――松室さんが2019年から不定期に開催している対バン企画ライブ“LABORATORY”。ご自身がリスペクトするアーティストを招いて対バン形式で行われるものですが、こうした企画を始めようと思ったきっかけはどう言ったことだったんですか?
「2017年にデビューしてから、フェスやサーキットイベントでご一緒することはあっても、なかなか他のアーティストさんとしっかり絡むことがなくて…。あ、オーガスタの中ではあるんですけど(笑)」
――確かに(笑)。オフィスオーガスタといえば、毎年恒例の“Augusta Camp”で、所属アーティスト同士のコラボも見どころの一つです。
「そうなんです。でも、本当にそれくらいで。バンドさんなら対バンライブとかも多いと思うんですけど、シンガーソングライターの場合はなかなかそういう機会がなくて。それなら自分で企画して、外との繋がりを作っていきたいと思ったのが、“LABORATORY”の始まりでした」
――外との繋がりを作りたいと思ったきっかけも、また別にあったりするんですか?
「やっぱり刺激になりますよね。相手から受ける刺激はもちろんですけど、2マンにすることで僕のことを初めて観るお客さんが多い状態になるというのも刺激になりますし。実際、始める前に“そうなればいいな”と思っていたことが、今そうなってるって感じですね」
――ちなみに初めて開催したときのことって覚えてますか?
「もちろんです。wacciのみなさんに来てもらったんですけど、2マンライブというのに慣れていなかったので、始まる前は結構“どんな雰囲気になるかな?”という不安もあって。でも、やってみたらすごくあったかい雰囲気で。それはwacciのみなさんのおかげっていうのもあるんですけど、1回目にして、すごくいい方向性を見せてくれたというか。 “LABORATORY”というタイトル通り、2組が一緒にやることによる化学反応だったり、他のライブでは見られないものだったりを、お客さんに見てもらえたんじゃないかなとは思いましたね」
――過去6回行われた“LABORATORY”には、初回のwacciに続き、矢井田瞳さん、The Songbards、堂島孝平さん、GLIM SPANKY、BRADIOが出演。活動形態や性別、年齢を問わないバラエティに富んだラインナップですが、この企画では“自分がリスペクトするアーティスト”という大前提がありつつ、その上でさらにお声がけするときの基準みたいなものって決めてるんですか?
「僕が音楽を聴く上で気にしているところはメロディや歌詞、アレンジの面白さなど、やっぱり楽曲の良さなんですが、“LABORATORY”に関しては、それに加えて“ライブが楽しい”とか、“自分のワンマンとは違うものを届けたい”とか、そういったところも意識してますね。2回目に出ていただいたヤイコ(矢井田瞳)さんなんかは、僕がずっと昔から聴いていた方で。出演してくださっただけでもありがたいのに一緒に歌わせていただいて。僕自身が楽しかったのはもちろんですが、お客さんにも普段とは違うものを観てもらえたんじゃないかと。そういったところは対バンならではだと思います。明確に基準みたいなものを決めてるわけじゃないんですけど、自然と楽曲が素敵な人たち、ライブが素敵な人たちっていうのはあるかもしれないです」
――いろいろなアーティストを迎えるにあたり、オーガナイザーとして気を付けていることは何ですか?
「出てくださったアーティストのなかには、一度もお会いしたことがない方もいらっしゃるんです。にもかかわらず出演をOKしてくれるのは非常にありがたいですし、一緒にセッションしてくれたりする方もいて。そのありがたさを感じながら当日を迎えるっていうのは大事なことかなって思いますね。お客さんも、2組の関係性みたいなものを期待してると思うんですよ。なので、そういうのを感じてもらえるような絡みもちょっと入れたほうがいいかなっていうのは考えています」
――“LABORATORY”では必ずお互いの曲をコラボするとか、何か決まり事があるんですか?
「“必ずこうする”っていうのは決めていないです。コラボがある場合も、あちらから“あの曲やりたい”と言ってくださるときもあれば、こちらから“この曲をご一緒したいです”とお願いするときもあって、毎回違います。そのコラボ曲も、アンコール的に最後にやることもあれば、最初にやってしまうことも。そのあたりはそんなにぎゅっとは決めずに、そのときそのときで決めていく感じです。続けるためにも、そのほうがいいと思うので」
――また、回を重ねるごとにライブも変化していくと思うのですが、大きく変わったと思うのはどんなところですか?
「昨年は初めて東京を飛び出して名古屋や仙台、それから僕の地元大阪でも開催したんです。各地違うアーティストの方を迎えただけでなく、僕は1人でステージに立ったところもあれば、バンドで出たところもあって、本当にその日限りの内容で。なかなかの特別感があって面白かったですね。そもそも“LABORATORY”を全国でやるとは、始めた頃はあまり考えていなかったですし。でも、考えてみればバンドの人たちはよくやってるんですよね。2マンツアーとか、各地で違うバンドと対バンするとか。なので、それをちょっと味わえた感じがして楽しかったです」
――地方に行ってみて東京とは何か違う感覚ってありましたか?
「ライブするのが久しぶりの場所もあったので、それだけでも“ありがたいことだな”と思いました。あと、地方に行くと、打ち上げがあります(笑)。GLIM SPANKYと仙台でやったときは、亀ちゃん(亀本寛貴)とかなり遅くまで話してましたね」
――普段できない話とかもできそうですね。
「やっぱり濃密度が違いますね。もっと言えば、曲をセッションしたりするのも、フェスやイベントではなかなかできないことですし。また、お招きしたアーティストも、おそらく“松室とやる”っていうので考えてくれたセットリストがあると思うので、そういうのは東京とか地方とか関係なく、2マンライブだからこそできることだなぁと思います」
――“LABORATORY”をご覧になったファンの方からは、どんな声が届いていますか?
「お招きしたアーティストのファンとして“LABORATORY”に来て初めて松室のライブを観てくれた人が、今度は松室のワンマンライブに来てくれたり、その逆もあったり。そういうのを聞くと、めちゃくちゃうれしいですね。たぶんですけど、よっぽど音楽好きな方じゃない限り、ライブに行くってけっこう腰が重くなると思うんですよ。だからこそ目当てのアーティストを観に行って、そのなかで他のアーティストのライブも観られる機会があるっていうのは面白いんじゃないかなって思うし、“LABORATORY”を通してその人たちが好きと思う音楽の広がりが作れたら素敵やなって思います」
――ご自身が作る楽曲にも“LABORATORY”での経験が影響していると感じることもありますか?
「いろんな方と一緒にやることによって、逆に“自分の曲がどういう曲か?”を再認識することが多いです。楽曲が、CDで聴くのと、生で歌ってる口の動きや姿とかを観ながら聴くのとではまったく違う印象になるのと同じように、相手のアーティストが僕の楽曲を歌ってくれることで改めて“自分っぽさ”みたいなのを感じることもありますし。実際、セッションするときにアーティストの方から“こういうところが松室っぽい”と言われたりもするので、“そうなんだ!?”って。何が自分らしさかって、なかなか自分ではわからないので、“LABORATORY”をやることで再確認したっていうのはありました」
――対バン相手から言われたことで、自分でも気付いていなかった自分らしさってどんなところですか?
「ちょっとしたコード感とかですかね。GLIM SPANKYとの回で「きっと愛は不公平」という曲を一緒にやったんですけど、そのコードに乗っかってるメロディについて、(松尾)レミさんが言ってくれたこととかは、“確かにそうかもしれない”みたいな。自分の身体から出ているものなので、自分ではどういう動きをしてるのかとか意識してなかったんですけど。そこは言われて感じましたね」
――“LABORATORY”を始める前は、他のアーティストさんとの絡みが少ないと話していた松室さん。でも、最近は2マンライブに呼ばれる側になることも増えていませんか!?
「確かに。前はあまりなかったので、呼ばれるのはめちゃくちゃうれしいです。呼んでいただけるものは、基本的に“ありがとうございます!”って感じで全部出させてもらってます」
――迎える側と迎えられる側とで心境の違いもあるんですか?
「やっぱり迎えられる側のほうが気はラクです(笑)。自由にやってもいいっていう場をみなさん作ってくださるので。でももちろん、“この人たちが呼んでくれたからこういうセットリストにしよう”っていうのは、すごく考えます」
――なるほど。相手のアーティストに合わせたセットリストっていうのがあるんですね。
「会場の雰囲気によっても違うし、お客さんが座って聴いてるのか、スタンディングなのかによっても違ってきますし。そういうのを考えるのは楽しいですね」
――セットリストってそんなふうにあらゆることを想定しながら決めていくんですね。
「あ、他の人のことはわからないです。たぶん、だいたいはそうだと思うんですけど…」
――セットリストの作り方って、誰も教えてくれないですよね…。
「そうなんですよ。セットリストだけじゃなく、レコーディングのやり方とかもそうなんですよね」
――そういう意味では、“LABORATORY”はお互いの情報交換の場にもなっていたり?
「やっぱり、バンドさんのレコーディングの仕方と、シンガーソングライターのレコーディングの仕方はまったく違うと思うので。僕なんかは、アレンジをガッと作って、それをミュージシャンの方に来ていただいて演奏してもらう形ですけど、バンドは“せーの”で、その場で構築していく。その違いは曲にも表れると思うので面白いと思います」
――“LABORATORY”で対バン相手がバンドのときは、その違いに注目してみるのもいいかもしれないですね。
「そういうのを意識しながら観てもらうのも面白いと思います。曲の作り方以外にも、レコーディングやリハーサルの仕方っていうのも全員違うと思うので、その日のライブに至るまでを想像しながら観たりすると、また違った面白さを感じてもらえると思います」
――そのほか、“LABORATORY”だからこその見どころは、どういったところにあると思いますか?
「自分の場合で言うと、セットリストはポイントの一つになるかなと思います。ワンマンライブとか楽曲リリース後のライブとかだと、どうしても新しい曲が中心になって、“最近あんまり歌ってないな”っていう曲も結構出てきちゃうんです。でも、“LABORATORY”に関しては、そういうのはまったく関係ないので」
――ワンマンライブでは聴けないような懐かしい曲、レアな曲が聴ける可能性も?
「そういうのはあるかもしれないです。ただ、それと同時に、僕のライブを初めて観るお客さんがいるってことも意識したセットリストにもなるので。そう思うと、逆にバランスのいいセットリストになっているような気もします」
――こうしてお話をうかがっていると、“LABORATORY”は松室さんにとって刺激でしかないというか(笑)。“LABORATORY”をスタートさせてから、自分のなかで音楽に対するマインドが変わったというような変化も感じたりしていますか?
「“LABORATORY”を始める前は、ライブっていうのをどう捉えようか、実はずっと自分のなかでの落としどころを見つけられずにいたんです。というのも、僕にとっては「曲を作る」と言うことが音楽の初期衝動で。いまだにそれが原動力になっているんですけど、“LABORATORY”を通していろんな方のライブへの姿勢を見ていたら、ライブに対する考え方はみなさん違うっていうのがわかってきたんです。それをいろいろ見させてもらううちに、“自分にとってライブとはどういうものなのか?”を改めて考え始めるようになったっていうのはあると思います。答えが出たかって言われたら、まだ出ていないんですけど…」
――以前はライブに対して苦手意識があったんですか?
「苦手っていうわけでもなかったんですよね。なんていうか、“自分で作った曲を披露する場所”みたいな考え方だったと思うんです。でも、ライブってそれだけじゃないと思いますし、さっき言ったような“その日限りの特別感”もありますし。以前はその“その日限りの特別感”っていうものに、気付けていなかったのかもしれません。それをいろんな人と一緒にやらせてもらっていくなかで気付くようになって、ライブへの心の持って行き方みたいなものも、ちょっとずつ考え出すようになった感じです」
――“LABORATORY”を始めてからの一番の大きな変化はライブだった、と。
「だと思います。間にコロナ禍でライブができない時期もあったので、ライブへの意識は余計に大きく変わったと思いますね」
――そして、今年も“LABORATORY”の開催が決定しました。6月、8月、10月の3公演のうち、6月の“session7”は清 竜人さん、8月の“session8”は井上苑子さんというゲストが発表されています。清さんと井上さんを選ばれた理由や、それぞれ魅力に感じているところを教えてください。
「実はお二方ともお会いするのは初めてなんです。清 竜人さんはほぼ同い年。なんですけど、清さんはデビューがめちゃくちゃ早くて、僕は普通に10代で大阪に住んでる頃に聴いていたので、先輩を迎えるような緊張感があります。でも、こういう2マンで清さんがどういうライブをされるのか、すごく楽しみなんです。もちろん楽曲も素敵ですし、いろんな顔を持ってはるところもカッコいいですし。ああいうことができる人はなかなかいないですよね。しかも、周りを巻き込んで、ちゃんとリリースまでしてるっていう。どういうことをしたら、そういうことができるのか…。その片鱗をライブで観られたらいいな、楽しみだなって思いますね」
――井上さんとのライブで楽しみにしているところは?
「井上さんの音楽はポップでキャッチーで。そういう方と一緒にライブをするのは最近なかったので、非常に楽しみですし、“LABORATORY”のなかだと、女性アーティストとの2マンって少ないんですよね。セッションとかもどういう感じになるのか…。とにかくライブが楽しくなりそうっていうのは今から想像できるアーティストさんなので、とても楽しみにしてます」
――ソロアーティスト同士っていうのも楽しみですね。
「そうですね。ソロの方のライブは、いろんな人を観せてもらえばもらうほど勉強になります。1人でできることって、それが弾き語りだろうが何だろうが、ある程度限られてくるんですよ。そんななかで他のアーティストさんを観ると、“僕もやってみようかな”とか思わせてもらえる手法に出会ったりもするので楽しみなんですよね」
――今回、松室さん自身はどんな形態で出演されるんですか?
「それは当日までのお楽しみです(笑)」
――なるほど(笑)。ちなみに、松室さんは普段、バンドで出るときとそうじゃないときとで、どういうところを楽しんでもらいたいという気持ちでステージに上がっていますか?
「弾き語りのときは、全体の空気感みたいなものを意識しています。1人なので、曲の中であっても、どこでどれだけ間を開けてもいいわけじゃないですか。なので、1曲通しての空気感っていうのは意識していますね。一方、バンドのときは、メンバーのみんなが本当に上手い人ばかりなので、彼らの演奏に身を委ねながら。そのときは“自由に楽しそうに歌ってる松室がいるな”と自分でも思うので、バンドと弾き語りとではまったく違うベクトルになると思いますね」
――今回の“LABORATORY”ではどちらの松室さんが観られるのか、楽しみにしています。今後はこの“LABORATORY”を、どんなふうに発展させていきたいと思っていますか?
「昨年のツアーが面白かったので、また東京以外でもできたらいいなとは思いますね。あと、これまで出演してくださったアーティスト全員が集まるとか。すごい数になりますけど(笑)、そういうのもできたら面白いかなって思います。それこそライブだけじゃなく、楽曲を一緒に作れたりしたら楽しそうですよね」
――最後にシンガーソングライター・松室政哉としての活動予定や目標を教えてください。
「昨年久々にアルバムを出せて、今年に入ってそのアルバムを引っ提げてのツアーがあって。なので、引き続き最新アルバム『愛だけは間違いないからね』をたくさんの方に聴いてもらえるようにっていうのはもちろんなんですけど、さっきも言ったように、曲を作ること。最近はドラマや映画の劇伴とかもやらせてもらっていて、それも自分の曲作りのなかの一つなので、いろんな形の曲が作れればいいなと思いますね。それからライブも、ここ1、2年で行けなかった場所、地方も含めて、またきちんと会いに行けたらいいなとも思っています」
(おわり)
取材・文/片貝久美子
LIVE INFORMATION
Matsumuro Seiya Presents "LABORATORY"-session7-
出演:松室政哉 / 清 竜人
日程:6月10日(土)
会場:東京・代官山UNiT
開場 / 開演:17:00 / 18:00
<チケット>
料金:全自由 ¥5,000円(税込・整理番号付・D代別)
※未就学児童のご入場はできません。
※小学生以上の方はチケットが必要となります。
販売期間:3月31日(金)10:00~6月9日(金)23:59
イープラス:https://eplus.jp/matsumuroseiya/
ぴあ:https://w.pia.jp/t/matsumuroseiya-t/
Matsumuro Seiya Presents "LABORATORY"-session8-
出演:松室政哉 / 井上苑子
日程:8月5日(土)
会場:東京・代官山UNiT
開場 / 開演:17:00 / 18:00
<チケット>
料金:全自由 ¥5,000円(税込・整理番号付・D代別)
※未就学児童はご入場できません。
※小学生以上の方はチケットが必要となります。
販売期間:5月27日(土)12:00~8月4日(金)23:59
イープラス:https://eplus.jp/matsumuroseiya/
ぴあ:https://t.pia.jp (Pコード 244-777)
ローチケ:https://l-tike.com (Lコード 75913)
Matsumuro Seiya Presents "LABORATORY"-session9-
出演:松室政哉 / ???
日程:10月7日(土)
会場:東京・代官山UNiT
対バン相手や公演詳細は後日発表!!