――怒髪天はコロナ禍中にあってもコンスタントにリリースを重ねていて。今回はオリジナルとしては『ヘヴィ・メンタル・アティテュード』以来ですけど、そのマインドの先にあるものっていう感じですか?

「そうですね。もう怒りまくってる。自分たちがハードコアパンクバンド出身――まあ怒髪天って名前からしてわかるよね――ですから。でも、今はそういうバックグラウンドがなくても、普通に生活してたらあらゆる方向に怒りを感じると思う。自分自身の不甲斐なさもそうだけど、あらゆるものに対して全方向に噛み付くというか、イライラしてるというか……それこそ江戸末期の“ええじゃないか”的な民衆運動を起こすような音楽を作ってやろうかなと思って。あと今ね、SNSとかも発達していろんな発言がこう取り沙汰されて叩かれたりしてるでしょ?ここはもうちょっと表現柔らかいほうがいいかな……”なんて、人の100分の1ぐらいかもしれないけど気遣った部分も多少なりともあったんだけど全然叩かれない。むしろ“よくぞ言ってくれた!”ぐらいにしか言われないから、好きなこと言っていいんだなって。ただこれが泉谷さん枠に入っているとまずいなってね(笑)」

――ははは!

「自由にっていうか、もう好きなように言っていいんだなって。どこまでいけるのかちょっとチャレンジしてみようかと思って」

――でもそこに優しさやユーモアもありますね。

「ユーモアは大事。なんでもそうだけど、学校の先生が言ったことが全然、頭に入ってこなかったのはユーモアなかったからで。もうちょっと面白おかしく言ってくれれば、心にも頭にも響いたんじゃないかと思うんだよね。大事なことほどユーモアを交えて言うのは、人としてのコミュニケーションというか、伝えやすさなんじゃないかなと思うんだけどな」

――でもミュージシャン、バンドマンとして何をやるかとなると逡巡もあるわけじゃないですか。でも言いたいことは言うぜっていうスタンスですか。

「そう。やっぱ本来ロックってそういうもんだと思うから。ただ、反体制っていうのはいたずらに反対するだけじゃなくてさ。「令和(狂)哀歌~れいわくれいじぃ~」でも言ってるように、本来は別に反対なんかしたくないし、楽しいことだけやってたいよ。でも、そうさせてくれない世の中じゃない?だから、それをちゃんと言っていくというか、言わずにいられない。でも楽しくやりたいから、ユーモアを交えて伝えていく。日記と一緒で、日々思うことあるから歌詞を書けなくなるなんてことももちろんないし、曲が作れなくなることもない。ま、好いた惚れたばっかり歌ってたら、曲作れなくなるだろうね(笑)」

――怒髪天の音楽が広まったタイミングでは聴いた人が励まされるみたいな部分があったと思うんですけど、今回はまた違うじゃないですか?

「ロックやパンクっていうのはリアルであることが信条だから、もっとパーソナルになってきてる。ただ、今年57になる俺が、この令和の時代に生きてくなかでのリアルって、突き詰めれば突き詰めるほどいわゆるロックっていうもののテンプレート的なかっこよさとはどんどん乖離してくる。じゃあ、どっちを取るかっていうと、ロック的なかっこよさなんて興味の欠片もない。「OUT老GUYS」もそうだけど、リアルであるかを突き詰めるのが真髄だと思ってるんで。

――そういうリアルを広く敷衍(ふえん)させるっていう意味で、街鳴りしてほしい曲ってどれですか?

「全部そのつもりで作ったけど、やっぱり「令和(狂)哀歌~れいわくれいじぃ~」はわかりやすいんじゃないかな。クレイジーキャッツからの流れで、1曲の中に温度差のある音楽を展開させていて。これはもう切なる願いですよ。楽しいことだけやってたいのにそうさせてくれない、何とかしてくれよっていう。」

――サビのクレイジーキャッツ的な部分と対象的な地メロの部分が正直聴いてほしい気はします。

「いちばん辛辣ですからね、このアルバムのなかで」

――敵はお上だけに非ず的な?

「そう!仲間だと思ってたやつらが、とんでもねえバカだったのか !?と思ったし。例えば、まあ……去年の選挙だね。こんなにアホだったの?っていう。一部のロックバンドだって、この期に及んでもすいた晴れたで新曲作ってんだと思ったら顎外れちゃったもんな。ロックってなんなんだ?って。そういうのは家でやれよって(笑)」

――シリアスな意味で腹落ちしたのは「Go自愛」でした。

「一昨年親父が死んで、かあちゃんがやっぱ予想以上にへこんでてね。“もっと、何かしてあげたらよかったかな”とか思っててさ。友達が死んだときに俺もそう思った。だけど、できることなんて何もない。それなら、親父とか仲間が大事にしてくれた、愛してくれた自分がまだ生きているんだから、“現状維持”で生きていけばいいと思って。“優しさスキルアップ”みたいに頑張っても、やっぱり続かないだろうし疲れちゃうと思う。だから、誇りを持って“現状維持”でいいんだよって。愛されて信じられていたんだっていう勲章をひとつもらってんだから、それで普通に生きていけばいいんじゃない?って思って。それがずっと考えてた俺なりに出した見解。」

――最初の<ヒトの分まで生きるだなんて思い上がんなよ>っていう言葉にぐっときました。

「そういうふうに思っちゃう人多いと思う。でも、俺は、人の分までなんて無理。自分の事も出来てないのに。“やっぱりあん時やっときゃよかったな、あん時声かけとけよかった”なんてこともすごく思うけど、意味がないと思う。」

――その人の一生を尊重すればいいというか。そして曲自体は結構ひねりが効いてるUKパンクっぽいところがかっこいいなと思って。

「湿っぽくならないように、暗さの全くないドライなサウンドで短い曲にしようと思って」

――バランスが最高です。もう全部の曲があらゆるジャンルに究極に振ってるのも今回の特徴で。

「だから今回の6曲は“音楽的情緒不安定”って思ってる。1曲ずつの振り幅がすごすぎて(笑)。喜怒哀楽が激しすぎるっていう」

――主にこの瞬間の怒りという感じです。

「なるべく早く世の中に発表したいね。やっぱりコロナ禍云々で、ここからどうバンドを展開していくかっていう、潮目を見るとこなんで。リスタートというか、徐々に元の状況に戻るんじゃないかっていう祈りを込めて」

――「ジャナイWORLD」は音像もかっこいいです。

「かっこいいよね。だから日本語が分かんない人が聴いたら普通にかっこいい曲だと思うんじゃない。歌詞は、自分たちが思ってた世界線と全然違うところに来ちゃってるんで。その警笛というか、まあ、怒ってるね(笑)」

――まあなんか、この国の正体がわかっちゃったというのもありますね。

「そうだね。で、じゃあどうすんのか?って言ったら、微力ながらも自分がやれることをやっていくっていうことしかないんだよ。「ジャナイWORLD」は、例えば選挙で何も考えてない奴らの集団心理じゃないけど、多数決で決まったことで俺らまでえらい迷惑かかってるでしょ?とんでもないデメリットを被るのは、ほんとに勘弁してほしいなと思って。どんどん、ジャナイ方に世の中が動いていく。困るんだよな。」

――江戸末期の「ええじゃないか」のニュアンスもありつつ、令和の人間はすでに疲れてる気もします。

「この2、3年は日本中、世界中が本当我慢してきたから。なんせ、根性論で強行突破できないことだったから、元気なくなったし疲弊したよね。」

――元気がある人は怒っていいんだよっていうのを言わないと、怒り方がわからない人が多いですからね。

「怒り方…… “俺は怒ってる!”ってことかな。言うなれば(笑)。“お前らも怒れ!”じゃないもんね。“俺は怒ってる!”ってこと。なんせ先走ってるから」

――でもがわかってくれる人がいるかもしれない。

「そうね。俺は、みんな共感してくれると思ってるけどね。“そうだそうだ!”って。前はライブで楽しく盛り上がって、いつの間にかとんでもないことを一緒に歌ってるっていうのがいいかなと思ったんだけど、もはやその段階でもないんだよね。言いたいことを俺が言うっていう」

――今、人が亡くなったらすぐSNSにRIPと書く人が多かったりして、そういう人には「Go自愛」を聴いてほしいと思っちゃいました。

「全然、縁もゆかりもない、“お前からのコメントいらねえよ”っていう。本当、何ていうかこう無神経。本当に思ってたらそんなこと書いてる場合じゃない。承認要求そんなとこで出してる場合じゃない。俺なんて近しい人の葬式には行かない。俺だったら、俺の死んでるとこ見てほしくないし」

――どうせなら生きてる間に会いたいですよね。

「そう。最後に不義理させてくれよっていうね。だけどもう、そういう無神経な人種とは断絶してるんだなってのはわかったけどね。この2年、3年のコロナ禍で分かった。なんとなくぼんやりしてたものが本当にこうクリアになってきたからね。敵だってわかっちゃった。ちょっと衝撃だったけどね」

――悪い人じゃないと思ってたけど違ってた……と?

「意識的じゃない悪って一番よくないね。そこに悪意があってくれればまだいい。むしろ善意があるからね。それがこっちに毒として降りかかってくるのはもう勘弁してほしい」

――怒髪天としてはそういうの全部はねのけていくと?

「まあ、オセロやってるようなもんかな。一個ずつひっくり返す。もうそれしかない。いっぺんにひっくり返すことは無理だっていうのはわかったから」

――その一個ずつって意味では、ワンマンツアーも楽しみですけど、いっぱい対バンしていただきたい気持ちです。

「そうね!対バンのお客さんにひっくり返ってもらう(笑)。ワンマンはもう全部ひっくり返った状態で来るからね。今まで俺らのこと好きだった人は両手を挙げてすごい喜んでくれると思うから。“よくぞやってくれた!”って(笑)」

――それこそ本当にラブソングばっかりを歌ってるような人たちとやるとか。

「でもそういうの聴いてる人たちにとって、俺たちは一番嫌なタイプだろうな(笑)」

――ところでこのアーティスト写真はまた違う意味でひっくり返りました。

「ひとりズラかぶってるからね(笑)。名前しか聞いたことがない、40年もやってるバンドで怒髪天って聞いたら、みんな、ぽわーんって頭の中にこんなバンドなんじゃないかな?って想像するだろうなって。そこに完全にあてこすってるよね(笑)。“やっぱりこういうバンドか!”って。で、1曲を目聴いたらひっくり返るだろうなと思って」

――これをできるバンドってなかなかいないじゃないですか。

「そうだね。決してかっこよくはないからね。ただ、撮影してるうちにだんだん意外とかっこいいんじゃないかな、これ……と思ってきちゃって(笑)」

――今回、ツアーも長いですね。

「まあやっとツアーらしいことできるのかなっていう。今回、打ち上げもできるのかなあ……コロナ禍で全然やれなかったし。この3年ぐらいは、せっかくツアーで地方に行ったのにコンビニの飯か楽屋弁当持って帰ってホテルで食って寝るっていう」

――今回はぜひ打ち上げもしていただいて。中野サンプラザのスターダスト☆レビューとの対バンも楽しみです。

「ね!これはホント楽しみ」

――昔だったらちょっと考えられない対バンなんですけど、長くバンドを続けてるとこんなこともあるんだなって。

「結局なんつーの?道が一緒なんだなあって最近思うんだ。長年やってると音楽だけに限らずあらゆるものがこうひとつに集約されていくっていうか、伏線が回収されていくんだなと思って」

――いい意味で執念深い人が残ってる感じがしますよね。

「そうそう!やっぱ音楽が好きっていう人しか最終的に残らない。有名になりたいとかモテたいとか金持ちになりたいというものの手段としてバンドとか音楽を選んでる人は、ほかにもっと効率いいのがあればそっちに行くから。結局そうじゃない怒髪天とかスタレビみたいなバンドしか残らないんだよ(笑)」

(おわり)

取材・文/石角友香
写真/平野哲郎

LIVE INFO

■more-AA-janaica TOUR ~もうええじゃないか、もう~
5月10日(水)千葉 LOOK
5月13日(土)水戸 LIGHT HOUSE
5月19日(金)金沢 AZ
5月20日(土)岐阜 Yanagase ants
5月27日(土)広島 セカンド・クラッチ
5月28日(日)高松 DIME
5月30日(火)奈良 EVANS CASTLE HALL
6月1日(木)岡山 YEBISU YA PRO
6月3日(土)小倉 FUSE
6月4日(日)福岡 LIVE HOUSE CB
6月6日(火)滋賀 U☆STONE
6月10日(土)松本 ALECX
6月11日(日)新潟 GOLDEN PIGS BLACK STAGE
6月17日(土)仙台 Rensa
6月18日(日)郡山 HIPSHOT JAPAN
6月24日(土)名古屋CLUB QUATTRO
7月1日(土)大阪 umeda TRAD
7月7日(金)札幌 ペニーレーン24
7月14日(金)新宿BLAZE
■怒髪天 presents 2023 WORLD BAKA CLASSIC 決勝
w/ 柳家睦&THE RATBONES
6月25日(日)名古屋CLUB QUATTRO
7月2日(日)大阪 umeda TRAD
7月8日(土)札幌 ペニーレーン24
7月15日(土)新宿BLAZE
■さよなら中野サンプラザ音楽祭
w/ スターダスト☆レビュー
5月11日(木)中野サンプラザ

DISC INFO怒髪天『more-AA-janaica』

2023年3月22日(水)発売
初回生産限定盤/TECI-1802/6,050円(税込)
通常盤TECI-1806/2,750(税込)
テイチク




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