──4月29日リリースの「Game Start」は、きゃないさんの「バニラ」で編曲を手掛けた気鋭のクリエイター、鹿3さん作詞作曲のポップなナンバーですね。
「リリース当日は、27歳の誕生日なんです。なので、ファンの方への贈りものでもあり、自分への誕生日プレゼントでもありますね。これまでにも誕生日当日にシングルをリリースすることはあったんですが、やっぱり誕生日にリリースすることで、思い入れがより強い楽曲になっているなと思います。特に今回のシングルは、来年のソロデビュー10周年に向けての最初のスタートになるので、さらに想いが強いです」
──完成した楽曲を聴いて、どういう意味合いを持つ作品になったと感じますか?
「10周年に向けて、ファンの方にあらためてお礼を言いたいなっていう想いから制作が始まったので、レコーディングでもファンの方を想像しながら歌いました。今まで以上に力強い歌になったんじゃないかと思います」
──確かに、歌詞も含めて力強さが感じられます。
「そうですね。“一人だったら、ここまで来れなかったな。みんながいたから頑張れたし、これからも頑張れるよ”というメッセージが伝えられる楽曲がほしいと思って、いろんな曲が候補になる中で、今回は鹿3さんのメロディがとにかく素敵だったので、この曲を歌いたいと思いました。いつもメロディ重視で選ぶんですけど、今回もそうですね」
──とはいえ、思いを伝えるという部分では、自身の気持ちと重なる歌詞でもあったということですよね。
「もちろんです。全体的にそうなんですけど、あえて挙げるとすれば、最初は<私のGame Start!!>という歌詞だったのが、次は<君のGame Start!!>に変化して、最後は<僕らのGame Start!!>になって終わるのが好きですね」
──今回のシングルが10周年に向けてのスタートになりますが、現在の心境は?
「活動休止して海外留学をしたり、これまでいろんな試行錯誤をしてきましたけど、寄り道もしてたどり着いたのが今の私の表現。たくさんの経験をして思うのは、歌う場所があればどこでも歌いたいし、自分の足で立って、自分の歌を歌っていければいいなということです。自分で選んできた道なので後悔は何もないし、今が一番いいな、楽しいなとも思っています。すべての経験に意味があって、どれか一つが欠けても今の自分にはなってないと思います。つらいこともうれしいことも、全部に意味があるんだなって実感しているし、それに気づけたこれまでだったと思います」
──続けてきたからこその気づきがあった?
「留学から戻ってきて、自分の意志で歌いたいとあらためて思えたことも、歌手活動から離れたことに意味があったということだと思いますし。導かれてきたな、という感覚もありますけど、結局は歌うことが一番好きなんですよね」
──歌うことへの意識は、変化してきていますか?
「とにかく歌うことが好きだという意識自体は変わっていないんですが、今はただ歌うだけじゃなくて、より表現の細かい部分に目を向けたりできるようにはなっていると思います。だからこそ、今が一番楽しいんです。以前は、歌うことだけに必死でした。でも今は、経験を積んで気持ちに余裕が生まれて、より歌う楽しさを実感できています」
──今後は、どんな歌を歌っていきたいですか?
「これまでもそうですけど、これからも“いい曲”ならどんな曲でも歌っていきたいです。私は自分で詞曲を書くシンガー・ソングライターではないので、いい曲に出会えるように常にアンテナを張っていたいなと思います」
──武藤さんの中での“いい曲”とは?
「私が大好きな松田聖子さんを始めとする、1980年代の歌謡曲を感じさせる曲です。そこは、絶対にブレないですね。80年代の日本のポップスって、メロディがシンプルで歌詞がすっと入ってくる。私は今の音楽も聴くし、いいなと思うんですけど、メロディが複雑で音が詰め込まれているんですよね。今回の「Game Start!!」は、私の曲の中では言葉数が多いほうなんですけど、そのぶんアレンジで80’sに寄せたりしています。サウンド面では、イントロも削りたくないんですよね。今は、イントロは5秒以内とか言われていたりもするんですけど、私はイントロを聴いているときのワクワク感を大事にしたいんです。曲は、そこから始まっていると思うので」
──TikTokでバズる曲は、最初の3秒が重要と言われていたりしますもんね。
「私は、流されずに私らしさを貫き通そうと思います。」
──そこは明確な意志があるんですね。
「私、頑固なんです(笑)」
──それは80年代の日本のポップスへの愛情が深いから?それとも、元々の性格ですか?
「どっちもですね。元々が負けず嫌いで、頑固な性格ではあります。80年代の曲が流れてくると胸が苦しくなるんですよ。いつ、何度聞いてもそうなります。だから、私は本当に80年代のポップスが好きなんだなって」
──80年代のポップスを聴くと、胸が苦しくなる?
「胸がキュンって、恋をしている感じなんです。それで、苦しくなる。私は、80年代のポップス、昭和歌謡に恋してるんだなー、と思います(笑)。中でも、女性ソロアイドルの曲が好きなんですけど、これからは男性の歌やテクノっぽい曲も聴いてみたいなと思います」
──提供された楽曲を歌うというフォーマットは、当時のソロアイドルとの共通項ですね。
「自分で作詞をしてみたことがあるんですけど、違うなって思いました。松田聖子さんは、キャリアを重ねてご自身で作詞や作曲をされるようになりましたけど、いつかは私もと思いつつ、今はまだその段階ではないなと思います。今は、いただいた曲を歌う“歌手”でいたいです」
──ちなみに、最近はどんなものを聴いていますか?
「最近は、やっぱりシティポップっていいなと思って。王道ですけど竹内まりやさんを聴いたりしています。竹内さんがアイドルに提供した曲も、すごくいいんですよね。岡田有希子さんの曲とか、アイドルなのにシティポップ。最近は作詞作曲のクレジットも見るようになって、筒美京平さんは本当にすごいなー!とか、もう無限です(笑)」
──80年代のポップスへの愛情が深まり、広がっていっても、松田聖子さんが一番好きという部分は変わらないですか?
「変わらないですね。私が、歌手を目指すきっかけでもあったので」
──松田聖子さんのフェイバリットソングを選ぶのは、さすがにむずかしいですよね?
「その時々の心境で変わるんですけど、けっこうアルバム単位で聴いちゃうんですよね。ずっと言ってるんですけど、アルバムの中では『Pinapple』は絶対に外せません。かわいい曲が多いアルバムですけど、「水色の朝」はメロウな曲で聖子さんの透き通った歌声がすっと入ってきます」
──ソロデビュー10周年、そしてその先に向けての意気込みを。
「私がやりたいことはこれだって、しっかりと示せる1年にしたいです。カバーライブもしてみたいですね。松田聖子さん縛りでもできますよ(笑)。そのときは、松本 隆先生をご招待したいです!おこがましいですけど、日本武道館で開催されたトリビュートライブ「風待オデッセイ2021」に出演させていただいたご縁もありますし。言霊ってあると思うので、やりたいことを発信し続けて、それを実現させていきたいです」
(おわり)
取材・文/大久保和則
写真/いのうえようへい