――メジャー1stアルバム『超』が完成しました。

「アルバムを出せるのは皆さんからの要望があってこそというか、それでしかないと思うので、本当にありがたいですし、光栄な話だなと思ってます。このアルバムが好評だったら、2nd、3rdと出せると思うので、なるべくいろんな所に届くように今後も頑張っていきたいなと思っています」

――どんなアルバムにしたいと考えてましたか。

「アルバムを作るぞって思って、一曲一曲を作ったというよりは、シングルをメインでやってきて、結果できたものを集めさせてもらったっていう感じですね。一応、多様性というテーマはあったりするんですけど、今回の場合は、なるべく一貫した縛りを設けずに、各作家さんになるべく好きなように作っていただけるようにしたいなと思ってて。作りやすいように要望を出したりはしたんですけど、基本的にそれぞれ暴れていただけるようにお願いしました」

――多様性というのは、テーマではあるけど、言い換えると“なんでもあり”ってことですもんね。

「そうですね。1stアルバムですし、超学生は、こういうこともできるし、あんなこともできますよっていうのを世界のみんなに自己紹介的な感じでお見せしたかったので」

――それは、“どんなジャンルの曲がきても歌えますよ”という自信の現れでもありますよね。

「3年くらい前から週一くらいのペースで“歌ってみた”を投稿してきて。ありがたいことにいろんなコメントをいただくんですけど、例えば、“本当にダークな曲は似合うね”っていうコメントをもらった後に、ポップで可愛い曲を歌って、“しーん……”みたいな感じだったら、1stアルバムはきっと、ダークな曲ばかりになってたと思うんですよ(笑)。でも、光栄なことに、どの曲歌っても、“それぞれに良さがある”っていうコメントを毎回、たくさんの方からいただいて。いろんな国から、いろんな言語で、お褒めのコメントをいただいた3年間だったので、1stアルバムは、それを全部見せたいっていう意図で作らせてもらいました。僕がいろんなことをやりたいって言って作ったアルバムではあるけど、それよりも何よりも、ファンの方に褒めてもらえたことを形にしたアルバムという方が近いかなって思いますね」

――では、アルバムに新録された楽曲について、超学生さんがやりたかったことについてお聴きします。まず、「Let’s go」は今、リバイバルしている80年代ディスコファンク調のダンスナンバーになってます。

「洋楽っぽいのをやりたかったので、ブルーノ・マーズをリファレンスに作った曲になります。「Let’s go」と「Give it to me」は海外の作家さんにたくさん曲を作ってもらって、コンペで選ばせてもらっているんですよね。僕は、ずっと“歌ってみた”をやってきて、ボーカロイドで生きてきた人間なんで、ボカロ曲のセオリーはある程度理解しているつもりなんですけど、洋楽はわからないジャンルだったので、このアルバムの中では比較的いろんな人にたくさん意見を伺った楽曲になってます。例えば、レーベルで洋楽が好きな人とか、洋楽のミキシングやマスタリング経験が多い方にどういう方向性がいいかという意見をたくさんいただいて。それを踏襲して作った曲になっていますね。なので、音楽性とサウンド、僕の歌い方はメジャーっぽいのに、僕のアルバムの中ではかなり異質になるっていう不思議なことが起きてる曲です」

――歌詞はどう捉えましたか?前回のインタビューでは楽曲の主人公になりきって歌うと言ってました。

「ボカロ曲はすごく難解だからこそ、そのボカロPさんの世界観が色濃く見えて、その世界に入り込みやすいんですけど、「Let’s go」はかなり普遍的な歌詞だと思うんです。いろんな人に当てはまるエールソングだと思ったので、何か特定のキャラになりきるとか、作家さんの世界にがっつり入り込むというよりは、人間のことを想像しながら歌うというか。中央値じゃないですけど、なるべく多くの情報を想像しながら歌うっていう。今までやってたことの真逆なんで難しかったですね。ふだんはボカロPさんの作るひとつの物語を見て歌う感じなんですけど、「Let’s go」は“この世”というか、社会全体を見て歌った感じだったんで、すごく難しかったです」

――コンプレックスも個性だっていう意味では、アルバムのテーマである多様性も内包してますし、共感する人も多いんじゃないでしょうか。

「ボカロPさんが作る曲にもそういう曲はあるんですけど、ボカロの場合は、Z世代が抱える悩みに刺すことが多いと思います。自撮りで盛れなくて嫌とか、自分の顔を見るのがきついとか、バズりたいみたいなことが多いですけど、「Let’s go」は本当に“人間”に共感を呼ぶ曲だなと思って。ボカロ曲の共感系の場合は、TikTokや今のYouTubeでボカロを楽しんでる人のことを考えて歌うことが多いんですけど、「Let’s go」はもうちょい上の年代だけじゃなく、僕が通ってた学校でのこと、大人の人から聞いてたこと、部活動のコーチ、それこそ親や兄が言ってこととかを想像するっていう。そう考えると、超学生としてはかなり珍しい視点で歌ってますし、歌唱的な面でもよく聞こえないといけないんで、すごく時間がかかりました」

――5人組くらいのボーイズグループの応援歌っぽくも聴こえますね。一人ではないなって。

「そうですね。まず、リードボーカルに関しては、歌ってる僕本人がみんなを勇気づけて、引っ張っていくっていう曲だと思ったんで、きつそうに聴こえない方がいいなと思って。ボカロだと、きつそうに聴こえた方がかっこいい場合があるんですよね。高音ギリギリのとこで張り上げて歌ってるのが、必死感があってカッコいいとか、悲痛感が出ていいとか。でも、「Let’s go」は逆で、なるべく余裕しゃくしゃくで歌った方がいい。ただ、音域的には高いので、なるべく解決できるように。きついところでも余裕に聞こえるような工夫を歌い方と録音でしました。バッキングボーカル、コーラス、ダブリングに関しては、ミックスされて綺麗にまとめていただいてるんでなかなかわかりづらいんですけど、本当に信じられないくらいの声が重なってて。コーラスだけで12本重なってるんですよ。デモトラックにそういう指示があったので、本当に頭がおかしくなりそうでした(笑)。制作というよりは工場みたいな感じでしたね」

――なるほど、クレイジーですね(笑)。この曲はMVも公開されてますが。

「最初にラフの映像をいただいたときは、レトロな雰囲気がありつつも、16対9でHDの画質でいただいたんですけど、“4対3にして、もうちょっとガビガビにできませんか”ってお願いして。結果、いただいたものは、昔の清涼飲料水のCMみたいになって。その中でも、スマホが出てくるし、踊ってる人たちなぜか楽しそうすぎるっていう(笑)。みんな、なんであんなに楽しいのかがわかんなくて、ある意味シュールで、めちゃくちゃ面白くて」

――昭和のCMにも見えるし、昔のカラオケ映像にも見えます。

「そういう意味では、映像も中央値かもしれないですね。何かに喜んでる人を接種するためのMV。意味やストーリーがあるっていうよりは、エネルギーや概念を吸うためのMVだと思います」

――先ほど、コンペで決めたという「Give it to me」は、シティポップというか、AOR寄りのアーバンR&Bになってます。

「かなり似た要素はあるんですけど、「Let’s go」が洋楽だったのに対して、「Give it to me」はK-POP。しかも、僕の感覚としては、YouTubeに上がっているようなリード曲ではなく、アルバムに入ってる、もうちょっと本人たちの色が強い曲。個人的な見解なんですけど、そのチームの色が出る曲って、リード曲よりもB面の曲だと思ってて。リード曲はどうしても、より多くの人に聞いてもらわないといけないけど、B面の曲はチームの色がより出せるし、ファンのために作ってる要素も強いと思うんですね。そういうB面にありそうな、よりアーティストの色が濃く出る曲をやりたいなと思って。「Let’s go」はかなり世間向けにチューニングを合わせたんですけど、この曲は超学生が歌いやすい歌い方も結構取り入れています。「Let’s go」よりもハイブリッド的な要素が強いかもしれないですね。K-POPのセオリーと僕のやりやすい歌い方と」

――ラップもありますが、どんな要素をブレンドしていったんですか。

「韓国語で入ってたデモ音源からヒントをいただきつつ、超学生らしさをちょっとプラスして歌って。まずは、K-POPで似ている曲を選んで、たくさん聞いて、ちょっと勉強して、歌ってみたりもして。最近のK-POPの方はレコーディング映像をメイキングとして出してくれたりもするんですよ。それを見ながら、どういうセッティングをして、ああいう音を生んでるのかなって研究して」

――すごいとこ見てますね!

「例えばなんですけど、日本のヴォーカルは、マイクを口の前で、かなり近く立てるじゃないすか。でも、K-POPは、なんなら鼻を狙っているのかっていう高さで、かなり遠いことも多いんですよ。それを真似してみると、声のザラザラした部分はすごくマイクに乗りやすくて。その分、その音を綺麗に撮ろうとすると、部屋の反響をよりシビアに抑えなきゃいけない。とか、マイクから離れると反響が乗りやすくなるし、ノイズが増えやすいから、ノイズ対策も完璧にやんないといけなくて。すごく大変だったんですけど、結果、かなりK-POPっぽい音になったと思います」

――確かに歌声に深みというか、奥行きを感じますよね。

「じゃあ、狙い通りにいってるかもしれないです。かなりコアなところから学ばせていただいたんで、勉強になりました」

――そして、「ガトリングアジテイタア」はcosMo@暴走Pさんの提供曲です。

「これはもう、cosMo@暴走Pさんの速い曲をやりたくて。僕の思うボカロの大きな要素の一つは、やっぱり速さ。昔からニコニコ動画で聞かせてもらってたし、あの時代のボカロに速い曲は欠かせない要素だと思ったんで、cosMo@暴走Pさんにお願いして。最初にいただいたデモを聴かせてもらって、“もうちょっと速くして、もうちょっとおかしなことをしてもらっても大丈夫です”って言ったら、cosMo@暴走Pさんも、“実は抑えてたんだよ。そういうんでしたら、やらせてもらいます”っていただいたのが今の完成系ですね」

――いわゆる早口、高速メロのボカロ曲になってますが、レコーディングはどうでしたか?

「ある意味で一番ボカロっぽく歌ったかもしれないですね。「サイコ」と同じぐらいボカロっぽく歌ったかもしれないです。他の曲はそれぞれに違ったセオリーでやったんですけど、「ガトリングアジテイタア」はボカロをやろうっていうテーマがあったので、なるべく僕のふだんふだんの<歌ってみた>と同じように、録音から歌、デモ音源にないコーラスもたくさん重ねて。<歌ってみた>をオリジナル曲で丸ごとやろうっていう感じですかね」

――難しい音ゲーみたいなスピード感もあります。

「cosMo@暴走Pさんはかなり音ゲーの曲もたくさん手がけられてる方なんですよ。代表曲の一つに「初音ミクの消失」というのがあるんですけど、「初音ミクの消失-劇場版-」と称して、太鼓の達人に新しく書き下ろし楽曲があったり、いろんな曲に音ゲー書き下ろしてたりするんで、「ガトリングアジテイタア」もぜひ音ゲーにして、<maimai>とかに収録していただけたらと思います」

――超学生さんのほうから何らかのテーマを投げかけたんですか。

「主人公感の強い曲をいただきたいですっていうのをお願いしたぐらいで、あとは本当にcosMo@暴走Pさんの好きに作ってくださいってお願いしました。結果的に、今度のライブでも盛り上がりそうな曲になるのでぜひ歌えたらいいですよね」

――これ、ライブが楽しみなんですが、生で歌えるものなんですか。

「もちろん速いし、難しいのは間違いないですけど、今まで歌ったボカロ曲の中には、もっと速いものもたくさんあったので、何とかしたいですよね。超学生を観に来てくれてる人る方はそういうところを期待してくれると思うんで」

――新録3曲を含めて、アルバムの曲順はどう考えてましたか。

「意志を持ってバラバラにしたんですけど、それでも「ルーム No.4」と「サイコ」で挟むっていうのは、ぜひやらせてくださいとお願いしました」

――ボカロPのすりぃさん提供の「ルーム No.4」はいろんな人が「歌ってみた」でカバーしてますし、「サイコ」は同じくすりぃさんが続編として作った曲でした。

「「ルーム No.4」はインディーズの一番最初の曲で、ここから超学生の新しい部分が始まったと思ってるんで、1曲目に入れました。10曲目に、記念すべきメジャーデビュー曲「Did you see the sunrise ?」を入れて。この曲を最後にしてもよかったんですけど。、やっぱり11曲目に、インディーズ最後の曲「サイコ」を入れることで、インディーズ時代の超学生と、そのときのそのファンの人たちの思いみたいなものもメジャーまで丸ごと連れて行きますよっていう意図を込めて、こういう曲順にさせてもらいました」

――『超』というタイトルはどんな思いでつけました?

「後付けで何でも言うことはできるんですけど、特に深い意味はないです(笑)。そこにこだわるよりは、どっちかっていうと内容で勝負したいかなって。タイトルとか、そういう部分は、ある意味確固たる意志を持って、何もこだわらないことが多いんです。YouTubeのチャンネル名も「超学生オフィシャル」って適当だし、Twitter IDも小学生のときにつけたままで。超学生って普通に綴りで書くと“cho gakusei”なんですけど、小学生のときに作ったアカウントなんで“tyou gakusei”なんですね。別に変えられるんですけど、そんなところじゃないよねっていう感覚が不思議と強くて。その流れでアルバムタイトルも『超』に」

――録音とかミックスとか、見えないところのこだわりは強いのに、冠はそんなに気にならないんですね。

「そうですね。変な話、好きな人はどんなタイトルでも観ると思うし、逆にすごくおしゃれなタイトルがついてたとて、好きじゃないと観ないと思うんで、ここにクリエイティブを割くのも違うかなって。ただ、結果的に『超』モチーフの素晴らしいロゴも作っていただきましたし。強いて言うなら、先輩の歌い手さんをはじめ、“超”は印象が強いと言ってもらえることが多いので、僕の楽曲の代表的な側面を持つアルバムであり、現代的な感覚で言うとファングッズみたいな要素も強いので、純粋にいいんじゃないかと思ってます」

――10年経った今、ヴォーカリストとして、アーティストとして、「超学生」という名前にこだわりが芽生えてきた?

「超学生っていう名前自体は、ファンの方からの募集でいただいたものの中から僕が選んだんですけど、その時はこんな長く続けるつもりじゃなくつけた名前だったんですね。当時は“小学生や中学生だけど、それを超えるぐらいの意味で超学生っていいじゃん”って思ってて。誰かから聞かれても、そういう意味もあるよね、みたいな感じで答えてたんですけど、今はちょっと後付けに意味を変えて。“中学生、高校生、大学生を超えて超学生なんだよ”って名前の意味を変えなきゃいけないぐらい活動を長く続けてこれていることがすごくありがたいなと思います。今後、変える予定も特にないです」

――先ほど、ファングッズの要素もあるとおっしゃってましたが、ファンの皆さんにはどう受け止めてほしいですか。

「盤を飾って欲しいですね!通常盤も素敵ですけど、豪華盤は金の箔押しになってるので、触って楽しいと思いますし、特典グッズも担当の方のこだわりで、すごく凝った作りになってます。CDはファングッズっぽい側面が強いっていう僕の思いを大幅に汲み取っていただけたし、アルバムとして現物が存在しているということをファンの皆さんにぜひ楽しんでいただきたいですね。あとは、音を聴いて、“超学生こんなこともできるんだ”っていう発見みたいな楽しみ方をしていただくのも一興ですし、これを聴いてもらえれば、超学生がどんなことができるのかがわかると思うんで、ここにないことをぜひやってほしいみたいなリクエストもファンの方からぜひいただきたいです。“超学生がもうこれはやりました”というスタンプみたいなアルバム内容にもなってるんで、“ここにはなかったけど、こんなこともどう?”っていう挑戦的なリクエストもお待ちしてます。そういうコアなリスナーの方にも届いてほしいなと思います」

――方向性を決めるというよりは、これからもジャンルや表現の幅を広げ続けていく?

「実は、今回いろいろとやらせてもらったんですけど、次回は何かひとつのテーマに沿って、一貫性を持ったものを作りたいなって考えていて。そうなるといいなと思ってますし、実現に向けて動いているので、ぜひ成功するように頑張っていきたいですね」

――その前に、3月5日には1stワンマンも控えてます。チケットは既にソールドアウトしてますが。

「ありがたいことに、すごい速度で売り切れたみたいなんで、今回、来られなかった方が、悔しく思ってもらえるぐらいのライブを作りたいなと思ってるし、全力で楽しめるようなものをご用意しますんで、来る方は本当にチケットを忘れないように来てほしいなと思います。あと、グッズも楽しんでいただけるんじゃないかな。僕がオタクしてるときに、グッズ好きだからっていうのがあるかもしれないですけど、家で見たときに、そのライブのことを思い出したりするじゃないですか。思い出したときに“あれはやばかったね!”ってなりたいんで、ライブの中身、グッズ、ロゴ、コンセプトビジュアルと、かなりガチガチに作り込んでいるので、ぜひ楽しみにしていて欲しいです」

(おわり)

取材・文/永堀アツオ

LIVE INFO超学生 1stワンマンライブ「入学説明会」

3月5日(日)日本青年館ホール(東京)

イープラス

DISC INFO超学生『超』

2月15日(水)発売
通常盤(CD)/PCCA-06180/3,300円(税込)
豪華盤(CD)/SCCA-00141/8,800円(税込)
ポニーキャニオン

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