“決意”とは、デビューからおよそ9年間在籍した前事務所を昨年末を以て離れ、元日から自ら起ち上げた株式会社GRIP.で活動することへの覚悟。中澤は冒頭の挨拶で「今日は独立後初のコンサートであり、新しい人生のスタート。ファンに自身の決意を感じてもらえるようなライブにしたい」と話したが、その言葉に込めた熱量を上回るパフォーマンスで観客を魅了、まだまだ成長と飛躍の余地が備わっていることを示してみせた。
中澤卓也は2017年1月18日に日本クラウンより「青いダイヤモンド」でデビューしたが、筆者には以降ずっと拭い切れずにいた違和感のようなものがあった。それは、何故この人が演歌・歌謡曲のカテゴリーに属しているのか?という単純な疑問。中澤は21年リリースの「約束」までクラウンから表題シングル6作を発表しているが、どれも演歌・歌謡曲と言い切ってしまうのがためらわれる色合い、感触を持っていた。それは中澤卓也らしさとも言えるもので、どの曲にも彼の歌声が持つ伸びやかさ、爽やかさ、若さ、清涼感といったものが活きて引き付けられるものを感じさせた。そしてこの日はその歌声から、“決意”によるものだろう従来以上の迫力や熱さが伝わってきて、やはり並の歌手ではないと思わされた。
13時開演の開演前に座席が完売した第1部はステージは、未発売ながらファンにはお馴染みの「東京」でスタート。これまでは中澤のギター弾き語りで披露されていたものが、初めてのバンドアレンジで演奏されたが、胸中の想いが溢れ出るような迫力に「中澤卓也はみにくいヒルの子だったのではないか」という想いが湧いた。それはつまり演歌・歌謡曲のジャンルで活動しながら、他とは違うと思わせる個性のためで、この人が立つべき場所は本当は別のところにあるのではないかという意識。
2曲目の「青いダイヤモンド」から9曲目の「青い空の下」まで、その曲のジャケットやステージで着用していたトップスに次々に着替えながら歌うという趣向のメドレーでは、改めて彼が様々なタイプの作品を歌ってきたことが実感できて楽しかったが、その楽しさはやはり中澤卓也という人の歌声と表現力に基づくもの。「青いダイヤモンド」や「北のたずね人」でファンは歓喜の表情と共に卓也コールを発していたが、そこに生まれる熱狂的な空気は、彼が唯一無二の表現者であることを実証していたと言ってもいい。
そして彼の人気の理由が、歌唱力や表現力だけではなく、人間力にもあると思わされたのがフランク永井の「君恋し」を挟んで行われた「青いダイヤモンド」他を歌いながらのラウンド。まず「君恋し」を選んだのは、レパートリーに数多くのカバー曲を含み、それがジャンルや時代、国境をも越えているという事実を示す意図からだっただろうが、低音の魅力で類稀な個性を放ったフランク永井の曲を、先達に引き寄せられてしまうことなく中澤色に染め上げていたのは見事だった。
自身が生まれる30年以上も前にヒットした「君恋し」――フランクの「君恋し」は1961年の発売でオリジナルは'28年の二村定一盤だった――で歌手としての懐の深さを見せたところで中澤は集まったファンに感謝を伝えるべく来場者全員と握手しながらのラウンドを行った。「青いダイヤモンド」「いつまでも どこまでも」、さらにこの2曲では1階席を周り切れなかったためもう一度「青いダイヤモンド」を歌いながら、座席とファンの膝の間を擦り抜けながら歌の合間には「ありがとう」「ようこそ」と言葉を掛けていく。「Love Letter」で2階席に駆け上がると続く曲は「青山レイニーナイト」。「君恋し」から徐々に会場の空気が変わり熱を帯びていくのが面白いようにはっきりとわかる。すると2階席でまだ中澤が握手を続けているところで1階のファン3人が立ち上がって2階に向けてペンライトを振り始めた。ノリのよい「青山レイニーナイト」に心も身体も弾んでしまい、じっと座ってはいられなかったのだろうが、そう感じていたのは3人だけではなかった。次々にファンが立ち上がりやがて1階は総立ちの状態に。2階でも立ち上がって躍動感のあるリズムとメロディーに身を委ねるファンの姿が見られたと思ったら、ステージに戻って中澤が歌ったのは「江の島セニョリータ」。彼の作品の中で最も盛り上がるこの曲で、ファンは卓也グッズのタオルを振り回しながら会場全体で最高潮を迎える。
客席の全員と握手する歌手を見たのも初めてだったが、演歌・歌謡曲系の公演で総立ちのファンを目撃したのもこれが初めて。やはり中澤卓也は超えてしまっていると強く実感させられた終盤。その後、中澤はバンドメンバーの門馬由哉(ギター)、海老原 諒(パーカッション)、“はたっぷ”こと幡宮航太(キーボード)を紹介したのだが、その後が実に心憎かった。彼が発したのは「そして今日この会場にお集まりのお客さんです!」という言葉。これにはヤラレた。その歌だけでなく、こういうところでもファンは心を掴まれてしまうのだろう。「江の島セニョリータ」を歌う前に新グッズの黒いタオルが発売されていることを告知した中澤だったが、客席ではすでにたくさんの黒タオルが曲に合わせて振り回されるのを待っていた。グッズの売れ行きがよいのにも納得だ。
さてライブはエンディングに近付く。昨年10月3日に30歳の誕生日を迎え、「20代から30代になり大人の階段を1段上がりました。これからは若さや勢いだけではない大人のバラードもお届けしていきたいと思います」と中澤が選んだのは郷ひろみの「言えないよ」。曲名を言った途端に客席から起こる歓声と拍手。名曲の誉れ高い作品に期待が高まったが、もちろんそれが裏切られることはない。「君恋し」がそうだったように、この曲もまた郷ひろみ色ではなく中澤卓也色。清涼飲料のような爽やかな透明感に色の濃さは感じられないが、その個性は爽やかな透明感によって他とは違う輝きを生んでいる。さらにこの日はそこに力強さが増しているのが感じられて、いよいよ彼が目も耳も離せない存在になろうとしていることが窺えた。
「中澤卓也コンサートツアー 歌旅 2026 はじめの1歩」は、1月24日、宮崎のM'sホールから、12月5日の愛知のLIVE HOUSE CIRCUSまで8公演、東京は、ラドンナ原宿で2月11日から11月22日まで異なるテーマで行われる6回の「6Colors LIVE」を開催。「チームナカザワ」という新FCの開設を告げ、「陽はまた昇る」へ。この曲にもオープニングの「東京」同様にこれからの活動に向けた強い意志が感じられて、今後がさらに楽しみになった。歌い終えて感謝の言葉を述べると、ほぼ同時に起きるアンコールの声。そしてそれに応えて歌われたのは昨年「ニッポンシャンソンフェスティバル2025』に出演した際に共演のクミコに要望されたという「青春の旅立ち」。“若いうちならどうにかなる、思い切って旅立つことも悪くない”と歌われる、まさに今の中澤の心情を映したような歌。詞への共感とシャンソンとの相性のよさが中澤卓也の魅力をさらに深めたように感じられて、この人にはジャンルなどというものは必要ないのだと改めて思った。
「中澤卓也はみにくいヒルの子だったのではないか」という問いは「その通り。白鳥だったのだから」という答えに落ち着くものかと思っていたが、ライブの終わりには考えが変わっていた。彼は白鳥でもない。この日、渋谷のステージから、見たことのない美しい鳥が果てしなく広い歌の大空へ飛び立ったのだと。
(おわり)
取材・文/永井 淳
写真/平野哲郎

中澤卓也コンサートツアー 歌旅2026 -はじめの1歩-LIVE INFO
2026年1月24日(土)M’sホール(宮崎)
3月28日(土)高松 Olive Hall
4月26日(日)誰も知らない劇場(宮城)
5月23日(土)ミュージックタウン音市場(沖縄)
7月20日(月)越後妻有文化ホール 段十ろう(新潟)
9月20日(日)Music Club JANUS(大阪)
11月14日(土)小樽 GOLDSTONE
12月5日(土)LIVE HOUSE CIRCUS(愛知)



