荻野目洋子といえば、リアルタイム世代はもちろん、平野ノラや登美丘高校ダンス部らによる“バブリーダンス”が入口の若い世代にも、「ダンシング・ヒーロー(Eat You Up)」のきらびやかなイメージが強いはずだ。しかし、子育て期間を経て、デビュー30周年タイミングの2014年より本格的に活動を再開した彼女の表現は、ウクレレやアコースティック・ギターの弾き語りも含む、シンガー・ソングライター然としたスタイルへと進化を遂げている。2020年には、自ら作詞作曲を手がけた「虫のつぶやき」が『NHKみんなのうた』でオンエアされ、話題を呼んだ。
再開後の活動の軸としていたライヴを、コロナ禍によりやむを得ず休止していた彼女が、約2年ぶりとなるBillboard Live公演を4月1日(大阪)と3日(東京)に開催する。その名も、「Yoko Oginome Special Dinner Live 2022『港のヨーコ・ヨコハマ・オーサカ!!』」。演奏者は自身を含む3人のみという、ミニマルな編成によるアコースティック・ライヴだ。それに先駆けて、本人に話を聞いた。

――コロナによってライヴ活動の休止を余儀なくされ、もどかしさもありましたか?

「そうですね。せっかく走り始めたのに急ブレーキをかけられて、高速の途中で道路に投げ出されたような心境でした(笑)。皆さん同じだったと思うんですけど、“どうすればいいのかなあ?”とか、“今何ができるのかなあ?”とか考えましたね。自分自身で曲作りも初めていましたから。“こういう先が見えない時って、どんな曲を歌えばいいのかな?”という気持ちにもなりましたし、もやもやしました」

――そのライヴではウクレレやギターも披露されていますが、何かきっかけがあったのでしょうか?

「ギターを一番最初に持ったのは20代の時だったんですけど、挫折してしまったんですね。その後、子育てをしている時……15年くらい前ですかね、何となくウクレレを買ってみて、ぽろぽろ弾いていたんです。独学で、手が空いた時に弾くような感じで。だからまあ、身近にはあったんですけど、30周年ライヴの後くらいから、毎回ライヴで弾き語りコーナーを作るようにしたんです。まだそんなに上手じゃなかったんですけど、皆さんの前で弾くほうが緊張感があるし、目標も生まれてモチベーションにつながると思って、あえてやってみたんですよ。そしたら、皆さんの反応がとても良かったので、嬉しくなりまして。そこからですね」

――もともと、アコースティックの音楽は好きだったのですか?

「好きなことは好きだったんですけど、“自分にできるかな?”というのがあったんですよね。子供の時にエレクトーンを習っていたので、コード感とかは備わっていたんですけど、ずっと楽器に興味がなかったし。今では、音楽というのは歌だけを考えていちゃいかんなと(笑)。そのことに気づいたので、真剣に取り組んでいます。まあそうは言っても、気持ち的には趣味の延長みたいな感じで、すごく楽しんでやれているので、そこは忘れたくないですね」

――音楽に対する考え方が、若干変わったりもしましたか?

「若干どころか、大きく変わりました。具体的には、歌うことだけを考えていた時は、なるべくきれいな声をとか、なるべく声量をとか、そういうことばかりにこだわっていたんです。でも、聴く側にしたら、私が洋楽に興味を持つきっかけになったビートルズを聴いていた時にしても、そんなことよりも音楽を楽しんでいましたよね。チームワークだったり、ハーモニーだったり、リズムだったり。少しぐらいずれる時があっても、それが人間らしくて心地いいし。そういう原点に戻りました」

――「虫のつぶやき」は、そもそもは番組からのオファーだったのでしょうか?

「はい。“一緒に作りませんか?”というお話をいただきまして、打合せの時に“実は子供のころから虫が大好きなのですが、歌にしてもいいんでしょうか?”って聞いたら、スタッフの方が乗ってくださって“それはいいですね!”と」

――虫発信は、荻野目さんからだったんですね。

「そうなんです(笑)。でもまあ私も、言ってみれば15でデビューしてから、しばらくは仕事に夢中でしたし、結婚してからも子育てに夢中でしたし、忘れていたんですよ。ずっと虫を追いかけていたわけではなくて。……虫の話をすると、引く方が多いので(笑)。子供のころ自然の中で育ったので、虫と友達というわけではないですけど、好きだったんですね。好奇心が湧くし、生きるアートみたいな感じもあって。あと、生き方も」

――生き方!?

「あのサバイバルな感じが、同じ生き物として“すごいな”っていう感動があるんです。それで、子育てが落ち着き始めてまたブームが再燃していたところに、お話をいただいたので、“ぜひ!”という感じでまとまりました。いろんなタイミングが重なって、生まれた曲なんです(笑)」

――なるほど(笑)。それより少し前に、平野ノラさんが登場して「ダンシング・ヒーロー(Eat You Up)」が大フィーチャーされましたね。これまで何度も質問されているかもしれませんが、どんな心境だったのか聞かせていただけますか?

「もう本当に、視聴者の皆さんと同じ感じです(笑)。リビングで料理をしている時に、“出囃子”って言うらしいんですけど、あのイントロが流れてきて、最初は耳を疑いましたね。“なんで私の曲が流れているのかな?”って。そこから見る見るうちにノラちゃんが大活躍されて、私がノラちゃんのツイッターをまずフォローしたんですね。そしたらノラちゃんのページに、登美丘高校の皆さんの動画が貼りつけてあって、あの度肝を抜くようなダンスに出会い、これまた“何ごとだろう?”みたいな。すべては私のまったく知らないところで起きていたんです(笑)」

――そうだったんですね(笑)。さて、間もなく行われるBillboard Live公演ですが、どんなセットになるのでしょうか?

「今回はピアノに海老原真二さん、ギターに飯室博さん、そして私という3人だけで織り成すアコースティック・ライヴになります。完全に3人だけというのは、今までになかった新しいスタイルなんです。そういう意味では、みんなで息を合わせて何が生まれるのか、私自身楽しみですし、お客さんが声を出せないのは非常に残念ではありますけど、何か感じ合えるものがあるんじゃないかと思うんですよね。ステージにいる人間が少なければ少ないほど、温かみが伝わるような気がしますし」

――往年のヒット曲も、アコースティック・バージョンでということですね?

「そうです。アコースティックならではのアレンジで、やらせていただきます。あと“B面コーナー”と“アルバム・コーナー”を作るので、長年応援してくださっている方に喜んでいただけたら嬉しいですね。ライブで一度も歌ったことがない曲を選んでいたりするので」

――4月3日のデビュー記念日には、思い入れがありますか?

「やっぱり、ありますね。ライヴがなくても、4月3日が来るたびに、私の中では大切な記念日となっています。私の家族まで大切に思ってくれていて、カレンダーに“マミーデビュー記念日”って書いてくれているんですよ。それくらい、印象深い日です。デビュー時に、大きな船を貸し切りにしてイベントをやってもらったんですね。すごくお金がかかったとも思うけど、それ以上に足を運んでくれた方の応援の声とか笑顔とかを覚えていますし、初心は忘れずにいたいと思います。今回、その日をファンの方と共有できるのは嬉しいです」

――デビュー時のキャッチフレーズが“ハートは、まっすぐ”だったことは、覚えていますか?

「もちろんです。デビュー時のキャッチって、後になってみると恥ずかしいとか照れるとか、そういった傾向が強いと思うんですけど、私の場合は考えてくれた糸井(重里)さんに本当に感謝しています。いまだに恥ずかしくないですし、逆に“この言葉に恥じないように生きていこう”って思えるので。ここまでずっと、ぶれずにやってこられたことに対しては、自分で自分を褒めてあげたいですね(笑)」

――公演タイトルは、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドや、その世代へのオマージュですね?


「そうですね。なんかじわっとくる面白さがほしいと思って。私自身、幼いころに宇崎(竜童)さんと阿木(燿子)さんがお作りになった「プレイバックPart2」が大好きで、ちびっこ番組で歌ったくらいですし(笑)。(山口)百恵さんの歌い手としての表現力に、すごく惹かれていたので、そのオマージュもあります」

――もしや、ライヴで「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」が披露されたりも?

「それは当日のお楽しみです(笑)。何かしらオマージュがあるかもしれません」

――デビュー40周年も近いですが、今後どのように音楽とつき合っていきたいですか?

「周年に関係なく、「ダンシング・ヒーロー(Eat You Up)」で再注目していただいた後ぐらいから、“今の自分にどんな音楽が作れるのか?”を自分に問い続けていて、デモを作ったりしているんですね。私個人の気持ちとしては、愛着があるアナログ・レコードを出したいんです。今、レコード・ショップも増えていますよね。同じ気持ちの人がいるんだから、“間違っていないな”って思っています。家飲みの機会も多くなったし、自分のレコードがどなたかの部屋で流れていてほしいなと。私はアートが好きなので、レコードはそういう意味でも表現につながりますよね。今回もライヴのグッズは自分の手書きのイラストなんですけど、手を抜いていません(笑)」

――最後に、この記事を読んでくれる方々にメッセージをお願いします。

「はい。ありきたりの日常を送るということが、難しい時代になりました。私も音楽を通じていろいろ模索しながら、自分の生き方を考えて、楽しんでいます。皆さんも、体に気をつけながら楽しんでください。その皆さんの生活の中に、私の音楽が入る隙間が少しでもあったら嬉しいと思っています」

(おわり)

取材・文/鈴木宏和

LIVE INFORMATIONYoko Oginome Special Dinner Live 2022

『港のヨーコ・ヨコハマ・オーサカ!!』
4月1日(金) Billboard Live OSAKA
開場17:00:開演18:00
開場20:00:開演21:00
4月3日(日) Billboard Live YOKOHAMA
開場14:00:開演15:00
開場17:00:開演18:00

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