──昨年7月以来の登場となります。前回はドイツのフランクフルトで開催される「MAIN MATSURI」に出発される直前でしたが、初だと言っていた海外ライブはどうでしたか?
「ご飯が美味しかったです」
──あはははは。
「シュニッツェルとビールがめっちゃ美味しかったです(笑)。ライブは自分が思ってたよりも大きいステージでやらせてもらって。1日に3〜4ステージあったんですけど、アコギと自分の歌だけじゃなくて、パーカッションとトランペットが入ったアコースティックバージョンのバンド編成でやらせてもらって。ドイツ人の方の受けもよく、行ってめちゃくちゃ良かったです」
──緊張もなかったですか?
「ステージ自体は緊張しなかったですけど、“CDが欲しい”とか、“サインをください”と言ってきてくれる人たちと話すのにすごく緊張しました。ドイツ語は全然話せないんですけど、日本語が上手な方がいて、何とかなりました」
──初の海外ライブで得たものや感じたことは何かありましたか?
「以前、目標として“武道館に行くぞ!”って話したと思うんですけど、あんまり現実味がなかったんですよね。“行けたらいいよね”くらいの気持ちだったんですけど、自分のお客さんだけじゃなかったドイツの大きい会場に立ったことで、“もしもここを自分のお客さんでいっぱいにできたら気持ちいいんだろうな”って感じて。新しい挑戦というか、今年はもっと大きいステージを自分のお客さんだけで埋めたいなって思うようになりました」
──昨年はドイツのフェスに参加するだけでなく、6ヶ月連続のフリーライブもやってましたよ。
「TikTokでファンのかたがついてくれて、定期的に見れくれているというのは、数字として目に見えてわかってきて。配信ライブも見てくれるんですけど、やっぱり足を運んで、わざわざ会場に来てくれるってお客さんはまだ少ないんですね。それも現実だし、“もうちょっとこうしてみようかな?”っていう勉強になりました」
──そこから10ヶ月ぶりの新曲リリースになりますが。どんな日々を送ってましたか。
「本当に“10ヶ月も経ったかな?”っていうくらいあんまり記憶ないです(笑)。早く曲を出したいなと思っていたし、ライブもできるようになりたいなと考えてはいたんですけど…この前も路上ライブのイベントがあったんですけど、雨で駄目になっちゃって。何かやろうと思ってイベントを組むと、雨が降ったり、災害に巻き込まれたりしていましたね。“日々の行いを大切にしないといけないな”と思いつつ、曲を書いて、出して、書いて、出して、出しての繰り返しで10ヶ月が経ってました」
──「夏のスパコール」の後、どういう曲をリリースしていきたいと考えてましたか?
「どんな曲というのはあんまりないんですけど、“曲の作り方を変えてみたらどうか?”っていうアドバイスもらって。今までは鼻歌だけとか、アコギから作ることが多かったんですけど、打ち込みで曲作りを始めて。まだまだ“難しいな…”って感じているところですけど、新曲はリズムから作って、ピアノをちょこっと入れたり、ギターのカッティングを入れたりとか、まず自分でイメージがわかりやすいデモを作ってから、出来上がった曲なので、今までとはちょっと違うふうにできたのかな?と思います」
──「踊れや遊べ」はこれまでにない攻撃的な言葉で綴ってますよね。
「歌詞は攻めた感じで書いてるんですけど、いろんな思いがあって。友人が自分で命を絶つ…未遂をしたんです。後から、ちょっと鬱症状で、パニック障害を患っていたことが分かったんですけど、私は近くにいたけど気づけなくて…。私も20代半ばの歳になるまでいっぱい悩んできて、生きることに行き詰まってしまって、“辛いな、やめたいな”っていう気持ちは自分でもわかるんですね…きっと、もっと大人になってからもあると思うんですけど。だから、その友人のために、ちょっと背中を押せるような曲というか、楽しもうよっていう曲にしたいなと思って」
──しおんさんご自身も生きづらさを感じて嫌になることがある?
「いっぱいあります。例えば、たまに、朝起きてから何もうまくいかない日ってあるじゃないですか。“…今日、雨だ”から始まって。雨だからUber Eatsを頼んだら、なかなか届かなくて。お腹がすいてるのに1時間半も待たされて、結局は来ない。で、仕事にも間に合わなくて、慌てて行って。仕事場でも嫌な思いして、結局、その日、寝るまでずっと嫌な気持ちで、モヤモヤしている。別にその1日だけですぐに死にたいとかはならないけど、中学や高校、大学や社会人1〜2年前で悩んでる人も、最初はそういう小さなきっかけが始まりだと思うんですね。家庭環境に大きな問題を抱えてる子や、いじめに遭ってる子も、自分や友人も、考えてることはそんなに変わらないのかな?って。“ちょっと嫌だ”がどんどん膨れてって、“明日、何食べようかな?”っていうキラキラのきっかけを見つけられなくなるまで、嫌なことが続いちゃうということなのかな?って思います」
──命を絶ちたいと思うほど絶望してる人に向けて、どんな歌詞を書こうって思いましたか?共感だけではないですよね。
「そうですね。“すっげえわかる、その気持ち”っていうだけじゃ駄目だなと思って。励ますでもないし、同情でもないし、否定でもない歌詞を書きたいなと思ったので、まず、一人称をなくすっていうことから始めて。“僕”や“私”、“あなた”という人称を全部なしにするっていうことを意識しました。とにかく、ちょっとふざけたような感じで<踊れや遊べ>って言ってるっていう」
──現実世界は地獄だけども。
「私も自分的には、“なんでここにいるんだろう?”、“なんで生きてしまっているんだろう?”って感じた時期があって。未遂して、ダメだった子も、“死ねなかったことが地獄すぎるな”って感じていると思うんですね。そうじゃなく、毎日になんの面白みも感じずに、ただ単に生きてるだけの人も地獄だと感じているだろうし。人それぞれの地獄があると思うんですけど、地獄だったら別にね、“もういいじゃん”っていう」
──吹っ切って、<さぁ踊れや遊べ>っていう。
「うんうん。そこまで落ちてると何でもできるから、アホになろうよっていうことを強く歌ってますね。サビが終わって最後のエンディングで<踊れや遊べ>を連呼してるところとかあるんですけど、私が言いたいのは、ただそれだけです。説教じみたこともなにもなく、“踊れ、遊べ、楽しく行こうぜ”ってことだけが伝わればいい。“好きなことしたったらええやん”っていう。何もしたくなかったら何もしなくていいし。ちょっと軽いテンションも含めて」
──前々作の4thシングル「Tallest Liar」では<死ねばいい>と言い放ってたけど、この曲では、<命果てるまで/狂え笑えさぁ>と歌ってて。また違う言葉の強さがありますよね。
「「Tallest Liar」は相手に向けて、自分の発散としての曲だったんですけど、「踊れや遊べ」は友達の経験や自分の気持ちとか、もっとリアルなところを歌ってますね。だから、“死”という言葉を入れていないんですけど、ちょっと強い言葉になっちゃったっていう」
──<綺麗事で作った盾は まるでゴミだ>とか、<駆け引きなんかクソだ>とか。
「あははは。出ちゃいましたね。あんまり隠しててもしょうがないんですよ」
──そういう言葉があるからこそ、<ときめき揺らめけ さぁ>というフレーズが胸に刺さります。
「2番のサビでうちもお気に入りです。1番のサビは<狂え笑え さぁ>って言ってて。死に物狂いで頑張ってるとき、“うわ、もう頭おかしくなりそう。狂いそう、忙しい〜キャハハハハ”みたいになるじゃないですか(笑)。それを通り越して、“余裕はないけど楽しもうよ”って歌ってるんですけど、2番のサビでは全部楽しめば思い通りだし、望み通りだし、もっとキラキラするんじゃないか?って。“あ、このお茶美味しい”とか、“ちょっと晴れて星が見えて綺麗だな”とか。見落としがちだけど、一つ一つのことにときめきがあってもいいんじゃない?っていうメッセージなんです」
──アレンジも最初からイメージがあったんですよね。
「そうですね。和な感じにしたくて。母親が和太鼓をやってたんですけど、和太鼓の舞台を見に行くと、よく鈴が出てきてたんです。あの音がすごい好きだったので、和のメロディーは使ってはないんですけど、自分でデモを作っていたときも、鈴と小太鼓を入れてて。“どっかでお祭りやってるよ”みたいな感じで入れたいっていうこだわりはありました」
──あの世感もありますよね。
「うんうん。ちょっと怪しい感じ」
──レコーディングはどんなテンションで臨みましたか?
「友人に届くように…。レコーディングは毎回楽しいですけど、今回は一番最初に、“誰に聞かせたいかな?”っていうのを考えて、その人のために歌いました。“売れたらいいな”とか、“どんな映像にしようかな”よりも、聞いてもらいたい人はいるので、その人のためにと思って歌いました」
──歌う対象が明確だと歌声自体が強くなりますよね。
「そうですね。「Tallest Liar」のときも明確ではあったんですけど(苦笑)」
──あれは浮気した相手に対してだから。
「あははは。あの時は恨みを込めていたので、また全然違う形で思いを込められたのは良かったと思います」
──MVはイラストになってますね。
「絵自体がもう和っていうか、ちょっと怪しい雰囲気があるし、表情がすごく好きな方だったので、自分の思いを伝えて、曲を聴いてもらった上で、ほとんどお任せました。ラフ案をもらって、少しだけリクエストをした1回のやり取りだけで完成して。この曲の中では和とか怪しさとかが大事で、冷めてるというよりは、活力がある赤やオレンジを使いたかったんで、イラストの雰囲気と曲の印象がすごいぴったりのMVになったなと思います」
──約1年ぶりの新曲は曲が完成してご自身ではどう感じましたか?
「新しいしおんあいを見せるのがわくわくです。早く見てもらいたいなって思ってます」
──それは、意図的に変えたものですか?「rise」はバンドサウンドのギターロック、「私の街」はピアノバラード、「二人の時間」はフォーキーなラブソングで、「Tallest Liar」「夏のスパンコール」は昭和レトロの歌謡の要素が入ってました。新曲は、これまでの優しい雰囲気から強くて攻撃的になったし、ボカロや“歌ってみた”とも親和性の高いサウンドになってますよね。
「元々こういう曲の方が歌いやすかったりし、好きではあったんです。自分で聞くのもそっち系なんですけど、今までこういう曲ができなかったし、自分の曲を作ると、聴いてるものとは違うものができたりしてて。今回は、自分が好きなタイプの曲だし、普通に車の中でも聞いちゃうかな?っていう曲ができたのですごく満足してます」
──リスナーとして好きだったテイストの曲と自分から出てくる曲が、今、このタイミングで合わさったことはどう感じてますか?例えば、好きな服と自分に似合う服は違ったりするじゃないですか。
「そうですね。うーん…もうちょっと早くできたら本当は良かったんだろうなと思うんですけど(笑)、今は完成して嬉しいです。でも、ちょっと不安もあります。本当にこれを出して、どんな反応があるのか。やっぱり「私の街」とか、「二人の時間」の方が好きだったっていう人もいるだろうし。こっちの方がいいっていう人もいてくれると思うんですけど、どんな反応があるか、ちょっと楽しみと不安が入り混じってますね」
──リスナーにはどう聴いてもらいたいですか。
「メロディもサウンドも好きですし、お気に入りなんですけど、歌詞にすごく注目して聞いてほしいです。ただ、<踊れや遊べ>っていうフレーズだけでも頭に残ればいいなって思います。歌詞の意味がよくわかんなくても、きついワードじゃなくて、<ときめき>や<望み通り>という部分が頭に残ったらいいな。聴いてくれた人それぞれが、果たしてどういう言葉が一番に耳に入ってくるのか。どういう曲として聞いてくれるのかもすごく楽しみだし、気になります」
──そして、今後はどう考えてますか。また1年後になるのかな…?
「いや、今年はいっぱい曲をリリースしようかな?っていう予定を立てているんで、また1年後っていうことじゃなくなりそうです。曲はたくさん録り溜めているので、今年はバンバン出そうと思ってます。できれば3ヶ月にいっぺんぐらいで考えてます。ちゃんと出すんで(笑)、よろしくお願いします!あと、今年も“MAIN MATSURI(マイン祭)”に呼んでもらったので、またドイツに行けることになりました。シュニッツェルを食べてきます(笑)。アイスタ(i-STAR FESTIVAL/インターネットミュージックシーン初の大型サーキット音楽フェス)もありそうだし、ライブが楽しみです」
(おわり)
取材・文/永堀アツオ
しおんあい(英:sion ai)
-1999年4月 鹿児島県霧島市出身
-2020年7月30日「 RISE 」でデビュー
-2022年4月 TikTokの総再生回数が1800万回を突破!
歌声、言葉、サウンドが心に刺さる。
デジタルとリアルの境界に彷徨う魂を歌う。
新世代のマルチ・ミュージック・クリエイター。
10代後半そして20代前半と、その世代の大半が共感するであろう様々な悩みを潜り抜け
生まれた言葉で綴られた歌詞。
それを表現する、唯一無二、存在感溢れるヴォーカル。
昨年、招聘された独でのステージも大成功をおさめ、今年一層の飛躍が期待される。
しおんあい「夏のスパンコール」インタビュー
TikTokのカバー動画での力強いボーカルが話題となって“M”(ミリオン)を連発。フォロワーの数を増やしているしおんあい。「Tallest Liar」以来、1年1か月ぶりの新曲「夏のスパンコール」をリリースした彼女のデビューから今までを深掘り!じっくりと話を聞いた。
(2022年7月27日 掲載)
RELEASE INFORMATION
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