4月3日の横浜会場は、リアルタイム世代を中心としたファンでほぼ満席となった。感染症対策のためマスク着用だし、声も出せないが、十分に熱気が伝わってくる。そこで登場した荻野目洋子は、真っ黒のサングラス姿。やっぱりやってくれた。1曲目は、港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」の替え歌「港のヨーコ・ヨコハマ・オーサカ!!」だ。トーキング部分を<ヨコスカが好きって言ってたけど、ここはヨコハマだよねぇ。ヨーコって髪の短い女かい? 38年前にデビューしたって? 若かったよねぇ>などのアレンジに会場が和んでいると、「ヨコハマまで来ちゃったぜ〜!」と別の人影が。やはりサングラス姿の飛び入り女性は、友人のLiLiCoだった。そのままふたり仲良く「港のヨーコ・ヨコハマ・オーサカ!!」を歌い切り、ほのぼのムードでライヴがスタートした。

歌って踊ってというイメージが強い荻野目洋子だが、自ら作詞や作曲も手がけるようになった現在、そのステージはシンガー・ソングライター同様のスタイルへと変わっている。しかも今回は、ギタリストとピアニストを迎えたシンプルな編成で、荻野目自身もギターとウクレレを演奏するというアコースティック・ライヴ。2曲目の「Dance Beatは夜明けまで」を、会場が一体となった手拍子の中で軽快にパフォーマンスした彼女は、そこからはギター/ウクレレを曲ごとに持ち替えながら歌った。熱心なファンには見慣れた光景かもしれないが、個人的にはとても新鮮で、本人が活き活きしている姿が印象的だった。

ライヴの構成もよく考えられており、続く“アルバム曲メドレー”では「ペルシャン・ローズ」「Beat goes on」「Birthday」を、収録アルバムや発売年などの本人解説を交えて、まろやかになったハイ・トーンの歌声でじっくり聴かせた。「ペルシャン・ローズ」を作詞した売野雅勇が客席にいて、紹介される場面も。

さらに“B面曲メドレー”で「流星少女」(デビュー曲「未来航海-Sailing-」のB面)、「ぜんまいじかけの水曜日」(「ダンシング・ヒーロー」のB面)、ライヴでもお馴染みの「ジャングル・ダンス」(「スターダスト・ドリーム」のB面)を披露してコアなファンも満足させると、今度は荻野目のオリジナル曲のパートだ。自身が参加している児童労働撲滅キャンペーンのために作ったハートフルな「宝石〜愛のうた〜」、友達と寄り道して食べた高校時代に想いを馳せる「あんバターコッペパン」、そしてNHK『みんなのうた』に起用された、童謡のように耳馴染みがいい「虫のつぶやき」と、どれもが良質のポップ・ソングに仕上がった3曲で、荻野目洋子の“今”を伝えた。子供のころに戻ったように、大好きな虫の話を熱く語る姿も、虫の好きずきはさて置き微笑ましかった。 

ここで、大好きな洋楽のカヴァーが挿入される。80年代のヒット曲ではないかという、こちらの(勝手な)予想を覆し、荻野目がチョイスしたのは「ダンス・モンキー」。ミュージック・ヴィデオも大ききな反響を呼んだ、トーンズ・アンド・アイの2019年の作品だ。ナイスなセンスだし、ウクレレ弾き語りに近いポップで陽性のアレンジも、彼女の現在の表現にぴったりだった。

ライヴの締めくくりは、もちろん“シングル曲メドレー”だ。デビュー曲「未来航海-Sailing-」に、待ってましたの「ダンシング・ヒーロー」、「恋してカリビアン」に「コーヒー・ルンバ」「ストレンジャーtonight」と、ヒット曲のオンパレードに会場の盛り上がりもピークに達した。あのきらびやかな「ダンシング・ヒーロー」が、アコースティック・アレンジでどう変わるのか興味津々だったのだが、<♪ジャカジャカジャ、ジャカジャッジャッジャッ>という、あのイントロ・フレーズ(ご同輩の皆さん、わかりますよね?)を刻むアコギの音色の気持ち良さといったら。なんとも見事なリメイクだった。

気づけば時間がなくなっていたのか、鳴り止まない拍手に応えて、ステージを降りずにそのまま突入したアンコール。「昨日より輝いて」で歌詞を間違えた荻野目は、「もうアドリブで行くから。だってデビュー記念日だも〜ん」と動じることなく逆に盛り上げてみせる。そして最後は「六本木純情派」で、またも鳴り止まない拍手に包まれ、丁寧に客席の隅々にまで手を振りながらフィナーレ。本人が語った通り当日はデビュー記念日で、「38周年を迎えることができました。活動していない時期も含めて、ずっと支えてくれた皆さんのおかげです」と感謝していた彼女の、美しい進化ぶりを伝える見事なライヴだった。「こんな私ですが、これからもよろしくお願いします」という最後のひと言にも、人柄がにじみ出ているようで、なんだか温かい気持ちになった。いえいえこちらこそ、これからもよろしくお願いします。

(おわり)

取材・文/鈴木宏和

荻野目洋子インタビュー――港のヨーコ・ヨコハマ・オーサカ!!~約2年振りとなるビルボードライブ開催目前

1984年4月3日に「未来航海-Sailing-」でデビューした荻野目洋子。デビュー当時のキャッチフレーズは「ハートは、まっすぐ」。彼女自身、この言葉に感謝していると話しているが、オープンマインドで飾らず、気持ちを素直に語ってくれる人柄を伝えるインタビューとなった

荻野目洋子インタビュー

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