――ついにメジャーデビューが発表されましたね。
「ありがたいことに1年ぐらい前から、もうメジャーデビューしてるような空気感で見ていただけるぐらい、いろんなコラボやお仕事をいただいていて。メジャーデビューに向けて入念な準備と相談の期間があったので、緊張や不安よりは、堂々と胸を張ってメジャーデビューできるという気持ちが強いですね」
――Twitterのプロフィール欄には「メジャーデビューが目標」と書かれてました。
「そうですね。でも、今はやっとメジャーデビューできた!というよりも、ここから先、どんどん楽しいことが待ってるなという期待が大きいです。今よりもっと注目していただけるようにがんばりたいなっていう思いでいます」
――超学生さんは、2012年、11歳の時から“歌ってみた”の投稿で歌い手としての活動をスタートし、2020年12月に超学生として、ボカロPのすりぃさん提供の「ルームNo.4」で1stシングルをリリース。メジャーデビュー直前の今年10月にもすりぃさん提供のシングル「サイコ」をリリースしましたが、そんなインディーズ時代の約2年間はどんな日々でしたか。
「スタッフさんや楽曲提供をしてくれたボカロPさん、作家さんを含めて、超学生のやりたいことに全力で応えていただきつつ、迷ってるところは積極的なアイデアをいただいたり。やりたいことができない苦労っていうよりは、やれることには何でも応えていただけるから、むしろ迷っちゃうなっていう、そっちの大変さがあったかもしれないですね」
――超学生がやりたいこととは?
「大きいことで言うと、映像作品の主題歌をやりたいですね。細かいことで言うと、“ちょっとホラーの曲が欲しいんです”とか、“めちゃくちゃかわいい曲を作っていただきたいんです”とか。そこで、“ちょっとそれは……”って止められることも一切なく、“具体的にどういう可愛さですか?”って、ディティールを詰めていく局面がかなり多かったんですね。そういう面で、本当にありがたいなって思います」
――今、例にあがったホラーの曲とかわいい曲って?
「ホラーな曲は、ダ・ヴィンチ・恐山こと品田 遊先生に作詞をしていただいた「インゲル」ですね。「もぺもぺ」っていう楽曲をリファレンスに、可愛い曲と見せかけて、突然ひっくり返る楽曲に挑戦してみたかったんです。それまでもジャンルや曲調にとらわれずいろんな挑戦をしてきたので、今ならできるんじゃないかと思って。“突然ひっくり返る、どんでん返しの曲を作りたいんです”っていうところから始まっていましたね」
――そういえば、ダ・ヴィンチ・恐山さんもベネチアンマスクをつけてますよね。
「そうなんですよ!偶然なんですけど、前々からTwitterで、“恐山と超学生、YouTubeでサムネイルが並ぶと一瞬どっちがどっちかわからなくなる”みたいなコメントがあって(笑)。僕は“闇落ちした恐山”って言われたこともあったんですけど、お互いに接点はないのにずっと認識してて。ただ、僕は品田 遊先生の小説のファンでもあったので、子供向けの童話のようで本当は怖い歌詞が書けるんじゃないかなと思って。品田先生は作詞の経験はあまりなかったそうなので、一緒に挑戦していただいた感じになりましたね」
――場面というか、サウンドの展開も激しい曲になってますが、歌はどんなアプローチで臨みましたか。
「フレーズごとに、明確なキャラクターを分けて歌おうって思ってました。1フレーズごとに全然違う人になった方がゾッとするかなと思って。かわいいところは、歌のお兄さん風に、ちょっとホラーなところはホラー映画の予告編のナレーションみたいな声で歌って。その2本がメインで、聖歌隊みたいなパートはイタリア歌曲風の歌い方にして、セリフは好き勝手に全部入れて、どれか使ってくださいって投げたら、全部採用していただいたっていう感じですね」
――可愛い曲は?
「結構、前になるんですけど、昨年9月にリリースした5thシングル「けものになりたい」ですね。「インゲル」とは反対に、ピノキオPさんから引き出していただいた部分が多くて。曲を作るときは、ボカロPさんと打ち合わせをして、“どういう曲にしますか?”っていうところから作っていくことが多いんですけど、ピノキオPさんは、“今、何が好きですか?”っていうのを聞き出して、その人にフィットする曲を書くスタイルが多いみたいなんです。僕は最初、好きな食べ物を聞かれて、“たらこが好きです”って答えて。そのあとに、“けものが好きです。モフモフしたものとかいいですよね”という話をしたら、“けものの魅力を教えてください”って聞かれて、それが歌詞に繋がっていきました。あとは、ピノキオPさんのリサーチ力から導き出された、けものが好きな人たち界隈のあるあるとか、オタクのあるあるもたくさん盛り込まれていて。映像のもろもろ含めて、結構こっち側――オタク側――目線のエッセンスが「けものになりたい」に集約された感じですね」
――3rdシングルが「ヒト」というタイトルだったので、それとの対比で「けもの」にしたのかと思っていました。
「いや、超学生はあまり流れとか考えてないです(笑)。本当は考えた方がいいのかもしれないですけど、その都度やりたい曲をやってますね」
――インディーズの最初のシングルと最後の締めがどちらもすりぃさん提供なのも?
「めちゃくちゃ偶然です。でも、メジャーデビュー前が「インゲル」だったら、ちょっと面白くなっちゃいますよね。「仮面ライダーBLACK SUN」の主題歌が決まって、超学生はどんな人なんだろって聴いてみた人がパニックになっちゃうかもしれない(笑)」
――映像も怖いですし、子供が見たらトラウマになるような曲ですからね。
「あははは!確かにそうですね。そう考えると、だいぶ運に味方されたかもしれないです。実際は、エレクトロスウィングが超学生の好みの曲調で、「ルームNo.4」が特に超学生っぽいなって思ってましたから。超学生のオリジナル曲の中でも特別、歌ってみたとか、二次創作がたくさん出た作品ひとつでもあったので、またすりぃさんにお願いしようってずっと言ってて、やっと実現しました」
――「サイコ」は「ルームNo.4」の続編になってますよね。<たどり着いたしじまの宿>っていう共通した歌詞があったり。
「人によってそれぞれ捉え方もあると思うし、僕やすりぃさんからこうなんですよって言っちゃうと、正解が決まっちゃうのでつまらないかなと思ってて。曲としては続編になるんですけど、時間軸的には、「サイコ」が「ルームNo.4」の後なのか前なのかっていうので、意味ががらっと変わるような歌詞になっているのが面白いポイントだなって思います。すりぃさんはもちろん、映像のイクミさんのオタク心の理解度がすごくて。落ちサビにオタクの人によろこんでもらえる演出が濃いめに盛り込まれているのがさすがだなと思いました。ねこぜもんさんのイラストとイクミさんのロゴデザインに隠し要素があって。楽曲の背景の考察とか理解に役立ってくれるヒントみたいなものがたくさん散りばめられているので、みんなで楽しんで紐解いてくれたらうれしいですね」
――先ほど超学生っぽいという言葉もありましたけど、超学生らしさということをご自身でどう捉えていますか。
「荒々しい歌い方がメインなので、猛々しさってことになると思うんですけど、センスの振り方の独特さが素敵だねって言っていただくことも多かったので、「サイコ」では、客観的におしゃれさみたいなものをちょっと押していこうと思って作ったところもありますね。ただ、「インゲル」では、ある意味での超学生っぽさがだんだん薄まっていって、それも超学生らしさになればいいなと思っていて」
――声質とおしゃれさだけじゃなく、オールマイティで変幻自在というか、変化し続けて捉え所がないところが、らしさになるという?
「そうですね。落ち着いたしっとりした曲を聴いてた人は、“ハスキーな声が魅力だね”って言ってくれるかもしれないし、ダークな曲調の方だけを聴いてる人は、“超学生ってがなるよね”って言うかもしれない。その人によって、超学生の捉え方も変わるというか。今後さらにどんどんそうなっていってくれると、できることの幅が広がるし、声がかかるところの色もカラフルになっていったらうれしいなと思います」
――ちなみに“歌ってみた”を続けてるのはどうしてですか。
「結構、神格化されがちな部分ではあるんですけど、超学生ってただのオタクなんですよ(笑)。やっぱりボカロ曲のファンでしかないし、自分が歌った声をミックスするのも好きなので、“歌ってみた”もやっていきたいですよね。たまに生配信で、親切なリスナーさんが“休んでください”って言ってくれたりするんですけど、それは、ゲーム好きの人に、“ゲームやめなさい”って言ってるのと同じことで(笑)。別にお金をもらってやってるわけでもないし、お仕事として毎週土曜日に投稿するっていう契約があるわけでもない。ほんとに趣味みたいなもので、勝手にやってるだけなんですね」
――メジャーデビュー後も変わらずに続けていくんですね。
「全く別のベクトルなんですよね。“歌ってみた”は毎週っていう頻度もあって、日記みたいな感覚なんです。間に合わない時は休みますし、結構ダラダラしちゃったりもする。オリジナル曲の方は唯一の本番というか。“歌ってみた”はボカロっていう本家があって、二次創作として、超学生の“歌ってみた”を聴いていただくっていうのがほとんどですけど。オリジナルはやっぱり僕が歌ったのがファースト・インプレッションになるので、そのふたつの活動に対する意識も全然変わってきます」
――ご自身のオリジナル曲が“歌ってみた”の歌い手にカバーされることはどう感じてます?
「僕がやってきたことを反転してやっていただくような感じになるので、すごくうれしいですよね。僕がゼロから作ってるわけじゃないので、あまり私物化したくはなくて。“歌ってくれてありがとうございます”っていう気持ちはありつつも、僕だけの曲じゃないから、そこは謙虚にというか、完全に我が物顔ではいけないのかなという意識ですね」
――最初に“映像作品の主題歌がやりたい”とありましたが、メジャーデビュー曲が「仮面ライダーBLACK SUN」の主題歌に決まって発表された時はどう感じましたか。
「うれしかったですね!何より“歌ってみた”をやめないでよかったなっていうのが大きいですね。若干の不安はあったんですけど、ネットの反応を見てると、僕が思ってるよりも超学生に期待してもらえている感触があるので、全然不安に思うことなかったんだなって、ある種の安心感はありました」
――どんな反応が来るか不安だった?
「僕のことをあらかじめ知ってくれてる人はもちろん、“超学生おめでとう”というふうに言ってくれてうれしかったんですけど、仮面ライダーファンの方からすると、“誰だこいつ?”ってなると思ってたんです。でも、“超学生、聴いたことある”とか、“超学生なら安心だね”って言ってくれてる方がたくさんいらっしゃって。“超学生、全然知らなかったけど、雰囲気あっていいなと思った”って言ってくれる方もいて。僕が不安に思いすぎてただけで、温かい言葉をたくさんいただけてほっとしてますね」
――子ども時代、「仮面ライダー」は見てましたか?
「僕はもうずっと仮面ライダーが大好きなんです。僕の世代では、2006年、2007年の保育園ぐらいの時に、「仮面ライダー カブト」や「仮面ライダー 電王」を放送していたんですけど、四つ上の兄の影響で、「仮面ライダー 龍騎」からずっと見ていて。龍騎グッズが家にたくさんあったので、最初に触れたコンテンツが「仮面ライダー 龍騎」だったんですね。最初に触れたものって、人格形成における影響が大きいと思うんです。無意識的にですけど、いまの絵作りや作品の情緒の持っていき方に大きく影響してるんじゃないかと思います。Amazonプライムで「仮面ライダー アマゾンズ」を見た影響で、1970年代の「仮面ライダー アマゾン」や80年代の「仮面ライダーBLACK」や「仮面ライダーBLACK RX」も見ていますから「仮面ライダー」とともに人生を歩んできた感覚はありますね」
――今の話を聞くと、『仮面ライダーBLACK SUN』の主題歌を歌うよろこびが伝わってきます。
「いや、本当にびっくりしたんですよ。オタクが見てる夢みたいな感じです(笑)。仮面ライダーファンのボーカリストの方がたくさんいらっしゃる中で選んでいただいたっていうことは、皆さんの思いを背負って歌うべきだし、僕がくよくよしてちゃ駄目だなと思って。それに、仮面ライダーの主題歌を歌う歌い手も僕が初めてなんじゃないかなと思うんですよね。歌い手代表としても、この素晴らしい曲をしっかりと背負っていけるようにがんばりたいし、精進しないといけないなと思いました」
――松隈ケンタさんによるラウドでヘヴィーなロックになってますが、楽曲を受け取ってどう感じました?
「曲を聴いただけで、「アマゾンズ」といっしょで、かなりダークな世界になるんだろうっていうのがわかりましたね。最初は曲だけで、歌詞の世界観がまだわからない状態から入ったんですけど、録音まであまり日もなかったので、自分なりにその音楽を咀嚼しないといけないってなって。でも、最初の入りから、健やかな日の出じゃなくて、かなりダークで、なんなら明けないでくれというようなサウンドになっているのが明白だったし、サビの盛り上がりも、ハッピーエンドでは絶対にないような作りになってたので、サウンドだけでも作品の世界観が見えるのは本当にすごいなと思いました」
――レコーディングでは何かディレクションはありましたか。
「松隈さんには<か>を<きゃ>で、<しょうこ>じゃなく<しょおこ>という感じに、微妙な発音のニュアンスについてのアドバイスをいただきましたね。それは、ある意味で、“歌ってみた”らしいレスポンスだなと感じたり、いろんな発見もあって面白かったです。僕の“歌ってみた”の作り方は半分ASMRというか、音フェチ動画みたいな側面もあって。歌詞を情緒で伝えようっていうよりは、耳触りのいい音にしようっていうのがあるんですね。ある意味、そこにリンクするところがあって面白いなと思ったのと、歌詞に関しては、具体的な意味や心情はあえて聞いてなくて。レコーディングの前や合間の休憩のときに、松隈さんの「BLACK SUN」への熱い思いを聞かせてもらったので、そこで受け取ったものを僕の方で咀嚼して。お互いに察しあいながら作るようなレコーディングで、不思議だったけど楽しかったですね」
――仮面ライダーBLACK SUNとSHADOWMOON、どっちの心情ってことでもない?
「それも解釈次第だと思うんですけど、そこの捉え方で歌い方ががらっと変えられちゃうぐらいのところがあるんですよね。1回歌ってみて、“今のところは、もうちょっとこういう感じで”って言われたら、逆なんだなっていうのがあったりしました。あと、2人に共通する公約数的な歌詞もあったりするので、そこを安全に歌うよりは、突き抜けていったような形の方がいいんじゃないかなっていうのが全体的な作りになってますね」
――ボカロPさんとは違う、バンドサウンドを歌うことは?
「逆に新鮮ですよね。変な話ですけど、生楽器自体が結構、珍しくて。かつ、今回は弦も生楽器で録音されてたんですね。ボカロPさんは打ち込みで作ることが多いので、生楽器の弦をヘッドホンから聴きながら歌えるっていうのは、それだけでホールで歌ってる感じというか、世界観が広がる感じがしてすごく楽しかったです」
――MVはどんな内容になってますか。
「監督さんの入念に練られたシナリオがあって。子役の正垣湊都くんに出ていただいたんですけど、僕なんかより映像のベテランの子なので、だいぶ支えてもらいました(笑)。超学生の動きが映像とマッチしてて、色合いもかっこよくて、クールな仕上がりになってます。僕自身は、自分の動きを見るのがちょっと恥ずかしいんですけど、だいぶシュールレアリズム的な映像と世界観になってると思うので、楽しみにしていただきたいなと思います」
――最後に今後の目標を聞かせてください。メジャーデビューというひとつの目標を達成したこの先はどう考えてますか。
「もっとたくさんの方の目に触れたいなって思いますね。今までは、超学生というひとつのコンテンツを濃くしていきたい気持ちが強かったんです。その中で、いろんなことができますよっていうのをチラチラと見せて、今、さまざまなお声をかけていただけるようになって。超学生はあんまり明確なブランディングがあるわけでもないので(笑)。今後もいろいろなお仕事を受けたいですし、お仕事に限らず、歌い手さんやYouTuberさん、ゲーム実況の方とか、いろんなコラボのお話もどんどん受けて、楽しいことをしていきたいなって思います」
(おわり)
取材・文/永堀アツオ