もっともジャズ喫茶的なミュージシャンは誰かと尋ねられたら、迷わずジャッキー・マクリーンと答えるだろう。マイルスやコルトレーンといったビッグネームは、別にジャズ喫茶でなくとも広く聴かれており、取り立ててジャズ喫茶で人気が出たというわけではない。

ところがジャッキー・マクリーンは1960年代から70年代にかけてのジャズ喫茶全盛時代、ジャズ喫茶にたむろす常連たちによって根強く支持されたところから、彼の名前がファンの間が知れ渡ったという面白い事情がある。つまりマクリーンはジャズ喫茶で生まれたスターと言えるのだ。

個人的な思い出を語れば、ジャズを聴き始めたばかりの頃はマクリーンの良さがサッパリわからなかった。マイルスやコルトレーンは一度聴けば彼らの強烈な主張が伝わってくるので、好きになるかは別にしても、「聴き所」はつかみやすい。

ところがマクリーンは、典型的なハードバップの枠組みにキッチリ収まっているだけに、マクリーンならではの個性が聴き取れていないと、「その他大勢組」とのスタイルの違いが見えてこない。

そんな私にとって、マクリーン開眼のキッカケとなったアルバムが『ジャッキーズ・バッグ』だった。あるとき「市場調査」の意味も兼ね、まだ渋谷道玄坂小路に店を構えていたころの『ジニアス』でこのアルバムを聴いたのだが、冒頭の曲《アポイントメント・イン・ガーナ》のカッコよさにシビれ、思わずジャケットを眺めてみれば印象的な茶色のデザインに見覚えがある。

実はこのアルバム、『いーぐる』にもあったのだが、A面しか聴いたことが無かった。『ジニアス』でかかったのは幻のテナー奏者、ティナ・ブルックスを従えたアナログ時代のB3管セッション。これが素晴らしい。マクリーンならではの、ちょっと掠れたようなアルトの音色の「クセ」が、ファナティックで勢いのある曲想と実によくマッチしている。

マクリーンの場合この「クセ」が聴き所で、場合によっては若干音程のピッチが上ずるようなところも含め、「チャーリー・パーカー・フレーズ」を完全に自分の体質に合うように改造しつくしているのだ。そして一度その「クセ」を掴んでしまうと、ハードバップ・セッションのサイドマンとしてチラッと顔を出すだけでも満足する、完全マクリーン・フリークが出来上がる。

そう、こうした微妙な「聴き分け」は、ある程度ジャズを聴き込んだ「ジャズ喫茶人種」でないと難しかったのだ。そういう理由があるので、マクリーンを知っているかどうかが、かつては一般ジャズファンとディープなジャズマニアを分ける、リトマス試験紙のような役割を果たしていたのである。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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