今回から3回にわたってテナー・サックスの巨人、ジョン・コルトレーンのアルバムをさまざまな角度からご紹介します。第1回は「サイドマンとしてのコルトレーン」で、まず最初に、彼の名を一躍高めたマイルス・デイヴィス・クインテットにおける傑作『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』(Columbia)。
実を言うと、当時はコルトレーンをマイルス・コンボに採用することに対する批判も少なからずあった。それは彼の演奏技術にまだ荒削りなところがあったからなのだが、マイルスはそうしたことより、コルトレーンのジャズに対する前向きな姿勢、センスを買ったのだった。実際に彼の演奏は、この初期のアルバムでも、通り一遍のハードバップ・テナーとは一味違う強烈な個性を発散させている。
コルトレーンは麻薬に溺れたりしたこともあって一時マイルス・グループをクビになり、セロニアス・モンクのバンドに採用される。彼はモンクの元で音楽理論を学び、いままで以上に自信を持って演奏を組み立てることが出来るようになった。『セロニアス・モンク・ウィズ・ジョン・コルトレーン』(Riverside)は、コルトレーンの音楽の転換点として重要な作品。カルテットによる演奏と、テナー・サックスの父と言われたコールマン・ホーキンスとの競演セッションが収録されている。
コルトレーンはこの時期(1950年代後半)多くのハードバップ作品にサイドマンとしても参加し、アルバムの価値を高めることに貢献した。ジョニー・グリフィンの『ア・ブロウイング・セッション』(Blue Note)は、グリフィン、コルトレーン、ハンク・モブレイの3テナーが凄まじいテナー・バトルを展開する傑作で、さすがのコルトレーンもグリフィンに追い立てられている。
トミー・フラナガンをリーダーとしたギター入り2管セクステット『ザ・キャッツ』(New Jazz)は、典型的なハードバップ・アルバムながら、コルトレーンの参加が寿司のわさびのようなピリッとした効果を発揮している。《ハウ・ロング・ハズ・ジス・ビーン・ゴーイング・オン》はフラナガンのピアノ・トリオによる演奏で、コルトレーンは参加していないが、しみじみとした味のある演奏だ。
『ケニー・バレル・ウィズ・ジョン・コルトレーン』(Prestige)は、『ザ・キャッツ』にも参加しているギター奏者、ケニー・バレルとの共演盤だが、こちらは編成がカルテットなので、よりコルトレーンの出番が多い。どちらかと言うとハードなコルトレーンのテナーに対する緩衝材として、温かみのあるバレルのギターが良い効果を出している。コルトレーン入門アルバムとして勧められる傑作だ。
コルトレーンの音楽も共演者によって表情を変える。ヴァイブ奏者、ミルト・ジャクソンとの作品『バグス・アンド・トレーン』(Atlantic)では、ソウルフルなミルトのヴァイブが醸し出すブルージーな感覚と、ストレートなコルトレーンのテナーがうまい具合にブレンドされ、じっくり聴き込むほどに味わいの深い演奏に仕上がっている。
最後の1曲は超大物共演者、デューク・エリントンとの『デューク・エリントン・アンド・ジョン・コルトレーン』(Impulse)から《イン・ア・センチメンタル・ムード》。まったくスタイルの異なる二人が、何の違和感も無く音楽を共有している素晴らしい演奏だ。エリントンはこのセッションでジャズのエッセンスをコルトレーンに教授したという。
文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)
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