ミュージックの代名詞的存在にまでなったが、これはその最初のヴァージョン。『コルトレーンズ・サウンド』は地味なアルバムだが、スタンダード解釈がプレスティッジ時代より進化していることが聴き取れる。特に《ボディ・アンド・ソウル》が名演。

この頃シーンの話題をさらったオーネット・コールマンのサイドマン、ドン・チェリーとの共演作『アヴァン・ギャルド』は、コルトレーンのフリー志向の兆しが窺える作品で、オーネットの曲《フォーカス・オン・サニティ》を取り上げている。

そして最後の《オレ》は、後にコンビを組みことになるドルフィーとの共演盤だが、まだ両者が激突するところまでは行っていない。エキゾチックな曲想が魅力的だ。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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