──クレイジーケンバンドの記念すべき25枚目のアルバム『華麗』が完成しました。この“華麗”ですが…。
「華麗と書いて、“加齢”の意味があります」
──タブルミーニングとなっているんですね。
「そうなんです。あまりブリリアントの意味はなくて(笑)。麗の字がカッコいいのでデザイン的に使ってますけど、本来はエイジングのほうです。そのエイジングといのも、それを肯定することもなく、否定することもなく、ありのままを出していく…良くも悪くも、“加齢”ということです」
──それをタイトルにするからには、剣さんがエイジングを実感する出来事があったということですか?
「あります。今年の7月に65歳になりました。65歳になると介護保険の申請書が送られてくるんですよ。年齢のことなんて忘れていて、“面白いな”と思いながらも、現実は“こんなに生きてるのか”って(笑)。知らず知らずのうちにそういう意識があったのか、今回のアルバムには時の流れを表すようなものが歌詞の中に多く入っている気がします。でも一方で、矢沢永吉さんとか山下達郎さんとか桑田佳祐さんとか、ベテランの方々が現役バリバリでやっているので、“僕たちはまだチンピラでいられる“という開放感があります。特に矢沢さんはいまだに20代、30代の動きをしているから、僕たちもまだまだ、加齢なんて言ってる場合じゃありません(笑)」
──剣さんは常々“曲は自然と浮かんでくる”とおっしゃっていますが、創作意欲はまだまだ衰えていませんよね。
「はい。それがなくなったら辞めちゃいたいというか…やってられなくなると思います。ツアーが楽しいのも、新曲があるからなので」
──アルバム『華麗』は前作『火星』を作り終えてからの楽曲が中心となるのでしょうか?
「前からストックしていたものも1、2曲ありますけど、ほとんど書き下ろしになります」

──まずはアルバムの幕開けを飾る「Hi」からお伺いしたいのですが、ファンキーなサウンドが印象的です。
「「Hi」はアルバムの1曲目ですけど、出来上がったのは最後から2番目で。ちなみに一番最後にできた曲が、「Hi」の次、2曲目の「LOVE」なんです」
──そうだったんですか。
「アルバムのほとんどの曲ができたタイミングで、もう少しエッジがあって、馬鹿みたいに楽しい曲だったんです。でも、組曲みたいに変化していく…そういう曲が欲しくて。そのときに、仕込みを一緒にやっているParkくんが最高のバックトラックを持ってきてくれて、それに押し出されてメロディとリリックが一気に乗りました。「Hi」ってタイトルになったのも、僕が曲の合間に“Hi”って合いの手を入れる癖があって、それをタイトルにしちゃったっていう(笑)。だから、歌詞にもいっぱい<Hi(拝 杯杯)>が出てきます」
──歌詞のモチーフになっているのは、剣さんが愛してやまないモータースポーツ。また、歌詞の中には<「老いる」>というフレーズも登場します。
「歌詞には、バックミラーにルーキーのマシンが映ったりしたときの、ベテランドライバーの気持ちを引っ掛けています。そこで、“頑張れよ”なんて思ったら現役じゃない。焦るうちはまだまだ現役。“大丈夫だ”って気持ちと、身につまされるものと、両方です。<Engine Blow Up>というフレーズは、モータースポーツ用語でもありますけど、“ギリギリの感じ“をイメージしました。そのあとの<Brakingしたい>は、全然休みをもらえないからブレイキングしたいっていう本音も吐露しています(笑)」
──続く「LOVE」は、アルバムの中で一番最後に完成した楽曲ということでした。
「「Hi」ができて、“よし!”と思ったんですだけど、もう一つ。ビートはロックンロールで、コードはサウダージ…そういうのがイメージできちゃったので、これもParkくんに協力してもらいました。「Hi」はバックトラックをParkくんが持ってきてくれましたが、「LOVE」はトラックから一緒に2人で考えていきました。かなり貢献してもらったので、共作になっています」
──歌詞は愛についてのフレーズが盛り沢山に並んでいます。
「これは、五木ひろしさんの「よこはま・たそがれ」みたいに、単語をコラージュしていくという手法です。“LOVE”ってテーマで思うことを全部入れました。矛盾もあるんですけど、その感じもLOVEなんじゃないかな?っていう仮説になっています。でも、“LOVE”については誰も明確なことは言えないと思うんですけど。想いを言葉にできないからメロディに託すわけで、あくまでもメロディを中心に、メロディを翻訳する感じで単語を並べてみました」

──アルバム『華麗』で手応えを感じている楽曲を挙げるとしたら、どの曲になりますか?
「手応えとしては「LOVE」が一番ですけど、そのほかだと「Summertime 411」や「ふぁーすとくらす」、それから「クラブ国際」あたりですね」
──「クラブ国際」、好きです!
「ありがとうございます。よくある僕たちの芸風なんですけど、それをさらにグレードアップした感じで、3人で歌っています。で、実際に香港にそのまんまの名前、クラブ国際というお店があって。20年以上前にガーちゃん(新宮虎児)と一緒に行ったんですけど、まあ、胡散臭いお店で(笑)。そこを覚えていて、いつか「クラブ国際」ってタイトルの曲を作りたいと思っていたんですよ」
──当時から曲調のテイストも浮かんでいたんですか?
「いえ、メロディは浮かんでませんでしたが、なんていうか…店内に能面が飾ってあったりとか、雑な感じ、ストレンジな日本が表現されていたのをずっと覚えていて。なので、今回、曲を作るにあたってエキゾチックな感じを入れたいな、と」
──20年以上前の体験も剣さんの中に格納されていて、何かの拍子にこうやって出てくるんですね。
「まさに格納されてたものが出てくる感じです。それこそエイジングのせいですね(笑)」
──そうした心のストックから生まれた楽曲はもう1曲あるとか?
「「太陽の街」という曲で、メロディが頭の中で常に鳴っていて、ことあるごとに口ずさんでいたんですけど、録音には至っていませんでした。それを今回、初めて録音してみることにしました。これは何といってもイントロのドラムです。クレイジーケンバンドで「生きる」という曲があって、それと同じドラムを(白川)玄大が叩いているんですけど、「生きる」のドラムを叩いたのは今年亡くなった廣石恵一さんでした。追悼の意味でそのフレーズを入れたらしいんですけど、当初はそれを聞かされてなかったんです。後で教えてもらって、もう、胸がぎゅっとしちゃいました。でも、歌詞にもそういうのを少し滲ませていたので、玄大も敏感に気づいてくれたんだと思います。で、廣石さんが亡くなったあと、クールスの佐藤秀光さんも、廣石さんさんの翌日に亡くなったんです。そういうのが最近続くので…」
──<お別れの会の招待状>が届くわけですね。
「そうなんです。悲しい気持ちではあるんですけど、かつての友達が集まれる機会ってそういうときくらいなのも事実で。“悲しいね”って言いながら、思い出話に笑ったりして。“泣いたり、笑ったり、忙しい日だな“っていう、そういう歌です。“太陽の街”っていうのは、本牧は高いビルがないので太陽がいっぱいなんです。それで、そういう呼び方をしていて。廣石くんは本牧でずっと暮らしていて、本牧で亡くなったので、そういうところもちょっとイメージしました」
──歌詞の中に<100年経ったらどうなってんだろ?>というフレーズが出てきて…。
「みんな死んでいます(笑)。<あなたもわたしもここにはもういない>って」
──“本当にそうだよなぁ“と思いました。だからこそ、今、共有できる時間を大切にしようっていう気持ちにもなりました。
「それも時の経過ですよね。アルバムには「時差」という曲もありますが、そういった移ろいゆくものを自然と意識するような出来事がありました。中学時代のグループの仲間も3、4人亡くなってたりとかして。同い年なのにいなくなっちゃうのか…って。“時間というものは残酷なものでございます”って、ライブで残り1曲になったときに言うんですけど、それを本当に実感する今日この頃です」
──しかも、楽しい時間ほど早く過ぎ去ったりしますしね。
「そうですね。だからこそ、その時間をこの盤(アルバム)に閉じ込めるって想いです」
──しんみりとしてしまいましたが…もう1曲、個人的に好きなのが「不良先生」です。
「おお〜、ありがとうございます! 実はこれ、アルバムのキーとなる楽曲で、「不良先生」がなかったらこのジャケ写も生まれていませんでした」
──やっぱりそうだったんですね!
「「不良先生」が浮かんだときに、『ベン・ケーシー』(※総合病院の脳神経外科に勤務する医師を主人公にしたアメリカのテレビドラマ)とかケーシー高峰とか、そんな感じにしようと思っていました」
──その理由は?
「カーレースとかクラッシックカーのイベントに行くと、ディナーの時に年配の先輩方がヤンチャな話をしているんです。“まだまだ現役”って感じで、カッコいいと思って。そういう方に医療関係の人が多いので、“じゃあ歌にしよう”って(笑)」
──だからジャケット写真のメンバーのみなさんが白衣なんですね(笑)。
「そうです(笑)。1人、カーネルサンダースみたいな姿で写っていますけど、これは理事長です」
──悪徳病院じゃないといいのですが(笑)。
「あはは。“こんな病院には行きたくない!”みたいな感じをコンセプトにしています(笑)」
──「不良先生」も「Hi」と同様、剣さんが好きな車がきっかけとなって生まれた楽曲なんですね。
「そうです。「Hi」はブラッド・ピットの映画『F1®/エフワン』を観たのも大きかったです。若いチームメイトと大ベテランのブラッド・ピットと。ちょうどアルバムの制作期間中にレコーディングスタジオの近くの映画館で上映していたので、朝に観てからスタジオに行ったりしていました。映画や映画音楽はかなり影響を及ぼします。今回だともう一つ、映画『トワイライト・ウォーリアーズ 決戦!九龍城砦』を観て。そしたらチャーシューが食べたくなって、そのために香港に行って、クラブ国際を思い出して…そういうことがありました(笑)。そういう意味では、“華麗”にはもう一つ、カレーライスの“カレー”、スパイスっていう意味もあって。人生のスパイスとか、音楽のスパイスとか、“あらゆるものがスパイスとなって音楽のヒントになっています”っていう。なので、今回のタイトルは“華麗”と“加齢”と“カレー”のトリプルミーニングですね」

──テーマの一つに“加齢”が含まれているものの、毎年新作を聴かせていただくたびに剣さんの歌声が変わらないことに感服しています。
「年々ざらついてきてはいますけどね」
──そうした声の変化に対して、どんなふうに向き合われてるんですか?
「もともとキーはそんなに高くないんですが、以前は出なかったキーが今、出たりするんです。それはサウンドの充実…例えば、ベースラインとかドラミングの響きによって押し出されるものもあれば、歌詞の母音が何かによっても違ったりします。母音が“え”だと出ないけど、“い”だと出やすいとか、そういうのがあります。なので、いい声を出すために歌詞を変えたりすることもあります」
──また、こういう機会でもないと聞けないと思うので思い切ってうかがいますが、剣さんは“老いる”ということに対してどう感じていますか?
「今回のアルバム、『華麗』ってタイトルにする前は『OIL』にしていました。油の“オイル”と、歳をとることの“老いる”とで。でも、考え直して『華麗』にしました。でも、“老いる”って題材は、もうしょうがないです…将来の先には死しかないわけですから。そこに向かってカウントダウンしていく間、どうやって過ごしていくのか?って思うんですけど、僕自身は長生きするのも大事ですが、いつ死んでもいい。そういう状態にいたいと最近思うようになりました」
──とはいえ、少しでも長く歌い続けてほしいというのがファンのみなさんの願いでもあります。
「もちろんCKBとしても、ザ・ビートルズのクリエイティビティとザ・ローリング・ストーンズの継続性を掛け合わせたグループになりたいっていうのがあります」
──期待しています!

──そして、『華麗』リリース後、9月27日からは『クレイジーケンバンド 華麗なるツアー 2025-2026 Presented by NISHIHARA SHOKAI』がスタートします。どのようなツアーになりそうですか?
「前回の『火星ツアー』を今年3月までやっていましたけど、今回の『華麗なるツアー』も来年の2月まで続きます。昨年のツアーでは昭和歌謡をカバーする“昭和歌謡イイネ”というコーナーを設けたのですが、それを今年もやりたいですね。昭和100年の年ですし、1曲でも2曲でも、昭和歌謡のいい曲を紹介していきたいと思っています。それから、大々的なリクエストコーナーまではいかないですけど、気まぐれでお客様に聴きたい曲を募ることもあるかもしれません」
──ちなみに、リクエストにはどれくらい対応できるものなんですか?
「いや…だいたいできないですね(笑)。鍵盤だけでやるとか、僕が勝手に歌い出して、対応できるメンバーだけがついてくるみたいな。ギターの小野瀬は対応が早いので、どんなキーでやってもなんとか途中から追いついてきてくれて、そのままみんなが追いついてちゃんとした演奏になるときと、破綻しちゃうときと(笑)。こればっかりは、やってみないとわからないです(笑)。緩いところは思いっきり緩く、決めるところは決めるっていう感じです。ツアーではありますがパッケージというわけではなく、その日限りの1点ものが23本あると考えてもらいたいです。1本1本の公演がスペシャルになるツアーにしたいですね」
(おわり)
取材・文/片貝久美子
写真/野﨑 慧嗣
RELEASE INFORMATION
LIVE INFORMATION

クレイジーケンバンド 華麗なるツアー 2025-2026Presented by NISHIHARA SHOKAI
<2025年公演>
2025年09月27日(土) 東京 福生市民会館 大ホール
2025年10月04日(土) 茨城 日立市民会館
2025年10月16日(木) 愛知 Niterra日本特殊陶業市⺠会館 ビレッジホール
2025年10月17日(金) 大阪 NHK大阪ホール
2025年10月25日(土) 福島 いわき芸術文化交流館 アリオス中劇場
2025年10月26日(日) 宮城 仙台電力ホール
2025年11月08日(土) 神奈川 横浜BUNTAI
2025年11月15日(土) 兵庫 神戸国際会館こくさいホール
2025年11月17日(月) 岡山 岡山芸術創造劇場 ハレノワ 中劇場
2025年11月23日(日) 鹿児島 鹿児島CAPARVO HALL
2025年11月24日(月祝) 福岡 福岡国際会議場メインホール
2025年11月27日(木) 北海道 札幌市教育文化会館大ホール
2025年11月29日(土) 北海道 旭川市公会堂
<2026年公演>
2026年1月10日(土) 島根 出雲市⺠会館 大ホール
2026年1月16日(金) 東京 LINE CUBE SHIBUYA
2026年1月18日(日) 滋賀 栗東芸術文化会館さきら 大ホール
2026年1月19日(月) 広島 BLUE LIVE HIROSHIMA
2026年1月24日(土) 長野 岡谷市文化会館カノラホール 大ホール
2026年1月31日(土) 三重 シンフォニアテクノロジー響ホール伊勢 大ホール
2026年2月08日(日) 栃木 とちぎ岩下の新生姜ホール 大ホール
2026年2月11日(水祝) 群馬 高崎市文化会館 大ホール
2026年2月13日(金) 和歌山 和歌山城ホール 大ホール
2026年2月21日(土) 神奈川 小田原三の丸ホール 大ホール
U-NEXT
こちらもおすすめ!
-
横山剣(クレイジーケンバンド)『火星』インタビュー――24枚目にして、ここからまた新しいCKBが始まったという気分
encoreオリジナル -
Vol.2 24時間営業ならではの滲んでる感じ
バックナンバー -
Vol.1 最後の数十年に向けた“ビギニング・オブ・ジ・エンド”?
バックナンバー -
『CRAZY KEN BAND ALL TIME BEST ALBUM 愛の世界』後編
バックナンバー -
『CRAZY KEN BAND ALL TIME BEST ALBUM 愛の世界』前編
バックナンバー -
横山剣(クレイジーケンバンド)インタビュー
Vol.02 ソングライター・横山剣バックナンバー -
横山剣(クレイジーケンバンド)インタビュー
Vol.01 ニューアルバム『香港的士』についてバックナンバー