──まず『弾き語りツアー 2022-2023 "heartbeat"』の全52公演にも及んだ弾き語りツアーを完走した感想から聞かせてください。

「すごい楽しいツアーだったので、寂しさもありつつ、“やりきった!”という達成感が強いですね。ただ一緒に回ってきた神戸のイベンターのCow and Mouseさんとはまた一緒にできそうな気がしてます。2周目やろうよ!”って言ってくれるような素敵なチームなので、それも楽しみだなっていう気持ちが大きくて。でも、今は、“やりきった!”っていう爽快感の方が大きいですね」

──ファイナル公演はU-NEXTライブ配信されるので、ライブカメラが入ってました。

「かなり緊張するんじゃないかな?って思ったりしていたんですけど、最後の公演が一番楽しかったんですよ。それまでの思い出話もできたし、いいツアーだったなって思いながら歌ってたので」

──でも、最初のMCでは“しっかり緊張してる”とおっしゃってましたよ。

「あはははは。ツアーファイナル、三越劇場の1日目は“最後だ、頑張らないと!”と思って、かなり緊張していて2日目も始まったときはちょっと緊張してたんですけど、私の曲を聞いて来てくれたみんなだし、今までのライブに来てくれた方たちもたくさんいらっしゃったので、“そんなに気負うことでもないな”って思って。結果的には、いつも通りできましたね」

──これまでにライブハウスやホールや、野外ライブなど、いろんなライブをやってきましたが、ご自身にとってはどんなツアーになりましたか?

「とにかく面白い場所でたくさんやらせていただいたので、もう観光みたいになってくるんですよ。何百年も前からある建物だったりするので、現場に入ると、会場の方が、建物の歴史を教えてくれながら、案内してくださるところもあって。その会場に対して愛を持っていて、どうにか存続させようとしてる方たちもいて、会場からエネルギーをもらえることがすごく多かったツアーでしたね」

──たった1人で回るアコースティックツアーだったという面ではどうですか。

1人だったけど、会場の雰囲気やお客さんの距離によって、まるで違うライブになるんですよね。同じ曲をやっても、音響の環境も違うし、全然違う響き方になるんです。ある意味、修行のような感じで始まったんですけど、みんなで作り上げていく温かいツアーになりました」

──“お互いの鼓動が聞こえる距離”という意味で、“heartbeat”というタイトルをつけてました。

「今、振り返ってみても、“heartbeat”という名にふさわしいツアーになったと思います。緊張してたらそれも伝わるし、楽しそうだったら、“すごく楽しそうだったね”って言われる。全部筒抜けになっちゃうツアーだったし、お客さんとの鼓動も重なった気がしていて。最初は“1人で何とかする”って思ってたけど、いろんなものと重なり合ってしかこの音は生まれないんだって気づけたのが嬉しかったです」

──ちなみに、映像ならではの見どころは何かありますか?

「やはり三越劇場という、すごく長い歴史のある百貨店にある劇場っていうところですかね。私も初めて行かせていただいたんですけど、三越の方も良いものにしようとすごく協力をしてくださいましたし、三越に対する想いも伝わってきて。みんなに愛されて、ここまで長く営業してきた会場が映像に綺麗に映っていると思います。ライブ自体も、畳でやるときもあれば、チャペルでやることもあれば、牧場でやることもあったツアーの全部がぎゅっとあの日に詰まったような気がするので、ぜひ映像で楽しんでいただけたらと思いますね」

──そして、2年半ぶりのフルアルバム『AIRPORT』がリリースされましたが、52公演の旅はアルバム制作にはどんな影響をもたらしてますか?

「アルバムの中に入ってる新しい曲は移動中に書いた曲が多いです。歌詞を含め、いろんなところに旅をしながら書いていました。でも、面白いことに、旅の曲ばっかりにはなってなくて」

──そうなんですよね。サウンドももっとアコースティック寄りのアルバムになると思ってました。

「みんなから言われるんですよね(笑)。みんなの予想を裏切るような、面白いアルバムができたんじゃないかなと思います」

──昨年11月にリリースしたEP「まばたき」が原点回帰のようなアコースティックな雰囲気だったので。

「前作『SUPERMARKET』の後に「わたしのLife」「Kirakira」「君は天然色」「mother」に「まばたき」と、かなり色んなテイストの曲をリリースしたのでどうやって統一感を出そうかなぁと考えていて。“誰かと一緒に、トラックから曲を作るっていうやり方で、アルバムを1枚、作りたいよね”っていう話になりました」

──どうしてトラックメイクから先に作るという制作に惹かれましたか?

「『SUPERMARKET』でVaVaさんとやった「生活」という曲で、トラックをいただいて、その上にメロディをつけるっていう作り方をして。それがすごく新鮮で面白かったし、「Kirakira」や「mother」、「まばたき」も一緒に制作をした方にメロディのアドバイスまでもらって作っていたんですね。誰かの意見がないと絶対にこうならなかったところにたどり着かせてもらって。アルバムの制作前に、それは1つのコンセプトとして置こうよっていう話になりましたね」

──いわゆる“コライト”が一つのテーマにはなってるんですね。

「そうですね。「わたしのLife」もYaffleさんがトラックを横で作ってるのを見ながら作らせてもらいました。その時にYaffleさんからコライトの話をいっぱい聞いたんですけど、みんなでアイデアを短時間で出し合うっていうことをやったことがなかったし、今まで私が知ってた世界になかったから」

──トップライナー、トラックメイカー、作詞家、ヴォーカリストなどが集まって、その場でどんどんアイデアを出し合いながら、1曲を作っていくっていう。

「そうなんです。そんな世界があるんだ、本当に面白いなと思って。その場でメロディを出してみるとか、適当でもいいから歌詞をのせて歌ってみるとかいうことを緊張しながらやってみて。家で1人で曲作っているとやっぱり手ぐせが出てきて、割と似た曲ができちゃったなんてことあるんですけど、絶対に似た曲にならないんですよね。誰かが聞いてきた音楽から生まれたトラックの上に私がメロを載せると、自分でも絶対出てこなかったようなメロになったり、自分じゃ作れなかったような言葉が出てきたりする。それがすごく刺激的に感じてますね」

──「わたしのLife」は弾き語りツアーでも演奏してます。

「ギターで作っていない曲だから、最初はコード進行も難しくて苦戦していたんですけど、今は一つの正解にたどり着いた気がします」

──アルバム収録曲の「わたしのLife」はシンセやコーラスが入っていて、とても煌めいてますよね。

「“最近こういうアーティストが好きなんです”っていうのを、いろいろ聞いてもらった中で、“楽しげな曲がいい”とか、“ビートはこういう感じがいい”っていうのを、隣でヤイヤイ言ってたら、“こんな感じ?”ってYaffleさんがピアノを弾き始めて。ピアノも上手なんですよ!重ねていくごとに、“何者だ!?”みたいになっていくんですけど」

──今、一番人気のプロデューサーです(笑)。

「そうですよね。本当にお忙しそうで。同じ日にもう一曲作ったりもできたんですけど、作業が本当に早かった。あっという間に完成していた曲でした」

──エールソングになってますよね。

「ずいぶん前に『ポンキッキーズ』に出ていた時に、ちっちゃい子が自分で歯を磨けたとか、自分でお布団を畳めたとか、そういう映像を保護者の方に送ってもらって、“君は偉い”ってメダルを送るっていうコーナーがあったんです。それが今の大人にも必要だ、と思って」

──大人にも必要だ、と。

「はい。他人と比べてしまって、“自分は今日、何もできてない”とか、“何も生み出せてない”って思っちゃう方多い気がして。自己肯定感がどんどん低くなっている気がするんです。インスタで楽しげな人を見ていたり、何かを成し遂げてるニュースを見たりすると、“あ、私、何も進んでないんじゃないか”ってなっちゃうけど、“いやいや。そんなことはないぞ”と。“今日、ドライヤーをして寝たの?すごっ!洗い流さないオイルも塗って?すごいよ、それ!”っていうくらい、ハードルをちょっと下げてあげた方がいい瞬間が生きてる中では絶対にあるんですよ。それができるから、もうちょっとこれ頑張ってみようって思えるというか…。だから、他人と比べるのではなく、昨日の自分と比べて、昨日よりはちょっとイケてるなと思えた方がいいかなって。未来から見たら、それがどんどん積み重なっていくことで変わってたりするものだと思います。みんなにもそう、私の自己肯定感を分けるっていう意味で書きました」

──続く、「いつか見た映画みたいに」も最終日に新曲として披露してました。

「はい!トラックとしては「わたしのLife」を作ってる時からあって。VaVaさんはヒップホップの方なので、私では使わないような音色のトラックも普段から作られて歌われる方なんですね。でも、今回は一緒にちゃんとポップスを作りたいっていうところから走り出して。この曲はいっぱい悩みながら作りました」

──スクラッチが入ってるし、ビートはヒップホップマナーですけど、ソウルやR&Bの香りがするシティポップのようなトラックになってます。

「そうですね。でも、VaVaさん単体の楽曲だったら見えないところを見れたようなトラックになっていて。一緒にやっていてすごく楽しいですね。VaVaさんのトラックが上がってくると、やっぱりワクワクするんですよね」

──本作はリスナーとして、1曲ごとにワクワクしました。“次、どんな曲だろう?”っていう、想像のつかない楽しみがあって。

「嬉しいですね」

──歌詞はラブソングですよね。

「“ちょっと切ない曲だね”って言われることもあるんですけど、私としては、結構カラッとしてる曲の一つで。今回のアルバムの曲は前向きな曲が多いのですが、何かが起こってしまっても、自分自身が“ま、次、次”ってなるタイプなのでそういう曲が多くなったと思います。“あの人しかいなかったんだ…”っていうタイプよりかは、“出会えてよかった、サンキュー!”みたいなタイプ」

──(笑)全体的にそうですよね。別れの曲が多いけど、未練や執着はあまりないというか。

「はい。そうですね。「放っとこうぜ」も近いんですけど、私的には、切ないっていうよりかは、“もういいやん”っていうような、ちょっとサバっとしてる女の子の曲っていう感じですね。フィクションだったらもっと綺麗な感じで終わるのに、現実って、なんでここで会うんだ?みたいなとこで会ったり、いまいち綺麗に終わらないところがあるじゃないですか。だから、「いつか見た映画みたいに」は映画みたいに綺麗に完結するもんじゃないっていう現実を含みつつも、どろっとはしすぎてない爽やかな曲にしたいなと思ってました」

──今、話に出た「放っとこうぜ」は、作詞作曲と編曲も全部一人でやっていますね。

「結構、前からあった曲なんですよ。VaVaさんには、「生活」の制作の時に、この曲を送ったんです。 “これ、アレンジしてくれませんか?”って言ったら、“既にある曲をアレンジするっていうやり方をやったことがなくて。ヒップホップっぽい作り方で一回やってみますか?”っていうところから「生活」が生まれて。この曲が浮いていたんですよ。引っ込めてからずっとデモの中にあった曲の一つで、結構形になっていたから、ちゃんと完成させようと思って。そのときは全部自分で打ち込みをした音源をVaVaさんに渡してたんですけど、“このままリリースするのもどうかな?”と思って、組み直すことにしたんですね。でも、やっぱり餅は餅屋というか。自分にはすごい素敵なピアノソロを弾くことはできないし、ベースももっと良いベースラインがあるんじゃないか?と思った中で、ずっとライブで携わってくれてた別所(和洋)さんと道(中西道彦/Yasei Collective)さんにいろんなフレーズを弾いてもらって。それを切り貼りして、作っていくっていうやり方にしましたね」

──ゆるゆるヒップホップというか、ポエトリーリーディングになってますよね。

「かせきさいだぁさんをずっと聞いてて。「生活」もヒップホップですけど、ラップじゃなくて、割とそっちの方に近いです。私は緩く韻を踏んで、不自然じゃない程度にラップしてるくらいの感じの曲が書きたくて」

──これも別れを迎えてますよね。

「そうですね。でも、これもポジティブな歌ですね」

──<添い遂げるだけが美ではないさ>と歌ってます。

「本当にそれはそうだと思ってて。何にしても、出会いあり別れありの人生で、友達も含めて、そうじゃないですか。学生時代はすごく仲良くて、何でも話してたけど、毎日一緒にいることはなくなってしまったりする。でも、今、遠くに離れていて、一緒にいないから、“あれはなかった方が良かったよね”とはならないじゃないですか。恋愛になると、“出会わなきゃよかった”ってなる方が多いけど、絶対にそうじゃない気がして。それがあったから今の自分がいるって考えると、何も無駄じゃないし、なんなら50歳や60歳になったときに、“久しぶり!”って再会して、また友達になれるかもしれない。ライフステージが変わったら、関わる人も変わるってよく話になったりもするじゃないですか」

──友達がママになっちゃったから、なかなか会えないとか。

「でも、また1周回ったら仲良くなることもあると思うんですよね。もちろん、10代で出会って、死ぬときまでずっと添い遂げるのは本当に素晴らしいことだと思うけど、人間関係はそれだけじゃないっていうのは、いろんなことを経て思います」

──さっきも言いましたが、別れの曲が多いんですけど、離れた相手ともずっと繋がってる感がありますね。

「全部が血肉になる気がして。あんなことがなかったらこんなふうに考えてないなとか。結構、前の曲でも、じいちゃんが亡くなっちゃったときに書いた「Sunny Day」も然りです。でも、こうやって曲になって、ずっと歌い続けて、誰かが日常の中で聞いてくれて、ずっと生き続けている感じは、音楽やっててよかったなって思うことですかね」

──そして、中西道彦さんは今回、初めて編曲で2曲に参加してますが、どちらもかっこいい曲になっていて。

「ほんとにいいですよね。「放っとこうぜ」のレコーディング自体は、「わたしのLife」と同じぐらいの時期にやっていて。道さんは、ライブのリハの時から、ポツッと“こうしたらもっとカッコよくなるかもね”って言ったことが、実際にそうしてみると、むちゃくちゃカッコよくなるってことが何度もあって。リズム隊で、全体を見れる方でもあるから、“道さん、プロデュースワークに興味ありますか?”って聞いたら、“あんまりやったことないけど、めちゃくちゃ興味はある”って言ってくれて。そこからトラックを4個くらい作ってくれて」

──「迷宮飛行」はエレクトロファンクになってます。

「これは道さんに、“踊れるような曲作りましょうよ”みたいな話をして。うちの事務所の本社がある山梨で合宿して作りました。道さんとは遠隔でやり取りしながら、夜中に球の投げ合いをして。だから、夜に作った曲なんですけど、最初にふっと口からついて出た言葉からバーッて、メロと歌詞が一緒に出てきた、だいぶ楽なタイプの産まれ方をしました」

──これもラップですよね。

「ちょいラップです(笑)。ディレクターには“もうちょっとこうした方がいいんじゃない?”って言われたりもしたんですけど、道さん的には、“逆にトラックに寄りすぎてなくて、ハマってない方が「らしく」ていいから、そのまんまでいいよ“って言われて、じゃあ、そのままでって言って作った曲ですね」

──歌い出しのトーンが怖くて、謝りたくなります。

「あははは。謝ってください(笑)「喧嘩あるある」だと思うんですけど、例えば、最初は“これちゃんと片付けてって言ったじゃん”っていうだけ。“はい、片付けます”で終わる話なんですけど、それが何度も続いて。“この前もそうだったよ? 1年前のあのときも?覚えてる?”ってヒートアップしてきたら、“いや、でも、そっちも”って言い合いになって。最初とは、全く関係ないとこに話が飛んでいっちゃって、もう着陸するところがない、どうすんのこれ、どこ行く?みたいになってる様子を描きました」

——あははは。身にしみます。

「ふふふ。「話そうよ」で書いてるのと近いんですけど、そういうときって、面と向かって話してるようで、すごい視野が狭くなっちゃってるときの方が多くて。確かにあっちの言うことも一理あるなっていうくらい、本当の意味で見つめ合ったり、本当の意味での話し合いができたときに、ふっと解消したり、“そんなことはどうでもいいか”って思えたりする気がして。だから、出だしはこんな感じですけど、着地はちょっと可愛げのある感じで終わってます」

──もう1曲の「Wonderful time」はコンガの効いたシティポップになってて。

「これも送ってもらったデモのうちの1曲ですね。一番最初に作ってもらったデモもパーカッションの音が入っていて。最終的には松井泉(ex.bonobos)さんに叩いてもらったんですけど、私はこのトラックが一番好きでした。歌詞は「迷宮飛行」の方がワーッて勢いよく生まれていたけど、この曲もあんまり歌詞に困らなかったですね。ふっと生まれました。最初から<Wonderful time>と歌っていたので、“私にとってのワンダフルタイムは歌うことだな”っていうところから進めていって」

──藤原さくらにとってのワンダフルタイムは歌うことでしたか。

「そうですね。ワンダフルタイムじゃないと多分、52公演できないですよね。しかも、そのまま友達とカラオケ行ったりしますからね。怖い」

──あははは。自分で言う。

「石垣島に行ったときは、友達夫婦が見に来てくれて、その夫婦と3人でスナックをハシゴして、ずっと歌ってて。“うまいね”とか言われて」

──(笑)1時間半のアコースティックライブをやった後に?

「やってましたね。この曲もツアー中に書いていた曲だったりするんですけど、本当に音楽で人と繋がれたり、お喋りできたりするんだっていうのを感じるツアーだったので、それで生まれた歌詞な気がしますね」

──いろんなとこを移動しながら、自分を見つめる時間も多かった?

「私、移動中に曲が書けることが多くって。家で1人だと焦っちゃったり、頑張って書かないとってなったりするんですけど、車で移動してるっていうタスクを同時にこなしてるって思うから、焦ったりする気持ちがなく、フラットになって、思ってることが出てくる気がして。移動がすごく多かったので、向き合えたところはあったかもしれないです」

──先ほどあった、「話そうよ」は斉藤和義さんとのコライトです。

「和義さんのアルバムの中で「Pineapple (I'm always on your side)」っていう曲を“一緒に歌おうよ”っていうお話をいただいて。私もアルバム制作中だったので、その流れで、今ならいけると思って、“和義さん、私もアルバムを作ってるので、一緒にやってください”って言ったら、“いいよ”って言ってくれました。今回、一緒にやってる方も、ある程度の関係性があって、一緒に制作をしてきた面々が多かったんですけど、和義さんもライブをご一緒したこともありますし、楽曲に参加させてもらってたっていうのもあって、“いいものを作ろう”って、音楽のことを第一優先で考えてできたのがすごく楽しかったです」

──この曲の中の二人も喧嘩してますか。

「喧嘩というか、一番最初の出会いたての頃は、会えるだけでドキドキして、自分と違うところが嬉しくて、相手が何をしても許せるときがあるじゃないですか。でも、、ずっと一緒に過ごすことによって、自分と違うところが逆に気になるようになったり、少しずつ前とは変わった関係になって行く。ただ、恋の苦しさみたいなものが愛に変わって、隣にいて自然なリズムで鳴っている心臓の音に安心できたり、なんでもないことを話せるようになったり、そういう良い変化も歌いたいなと思いました。。この曲は元々、全然違う歌詞だったんですけど、和義さんと和義さんのバンドのアレンジができてから、歌詞がまるっきり変わった曲の一つで。もっと悲しい感じの歌詞を書いていたんですけど、音からポジティブなムードを受け取って、全然違った曲になりましたね」

──出会った頃の気持ちを思い出せってことではないんですよね。

「最初の頃のフレッシュで何をしても楽しくてっていうのが<洗いたての香り>だとすると、一緒にいてゆったりと穏やかな気持ちになれる、ちょっと使い古したタオルだけど、すごく落ち着く匂いに変わってくることが、心地よいなと思ってます」

──それが愛だってことですよね。コライトをテーマにしたアルバムの中で「私の愛」と名付けた「My Love」は編曲もご自身で行ったアコギと歌の弾き語りがベースの曲になってます。

「アルバムの曲が出揃ってきたところで、“この曲も入れたいな”って言って。これも、ずいぶん前に書いた曲です。ロサンゼルスに留学していたときに、ホームステイ先のおうちのベッドで書いた曲です。そこからまた歌詞が変わったりはしてるんですけど、作品に入れるタイミングを逃してきたので、弾き語りに面白い楽器を重ねた曲を入れたいと思って」

──あの二胡のような音は何の楽器ですか?

「オンド・マルトノっていう、ピアノに弦が張ってあって、足と連動させて面白い弾き方をする楽器なんです。スピーカーが3個くらいあって、絶妙な位置関係で音も変わるっぽいんですけど、あんまり日本でも弾ける人がいないんですよ。いろいろ調べていく中で、このちょっと浮遊感のある面白い楽器にたどり着いて。オンド・マルトノってYouTubeで調べると、オンド・マルトノ奏者の方が弾かれてる映像が出るんですけど、その方にお願いしました。ディレクターさんに奏者を探してもらったら、その方がやってきてくれて、びっくりしましたね」

──(笑)遠くに離れた人を思う曲になってます。

「このアルバムは、いろんな伝え方で愛について歌ってる曲がすごく多くて。「Wonderful time」も歌ということに対する愛だし、「わたしのLife」のセルフラブや、愛に包まれて満たされていく「mother」で終わることも含めて、全部の愛というか。近くにいるだけじゃない愛。遠くにいて、連絡も取ってないのに、“この人は絶対に私の味方だ”って思えるってすごい強みな気がして。すごく遠くにいるけど、繋がっているような気分になる。「mother」でも書いてるんですけど、それをすごく考える機会が多かったのもあって」

──「まばたき」もそうですよね。もう二度と会えない人や、物理的に、心理的に離れてる人も含め、離れてるけど通じ合って感がある。

「そうですね。人それぞれいろんな愛の形があると思ってて。それこそ犬とか。実家に帰ったら、犬がめっちゃ嬉しそうに駆け寄ってきて。こっちは一方的にお母さんから写真もらって、“かわいい”とか言ってるけど、あっちはめっちゃ久々に会ってるわけじゃないですか。遠く離れていて、ずっと会えていないのに覚えてくれてるし、こんな喜んでくれるんだ、みたいな。ばあちゃんもそう。私が福岡に帰ると、ものすごく嬉しそうで。家族も毎回、福岡に帰るたびに、“次に会ったときはあれ食べよう”とか、“好物を作って待ってるよ”とか、連絡をくれるんです。友達にしても、恋人にしても、何にしてもそう思える存在ってありがたいなってって思って書きました」

──様々な愛について歌ったアルバムに『AIRPORT』というタイトルをつけたのはどうしてですか。

「理由もいろいろあるんですけど、出会いあれば、別れもある中で、AIRPORTは、そこからどこかに出発していく分岐点みたいな場所だなと思って。あと、今まではちょっと暖かい色みのジャケットが多かったり、『SUPERMARKET』はいろんな色どりがあったんですけど、これだけはっきりとパキッと爽やかなものになったのは、すごい爽快感があるアルバムになったからなんです。いろんなことあるけど、これから楽しみだっていうのも含め、すごく前向きなアルバムになったので、『AIRPORT』にしました。あとは、トラックを一緒に誰かと作って、誰かと一緒にまたどっかに飛んでいくみたいな意味も込めてますね」

──ジャケットではどこかの空港のターミナルで出発を待ってますが、ここからどこに出発するんですか。

「どこに向かうんでしょうね。やりたいことはいっぱいあって。あとは、どれを選ぶのか?っていう問題なのと、何にしても、誰かとの出会いでまたどんどん話が変わってきたりしますから。だから、あまり決めすぎずにいたいです。これもやりたいし、あれもやりたいよねって、フラットに音楽を楽しんで、行き着いた先でまた楽しいものができたらいいなと思います」

(おわり)

取材・文/永堀アツオ
写真/中村功

RELEASE INFORMATION

藤原さくら『AIRPORT』

2023年5月17日(水)発売
初回限定盤(CD+BD)/VIZL-2188/5,100円(税込)
Victor Entertainment

藤原さくら『AIRPORT』

藤原さくら『AIRPORT』

2023年5月17日(水)発売
通常盤(CD)/VICL-65820/3,600円(税込)
Victor Entertainment

藤原さくら『AIRPORT』

U-NEXT

藤原さくら 弾き語りツアー 2022-2023 “heartbeat”

【配信時間】
ライブ配信:2023年5月19日(金)19:30~ ライブ終了まで
見逃し配信:準備完了次第~6月18日(日)23:59まで
【視聴可能デバイス】
・スマートフォン / タブレット(U-NEXTアプリ)
・パソコン(Google Chrome / Firefox /Microsoft Edge / Safari)
・テレビ(Android TV / Amazon FireTV / FireTV Stick / Chromecast / Chromecast with Google TV / U-NEXT TV / AirPlay)
※ライブ配信には1時間に最大約5.5GBの通信量を消費します。当日はWi-Fi環境での視聴を推奨します。

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