――「THE ALFEE 2023 Spring Genesis of New World 風の時代」もそろそろ後半戦ですね。
坂崎幸之助「コンサートツアーもやっと折り返し地点を過ぎました。マスクをしての声出しが解禁になったので……もう、すごい!客席からの声援が。皆さんも今まで我慢していたんだと実感しました」
――前回のインタビューでは坂崎さんが「マスク越しじゃない笑顔が見たい」と言っていましたが、その瞬間が間もなくやってきそうですね。
坂崎「そうですね。本来のライブのかたちが戻ってくるのも間もなくな気がしますね。マスクなしでもできる会場もあるみたいですからね」
――ありますね。「良識の範囲内で節度ある……」みたいな前置きはありつつ。
坂崎「それもまた逆に難しいよね(笑)」
――ボブ・ディラン、ジョージ・クリントンなど海外アーティストの来日も多くなってきましたが、お三方が興味を惹かれる公演もあったのではないでしょうか。
坂崎「このあいだのドゥービー・ブラザーズは見たかったな。動画がアップされていたので少し観ましたけど」
高見沢俊彦「ドゥービーのライブはスマホでの撮影はOKだったみたいだね」
坂崎「クラプトンは武道館の6公演で「レイラ」をやったのは1日だけだったみたいですよ。ディランはもはやパフォーマーとかエンターテイナーっていうよりも、表現者って感じだね。高見沢は行かなかったの?」
高見沢「今回は行けなかったんだよね。観たかったんだけど」
坂崎「知ってる曲、全然やってくれなかったって誰かが言ってたけど」
高見沢「全部新しいアルバムからの構成で、「風に吹かれて」も「時代は変る」もやらなかったみたい。それに、最近はギターは弾かないでピアノで歌っていますからね。まさに芸術家そのものです」
桜井 賢「入場するときにスマホも預けなくちゃいけないんだって?ステージもかなり暗かったらしいね」
高見沢「初めてディランを観に行った知り合いが、ステージが暗くてディランがどこにいるかわからなかったって」
――しかしギターを弾かないディランってファン心理としてはどうなんでしょうね。
高見沢「ファンなら許容できますよ」
坂崎「僕らは後追いだから、むしろ他の人が歌ってるディランを聴いていた感じ」
高見沢「そうだね。バーズとかPPM(ピーター・ポール&マリー)のバージョンで知ったぐらいだからね」
――もうライブではオリジナルのとおりには歌ってくれないでしょうし。
坂崎「前回の来日のとき「風に吹かれて」がわからなかったって高見沢も言ってたよな」
高見沢「アレンジされていて原曲とかなり変わっていたから最初気が付かなくて……今日はやってくれないのかって思ってたら、サビまで来て、ああ、これか!って(笑)」
坂崎「<The answer, my friend, is blowin' in the wind>のところでようやく気付くっていうね(笑)。あとは……TOTOも来てたんじゃない?」
桜井「ええっ!TOTOも来てたの?でも、メンバーもかなり変わってしまったかもしれないね」
――と、いう感じでライブ・エンターテインメントの世界もいよいよ日常を取り戻しつつあるわけですが、ステージに立つ身としてもそうした実感はありますか?
高見沢「もちろん。すごく感じていますよ。さっきも言いましたけど皆さんの熱い声援が聞こえてくるので」
桜井「逆に、声出しできなかった時期は、手拍子だったり拍手ってこんなにすごい音がするんだ!って思いましたけど。武道館なんかは特にすごかったですよ。声が出せないぶん、みんなの気持ちが両手にこめられてたってことだよね。だから、声が戻ってきたことが嬉しいですね。曲終わりの拍手は演奏がよかったという意思表示だけど、でもまあ、コントのときの面白かったっていう気持ちは笑い声が欲しいね……」
高見沢「笑い声を拍手で表現するのは難しいしね(笑)」
坂崎「もちろん、みんなの笑顔が見えたらそれがいちばんいいけど……まあ、丸3年間も声が出せなかったわけだから徐々に戻していかないとね」
――声出しできなかった時期に、THE ALFEEのライブで人のため息ってこんなに聞こえるものなんだって驚きました。
坂崎「あーあ……って?(笑)」
――いえ、そっちのため息じゃなくて(笑)。感嘆するほうです。
桜井「あれだけの人数が一斉にため息を吐いたり息を呑んだりするとステージまで聞こえてくるんだって思ったね」
――そうこうしているうちに50周年の声が聞こえてきました。
坂崎「そう、今年が結成50周年で来年がデビュー50周年」
――50年目にして72枚目のシングル「鋼の騎士Q / Never Say Die」は、前作「星空のCeremony / Circle of Seasons」に続いてのダブルAサイドになりましたが、タイトル曲をストックしておこうという考えはない?
高見沢「それはないですね」
桜井「そのときはそのときで高見沢は新しい曲をつくりますから」
坂崎「僕らも、昔のビートルズで両A面のシングルがあったりすると、どっちがメインなんだろう?って思ったものですけど」
高見沢「いまの10代、20代の人たちからするとA面、B面ってピンとこないかもしれませんよね。今回のシングルはダブルAサイドで、どちらも推し曲です。実はレコードの時代からそういう気持ちは変わっていません。タイアップ曲は、必然的にA面になりますから、逆にタイアップに縛られない、今やりたい楽曲をB面に収録してきました。要するにB面だからって僕らは手を抜いてこなかったということですね。CDの時代になって、カップリングって呼び名に変わりましたけど、カップリングという言葉がずっとピンとこなかったので、前作からダブルAサイドにして、どちらも推し曲ですよ!と、シンプルな意思表示でもあります」
――「鋼の騎士Q」は東海テレビ・フジテレビ系全国ネット土ドラ「グランマの憂鬱」主題歌ですが、高見沢さんは原作をご存じだったそうですね。
高見沢「僕は雑誌で「タカミーのベストヒットコミックス」という連載コラムを毎月やっているので、コミックはかなりの数を読んでいますが、「グランマの憂鬱」は偶然にもそのなかの1冊でした。だから、今回のお話をいただいたときは、あのコミックがドラマになるんだって楽しみにしていました」
――なるほど。萬田久子さんのグランマは原作のイメージどおりですか?
高見沢「萬田さんの美しいグランマは原作の上をいっていますね」
――キャスティングの勝利ですね。
高見沢「そうです!萬田さんの原作への寄せ方が素晴らしいし、凛とした佇まいと美しさがより際立つ感じがしました」
――主題歌の「鋼の騎士Q」も、タイトルからしてすでにかっこいいですが、サウンド的にはケルト音楽の要素を取り込んでるということですね。
高見沢「そうですね。ドラマの舞台が山間の村だったので異国情緒で表現しようと思いました。だったらケルティックサウンドもいいかなと。僕らのレパートリーでは「無言劇」もそういった要素がありますが、それをいま風に作ったら面白いだろうなって思いました」
坂崎「ケルティックだけど、純日本風の風景に似合ってると思うんですよね。郷愁を誘うというか……日本人がケルト音楽に惹かれるのもわかりますよね」
高見沢「ケルティックってメロディアスだし。僕ら日本人の琴線に触れる気がしますね」
――アコギも抑揚のつけかたが特徴的ですよね。
高見沢「フィンガリングがね。これは坂崎の得意分野ですから」
坂崎「そう、スリーフィンガーでね。ああいうの得意なんですよ。もっと褒めちぎっていいですよ(笑)」
高見沢「簡単にやってるように聴こえるかもしれませんが、あれがなかなかできない。坂崎の真骨頂だね」
坂崎「生音のよさですね。レコーディングのときはいつもそうですけど、今回も高見沢に“高いギター持ってきてね”って言われました」
――高くないギターなんて持ってないじゃないですか(笑)。
坂崎「高くても鳴らないギターもありますから。だからいちばん鳴りがよくて、値段も高い68年のマーチン D-45を持っていきました(笑)」
――ALFEE作品ではおなじみのアコギですね。
坂崎「登場回数多いですね。D-45でも68年、69年に限られますけど。木がハカランダ――ブラジリアン・ローズウッドって言ったほうが伝わるのかな――なので、マイクの乗りがいい。最近、アコギを生音で鳴らせる人って少ないと思うんですよ。昔の人たちはピックアップじゃなくてマイクで録るので、ちゃんと鳴らさなきゃいけなかったんです。いまはエレアコが主流で、鳴らさなくても録れるから、それに慣れちゃうんでしょうね。「鋼の騎士Q」も「Never Say Die」もそうですけど、ああいう独特な曲のなかで存在感を出せるのは生音が鳴ってるってことなんです。スリーフィンガーですけど、アコギ単体だとびっくりするくらい大きい音が出てますよ」
――D-45はライブでは使っていないですよね。
坂崎「使ってないです。ピックアップを付けていないので」
高見沢「貴重なビンテージを改造するのは勇気がいるよな」
坂崎「68年は特にね。戦後のいちばん貴重なモデルだし。マグネットのピックアップを付けて弾いたことはあるけど、ツアーに持ってくのは怖いね」
桜井「どんなに丁寧に扱っても、移動や運搬中にエレキの楽器でもネジが緩んだりするしね」
――エレクトリックな音のなかでも存在感を主張するアコギってALFEEサウンドの特徴ですよね。
坂崎「それはずっと追及し続けている部分ですね。特にスリーフィンガーは表情が出ますから」
――そして歌詞は<風向きは突然に変わる><風向きは立ち位置で変わる><風向きは追い風に変わる>と風をフィーチャーしています。
高見沢「これはドラマの中でグランマが発する数々の金言に寄り添った歌詞ですね。人生観ではありますが、決して押し付けがましくなく、いい時も悪い時もあるということを風向きにたとえています。生きていればなんとかなるさっていうことが伝わればいいなと思って書きました」
――桜井さんはこういう独特なメロディの曲は得意ですか。
桜井「まあそんなに器用なほうではないので。いつもそうだけど、この歌の世界をどういうふうに作ろうかなって考えながら歌ってますし、その方向性が決まってないと、“お前の歌い方ってそうじゃないだろ?”って、的確なアドバイスがありますから、その中で作り上げていく感じですね」
――今回の歌入れで、高見沢さんから何かリクエストはありましたか?
高見沢「いや、いつも本人任せです。そんなに間違った表現はないですし、そのためにキーもあわせていますから。細かいニュアンスの部分で“こんな表現はどう?”ってやり取りをしつつ、出来上がったものをチョイスする感じです」
坂崎「今回はね、ドラマのプロデューサーから“今回の主題歌はぜひ桜井さんボーカルで”ってリクエストがあったみたいです」
桜井「覚えやすいし、イントロもあって耳に入りやすい曲です。2曲ともそうですけどイントロがいいね」
――「Never Say Die」もイントロからして主張がありますし、三声のコーラス、スイッチボーカル、ハードロックだけどアコギのソロもある。まさに“THE ALFEE全部入り”という感じですね。
高見沢「そうですね。“はい!ALFEEです”って感じですね(笑)。スイッチボーカル、アコギも入ってて、かつプログレっぽいハードなイメージで、展開もある」
桜井「すべての要素が入ってるよね」
高見沢「間奏は色々詰め込みましたね。頭は坂崎が弾いたほうがいいなって思って、それから展開していって……とかいろんな想定を重ねていくとああいう仕上がりになりました」
坂崎「最初はあんな感じではなかったよな?」
高見沢「そうだね。最初は僕もアコギといっしょに間奏を弾いていたけど、途中で“ここは弾かないほうがいいな”って思ってアコギだけにしました」
――アコギのソロからエレキのソロに繋いでいく感じですよね。
高見沢「そうですね。作っている過程でそうしました」
坂崎「アコギを生かすんだったらフレーズも変えようとか、指弾きにしたりとか試行錯誤しましたよ」
――今回のレコーディングもひとりづつスタジオに入ったんですか。
桜井「そうですね。ようやくこのかたちが整ってきたね」
坂崎「逆に慣れてきた感があるよね」
高見沢「集中してできるしね。ただ一人ずつだとコーラスパートはシビアになる」
坂崎「3人で歌うと誤魔化せるからな」
桜井「きっちりやらないとハモらないですから。音をあわせるのは後からの作業でできるけれど、その前に基本になる部分をちゃんと録っておかないとね。すごくシビアになったけど、そのやりかたにもようやく慣れてきた。だからコーラスサウンドは以前より良くなったと思う」
坂崎「うん、良くなった!なんていうか、よりシャープになった」
桜井「もちろん3人でせーの!で歌ったほうが早いんだけれど、1人づつのほうがクリアに録れるからね」
高見沢「まあ、昔の曲もいまの曲も全体的なイメージは変わらないんだけど、僕ら自身にしかわからないレベルでピッチもリズムも確実によくなっていますから」
――歌詞に目をやると<目覚めよ風の時代>とあります。
高見沢「これは「風の時代」を意識して書きました」
――2曲ともにチアーソングと言えると思いますが、励まし方のベクトルがわりと対照的ですよね。かたや<負けてもいい やり直せばいい/無理に頑張らないで>で、もう一方は<逃げるな! 続けろ!>ですから。
高見沢「基本は同じです。ただ、「Never Say Die」のほうは、弱音を吐くなというニュアンスがありますね。THE ALFEEは来年デビュー50周年を迎えるわけですが、自分たちを鼓舞する言葉になっています。そこが「鋼の騎士Q」との違いですね。ある意味、「Never Say Die」は自分たちに向けて歌ってますね。弱気になるなよ!って」
坂崎「ちゃんとメシ喰っとけよ!って(笑)」
桜井「飲み過ぎんなよ!って(笑)」
――ダブルAサイドのよさっていうか、そのニュアンスの違いを楽しめるわけですね。さて、スプリングツアーが終わると、そのあとすぐに夏イベントです。結成50周年と言いつつ、まわりが騒いでいるわりにご本人たちはすごく冷静ですね。
高見沢「やってることは40周年も50周年も変わってないですから。でも50周年となるとやはり気持ち的には特別です。THE ALFEEってバンドは活動休止もないし、もちろん再結成もメンバーチェンジもありませんから。そうやって50年もやり続けているバンドって世界的にもあまりいないらしいんですよ。そういうふうに言われると、ああそうか、貴重なことなんだなとあらためて思いますね」
坂崎「僕らは絶滅危惧種かも。ワシントン条約で保護してもらわなきゃ(笑)」
桜井「まあ、これだけ長い期間、毎年休まずツアーをやってるバンドはないだろうね」
高見沢「そうだよね。だからこそライブに足を運んでくれるオーディエンスの人たちには感謝ですね。だって、観に来てくれる方がいなければツアーもできないわけですから」
坂崎「THE ALFEEの歴史って僕らだけじゃなくて、ファンの方々とともに培ってきたものだから。さっき、僕らがわりと冷静に見えるって言ってましたけど、ファンの方々もライブを見ているときは50周年だなんて意識していないと思うしね。まあ、今回のツアーから声出しできるようになったので、いつものALFEEが戻ってきたなっていう気持ちはあるかもしれませんけど。そうやって当たり前のようにライブができているっていう積み重ねで50年やってきているので」
――51年目以降のロードマップや将来像を考えることはありますか?
高見沢「今はありません。でも50年休まず走り続けてきた先に何が見えてくるのか、非常に楽しみですね」
坂崎「そうだね」
桜井「まずは3人ともに健康な状態で来年の50周年を迎えることです。そうなった時、新しい何かが見えてくるのかなって思います」
坂崎「そう、とにかく今は目の前のことを一生懸命やることですね。デビュー50周年の年のライブは、マスクなしでみんなの笑顔を見れることを願ってます」
桜井「ぜひ、そうなって欲しいです」
(おわり)
取材・文/高橋 豊(encore)
LIVE INFO
■THE ALFEE 2023 Spring Genesis of New World 風の時代
5月27日(土)NHKホール(東京)
5月28日(日)NHKホール(東京)
6月3日(土)フェスティバルホール(大阪)
6月4日(日)フェスティバルホール(大阪)
6月10日(土)美喜仁桐生文化会館シルクホール(桐生市市民文化会館)
6月14日(水)神奈川県民ホール
6月16日(金)札幌文化芸術劇場 hitaru
6月18日(日)網走市民会館
6月22日(木)大宮ソニックシティ
6月24日(土)ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ
6月25日(日)呉信用金庫ホール(呉市文化ホール)
7月1日(土)名古屋国際会議場センチュリーホール
7月2日(日)名古屋国際会議場センチュリーホール
■THE ALFEE 2023 Summer「Genesis of New World 風の時代★夏」
7月29日(土)横浜アリーナ
7月30日(日)横浜アリーナ
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2023年5月17日(水)発売
初回限定盤A/TYCT-39193/1,100円(税込)
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2023年5月17日(水)発売
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THE ALFEE「鋼の騎士Q / Never Say Die」
2023年5月17日(水)発売
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2023年5月17日(水)発売
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