――藤巻さんがオーガナイザーを務め、地元・山梨にある山中湖交流プラザ きららで行われる野外音楽フェス “Mt.FUJIMAKI”。初回開催は2018年ですが、どのような決意を持ってイベントを立ち上げられたんですか?

「そもそものきっかけは、僕が山梨県出身ということで山中湖村さんが“一緒にやりませんか?”と誘ってくださったことだったんです。また、僕自身にも“地元・山梨でフェスをやりたい”っていう想いがあったので、そこが合致したという感じでした」

――地元の山梨で、“ライブ”ではなく“フェス”がしたい、と。

「はい。2017年にリリースした『北極星』というアルバムを作っていた時に、自分のルーツって何だろう?って探す時期があったんですね。その答えが、“思いっきり地元だな”と(笑)。レミオロメン時代からもそうですけど、やっぱり山梨で見たいろんな景色が歌になったり、言葉になったりしていて、“いろいろなものを地元からもらっていたんだなぁ”と思ったんです。そうやって今日まで続けてこられている音楽で、今度は自分が地元で楽しいことをできたらなと思ったんです。そんな時にお話を頂戴したので、一つのご縁をいただいたと思ってチャレンジしてみることにしました」

――しかも、会場となっている山中湖交流プラザ きららは、ステージ越しに富士山を臨む素晴らしいロケーション。

「本当にね、ドドン!と富士山が見えますよね。夏フェスでもよく使われる会場なんですけど、“Mt.FUJIMAKI”を開催する10月は、暑すぎず寒すぎずで、本当に気持ちのいい季節なんですよ。こんないい時期にこの会場でできるのも、山中湖村さんが声をかけてくださったおかげです」

――“Mt.FUJIMAKI”では藤巻さん自身がアーティストのブッキングを担当。どのようなこだわりを持って選ばれているんですか?

「ブッキングについては、もちろんスタッフと相談しながらですが、自分がずっと聴いてきた尊敬するアーティストであったり、今自分がリスペクトしている好きな音楽や注目しているアーティストであったりと、本当に想いを持ってオファーさせていただいています。“Mt.FUJIMAKI”というフェスを開催させてもらうようになってすごくありがたいなと思うのは、自分が好きなアーティストの方々に、“好きです!”という思いを伝える接点ができることなんです。今まではそう思っていても、なかなか伝える機会もなければ、一緒に何かをする機会もなかったので。しかも、一緒にステージに立っていただくとなったら、自分がどのくらい聴いてきたのか?とか、それにまつわる思い出とか、改めてそのアーティストの音楽と出会い直すっていうんですかね。本当に好きなんだっていう気持ちを、素直に伝えられるんです。そうすると、やっぱり何かが起こるじゃないですか。素晴らしいアーティストの方と一緒に、しかもすごく近い距離で、その人の音楽や、佇んでいるオーラなど、いろんなものに触れながら、一緒にステージを作ることができるっていうのは、1人のミュージシャンとして、ものすごく大きな財産になるものだと思っています」

――一方、会場に足を運ばれる観客のみなさんには、どういったステージを観てほしいと意識していますか?

「やっぱり、あの場所で、あの環境の中で音楽を聴けるっていうのは、各アーティストのファンのみなさんにとっても“ここでしか聴けないものだったな”と思ってもらえる部分が多いんじゃないかと思っていて。なので、僕自身も毎年“ここでしか奏でられないものって何だろう?”っていうのを考えながら、コラボレーションだったり、ステージングだったりを考えています」

――これまで、オンラインも含めて合計4回開催されてきた中で、特に印象に残っているのはどんなことでしょうか。

「本当にいろいろあるんですけど、やっぱりコロナ禍になってから2020年は中止、2021年はオンライン開催と、2年間現地開催出来なかったので、昨年3年ぶりに山中湖交流プラザ きららで開催できたことはすごくうれしかったですね。2日目の最後、自分のステージで「39日」を歌わせてもらったんですけど、たくさんのお客さんが携帯のライトを灯してくださって。それに不意を突かれまして

――映像を拝見しましたが、藤巻さんも思わず声を詰まらせていましたね。

「予想もしていなかったこともあって、すごく感動してしまいました。当時は我々も(現地開催できなかった)2年間大変で、やっと現地開催に漕ぎ着けられたという安堵感があったのですが、それはあくまでも僕らサイドの話で。それと同じように、光を灯してくださった一人ひとりも、きっとこのコロナ禍をすごく大変な思いで生きてこられただろうし、そういう中でその時間、その場所に来てくれて、一緒にライブを作ってくれているっていう。そう思ったら、“ライブっていうのはその瞬間にしか生まれない本当に唯一無二のものだな”って改めて思いましたし、目の前にある一つひとつの光の中に、それぞれの人生があって、いろんな想いでこの場所に来ているという象徴のようにも感じて…。みんなが灯してくれた想いに応えるというか、それを上回るくらいのパワーで音楽を鳴らしていきたいって想いにつながりました。そういう意味でも、昨年は特別なものがありましたね」

――回を重ねるごとに変化していると感じることはありますか?

「山梨県内から来てくださる方がどんどん増えてきてるんですよ。最初は県内の方より、東京も含めた関東近郊の方が多かったんですけど、続けていくうちに“Mt.FUJIMAKI行ったよとか今年も頑張ったねとか、地元の方の温度感が上がっているのが伝わってきて。それがすごくうれしいです。やっぱり、コツコツやっていくことは大事だなぁと思いました」

――実際に会場に来られた方の声で印象に残っている言葉はありますか?

「自分がFM FUJIでやってるラジオ番組(「FM藤巻」)に“Mt.FUJIMAKI”での思い出を送ってくださる方も多いんですけど、家族との大事な時間になったとか、あるいは離れた場所に住むファンのみなさんが“Mt.FUJIMAKI”の会場に集まって思い出を共にできたとか、あの会場で聴くといつもと違って聴こえたとか。そういう声はうれしいですね。そうやってみなさんからの声を耳にしたり、当日の会場の様子を見ていたりすると、3世代くらいで楽しめるフェスに育っているのかな?って思います。後ろのほうでゆったり聴いていただいてもいいですし、もちろん前のほうで一緒に盛り上がってくださってもいいですし。それこそ、回を重ねるごとに幅広い世代の方が楽しめるフェスになっていった気がします」

――3世代はすごいですね!お子さんから年配の方まで楽しめるように、ライブ以外の設備にもこだわってらっしゃるんですか?

「飲食ブースでは、せっかくの機会なので土地のものを召し上がっていただきたいなと思っています。桔梗屋の信玄餅などの名物はもちろん、他にも、山梨には“はくばく”という県を代表する穀物商品を扱う会社があるのですが、そこがサッカーチームのヴァンフォーレ甲府のスポンサーをしているんですね。そのはくばくさんとヴァンフォーレ甲府さんがコラボして、“Mt.FUJIMAKI”でしか食べられないスペシャルメニューを作ってくれたりもするんです。また、最近ではスポーツ・アウトドア用品店の石井スポーツさんが一緒にコラボレーションしてくれて、アウトドアギアを展示・販売するエリアもあります。それも、会場の横に大きなテント村みたいなのを作って、その日、日本で一番(アウトドアギアが)集まるんじゃないか?っていうくらいの規模で。たぶん、そこで買えないものはないと思います(笑)。“Mt.FUJIMAKI”ではステージ転換時間があるので、そういう時間を使ってご飯を召し上がっていただいたり、アウトドアギアを見ていただいたり。メインはもちろん音楽を胸に刻んで、楽しんで帰っていただきたいんですけど、それ以外の部分も楽しんでもらえるフェスになってるんじゃないかなと思いますね」

――山中湖村のお誘いから始まったフェスとして、すごく理想的な成長の仕方じゃないですか?

「本当にそうだと思います。やっぱり、一足飛びでどうにかなるものじゃないんですよね。ちょっとずつ知ってもらって、来ていただいて、楽しんでもらって…っていう。近道はないってことを痛感しています。だからこそ、出演してくださるアーティストの方々や来てくださるお客さんに対する想いを大事しながら、今年もしっかりと集中していいフェスにしたいと思っています」

――今年も昨年に続き2日間での開催となります。各日のラインナップもすでに発表されていますが、1日目はバンドが、2日目はデュオや女性ソロアーティストが中心と、まったく雰囲気の異なる2日間となりそうですね。

「意図してそうしたわけではないんですけどね(笑)。でも、1日目はバンドのダイナミズムやカッコ良さを存分に味わっていただけるんじゃないかなと思います。とはいえ、あの会場でOAUのアコースティックな世界観はぴったりだと思いますし、The Songbardsはポップな楽曲が多いので、骨太なバンドサウンドだけじゃない部分も楽しみなラインナップになっています。一方、2日目のラインナップは、それぞれ持ってらっしゃる色が濃い方々ばかりで。PUFFYさんなんかは、もう、全曲知ってる!っていうくらいで、本当に多くの方々に楽しんでいただけるんじゃないかと思います。あと、高城れにさんは「39日」をすごく大事にカバーしてくださっていて。大好きなひいおばあちゃんとの思い出の曲らしく、何年も前からカバーしてくださっているご縁があって、今回お声がけさせていただきました。一緒にコラボレーションさせてもらえると思いますので、僕自身も楽しみにしています」

――コラボレーションといえば、2日目に出演する川嶋あいさんとは、2021年にコラボ曲「どうにか今日まで生きてきた feat. 藤巻亮太」をリリースした仲。当然今年のステージではこの楽曲も披露されるんですか?

「そうですね。昨年出演していただいた中島美嘉さん(藤巻とのコラボ曲「真冬のハーモニー」を披露)もそうですけど、コラボレーションした楽曲を披露する場所って、なかなかなくて。でも、“Mt.FUJIMAKI”があることで、そういった楽曲もしっかりと届けられるっていう。そういった部分では、点だけじゃなく、線になって、面になっていくつながりを感じられるので、フェスをやっていて良かったなと思うことの一つです」

――そして、もちろん藤巻さん自身のステージも。

「そうですね。バンドで来てくださる方以外は、Mt.FUJIMAKIバンドに乗せて歌っていただけたらと思いますし、僕自身のステージもたっぷりと。本当に王道のセットリストで行こうと思っていますので。」

――自分が主催するフェスだからこそ実現できるセットリストみたいなものもあるんですか?

「というより、野外で聴いて気持ちいいものっていうんですかね。一緒に盛り上がれるとか、青空の下で聴きたいと思えるものを外さず、しっかりセットリストに組んでいきたいと思います」

――さらに、今年は高校生以下の入場料を無料にするというのも話題に。かなりの英断だと思うのですが、なぜ無料にしようと?

「僕自身もそうですけど、やっぱり中学や高校時代に聴いた音楽であったり、観たライブって、一生心に残るんですよね。僕はそのままミュージシャンになりましたけど、ミュージシャンにならなかったとしても、その経験はきっと何かに生きると思うんです。それに加えて、最近、高校に歌いに行かせていただく機会が増えたんですね。そのときに学生さんや先生、親御さんと話をすると、やっぱりコロナ禍でいろいろな行事が中止になったり、短縮されたりして、学生たちが思い出を作る機会がすごく減っている、と」

――修学旅行も、文化祭も、ともすれば卒業式も制限されていた学生たちも多いですもんね。

「そうなんです。実際、いろんな高校に歌いに行くと、本当はみんなと思い出を作りたかったという想いが伝わってきて。そこで僕にできることがあるとしたら、高校生以下を無料にっていうこと。友達とでも、家族とでもいいんですけど、“Mt.FUJIMAKI”という音楽を楽しめる場所で、みんなで一緒に楽しい思い出を作ってもらえたらうれしいです」

――ちなみに藤巻さんが中高生時代に経験した音楽体験で忘れられないこととは?

「中学生の頃に観に行ったBUCK-TICKのライブが、僕が人生で初めて観たライブでした。BUCK-TICK好きな先輩から教えてもらって聴き始めたら、すごくかっこ良くて。山梨に来てくれるっていうので観に行ったんですけど、それまでCDでしか聴いたことがなかった音楽を生で聴けること、メンバーが本当にそこにいることっていうのに、めちゃくちゃ感動しました。普段家では聴けないような大音量で、文字通り音を浴びるような感覚も含めて、あの時の感動はいまだに覚えています。そういう経験を、1人でも多くの学生さんが“Mt.FUJIMAKI”で経験してくれたらいいなって思うんですよね」

――今後、Mt.FUJIMAKIをどのように発展させていきたいですか?展望や思い描いている計画があったら教えてください。

「そうですね…“きらら”という場所は本当に素晴らしい場所なんですけど、そこ以外、もし山梨県内のいろんな場所でできるならやってみたいなって思います。山梨って本当に素敵な場所がたくさんあるので。いろんなロケーションを見ていただき、山梨を好きになってもらいたいっていうのが、自分の夢としてあるんですよね。なので、いつかそういうこともできたらうれしいです。それに、まだまだ出ていただきたいアーティストの方もたくさんいらっしゃいますし。回を重ねるたびにいろんな出会いがありますから、その出会いを楽しみながら続けていけたらいいなと思ってます」

(おわり)

取材・文/片貝久美子
Photo by Ryo Higuchi

LIVE INFORMATION

Mt.FUJIMAKI 2023

開催日
2023年107日(土) 開演 12:00(開場 11:00
2023年108日(日) 開演 11:00(開場 10:00
雨天決行・荒天中止
会場
山中湖交流プラザ きらら
出演
10月7日(土) ACIDMANTHE BACK HORNOAUThe Songbards、藤巻亮太
10月8日(日) LOVE PSYCHEDELICOPUFFYTRICERATOPS、川嶋あい、高城れに、藤巻亮太

Mt.FUJIMAKI 2023

RELEASE INFORMATION

藤巻亮太『Sunshine』

2023年125日(水)発売
VICL-65771/3,300円(税込)
Speedstar

藤巻亮太『Sunshine』

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