――2021年11月17日に配信リリースされたシングル「やっぱり会いたいよ」ですが、歌詞からはこのコロナ禍においてかなり前向きな雰囲気を感じました。
「たぶん、今音楽活動が出来ていなかったら、違う内容になっていたでしょうね。この曲の制作時って、ツアーの真っ最中だったけれど、コール&レスポンスも出来ないという、お客さんとの不自然な接し方の中でライブをやっていたんです。気持ち的にはもっと盛り上がりたいというもどかしさもあり、早くなんとか日常を取り戻したいという願いが出たのでしょう。元々はNHK「ラジオ深夜便」のテーマ曲だったので、最初のイメージは「眠りにつく前のゆったりした曲」から始まったけど、結局「ツアーでもっとみんなに会いたい」という思いが強く、こんなご時世だし、寝る前に爽やかになってくれたらいいかなと作った曲です」
――歌は世情を反映した感じで、作る方のその時の思いが歌詞に出ますよね。
「素直すぎる歌詞ですよね。“これが60を過ぎた男が書く詞なのか?”という自分でもためらいがあるくらい、僕の思いをダイレクトにそのままぶつけた歌詞になりました(笑)。とにかく、僕らの音楽を待っている人たちに“早くマスクを取って騒げる様なライブをやりたいね”という思いを伝えたかったんです。ただ、ひたすらわかりやすく、僕自身の本音だけで書きました。おそらく、音楽業界のこの状況って、残念ながら来年くらいまでは続くのかなと思っています。それは、コロナが始まった当初、ライブハウスからクラスターが出たり、世の中のライブに対する風当たりが強く、それを自制する為に、世の中の自粛解除よりも、音楽業界は今の状況をかなり引っ張るのかなと考えています」
――現状、世の中的には規制は緩和されつつも、ライブハウスにおいてはいまだ自粛傾向にありますね。
「ライブの本質って、ある意味コロナ禍ではやってはいけない事ばかりなんです。つまり、密を作る事で一体感を生んで、みんなが非日常を味わえる、楽しめるみたいな部分。でも、このコロナによって、そういう行為が遮断されてしまった訳ですよ。僕自身、“ライブをやる意味って何だろう?”、“いまの伝え方が正しいのか?”みたいな、音楽の存在理由とかまで考えてしまってました。これは音楽だけの話ではなく、僕自身はいわゆる文化というのは、人と人とのコミュニケーション、それは言葉を使うという事だけではなく、人と人との心の距離をつめることで作られてきたと、勝手に思っています。でも人はコロナ禍で、口にマスクをするのと同時に、心にもマスクをしてしまった。つまり、人に対して勝手に距離を作ってしまっていた状態なんじゃないかな。それがとても嫌で、その反面の思いから<近づきたい>、<ハグしよう>、<キスしよう>という言葉も必要になったんです。それくらいの勢いを見せたかったというのはありますね」
――サウンドプロデュースが佐橋佳幸さん、レコーディングエンジニアに飯尾芳文さんと、お二方ともに長い関係ですが、佐橋さんにプロデュースをお願いした理由は?
「彼にプロデュースを頼むときは、僕自身がもっと音楽で遊びたいとき。自分でプロデュースすると、なんとなく無難な枠を作ってしまうんです。だから大事な部分は全部佐橋にお願いして、僕は言いたいことを言ってる。他にプロデューサーがいるというのは、ミュージシャンとしては本当にありがたいことなんですよ。それもテクニカルな部分や音楽感で最も信頼の出来る人間。僕にとっては日本イチのプロデューサーです佐橋といると、高校の頃のただの音楽野郎でいられますからね(笑)」
――佐橋さんとはどのように制作を進めていったのでしょうか?
「最初に曲のアイディアとかデモテープのイメージを佐橋に全部伝え、彼はそれを踏まえた上でアレンジしてくれるので、僕のイメージとかけ離れたアレンジが出てくる事は100%ないです。話すイメージも具体的ではなく、例えば“60年代のあのバンドっぽいあの音!”みたいな感じでかなり広いところから始まって、最後に二人で“それそれ!”って追い込んでいくんです。この作業は佐橋とじゃないと無理ですね!年は5歳くらい下だけど、聞いてきた音楽の中で“あの曲!”って合致した時は、涙目になっちゃうくらい(笑)」
――やりやすいという事なんでしょうね。
「やりやすい以上に、佐橋は僕のイメージをもっと広げてくれる。そこが、あの人のプロデューサーとしての凄さだよね。そして何より褒め上手。佐橋レベルの人間にプレイを褒められるって、僕で言えばcharさんにギターを褒められるみたいなもんだから。だから、あいつにプロデュースされて嫌な思いをする人っていないでしょうね」
――レコーディングエンジニアの飯尾芳文さんとは、どのようなやり取りを?
「本当に助かっています(笑)!僕らがスタジオでレコーディングをする理由って、ライブでは出来ない緻密さを作りたいんです。例えば、楽器間の距離や音が加わっていく厚みとか、イメージは出来るけど、実際の音として構築するのはやっぱり難しい。飯尾さんはその辺のノウハウが素晴らしく、スタジオで構築された音なのに、生で演奏している感をとても大事にしてくれるんです。レコーディングって最初に演奏録ってから、歌録ってさらにコーラスって別々に録音するけど、その中でちゃんと生の一体感やバンドらしさを磨いてくれる。そして、さらに飯尾さんが音を磨いていくと、“これ、俺が歌った歌かよ!”くらい極上になっているんです。飯尾さんがトラックダウンした音って一発で全員OK出ますからね。とにかく信頼感は強いです」
――2021年はデビュー40周年の節目ですが、達成感のようなものはありますか?
「僕らは確かに年数としては40年だけれど、その上を行く小田和正さん、ユーミンさん、山下達郎さん、桑田圭佑さん、凄い先輩たちがたくさんいますから。そういう諸先輩方が時代の風除けになってくれて、僕らはその後ろを楽に歩かせていただいただけなんです。彼らが打ち立ててきた金字塔は、僕らとはあまりにもケタ違い(笑)。だから、実感としては”40年、ひたすら好きな音楽で遊ばせてもらってる感じ”です。それにバンドだからいつもメンバーも一緒だし、デビュー時も昨日のことのように覚えてます。40年も経ってるのに、正直言ってプロの自覚が足りない部分もありますかねえ……」
――確かにそういった先輩ミュージシャンの方の功績は大きいとは思いますが、バンドを40年続けられるというのはすごい事だと思います。
「確かに毎年60公演くらいやってるから、演奏が上手くなったとは思います(笑)。埼玉の熊谷という片田舎から東京の水も知らずに出てきて、プロになった時に“俺たち、へタクソじゃん!”って打ちのめされたんですよ。そこから日々練習で、コーラスも含めてだいぶ上手くなりましたね。それと田舎者ゆえの、アマチュアリズムもよかったんでしょうね。一度もプロという意識になりきれずに来てしまった、まあ、これはあえて“良さ”と言わせてください(笑)」
――それはなぜですか?
「スターダスト☆レビューの自慢が3つあって、ひとつはヒット曲が出なかった事、それと大きな話題にならなかった事、あとはメンバーが捕まっていない事(笑)。もしそういう事になっていたら、プロとしての自覚がもっと出てきたと思う。プロが何なのかは、いまだによく分かっていないけれど、僕にとっての一番のバンドの理想って、毎日ライブをやれること。それを今もやっていて、僕にとってのアマチュアリズムの理想の部分が、一応プロとしても出来ている状態なんです。毎年ツアーで、1500から2000人くらいのキャパのホールを50都市くらい周れる、僕にとってこれこそが一番の理想の形なんですよね」
――現在、『スターダスト☆レビュー 40周年ライブツアー「年中模索」~しばらくは、コール&ノーレスポンスで~』というツアーを周っていますが、緊急事態宣言の解除前の1月から始められて、現在の解除後の変化や、肌感はどうでしょう?
「それは敏感に感じてます!このツアーは1月の宇都宮、コロナ禍の中で始まって、その時って僕らの緊張感もあったけれど、とにかく開場時のお客さんがシーンとしている状態で、ただただBGMがずっと流れている状態。要するに私語がないんですよ。これはね、本当にやりづらい(笑)。開演前に会場の空気を見に行ったけれど、お客さんも緊張していたと思うんです。それで4公演目くらいから、“みんなとのコミュニケーションは拍手でしか図れないから、出来ればできればいつもよりも大きい拍手で楽しんで!”みたいな影アナを入れ出したら、会場の空気がガラって変わってね。とにかく、お客さんも俺たちも経験したことないコロナ禍なので、そういうちょっとした事にも敏感に反応しますね。もちろん影アナは今も続けているけれど、それが必要ないくらいまでざわつき始めていますよ」
――ちょっとした試行錯誤で、かなり雰囲気が変わられたんですね。
「エンターテインメントってコール&レスポンスが骨格になってると思うんです。だから反応する側のお客さんの空気ってすごく大事なんですよ。コロナ禍ってそれが遮断されている状態だから、ずっと試行錯誤していますよね。今回のツアーはそのコール&レスポンスが出来ないので、街がエイリアンに乗っ取られ、お客さんも声が出せない、という設定のお芝居仕立てでやっています」
――あ、2月の中野サンプラザで見ましたが、楽しかったです!
「でしょ(笑)。で、そのエイリアンから平和な地球を取り戻すために、お客さんの拍手をエネルギーにして、僕らが音楽で戦いに挑み、奴らを打ち負かすという設定。だから、拍手がびっくりするくらいすごいんです。ライブ慣れしているお客さんもたくさんいらっしゃるので、そういうノリにはついてきてくださっているみたいですね。ニューアルバム『年中模索』のジャケットに因んで、みんなとスタレビ号という船で航海に出るんだけど、テーマは新曲探し。その途中で船がガス欠になってお客さんの携帯使ったり、ジャンプしてエイリアンをやっつけたりと、お客さんが演出の一部になってくれる事が、このコロナ禍ならでは今回のステージの作り方かなと。自分で言ってしまうけれど、付け焼き刃の演出というかストーリーを考えたにしては、なかなか良く出来ていると思います(笑)」
――全国102公演のロングツアーですが、コンディションをキープするのが大変ですね?
「こんな時期だからメンバーもスタッフも頻繁にPCR検査や抗原検査して、本当に気をつけてます。今は絶好調で周ってますが、僕らってコンディションが悪い時や声の調子がイマイチな時、アンコールで1曲増やすんですよ。今日しか聞けない歌だぞって(笑)」
――「この声で聞けるのは今日だけだぞ!」ってことですね(笑)。
「そう(笑)。バンドだからすぐ対応できるし、それに合う曲を見つけてくればいいから。それにそういうライブこそ、忘れられないライブの記憶を作ってくれるしね。今まで2500回くらいライブをやっているけれど、大変なライブの方がよく覚えているよね。良く出来たライブはなんとなく忘れちゃっている。だから、そういう時はあえてプラスして何かをやります」
――最後に、あらためて活動40周年を迎えたいまの心境と未来への展望を。
「僕はよく、スタレビは“プールに落としたコンタクトレンズだ”というんです。そんなバンドに出会ってくれたみんなには、“よくぞ僕らというバンドを見つけてくれました!”と感謝の気持ちでいっぱいです。しかも長い事楽しんでくださっているお客さんも多いんです。スターダスト☆レビューはそういうお客さんに作ってもらえたバンドなんだと思います。もちろん僕らをまだ見た事のない方も沢山いらっしゃるから、“そんなバンドもいるんだよ!”と伝えたい思いもあります。そして、これは僕らだけの話ではなく、“あなたが出会っていないもっと面白いバンドが、アーティストが、ミュージシャンがいるよ!”と伝えたい。あなただけが知っているミュージシャンをたくさん作った方が、音楽はもっと楽しめますよ」
(おわり)
取材・文/カネコヒデシ
写真/木村直軌(TWEETY Inc,)
LIVE INFOスターダスト☆レビュー 40 周年 ライブツアー「年中模索」 ~しばらくは、コール&ノーレスポンスで~
2021年
11月20日(土)広島文化学園 HBGホール(広島県)
11月21日(日)とりぎん文化会館 梨花ホール(鳥取県)
11月23日(火)倉敷市民会館(岡山県)
11月27日(土)沼津市民文化センター 大ホール(静岡県)
11月28日(日)よこすか芸術劇場(神奈川県)
12月3日(金)リンクモア平安閣市民ホール(青森市民ホール)(青森県)
12月4日(土)久慈市文化会館 アンバーホール(岩手県)
12月11日(土)シェルターなんようホール(南陽市文化会館)大ホール (山形県)
12月12日(日)多賀城市民会館 大ホール (宮城県)
12月18日(土)とうほう・みんなの文化センター(福島県文化センター)(福島県)
12月19日(日)會津風雅堂(福島県)
12月23日(火)しこちゅ~ホール(四国中央市市民文化ホール)(愛媛県)
12月24日(水)サンポートホール高松 大ホール (香川県)
2022年
1月8日(土)豊田市民文化会館 大ホール(愛知県)
1月9日(日)ロームシアター京都 メインホール(京都府)
1月14日(金)かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール(東京都)
1月16日(日)美喜仁桐生文化会館 シルクホール (群馬県)
1月22日(土)福岡サンパレス&ホール(福岡県)
1月23日(日)アルカス佐世保 大ホール(長崎県)
1月29日(土)熊谷文化創造館さくらめいと(埼玉県)
1月30日(日)熊谷文化創造館さくらめいと(埼玉県)
2月5日(土)シンフォニアテクノロジー響ホール伊勢(三重県)
2月6日(日)長良川国際会議場 メインホール(岐阜県)
2月11日(金)上田サントミューゼ 大ホール(長野県)
2月19日(土)結城市民文化センター アクロス(茨城県)
2月23日 (水)静岡市民文化会館 大ホール(静岡県)
2月26日(土)都城市総合文化ホール 大ホール(宮崎県)
2月27日(日)日向市文化交流センター 大ホール(宮崎県)
3月5日(土)板橋区立文化会館(東京都)
3月6日(日)府中の森芸術劇場どりーむホール(東京都)
3月12日(土)三原市芸術文化センター ポポロ(広島県)
3月13日(日)山口市民会館(山口県)
3月26日(土)八戸市公会堂(青森県)
3月27日(日)北上市文化交流センター さくらホール(岩手県)
4月2日(土)福井フェニックス・プラザ(福井県)
4月9日(土)新潟テルサ(新潟県)
4月10日(日)上越文化会館(新潟県)
※赤字は2021年11月24日付で追記、修正
スターダスト☆レビュー 40周年 ライブツアー「年中模索」~しばらくは、コール & ノーレスポンスで~(スターダスト☆レビュー オフィシャルサイト)
DISC INFOスターダスト☆レビュー「やっぱり会いたいよ」
2021年11月17日(水)配信
COKM-43590
コロムビア