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――さて、まずは時候のあいさつから。コロナ禍に見舞われて約1年が経過したわけですが、松室さんはこの間をどうサバイブしていたのでしょう?
「そうですね……基本的に家にいる時間が多かったですね。去年の3月11日――本当にちょうど1年前ですね――に「ハジマリノ鐘」のEPをリリースし、それを引っ提げてのツアーを予定していたんですけど、それもなくなり。2020年の後半には配信ライブとかがありつつも、ほとんど家にいて曲を書いたり、ずっと制作していました」
――そういうライフスタイルって苦にならないですか?
「あ、でも僕、そもそもがインドア派ですから(笑)。なので生活パターンはコロナ前とそんなに変わっていないです」
――もちろん、気持ちの面ではいろんな思いを抱えていたんでしょうけど、ひとまず平気だったと。で、6月の配信ライブは、『Matsumuro Seiya Live 2020「はじまりの鐘が鳴る」』ツアーを代替するものではなく?
「はい、全く別のものとして。「Matsumuro Seiya Online Live 2020 "ウチデ見ル君想フ" -ムロの日Special-」というタイトルでアコースティックセットの特別版といった感じです」
――そしてDVDとして『Touch』にパッケージされている「Matsumuro Seiya Anniversary Live 2020 "with Quartetto" Online」がいちばん最近のライブアクトということですね。
「そうです。毎年11月1日のメジャーデビュー記念日にやってるんですが、今回はスタジオライブを配信というかたちで。まあ、慣れたといえば慣れてきたんですが、やっぱり配信だとお客さんの反応がすぐには見えないので……やっぱりそこは、通常のライブとは違うものとして捉えていますね。お客さんを呼べないから代わりにやっているという感覚はないです。そういう発想でやると難しくなっちゃうので。ただ、配信ライブって、ライブのひとつのかたちとして、コロナが去った後もふつうに残っていくんやろなと思います」
――Augusta Campもオンラインで開催され、12月にはコラボレーションアルバム『Augusta HAND × HAND』のリリースもありましたね。
「『Augusta HAND × HAND』は配信番組用に、山さん(山崎まさよし)とやった「2人のコンプライアンス」だったり、ヨウヘイさん(浜端ヨウヘイ)との「Rewrite」のスタジオライブ映像も作りましたし」
――しかし、「2人のコンプライアンス」ってすごいタイトルですね!
「これ、曲は僕が書いて、詞とタイトルは山さんです。まあ、らしいっちゃらしいですけど、時代ですかね(笑)。最初、山さんからタイトルだけ送られてきまして。それはもう度肝を抜かれました(笑)」
――松室さん自身はスタジオライブというフォーマットを楽しめていますか?
「んー……僕、レコーディングもそうなんですけど、基本的にスタジオで作業するのが好きなんですよ。だから“スタジオでライブをやる”っていう意識はあまりないんですが、スタジオライブっていう形式は楽しいですね」
――そして、この1年を振り返ると、M!LKにクリスマスソングの「リンガベル」を、CUBERSにニューアルバムのタイトル曲「あたらしい生活」を楽曲提供というトピックスもありました。
「その2組への楽曲提供は、このコロナ禍の中でひとつ大きな出来事でしたね。M!LKには2019年――ああ、もう2年も前か!――にも「嫌い」という曲を書かせてもらいましたけど、CUBERSは初めてで、ボーカル録りも立ち会いました。CUBERSのレコーディングを見ていて思ったのは、仲が良くて賑やかなグループやけど、すごい真面目で真剣やなって。あとは、初めてドラマの劇伴を書かせてもらって。誉田哲也さん原作のドラマ「ボーダレス」ですが、クリエイターとしてのそういう仕事にも刺激をもらいましたね」
――映画好きの松室さんとしては、劇伴はぜひともやりたかった仕事じゃないですか?
「ずっと興味があったことやし、監督の金井 紘さんは、オフィスオーガスタが制作したショートフィルム「ボクと君」でごいっしょさせていただいて。そういう繋がりもうれしかったですね。ドラマの制作とほぼ同時進行だったので、台本をいただいて、このシーンにこういう曲が欲しいんだっていう金井監督のオーダーを聞いて、曲を書くという作業に何ヵ月もの時間を費やしたんですが、それが楽しかったんですね。またこういう仕事ができたらいいなと思いました」
――ドラマの映像に乗った自分の曲を聴いてみてどう感じましたか?
「“ああ、あのとき監督が言っていたあのシーンが絵になったらこういうふうになるんやな”と思いましたし、“劇伴ってこういうふうに作っていくんやな”、“映画の劇伴やとまたちょっと違うんやろな”って……いや、勉強させてもらいました(笑)。まあ、いろいろと大変なことがありましたけど、充実した1年でもありましたね」
――ちょっと安心しました。ここ1年、ともするとへこたれそうになることばっかりだったじゃないですか。
「ははは!僕、わりとどんな状況になっても平気かもしれないです。でも、こんなときだからこそひとりひとりが平気であることが大事やと思うんですよ。僕はどんなことがあっても夜寝て、朝起きたら忘れられるし。だからそのときそのときでできることをやっていくっていう姿勢が健全だと思うんです」
――そういった時期を経て、この『Touch』が完成したわけですが、ミニアルバムというフォーマットは初めてですね。
「EPはありましたけどミニアルバムは初めてです」
――いきなり核心めいたことを聞いちゃいますけど、アルバムタイトルを『アイ』にしなかったのはなぜでしょう?
「ああ、なるほど!(笑)まあ、でも僕の中では“アイ”という言葉を包括しているのが“Touch”かなと。特に、このコロナ禍にあって、触れるということが制限されていたわけじゃないですか。触れ合うことができるから愛し合うこともできるし、わかりあうこともできると思うんです。触れることができるから傷つけてしまうこともあるし、赦しあうこともできる。触れるということが人と人との関わり合いの原点にあるというか……僕はこの1年でそのことに改めて気付いたんですね。今回、恋愛について歌った曲が多いんですが、原点というか、そのすべてが“Touch”っていう言葉にたどり着く気がしているんです」
――アルバムには「Touch」という曲も収録されていますが、アルバムタイトルと楽曲、どちらが先に生まれたんですか?
「楽曲の「Touch」が先でした。他の収録曲もすべて出揃って、曲の並びも決まって、そのあとにアルバムタイトルを決めました」
――M1の「ai」を聴いてみると“アイ”という言葉にさまざまな意味を与えていますね。
「歌詞に出てくる“アイ”にはいろんな漢字を当てていますし、タイトルもいろんな意味に捉えてもらえるように「ai」と綴りました。恋愛の愛以外にも、哀しいの哀、曖昧の曖もありますし、本当にいろんな“アイ”がある。でもそのすべてが恋愛しているときに思い浮かべてしまう言葉だと思うんですね。そしてその言葉の全部が歌詞として落とし込みやすかった。なんでしょう……ギミックやレトリックとしてやろうという意図はなくて、歌詞としてぽんぽんぽんと自然に落とし込まれていった印象がありますね」
――タイトルについての質問その2ですが、収録曲の曲名がすべて英語表記なのはなぜでしょう?
「これ、出来上がった曲の仮タイトルがアルファベット表記やったんですね。なので制作段階でそれをそのまま並べていたら、なんとなく映画のDVDのチャプターというか、小説の章のようにも見えたんです。で、今回のミニアルバムは“映画のような音楽”というコンセプトがありますけど、こんなふうに英語表記に統一したほうが、『Touch』という作品の世界観やストーリーがより伝わりやすいのかなと思ったんです」
――では、この『Touch』という作品が映画だとしたら、作り手の松室さんとしては、ひとつの長編を作っている感覚ですか?それとも短編のオムニバス?
「僕のイメージでは長編ですね。すべてが繋がっている、ひとつの『Touch』というお話を紡いでいる感覚です」
――そして『Touch』は、Musicalize Projectの一環として生み出された作品とされています。ムジカライズという言葉の意味するところは?
「たとえば、ノベライズとかコミカライズという言葉がありますが、ムジカライズも同じですね。小説化、マンガ化、音楽化するという意味で、今までもずっとその手法で音楽を作ってきたんですが、より深く視覚化したストーリーを描くというか……出来上がった楽曲をより視覚的に伝えるということもテーマに掲げています」
――これまでも『シティ・ライツ』のようなアルバムスケールでは特に映画的な視点で描かれていたように思いますが、そのコンセプトをより深化させるということなんでしょうね。
「そうですね。たとえばEPとミニアルバムで曲数的には同じだったとしてもEPの場合は、リード曲が軸にあって、あとはおもちゃ箱的というか、アラカルトっぽく楽しんでもらう感じがあったんですけど、今回の『Touch』はひとつのストーリーによって成り立っているという部分が大きな違いになっていますね」
――なるほど、確かにEPやフルアルバムだとハネてる曲もあれば、どろっとした曲もあったり、抑揚を効かせていますが、『Touch』はあえてそこを抑えてコントロールしているように感じます。
「うん、それは意識してやった部分ですし、やはり『Touch』というストーリーが最初から見えていたので、そこにアレンジを加えていったということですね。レコーディングのバンドメンバーも全曲いっしょなのでサウンドの統一感も出たと思うんです。今まではそういうやり方をしていなかったので」
――今回のようなコンセプトアルバムというアプローチだったり、ミニアルバムというスケール感の作品づくりをしてみてどうでしたか?
「当初からこのくらいの曲数がいいなというのは話し合っていたのでそれは想定内なんですけど。ただ、できあがってみたら、結構、1曲1曲がズドンと重みがあるなというのが実感です。なんですかね……あんまり6曲を通しでさらっと聴き流せる感じはないなと。もちろんミドルの曲もあれば打ち込みの曲もあったりそれなりに抑揚はあるんですけど、それぞれの曲にテーマを与えてストーリーを語っているので。マスタリングのときに通しで聴いたら、映画を1本見た後と同じ心地よい疲労感がありました(笑)」
――映画的という意味では、シャッフルしたら全然違う聴こえ方になっちゃうんだろうなとは思いました。
「それはあると思いますね」
――それだけストーリーテリングとして完成されているというか。1曲目の「ai」は付き合い始めで"キミ"との関係性に自信が持ててない感じ、「hanbunko」でぼんやりとその状況を楽しめるようになったかと思えば、「PUZZLE」では早くも倦怠期ですよ(笑)。
「そして「Cube」で破局の足音が聞こえてきて(笑)……まあ、聴き手のみなさんはそうやって曲と曲の間のストーリーを補完しながら聴いてくださっていると思うので、たぶん6曲分以上のボリュームの映画を見ている感覚なのかなと」
――曲間のストーリーを脳内でアンプリファイしちゃうんです。個人的には、やりたいことをすべてやってみようというアプローチに松室さんの作家性を見出していたんですが、ここまでセルフコントロールされたアルバムを出してくるとは……意外でした。
「最初にミニアルバムにするって決めたのは大きかったですね。これが12曲でストーリーテリングするってなると全然違ってくるでしょうし。僕、そうやって最初に型を決めて制作するってアプローチが好きなんですよ。曲数は変えない、バンドメンバーを変えない、とかね。そういう縛りがあるなかでやっていくことが全く苦ではないですし、楽しめるタイプですね。セルフコントロールって言ってくれましたけど、そういう制限がある中で好き勝手やってますし。だってルールがあるから遊べるわけじゃないですか」
――そうかもしれませんね。そういう意味では、今回、「Hello Innocence」とか「今夜もHi-Fi」、「マーマレードジャム」、「午前0時のヴィーナス」みたいな、松室さんの音楽的嗜好を落とし込んだ曲は入ってないですよね?
「あ、それ系の曲、今回は入れてないですね(笑)。そのぶん、次の作品はブラックに寄っていったり、めちゃくちゃロックになってるかもしれませんし、逆に今回の発展形でもう1作とか……まあ、そういう自由を与えてもらってるってすごくありがたいことだなとは思いますけどね」
――さて、月日の経つのは早いもので2021年も最初のクォーターが終わってしまいましたが、松室さん的にはどこに向かっていきたいですか?
「そうですね……2月、本当に久しぶりに東京でお客さんを入れてライブをやったんですが、ちょっとずつちょっとずつやっていくのが大事やなって実感したし、いつ何が起こって、そういうタイミングが巡ってくるかわからないじゃないですか。だからそういうときのために曲を作っておくこと。僕らミュージシャンだって、音楽を聴くし、僕は映画もお笑いも好きやし、みんなそういうエンタテインメントを欲しているわけじゃないですか。なので、僕の音楽を欲している人のためにできることをちょっとずつでいいからやっていく、曲を書いていくってことでしょうね」
――松室政哉、平常営業してますと?
「ははは!そうですよ、平常営業してます!さっきも言いましたけど、やっぱりこんな時代だからこそ、平気でいることが大事なことやないですか?」
(おわり)
取材・文/高橋 豊(encore)
写真/柴田ひろあき
■Matsumuro Seiya Live 2021 “Cafe de MURO” -ムロの日Special-
(ライブインフォ)
6月6日(日)@duo MUSIC EXCHANGE(東京)
■Matsumuro Seiya Tour 2021 “Touch”
7月5日(月)@Music Club JANUS(大阪)
7月6日(火)@APOLLO BASE(愛知)
7月12日(月)@duo MUSIC EXCHANGE(東京)
- 松室政哉『Touch』
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2021年3月31日(水)発売
CD+DVD/UMCA-10081/3,080円(税込)
オーガスタレコーズ/ユニバーサルミュージック