最近になって、クリフォード・ブラウンと共演したエリック・ドルフィーの未発表音源『クリフォード・ブラウン+エリック・ドルフィー』(RLR)が発売され、ドルフィーもチャーリー・パーカーの影響圏からジャズマンとしての道を歩みだしたことがわかった。

それでもドルフィーの特別のスタンスは変わらない。多くのアルト・サックス奏者と同じようにパーカー・フレーズのコピーからスタートしたにもかかわらず、どうしてドルフィーだけがあのようなユニークなフレージングを身につけることが出来たのかということは、相変わらずナゾだ。

しかしうなずけることもある。それは、ドルフィーもまたパーカーと同様、一瞬のアドリブの閃きにすべてを賭けたジャズマンであるということが、彼の音楽的ルーツからも納得できたことだ。

冒頭に収録した『アウトワード・バウンド』はドルフィーの初リーダー作だが、彼のアルトは既に完成されたスタイルを確立している。聴き所は《G.W.》《レス》といったオリジナルも、《グリーン・ドルフィン・ストリート》のようなスタンダードも、ともに完全にドルフィー・カラーに染め上げられているところだ。いわゆるハードバップ・ミュージシャンとは最初から違っていたことがよくわかる傑作である。

傑出した才能を持ちながら、ドルフィーは生涯レギュラー・コンボに恵まれなかった。そのドルフィー唯一のレギュラー・グループによる記録が、ブッカー・リトルとの共演作『エリック・ドルフィー・アット・ザ・ファイヴ・スポット第1集』だ。リトルも最高の同伴者を得て、持てる実力のすべてを出し切っている。また、名曲《ファイアー・ワルツ》の提供者であるマル・ウォルドロンも傑出したソロをとっており、まさに名盤・名演といって差し支えないアルバムだと思う。

あまり知られていないアルバムだが『ファー・クライ』もリトルとの共演作。ジャッキー・マクリーンの名演で知られるマルの《レフト・アローン》を、ドルフィーはフルートで情感を篭めて演奏している。

ジョン・コルトレーンの死後発表された、ヴィレッジ・ヴァンガード・セッションの完全版には興味深い発見があった。それは、従来コルトレーンの引き立て役的な印象を持たれていたこの双頭コンボで、実はかなりドルフィーがコルトレーンを食っていたという事実だ。《マイルス・モード》の後半、明らかに音量の大きなドルフィーが登場すると、どちらがリーダーだかわからなくなる。こうした彼の傑出したソロイストとしての実力は、ジョージ・ラッセルの《エズ・セティック》でも十分発揮されている。

ドルフィー唯一のブルーノート作品『アウト・トゥ・ランチ』は、彼のコンポーザーとしての能力が発揮されたアルバム。《ハット・アンド・ベアード》は現在多くのミュージシャンによって注目されている。

ドルフィーの楽器奏者としての卓越した能力が100%発揮されたのが『アウト・ゼアー』だ。なめらかでかつ腰が強い独特のドルフィーのアルト・サウンドが、心行くまで堪能できる私の愛聴盤。そして死の直前のフルートによる絶品《あなたは恋を知らない》を収録した《ラスト・デイト》の最後には、ドルフィー自身の有名な「音楽は演奏と共に空に消え去ってしまい、二度と取り戻すことは出来ない」という言葉が残されている。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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