かりゆし 58から通算9作目のオリジナルアルバム「七色とかげ」が届けられた。
前身バンド時代の自主制作盤の題名を冠した本作には、配信リリースされたEP「HeartBeat」、シングル「ミルクと包帯」の収録曲のほか、沖縄県糸満市の中学生から歌詞の断片を集めて制作された「再々会会」、ライブの盛り上がりを想起させるアッパーチューン「Jump UP!」、本土復帰50周年の節目を迎える故郷・沖縄への思いをストレートに描いた「群青」などを収録。“らしさ”と“新しさ”を共存させた本作によってかりゆし58は、さらに充実した時期に向かっていくことになりそうだ。
――まず、前作「バンドワゴン」(2020年2月)以降の活動について。ライブやツアーなどが出来ない時期が続きましたが、みなさんにとってはどんな時間でしたか?
前川真悟(Vo/Ba)「意外と楽しかったですよ。バンドの動きは制限されたけど、そのぶん、個人として自由にいろいろやらせてもらったので。母親のデビューも決まりましたから(笑)」
――前川さんのお母さんの夢、“歌手デビュー”を叶える“#リアルアンマープロジェクト”ですね。宮平さんはどうでした?この2年間。
宮平直樹(G)「確かにライブはあまりできなかったけど、個人でYouTubeの配信をはじめたんですよ」
新屋行裕(G)「怪談系Youtuberだからな(笑)」
宮平「(笑)いろんな配信者の人たちとも仲良くなって、バンド以外の広がりができましたね」
新屋「1年目(2020年)は何もやってなかったんですよ、ホントに。ギターも全然弾いてなくて、洋貴とキャンプばっかりしてました(笑)」
中村洋貴(Dr)「いつもは空いてる地元のビーチにキャンパーが集まってたんですよ」
新屋「飲みにも行けなかったからね。2年目(2021年)からはちょっとずつ社会復帰して」
――中村さんは神経症のケガのため、2016年から2020年まで活動を休止していて。復帰直後にコロナになってしまったわけですが……。
中村「そうなんですよ。この2年間、ライブのたびに“戻ってきました”って言ってて(笑)。やっと活動できるようになってきて、よかったです」
新屋「演奏してないと、何の仕事をしてる人かわかんなくなるからね」
――昨年2月に配信されたEP「HeartBeat」に収録されている「掌」、「小麦色恋心」、「あいをくらえ」の3曲はリモートで制作したそうですね。
新屋「そうですね。沖縄(新屋、中村)と東京(前川、宮平)に分かれて、データでやり取りして」
前川「好き嫌いは置いておいて、新鮮ではありましたね。それまでは実際に顔を合わせて、直でコミュニケーションを取りながら制作してたんですけど、リモートは自分の家で録って、送り合うわけじゃないですか。「このフレーズ、どういう意図で入れたんだろう?」と解釈する時間もあったし、みんなの関係がフラットになった感じもあって。前回の配信シングル(「ミルクと包帯」)からはスタジオで録ってるんですけどね」
――なるほど。久々のレコーディング・セッション、どうでした?
前川「楽しかったですよ(笑)。“そう言えば俺たち、こんな感じでやってたよな”って思い出すというか…スロースターターなんですよ、とにかく。本番のレコーディングの直前までアイデアが出てこなくて、“曲が足りなくない?”って(笑)。誰かがやりはじめるまで、誰もやらないっていう」
宮平「曲作りのペースもゆっくりでした(笑)。去年の秋口くらいに“来年(2022年)アルバムを出そう”ということになって、そこから始めたんですけど…」
新屋「“最初のミーティングまでに、それぞれ最低2曲くらい持ってこよう”という話だったのに、誰も持ってきてなくて」
前川「ちょっとはあったさ(笑)。“メロディはあるけど、これ、どうする?”みたいなデモがいくつかあったんですけど、曲の行き先がはっきりしてなくて。アルバムの新曲は、(目的なテーマなど)方向や設定を決めて作った曲が多いんですよ。たとえば「国際通りに雪が降る」もそう。今年は沖縄の本土復帰50周年なんですけど、本当に国際通りに雪を降らせるイベントができたらいいなと思っているんですよ。復帰の前はカリフォルニア州だったんですけど、50年前、子どもたちの間で“日本に復帰したら、本土と同じように雪が降るかも”と噂になったらしくて。そのイベントのテーマ曲のつもりでレコーディングしたのが「国際通りに雪が降る」なんです」
――その曲を生み出す意義を明確にすることが大事だった。
前川「そうですね。方向がはっきりしたら、自分たちのモチベーションにもつながるので。そういう作り方になってからは、楽しくやれました」
中村「(スタジオでの録音は)“働いてる”という感じがしましたね(笑)。曲が揃ってくるにつれて、“かりゆしっぽいね”という言葉も増えて」
前川「うん。今回、久々にセルフアレンジなんですよ。ドラムの和也(サポートドラマーの柳原和也)を含めて、5人だけでアレンジしたので、“らしさ”が出てるのかもしれないです」
新屋「楽しい部分もあり、思いつめるところもあり(笑)。久々に東京でレコーディングしたので、息が詰まるような感じもあったんですよ」
前川「(笑)ずっと沖縄でキャンプしてたからな。沖縄に根差した曲が多いのも、それが関係してるんじゃない?」
宮平「それはあるな(笑)」
――音数を抑えることで、メンバー全員の音がしっかり感じられるのも印象的でした。
前川「それも意識してましたね。洋貴が叩く楽器(デジタル・ハンド・パーカッション“HandSonic”)の音がメインになってる曲もあって」
中村「使える音が増えて、いろんなパターンでやれるようになったんですよね。HandSonicのほかに鉄琴も演奏してるし、だいぶ幅は広がりました」
前川「洋貴の楽器がいちばん未知だし、そのぶん伸びしろがあるんですよね。洋貴のリズムと行裕のギターが絡んで、それがメインのフレーズになってる曲もあるんですけど、“こういうアレンジをやってるバンドは他にいないかもな?”と思ったり。パーカッションではなくて、DJやレゲエのサウンドマンに近い立ち位置なのかもしれないですね。洋貴がベースの音を出しても面白いだろうし、今後もいろいろ試してみたいです」
中村「この編成、流行るかも(笑)。自分としては“部署移動”みたいな感じなんですけどね。あと、今回のアルバムはハモリも多いんですよ」
前川「うん。今まではメインのハモリを行裕が歌うことが多かったんですけど、今回はサビのハモを直樹と洋貴が担当していたり。それぞれに役割があるし、“誰か一人でもいないと成立しない曲ばかりだな”って思います。初期の楽曲とも相性が良さそうだし」
――いろんな意味で“かりゆし58らしさ”を更新したアルバムになのかも。
前川「そうですね。これからライブで演奏することで、もっともっと好きになる余地もあると思っていて。メンバーの間でも捉え方が違うと思うんですけど、ライブを重ねるなかで、“この曲を作ってよかった”と思える日が来るんじゃないかなと」
宮平「さっき真悟も言いましたけど、何かに向けて作った曲もあるから、イベントやライブで落とし込むことが大事なのかなと思ってます」
新屋「うん。アルバムがリリースされて、聴く人に届かないとわからないところもあるので」
――では、収録曲について聞かせてください。1曲目の「再々会会」は沖縄の中学生から集めた言葉をもとにした楽曲。“また大事なあなたと再会したい”という思いがじんわり伝わってきました。
前川「去年の12月に地元の糸満市の中学で演奏したのがきっかけですね。コロナになってから、卒業式以外の行事がまったくなくなって、先生方から“生徒にサプライズで贈り物をしたい”というお話をいただいて。そのときは僕と行裕と洋貴の3人だったんですけど、1、2年生は初めて体験する全校集会だったみたいなんですよ」
中村「もちろんマスクはしてましたけど、楽しそうなのは伝わってきましたね」
新屋「音楽や楽器に興味を持つきっかけになってくれたらなと。この2年は音楽を楽しむ場もほとんどなかったと思うので」
前川「生徒のみなさんの前で演奏したことで、こっちの感情も揺さぶられて。次の一歩も一緒に踏み出したいと思って、卒業式に向けて楽曲を作りたいなと。かりゆし58の曲というより、みんなの思い出のBGMになったらいいなと思ってました」
――ちなみにメンバーのみなさんは、中学生のときはもう音楽に興味を持ってました?
前川「そうですね。先輩に洋楽のバンドを教えてもらったりだとか」
宮平「中学のときに沖縄でも“Mステ”(テレビ朝日系「ミュージックステーション」)が観られるようになったんですよ。あの番組を通して、いろんなバンドを知れたのも大きかったですね」
――「JUMP UP!」は沖縄の音階、レゲエやスカ、ロックのテイストを融合したアッパーチューン。
中村「テンション上がりますね!早くライブでやりたいです」
前川「ライブ用に作ったところもあるからね」
中村「お客さん、ジャンプしてくれるかな?」
前川「するさー!(笑) この曲、もともとはTEEくんに提供した曲なんですよ。クラブでも何回かやったんですけど、外れることがなかったので、かりゆし58でもやりたいなって。行裕のギターの暴れっぷりがキモですね」
新屋「酔った勢いで弾きました(笑)。ちょっとお酒を飲んでレコーディングして、翌朝、冷静に聴いて直すということを続けていたので」
――そうなんですね(笑)。「群青」のエモーショナルなギタープレイも素晴らしいなと。
新屋「かなりの練習量が必要ですね、あのギターは。直樹との掛け合いなんだけど…がんばろうな」
宮平「うん(笑)。アレンジ自体はシンプルなんですけどね」
――「群青」の歌詞は、戦後から現在、そして未来の沖縄のことを描いていて。
前川「そうなんです。もともと「群青」は直樹がメロディを持ってきて。最初はペニーワイズみたいなハードコア的な曲をイメージしてたんですけど、直樹が沖縄復帰の頃を描いた舞台を見て、めちゃくちゃくらって」
宮平「松山ケンイチさんが主演した『hana-1970、コザが燃えた日-』ですね。アルバムに入っている「花はどこへ行った」(「Where Have All The Flowers Gone」)のカバーも、その舞台のご縁でレコーディングしたんですよ」
前川「ベトナム戦争の時代にヒットしたアメリカのフォークソングです」
――忌野清志郎さんもカバーした有名な反戦歌ですよね。
前川「はい。「群青」の歌詞も、直樹からいろいろ話を聞いて、沖縄のことを歌おうと」
宮平「最初は自分で書こうとしたんだけど、難しかったんですよね。で、真悟に“こういう歌にしたいんだけど”って相談して、加筆してもらって」
前川「ここまで言い切った歌詞は久しぶりですね。」
――<許せないはずの相手まで/愛せてしまう矛盾を許して>もそうですが、いろいろなことを考えさせられる歌だなと。
宮平「どんなふうに捉えられるか、ちょっと怖いですけどね。単なる基地反対みたいなことではないというか…」
前川「この歌詞は…いつか来るべき“許しのタイミング”のことも歌っているんです。そうじゃないと、ずっと憎しみや悲しみが続いてしまうので。“もう許します”と俺たちは言えないけど、“いつの日か、あなたたちを好きになるタイミングが来るはず”というスタンスは示しておきたい。この曲を聴いて“許すのは早くない?”と思う人もいるかもしれないけど、胸を張って“いつかそのときが来ないといけない”と言いたいので」
宮平「うん」
前川「自分たちがいなくなった後に、“あいつら、いいものを残してくれたな”と思ってもらえる作品を作りたいという気持ちもありましたね」
――アルバムには「ミルクと包帯」「ちょき」など、日常を彩り、温かい気持ちに導いてくれる楽曲も。普遍的なメッセージから身近なことを歌った曲まで、すべてがつながっている感覚もありました。
前川「そう言ってもらえると嬉しいです。「群青」、「HeartBeat」あたりが軸になってるんですけど、収録曲がお互いに共鳴し合うアルバムにしたかったので」
――そして5月から7月にかけて全国ツアーを開催。アルバム『七色とかげ』の楽曲がステージでどう響くか、すごく楽しみです。
前川「初日が5月8日で、バンドの名前もかかってて。しかも母の日なんですよ」
中村「楽しみと怖さが半々ですね(笑)。とにかくやることが増えてるので…」
前川「準備する時間はたっぷりあったんだけどね(笑)」
中村「まあ(笑)、一生懸命やります」
新屋「数年ぶりに会うお客さんもいると思うので、“こいつら成長してるな”と感じてほしいなと。あとは“元気だった?”というやり取りをしっかりやりたいです」
宮平「セットリスト、ステージのセットもまっさらだし、今の自分たちの音楽を楽しんでもらえたらなと。やっぱり声は出せないみたいですけど、ツアーのなかでライブのやり方を見つけていきたいし、それが次につながると思うんですよね」
――かりゆし58は結成16年。次の目標は20周年ですね。
前川「そうですね。10周年のタイミングで洋貴がケガして、15周年はコロナ。“20周年こそ”という気持ちはすごく強いし、そのための準備はもう始まってますね」
(おわり)
取材・文/森朋之
写真/いのうえようへい
撮影協力/琉球どさんこ 【しぶ猫】
Release Informationかりゆし58『七色とかげ』
2022年5月8日(土)発売
369-LDKCD/3,520円(税込)
Living, Dining & Kitchen Records
*「ハイサイロード2022-再々会会-」ライブ会場・LD&K SHOP限定特典あり
Live Informationハイサイロード 2022 - 再々会会 –
5/08(日) 神奈川・KT Zepp Yokohama
5/13(金) 宮城・仙台 CLUB JUNK BOX
5/20(金) 大阪・BIGCAT
5/21(土) 広島・LIVE VANQUISH
5/27(金) 福岡・DRUM Be-1
6/02(木) 愛知・名古屋ダイアモンドホール
6/05(日) 香川・高松DIME
6/11(土) 石川・金沢EIGHT HALL
6/16(木) 京都・KYOTO MUSE
6/18(土) 高知・キャラバンサライ
7/09(土) 沖縄・ミュージックタウン音市場
[チケット料金:¥5,800]
席種:5/8(日) KT Zepp Yokohamaのみ全席指定 / その他公演全自由
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