──「辛夷のつぼみ」は、どういう経緯で生まれた楽曲なんですか?
⽥中雅功「今年4月に『春じめじのお花し 二冊目』というワンマンライブをやったんですよ。それは去年から始めたシリーズっぽい感じのライブで、歌とお芝居を一緒にやるエンターテイメントなんですね。そのお芝居の内容も自分たちで書いているので、“だったら、このライブで何を伝えたかったのか?”というのを改めて歌でも表現したいと思ったんです。それが「辛夷のつぼみ」を作ったきっかけですね」
髙⽥彪我「いわば、そのライブのテーマ曲というか、要になる曲を作ろうという感じで制作が始まったんです」
──聞くところによると百人一首がモチーフになっているそうですが。
田中「お芝居の内容が、“もし僕らが解散してしまったら、どうなっていくか?”というのを結構リアルに書いたものなんですよ。僕が好きな百人一首に「瀬をはやみ 岩にせかるる滝川の われても末に逢はむとぞ思ふ」っていうのがあるんですけど、それって一本の大きな川の中にひとつの大きな石があって、そのせいで流れがふたつに分かれる。でも、結局またひとつに戻るっていう歌なんですね。つまり、出会いと別れを表現している和歌で、僕はそれが個人的にすごく好き。それで今回のお芝居の台本を書いているときに、“ああ、これって「瀬をはやみ」だな“って思ったんですよ。だから、それをテーマにして歌詞に落とし込んでいきました」
──ああ、そうだったんですね。では、“辛夷”はどこから来たんですか?
田中「辛夷は春に咲く花で、そういう花があることを中学生のときの先生に教えてもらったんです。辛夷は冬を乗り越えて、キレイな花を咲かせる。それって耐える時期を乗り越えて、その先に花が咲くっていうことじゃないですか。それがすごく素敵だなって思っていたので、出会いと別れを経て花を咲かせるっていうことも書きたいと思ったんです」
髙田「作詞面は雅功なんですけど、その考え方が、すごく雅功らしいなって思いましたね」
田中「最初に歌詞を見せたとき、“っぽいわ~”って言いましたからね(笑)」
髙田「本当にそう思ったんです(笑)。回りくどい感じではなくて直接的なんですけど、あまりしつこくはないっていうんですかね。すごく繊細な歌詞だったので、雅功が書いてくれてよかったなって思いました」
──ライブのお芝居用に書いた歌詞なんでしょうけど、いろいろな人に当てはまる内容だなって思いました。
髙田「そうなんですよね。テーマが決まってはいるんですけど、いろんな捉え方ができる。だから、“この曲はこういう曲だよね”って決めつけるのではなく、それぞれの感性で聞いてほしいです。それはさくらしめじの曲全体に言えることだと思いますし、今回もそういう曲になっていると思いますから」
──せつなさもあるんですけど、最終的には希望が見えるところがグッときます。
髙田「そうですね。<前へ前へ>っていう歌詞で締めていますから」
──かなり疾走感もありますしね。
田中「曲は、まず彪我が1番を作って来て、2番からが僕っていう感じです」
髙田「劇中歌っていうことで、劇の終盤で歌うんですね。だから、それを作るのって結構重大なミッションだなと思って、丸3日くらい考えまくりました。それでやっと絞りに絞って出て来たのが、今、雅功が言っていたワンコーラス目なんですけど、“別れ”っていうテーマがあるにしても、そんなにバラードというか、悲しい歌にはしたくなくて。それで疾走感があるものにして、ポジティブにも捉えられるし、でも、ちょっとせつなさもあるようなメロにしようと思ったんですよ」
田中「でも、実はワンマンライブ当日にやっていた曲は、もうちょっとテンポが遅かったんです。それをリリースすることになったときに上げてみた。やっぱり疾走感があったほうがよかったなって思っていますね」
──そのワンコーラス目を彪我くんから渡された雅功くんは、2コーラス目以降、結構変化球で作って来ましたよね。聴いていて、構成が面白いなって感じました。
田中「こう言うと浅いんですけど(笑)、まさに面白くしたいっていう気持ちが強かったんですよ。彪我からワンコーラス目をもらった時点で、ある程度、歌詞の大枠が決まっていたこともあって、2Aのあとのメロを、ちょっと落としたかったんです」
──だいぶ落ちてますよ(笑)。
田中「曲自体に疾走感がありますし、それまでは出会いと別れについてしか言ってなかったんですけど、この部分で、ようやく<花>っていう言葉も出て来るんですね。それは、言っちゃえばこの曲の核心みたいなものなので、だったらハッとするというか、ちゃんと聴き入ってもらえるように雰囲気も変えたかった。それでそういう感じにしたんです。最近はショート動画とかが流行ってきているので、その影響もあるのか、1番だけ聴くっていう人がすごく多いんですよ」
──えっ、そうなんですね!
田中「もちろんフルで聞いてくださる方のほうが多いんですけど、何回も何回も聴いているうちに、“じゃあ、1番だけ聴いて次の曲にいこう”ってなりがちなんです。でも、自分としては、この2Aのあとで核心を突きたかった。だから、“あそこを聴きたいな”って思ってもらえるようにというのもあって、面白くしたいなって思ったんですよ」
──なるほど。確かに、すごくいいアクセントになっていると思います。でも、彪我くん的には、この展開は驚きだったのでは?
髙田「そうですね。でも、2Aのあとのメロは、僕、個人的にめちゃめちゃ好きです」
田中「よっしゃー!」
髙田「(笑)やっぱり、この持っていき方は田中雅功ならではっていうか。8年間一緒にやってきた仲じゃないと通じ合えないものはあるなって思いました。でも、僕ひとりで作ったら、つるっといっちゃっていたかもしれない(笑)。だから、共作のいいところが出た曲になったと思います」
──彪我くんも聴いていてハッとしました?
髙田「しました。だから、そこで辛夷のつぼみがパッと開花するような感じを表現できているんじゃないかと思いますね」
──歌詞もお2人自身をモデルにして書かれているんでしょうけど、主人公が男女にも思えますよね。
田中「よく言われます。それにどういう関係にしろ、別れとか辛い経験って、“あれは無駄だったな”って思われがちじゃないですか。でも、それってすごく寂しいと僕は思うんですよ。僕らも8年一緒にやっている中では、嫌なことも悔しいこともいっぱいありましたけど、それを無駄なことで終わらせたくない。むしろ、そういうことを肯定してあげたい気持ちが強いんです。結果だけ見て“良かった”って思うのも、もちろんいいんですけど、その結果になったのは、それまでの過程で嫌なことがあったからかもしれない。それを“思い出したくない!”って思う人もいると思いますけど、僕は、逆にその“思い出したくない”っていう気持ちを大切にしたいんです。嫌な経験をしたのって、つまりは行動する勇気があったからだと思うんですね。だから、僕たちは、そういう人の背中を支えてあげる立場になりたいなって思っています」
──この曲の2人も今は別れるのが最善の選択だと思っている。それがお互いの未来にとって必要なことだという判断だと思うので、決して悲観的な別れじゃないんですよね。今は状況的に離れ離れになっている人も多いと思うので、余計いろんなことを感じられるんじゃないかと思います。
田中「ありがとうございます」
──それに、“今は道が分かれるけど、きっとまた未来で会える”っていう部分なんかは、卒業ソングとしても合うと思いました。
田中「確かに、そういう聴き方もできますよね。僕ら、今20歳で今年21歳になるんですよ。だから、ちょうど成人式とかがあって、同窓会の時期だったりもする。そういうタイミングだったから、こういう発想になったのかもって、今ふと思いました」
──昔の友だちに会うと、その瞬間いろいろな記憶がよみがえりますからね。
田中「昔の思い出や記憶を振り返るきっかけになるんです。だから、ちょうど今の僕らの等身大が出ていてリアルだなって思いますね」
──ボーカルに関しては、どんなところにこだわりましたか?
髙田「僕はAメロの部分を結構こだわりましたね」
田中「あっ!気持ち悪く思われるかもしれないんですけど(笑)、僕、彪我の歌で聴いてほしいところがあるんですよ」
髙田「え、何?(笑)」
田中「2Aの彪我が、めちゃめちゃいいんですよ!僕、彪我がレコーディングしているとき、スタジオにいなかったんですね。それで途中で戻ってきたら、ちょうど彪我が2Aを録り終えていたんですけど、それを聴いて、“すげーいいな!”って思ったんです。あれ、どうやって録ったの?」
髙田「あれは、ディレクションが素晴らしかったんだよ。2Aの歌詞が、ちょっともどかしい気持ちを表現したものだったんですね。だから“その気持ちに寄り添って”というのを一番に言われたんです。それに2Aの中でも前半は現実から目をそらし気味な心境なんですけど、後半にいくにつれて、やっぱり向き合わなきゃなっていう気持ちに変わっていく。それで前半はわりと楽観的に歌い、後半になるにつれて繊細なイメージで歌ってって言われたので、それを意識しました」
──短い2Aの中でも変化を出したんですね。
髙田「そうですね。結構細かい変化を出していると思います。それに変に気張りすぎないようにも歌いました。“演じる”みたいに歌っちゃうと、ちょっとわざとらしくなって雑味が出ちゃうかなと思ったので。だから、わりとリアルな感じで、今の自分の心に寄り添う感じで歌ったんです」
田中「「辛夷のつぼみ」は、最終的にはポジティブな歌ではあるんですけど、ポジティブになるまでの葛藤が随所にあるんですよ。さっき「瀬をはやみ…」って言いましたけど、まだ出会うところまでは書いていなくて別れで終わっていますから。だから、カラッとしすぎてもよくないと思ったんです。曲調は疾走感がありますし、歌っているのもポジティブなことなんですけど、どこかちょっと哀愁がある。そういうのをやりたいなって思ったんですよ。それを彪我の2Aで説明すると」
髙田「俺の歌で説明するの!?」
田中「そう(笑)。今、彪我が2Aをカラッと歌いつつ、後半にいくにつれて、ちょっとせつない感じに歌い分けたって言っていたんですけど、その中間部分っていうのもちゃんとあるんですよ。カラッとから急に哀愁というよりは、だんだんグラデーション的に変わっていっている。そのグラデーションの中にある、どちらとも言えない色。それをところどころに入れたいなって思っていたので、僕はそういうことを意識していましたね」
──そのグラデーションの中間地点って、わりきれない感情みたいなものですか?
田中「そんな感じです。感情って、よく喜怒哀楽で表されるじゃないですか?でも、僕は厳密に言うと、喜怒哀楽だけじゃ絶対表せないと思ってるんですよ。喜びの中にも悲しみがあったり怒りがあったりする。それを僕的にはサブの感情って思っているんですけど、それってひとつの表現じゃ無理で、中間の色みたいなのが必要なんです。そして、その中間の色があると説得力が増す。それがあることで、より聴いてくれる人に共感してもらえるような気がするので、そういう色を大切にしたいなって思いながら歌いました」
──そういう気持ちの変遷を込めたからこそ、緩急のある歌になったんでしょうね。
田中「ありがとうございます。もともとがワンマンライブのひとつのお話を総括している曲なので、序幕から終幕までを1曲に詰め込んでいるんですよ。だから、いろんな変化があるんだと思います」
──そういう作り方って、なかなかしないですよね。
髙田「僕たちも脚本があって、それを元に曲を作るっていうやり方は今回が初めてでした。だから、すごく新鮮だったよね?」
田中「いつかタイアップで曲を書くときの役にたつような気がします(笑)」
──そもそもお芝居を取り入れたライブをやろうと思ったのも、自分たちの新たな一面を発見していきたいと考えたからですか?
髙田「そうですね。自分たちでも自分たちの可能性を開花させていきたいですし、もっと多くの人にも見てもらいたい思いもあって。お芝居を取り入れることで、音楽だけよりも幅広い人に伝えられるんじゃないかなって思ったんです」
──ちなみに、お2人はまだ20歳ですが、自分の中で印象的な出会いってありますか?
髙田「それはやっぱり雅功じゃないですかね」
田中「いや、それは当たり前だからなしにしよう!だから、僕は小学5年生、6年生のときの担任の先生にします。たぶん、僕が音楽や小説のような何かを作る一番最初のきっかけになったのが、その先生なので」
──どういう先生だったんですか?
田中「僕は昔から目立ちたがり屋で、学芸会とかがあったら、絶対主役になりたいタイプだったんですね(笑)。その先生は、毎週末に必ず日記の宿題を出したんですけど、先生がいいと思った人の日記を週明けにみんなの前で発表して、プチ表彰みたいなことをしてくれたんです。だから、それまでは作文とか大嫌いだったんですけど、“目立つじゃん!これはいいぞ!”と思って頑張って書くようになったんですよ(笑)。でも、いい文章や面白い文章を書くと先生がほめてくれたので、そこから“作るって面白いな”って思うようになりました。だから、それがなかったら音楽も小説も受け手で終わっていたかもしれない。そう思うと、その先生との出会いは大きかったと思いますね」
髙田「僕も学校の先生になりますね。小学校の卒業式で“〇〇くん”って呼ばれるじゃないですか。僕が行っていた小学校は、そうやって名前を呼ばれたら、みんな将来の夢を言うっていうのが恒例行事だったんですよ。しかも、その夢を書くとき、普通は“〇〇になりたい”って書くと思うんですけど、そうじゃなく“〇〇になります!”って言うのが課題だったんですね。僕は当時から芸能界を目指していたので、そこで“アイドルになります!”って言ったんです。今はアイドルとはちょっと違いますけど(笑)」
──いや、でも、芸能界で活躍しているわけですから叶っていますよ。それも小学校の卒業式で宣言したおかげかもしれないですね。
髙田「僕も、そのときは単に“なりたい”じゃなくて“なります”なんだなって思っただけだったんですけど、よく言霊って言うじゃないですか。だから、口に出すことの大切さをそのときに教えてもらった気がしますし、それは今の活動にも生きていると思います」
──自分が発した言葉に背中を押されることってありますもんね。お2人とも、いい先生と出会っていたんですね。
──そして、そんなさくらしめじは、もうすぐ全国ツアー『僕は君で、君は僕』がスタート。これはどういうライブにしたいと思っていますか?
田中「今回の夏ツアーには、この「辛夷のつぼみ」をもっともっといろんな人に届けたいというテーマがあるんですよ。やっぱり最近はなかなか会えていなかった人もいますし、ここ1~2年で好きになってくださった方もいるので、そういう人も巻き込んだライブにしたいと思っていますね。タイトルの『僕は君で、君は僕』もそういう意味。みんなでひとつのチームになって、楽しいことを共有できるようなツアーにしたいと思っています」
──ライブに足を運ぶのって、なかなか大変なことですからね。
田中「そうですね。特にライブの場合、そこにひとりで来ることのためらいもあると思いますし、誰かに自分が好きなものを好きっていうことにもパワーが必要だと思うんです。“自分が好きなものを否定されたらどうしよう?”って思いますからね。でも、「辛夷のつぼみ」もネガティブなこともポジティブに捉えられるっていう曲。もし、自分が好きなものを否定されたとしてもライブにくればそれが好きな人しかいないし、ひとりで来てもひとりじゃないんですよ」
──むしろ、自分と同じものを好きな人しかいない安全地帯ですよね。
髙田「本当に。だから、初めてさくらしめじを生で見るっていう人にも、たくさん来ていただきたいです。それに僕たち自身、今回はツアーで初めて行く場所があるんですよ。それが気仙沼なんですが、僕はドラマ(『おかえりモネ』)で気仙沼には縁があるので、気仙沼はもちろん、各地に感謝を伝えるツアーにしたいとも思っていますね。それに2人が20歳になって初めての全国ツアーでもあるので、“僕ら20歳になったよ!”っていう報告もしたいです(笑)」
(おわり)
取材・文/高橋栄理子
写真/中村功
Release Informationさくらしめじ「辛夷のつぼみ」
Live Information
さくらしめじ 2022夏ツアー『僕は君で、君は僕』
2022年7月30日(土) 気仙沼(宮城) K-port
2022年7月31日(日) 仙台(宮城) 誰も知らない劇場
2022年8月6日(土) 大阪 バナナホール
2022年8月7日(日) 名古屋(愛知) Club Quattro
2022年8月14日(日) 神奈川 Yokohama Bay Hall
2022年8月27日(土) 広島 Live space Reed
2022年8月28日(日) 福岡 BEAT STATION