――まず、去年を振り返ってみて何か大きな出来事やそれぞれ印象に残っていることを教えてください。
マツイユウキ「僕はですけど、まあ主軸としてライブハウスでやってきたっていうのがありながらも、11月にホールでできたっていうのは僕らにとって初めてでしたし。演出とか照明とかを色々話し合ってやって。“意外とホールでもできるんじゃないか”っていうのを肌で感じれたことが去年は大きかったですね」
ヤスカワアル「去年のメイントピックは移籍したことで環境めっちゃ変わりましたね。自分らとしてもアニメだとかそういう二次元的なコンテンツに対してもっとアプローチして行きたいなっていう気持ちが強くて。今回も1月クールで初のTVアニメのエンディングテーマの書き下ろしを経験させていただいて、すごく実りのある、自分たちがやりたかったことを体験できた1年だったなと思います」
――片桐さんは?
片桐「自分は違うところから言ったら、ボーカリゼーションがちょっと変わったかなと思ってて。特に去年の第一弾シングルの「Twilight」で、結構ボーカルにこだわってレコーディングしたんですよ。自分の中でできることを広げていった一年だったなと。それはボーカルもそうですし、楽曲の作り方とか、このアルバムにしてもいろんな方とコラボレーションというか、アレンジに加わっていただいて、色がすごいついたなっていうのがあって。それがライブにも活かされてるなあって思っていますね。結構私は感情的に歌うんですけど、それにプラス、一つ表現の深みが増せるようになったなっていうのは2022年を振り返って思うところですね」
――1月15日には2023年第一弾の「Rewrite」がリリースされて、また新しい方向性な気がしました。どういう着想からできた曲ですか?
片桐「これはアニメ「ノケモノたちの夜」のエンディングテーマとして書き下ろしをしようってなった時に漫画を全部読ませていただいて、そこから作ってたんですけど、キーワードみたいなのをすごい考えてて。光と闇、眠る夜とか明けない夜っていうキーワードみたいなのがずっと頭の中にあって。いちばん最初に思い浮かんだのはこの<眠っても眠っても>っていう頭のところだったんですよね。で、なんかこの<眠っても眠っても明けない夜が続いていく/誰にも理解されなくても終わらない話をしよう>っていうのが暗い闇の中で誰かの手を引いて、誰かに手を差し伸べられて、その手を取ってずっと終わらない旅を続けていこう、まあこれから続いていく人生を歩いていこうっていうので、人生を書き直しているじゃないですけど、どんどん塗り替えていく、自分を塗り替えていく、ダメだったところも良くして行くというか、アニメにもちろん沿ってはいるんですけど、自分自身ともすごい重ねて書いていて。このDメロの<荒れ果てた地に一人残っても生きていけ>とかは本当にアニメに重ねながら、同時に自分自身にも歌いたいなと思って歌っていた曲ですね」
――<眠っても眠っても明けない夜>っていうのがすごく不思議だなと思って。「眠れない夜が続く」みたいな表現はあるじゃないですか。<眠っても眠っても明けない夜>っていうのはどういう状況なのかなと思って……
片桐「なるほど、そっか……そうですよね。<明けない夜はない>っていう言葉はきっとずっと悲しいことは続かないよっていうことなんですけど。夜は眠ったら明けるけど、うまくいかない日々は眠っても明けないから。なんだろうな……そのまま言ってますね、私(笑)」
――でも、でもそういうことですよね(笑)。
片桐「そう。うまくいかないことが続いていくっていうところで。確かに「明けない夜が続いていく」でもよかったかもしれないんですけど、「眠っても眠っても」っていうことできっと明日にちょっと希望があるんだと思うんですよね。眠ったら朝が来る、夜が明ける、明けるのに私は明けないみたいな、なんかそういうところに悲しさというか、悔しさみたいなのもなんか入ってるんでしょうね。これはいま言われて気づきました(笑)」
――片桐さんの場合、言葉とメロディって同時に出てくるそうなので、今回も自然に言葉がメロディに乗ってできたんだろうなと。
片桐「確かに。そこはそうかもしれないですね」
――歌詞だけ読んでると明るい話なのか暗い話なのかどっちにもとれるんですよ。だから不思議な感じがする。
片桐「いや、うれしいです、それは。悲しみに曲で浸りたい人もいるじゃないですか。でもこの曲で力をもらいたい人ももちろん、その方が多分多いかもしれないですけど。なんかどっちの人も聴いてくれるっていうところではうれしいかもしれないですね」
――そして曲調はオルタナティブで、ギターロックバンド然としてるので、力強さが残る。
片桐「確かに。バンドらしさっていうのはすごく残していきたいなあっていうふうに思っていて。アニメタイアップだから、アニメにもちろんちょっと寄せていくんですけど、でもサウンド自体はバンドとして、まあ今までのHakubiとして作り上げようっていうのはすごく考えてましたね」
――しかももう何度目かの、andropの内澤崇仁さんとのコラボレーションで。Hakubiってかっちりしたデモなど、あまり形を決めずにレコーディングに進んでいくそうですが、この曲に関してはどうでしたか?
片桐「いちばんのサビの直前に2イントロって私は呼んでるんですけど、イントロがまた戻ってきて<眠っても眠っても終わらない話をしよう>っていうのが入るんですけど、ここの構成は内澤さんが確か“ここに2イントロを入れたらどう?”って言ってくださって、それを“めちゃくちゃいい!”って採用させていただいて。ここで結構なんか自分たち的にはこうぴったりきたので、そこがすごい印象に残っていますね」
――現場で考えていったんですね。内澤さんのその提案で、繰り返してるけどパラレルみたいな印象になっているのかもしれない。
片桐「一回思い出してる感もすごくありますね、この頭のところで。で、いちばん最後にちょっとまた前を向いてイントロに戻ってくるっていうので、誰かに言われてる感じ?「目の前に見えるものばかりを信じて期待して見失って」っていうDメロの歌詞を歌ってるような。理解されなくてもいいから終わらない話をこれからも一緒に生きていこうみたいな、そういう言葉をかけてもらっているような感じはしますね」
――2023年一発目って感じがします。
片桐「あー!確かに(笑)。光のある曲ですね。Hakubiらしい曲でちゃんとアニメタイアップできたなと思ってます」
――タイトルは英文字表記ですけど、世にも有名なあの曲と同じでもあり。
片桐「ははは!そうなんです。ちょっと迷ったんですけど、アジカンさんは10年以上経ってますし、いいかなって」
ヤスカワ「向こうはカタカナですから(笑)」
片桐「とはいえ“カタカナはやめようか”みたいな話はありました(笑)」
――後藤正文さんは“Re”っていう言葉、すごく使いますから。
片桐「「Re:Re:Re」もありますね」
マツイ「そういや、Reの後に“:”を入れるか?会議もしたよね」
――細かい(笑)。“終わらない話”っていうのは自分の中での上書きみたいな意味なんでしょうか。
片桐「上書いて言ってももちろんいいんですけど、書き直すっていう意味よりはまたこの先もどんどん書いていこうみたいな、終わりのない物語を描いていこうみたいな、そういうところがいちばんしっくりきた感じですね」
――ではアルバム『Eye』収録のアルバム新曲についてもお聞きしたいと思います。意外な方も参加してるなあと思いました。
片桐「どなたでしょう?」
――Turntable Filmsの井上さんとか。
マツイ「「結ep」の2曲目「Friday」も井上さんです」
――なるほど。井上さんはオーセンティックな生バンドの印象が強いですが。
片桐「はい。その「Friday」のときめちゃくちゃ良くて、もうずっとライブでもめちゃくちゃ歌ってる」
マツイ「そうですね。スタメンに入るぐらい」
片桐「なので今回お願いしたいなと思って。この「ゆれて」って曲が絶対に井上さんだなあと思って(笑)」
――最初に井上さんにお願いした理由って何なんですか?
片桐「もともと私たちは京都の方でどなたか一緒にやってくれる方いないかなって話をしていて。で、くるりのギターもされてたときがあったり、Gotchさんのソロもされてるんですもんね。何かそういう話をいただいて、その前の「Friday」って曲の時に、くるりが京都の先輩ということで、ちょっとリファレンスにしたいなと思ってた楽曲だったんです。その時にどなたかお手伝いしていただける方いないかなって話を京都MUSEの行貞店長にお話ししたら、井上さんを紹介していただいて、そこからですね」
――そういう経緯だったんですね。アルバムはどの曲も強いんで、興味深いんですが、アルバムタイトル曲のことをお聞きします。この曲の発端はなんだったんですか?
片桐「これはライブでみんながクラップだったり体を乗らせて聴ける曲を作りたいなっていうのをがいちばん最初で。アルバムの中でもポップな曲を作りたいなっていうので始まって。この曲だけ、サウンドというかバンドアレンジがもう出来た段階から歌詞をつけ始めたっていうタイプの楽曲で。なので結構音の鳴り方とか、どんな風に聴いてる人たちが乗ってくれるだろうというのを考えて作った曲ですね。四つ打ちの曲を作ろうと思って作ってました」
――メロディに片桐さんが歌詞を付けていくのは珍しいパターンなのかもしれないですね。
片桐「なんとなくはメロディラインはあって、歌詞もちょこちょこあったんですけど、入れていった感じですね」
――バンドアレンジで気を配った面はどんなところですか?
マツイ「四つ打ちの曲ってやっぱり乗りやすいですし、初見の方でも一発で分かるのが4つ打ちの良さと思うんですけど、ずっと四つ打ちやったらのっぺりしちゃうので、そのいちばん最初の歌い出しが歌い終わって、前奏入るまでのキメとかはバンドっぽいアレンジにして、そこからまたちょっとギア入ってAメロに入るっていう流れとかは好きですね」
――ヤスカワさんは「Eye」に関しては何かフックはありますか?
ヤスカワ「早口のリリック入れるっていうところも、まあ踊れていいなと思っていて、他にそういうリファレンスの曲はいろいろあったんですけど、そもそもなんかうちらの曲ってショート動画向きじゃないじゃないですか」
――なんだか事務所の社長的な考察が(笑)。
ヤスカワ「これは元々ショート動画向けにしたかったんですよね。だから短いところ切り取られていくっていうことを意識して、セクションごとに制作していったかなというのは覚えてます」
――確かに。どこのセクションを抜き出してもTikTokに使えそう。
ヤスカワ「最初ピアノはアレンジの中に入れてなかったんですけど、このELS(Evergreen Leland Studio)チームの方に入れてもらって、そこもかっちりとしたリファレンスっていうのはもうイメージとしては最近だとヨルシカさんとかのイメージをそのまま持っていて、合いそうだな、間奏とかそういうピアノとか鍵盤のセクション入れるのは合いそうかなと思ってたんです。割と最後にレコーディングした曲としてふさわしい曲になったかな、なんかオチがついたかなと思います」
――といういことは『Eye』がアルバムタイトルになったのはこの曲ができたからなんですか?
片桐「ではないんですよ。もうフルアルバムを『Eye』っていうタイトルにしようってなってから、曲の「Eye」を作ってました。こう、自分と向き合って作った曲が集まって『Eye』っていうアルバム名にして、これから始まるツアーが「Eye to Eye」ってタイトルで、私がつけたんですけど。まあ自分とも向き合うし、来てくれた皆さんとも向き合うというので、最後の1曲がまだ決まってない時に、ほんとに自分と向き合った楽曲でライブでもみんなと向き合える曲を作りたいなと思って。それでタイトルを「Eye」にしようっていうので結構考えてましたね」
――新しい作り方ですね。
片桐「そうですね。確かに。最後のワンピースを埋めた曲ですね」
――この曲でアルバムになった!っていう感じもありますね。あと今回、新しさを感じたのが「サイレンと東京」で。THE CHARM PARKさんのアレンジも効いてますね。
片桐「めちゃくちゃいいです」
――リスナーとして好きっていうのと自分たちでやるっていうのはまた違うじゃないですか?やってみてどうですか?
片桐「「サイレンと東京」はTHE CHARM PARKさんの良さ、この空間の感じはあんまりHakubiにはなかったんですけど、もともとのデモから打ち込みのタイプの楽曲で、トラップっぽい感じの打ち込みをもらってたんです。で、メンバーもこの曲を推してくれてたんですよ。出来上がってというか、ボーカルはサビって言ったらいいんですかね、最後のちょっと盛り上がるところまでは全部私がデモでチャームさんにアレンジをお願いした時に送った、自分の部屋で録った本当に1回しか録ってないテイクだったりするので(笑)、本当に生感がある、“一人の部屋感の説得力”みたいなのはすごい強い。ボーカルとしても面白いというか、“これもいいんだ”っていうのをすごく思った楽曲ではありますね」
――Hakubiとして新たな武器ができた感じがしませんか?
マツイ「ほんとに今までにもなかった形ですし、打ち込みメインの曲っていう発想はドラムからするといちばんなかったんで。でも昨今多いじゃないですか、そういう曲、打ち込みベースの。だからうちも挑戦してみてもいいのかなと思って、ですね。ボーカルは一発録りがゆえの良さがむっちゃあって、サビまでの歌い方とか特にあると思います。楽しみですね、ファンの方にこの曲を聴いてもらうのが」
ヤスカワ「自分はなんていうんですか、やっぱりバンドってずっとやってたら“もうなんかええやろう”って気持ちに……」
片桐「そんなこと言うなて(笑)」
ヤスカワ「まあこれは個人的な意見で、バンドとしての意見ではないんですけど、ロックすんのもちょっとな、って時あるんですよね。聴く音楽も変わってきたんで。そういう時にやっぱこういうアクセントが効いた曲っていうのは新しい層にも聴いてもらえる可能性があるし、自分としてもやりたかった感じを出せたので達成感はすごいありましたね」
――ヤスカワさんの正直な気持ちが活きましたね。
ヤスカワ「片桐の声もだし、歌が上手いから、なんかいい歌を歌うのがいいとかバラードを歌うとか、決めがちなんですよ、正直。“こういう曲もあるぞ”っていうのは証明されたと思う楽曲ですね。いろんな引き出しがあるなっていうのは引き出された楽曲で。固定概念にとらわれず、いろんなことにチャレンジする大事さみたいなのは身にしみて分かりました」
――ではちょっと大きな質問ですけど、Hakubiにとってこの『Eye』というアルバムはどういう存在になりそうですか?
片桐「サウンドもREC的にもすごいいろんな広がりを見せましたし、さっきも2022年どう自分が変わったかっていうので、ボーカリゼーションでいろんなことができたっていうのが大きいんですけど、本当に可能性がすごく広がった1枚になったんじゃないかなと思いました。2022年、4曲出したシングルもいい意味で全部バラバラで、確かに楽曲自体も内容というかテーマも前作『era』の時は「自分、自分」というか、狭い空間でやっていたなという印象があって。そこから一つも二つも広がって、それこそホールにも通用する曲がたくさんできてきたんじゃないかなっていうのは、作り終えた今、感じてますね」
――ライブの表現も広がりそうですね。アルバムツアーは4月からだから、その頃は声出しOKなんじゃないですかね?
片桐「私たちもこの4月から解禁しようかなっていうふうに、まずは自分たちのライブからかなっていうのは思っていて」
――ツアータイトルは「Eye to Eye」なんだけど、もしかしたらマスクも外せて、実際には“Face to Face”になるかもしれないですね(笑)。
片桐「そうですね、確かに!」
(おわり)
取材・文/石角友香
写真/平野哲郎
LIVE INFOHakubi one-man tour 2023 -Eye to Eye-
2023年4月1日(土)福岡 LIVEHOUSE CB
2023年4月2日(日)岡山 YEBISU YA PRO
2023年4月7日(金)名古屋 ELL
2023年4月8日(土)金沢 vanvanV4
2023年4月15日(土)札幌 BESSIE HALL
2023年4月23日(日)仙台 MACANA
2023年4月27日(木)BIGCAT(大阪)
2023年4月30日(日)LINE CUBE SHIBUYA(東京)
DISC INFOHakubi 『Eye』
2023年3月15日(水)発売
初回限定盤(CD+DVD)/PCCA-06178/4,000円(税込)
通常盤(CD)/ PCCA-06179/3,000円(税込)
ポニーキャニオン