──春夏秋冬シリーズ第3弾シングル「月見想」がリリースされました。まず、秋にバラードできたのが意外でした。
「僕もです(笑)。でも、そもそもバラードはとても好きなんです。清水翔太さんや徳永英明さんが日本語の名バラード曲をカバーしたアルバムも聴いていましたし、僕が好きなアイドル文化のバラードにも名曲がすごく多くて。僕が好きなポップスの中でのバラードはメロディが一番引き立つジャンルだと思いますし、いつか挑戦したいと思っていました。でも、なかなか機会がなくて…。変な話、今のAile The Shotaからすると、一番思い切りが必要なジャンルだったりするので」
──そうですね。踊れるポップスを軸にしていますから。
「ライブでも“踊らせる”という時間を大事にしているので、そこは挑戦でしたけど、思い切り踏み切るのであれば蔦谷さんとの曲かな?と思って」

──「月見想」はゆずやofficial髭男ism、SEKAI NO OWARIなど多くのアーティストに楽曲提供やプロデュースを行なっている蔦谷好位置さんとの制作ですね。
「実は「月見想」は、1年くらい前に蔦谷さんとSKY-HIと3人でセッションした時に生まれたデモの1つをもとにセッションを始めた曲なんです。そこからガラッと全部変わったんですけど、蔦谷さんと秋曲を作れるのであれば、バラードに挑戦できるんじゃないかな?って。こんな機会はなかなかないからこそやりたいと思ってて、出来上がったのが…重々(おもおも)メンヘラソングでした(笑)」
──あははは。絶望のどん底まで落ちていますよね。
「そうですね。自分の楽曲において、“憂い”というのはアイデンティティの1つとしてあると思うんですけど、悲しい曲の中にも、どこかに希望があるようにはしていました。でも、この曲にはとことんないです。そこを書くというのは、シンガーソングライターとしての覚悟ですよね」
──覚悟を持って踏み切ったんですね?
「自分の心に対しても、切り売りしていく、一番きつい部分だったりしますし 、今後この曲を歌い続けても、自分が歌っていても救われはしないです。でも、そういう曲が誰かの心に届いた時に救われることもある曲だと思います。だからこそ、たくさん歌いたいと思っています。…でも、やっぱり迷いましたけど」
──改めて、秋曲のテーマ選定から1つずつ振り返っていただけますか? まず、秋という季節に対してどんなイメージを持っていましたか?
「良くも悪くも1人で考えてしまう時間が増える季節だと思っています。短い季節ですけど、僕は一番好きな季節で、しっくりきます。普通に過ごしやすくて、自分の性格にも合っていて。みんながスローペースになる瞬間が好きなのかな?…多分、自分の人間としての属性的に秋に合っているタイプだと思います。自分は秋属性で、外側で夏を作ってみたり、春を装ってみたりしている…タイプ的にはそうなんじゃないかな?って」
──では、プロデューサーの蔦谷さんに対してはどんな印象を抱いていましたか?
「僕が広く“J-POPがルーツ”と言っている中には、蔦谷さんがこれまで作ってきた楽曲が占めている部分があって。セッションするタイミングで、もう一度蔦谷好位置ワークスを見ていた時に、“あ、これも蔦谷さんか!?”って驚いたんですけど」
──例えば、よく聴いていた楽曲を上げるとすると?
「それこそ、AAAの楽曲もありましたし、赤い公園の「NOW ON AIR」もとても好きで聴いていました。アレンジの面では今のヒゲダンやback numberもやっていて。楽曲提供、アレンジ、プロデュース…いろんな角度から僕の真ん中のジャンルが多いので、セッションしながらメロディーやコードを探す中で、“こういうコードどうかな?”って出してくれるアイデアが全部、まさに僕が好きな時代のポップスの色を持っていて。しかも、蔦谷さんはずっとフレッシュなんですよ。セッション前に僕ら世代のアーティストたちとごはんに行かせてもらったんです。idomと森光奏太(dawggs)、鍵盤のHiromuと、歌い手の梓川くんという子と行ったんですけど、音楽に対する好奇心が同じでした。新しい音楽に対して全方位でアンテナを張っているし、そもそも超音楽好きな人なので、プロデュースされることがすごく嬉しかったです」
──これまでのR&Bやヒップホップ系のトラックメイカーとは違いますよね。いわゆるダンスミュージックの人ではなく…。
「そうですね。夏曲「向日葵花火」の☆Taku(Takahashi)さんが僕の真ん中にあるJ-POPだとしたら、今回はより歌謡曲に近い部分に触れてくれるセッションだったと思います。ボーカルのミックスの仕方も今までで一番裸にしてもらっています。今年は歌にフォーカスしたい時期だったので、オートチューンを使わない時間が増えたりしているんですけど、その中でも一番、Aile The Shotaの歌というものをルーツごと引き出してくれる感じがあって。声の出し方だけでなく、自分の中では強みでもあるコーラスワークも蔦谷さんにお任せするセッションだったので、本当に勉強になりました」

──そして、秋に何を歌うか?というテーマですね。
「今年は春夏秋冬かつ、花にフォーカスしているので、ある程度、制作の初めに縛りがある感覚が回を重ねるごとに増えていて…。秋で言うと、秋桜とか、王道の花もたくさんあるんですけど、しっくりくる花、及び、そこから導き出せるタイトルがなかなかはまりませんでした。僕、ChatGPTに花をすごく聞きましたし」
──あはははは。“秋の花といえば?”って?
「そうそう。今年、一番花に詳しくなったと思います。いろいろ調べて、いろいろ迷ってるときに、ふと月を見て、“秋は月っていう角度からもいけるよな”と思って。月を見て、何か曲を書けないかな?と思った時に、少し月が欠けて光っていたんです。月は別に意図して、自分の好きなタイミングで満月や三日月になっているわけでもなくて…誰かの何かによって作られた形や光を美しいとされるものだなって。それを、かわいそうだと思う+自分と重なる部分が少なくなくて。人間って相対的な生き物じゃないですか。誰かに評価されることの虚しさのようなものを月をテーマに書くのがいいかも…というのがぼんやりとあった状態で、蔦谷さんとのセッションに入りました。そういう話しながら、歌詞をゼロからいろいろと考えていたんですけど、やっぱり見つからなくて。でも、<月のようにただ静かに 形を変えられながらも>という鍵となるフレーズが出てきました。でも、僕の中でもう少し具体性のある輪郭が欲しかったので、一回持ち帰らせてもらっている時に、自分事でしんどい部分というか、絶望…のようなのがあって」
──そうなんですね。
「それで、その出来立てほかほかな絶望を蔦谷さんのところに持っていきました(笑)。赤裸々に話していく中で、“僕が月でしたわ”みたいな話になって、それこそ、絶望を絶望のまま書いていきました。<眠れない夜に夢を見ていた>というのが一番自分に重なって…その虚しさや痛さが。超、辛いフレーズで、だからこそ歌詞にしています。“辛くて眠れない夜に、憧れや未来という意味での夢を勝手に描いてる“って、すごく皮肉っぽいじゃないですか。そこがすごく刺さって…いや、もう、歌詞全部空きがなく、きついです」
──<あなたを失うくらいなら/自分を殺してもいいよ>という歌い出しのインパクトもすごいですよね。
「蔦谷さんにも“このAメロが覚悟だよね”と言っていただきました。しかもこれ、その状態じゃない自分からすると、絶対に言わないワードなんですよ」
──これまでとは真逆ですよね。
「Aile The Shotaとして走り出しのタイミングで<らしさってなんだっけ>(「Brave Generation -BMSG United Remix-」)というバースを書いていて…らしさを大事にしないとあいつに合わせる顔がないっていう。自分らしくあること、自分らしくあろうとして歌ってきた3年半があって、それは、Aile The Shotaの音楽性の中のアイデンティティにもなっていました。そんな自分がこのフレーズを歌うことがより重くて、しんどくて、美しいんだと思いました。でも、すごく勇気が必要でした。ファンに対して、“怖いな”と思うところがありますよね? その感情を肯定したいわけじゃないんですけど」
──自分らしさの大切さを届けてきたShotaさんが、エゴを捨て去ってもいいと思うくらいの愛を歌っていて…。
「恋愛というものの特異さですよね。生きていく中での特殊な感情、事象だなって。今は客観視しているから言えていますけど(笑)、恋愛感情ってコントロールできないものじゃないですか。そこにまで行き着いた自分から生まれた歌詞を届ける中で、ファンが僕のことを心配しないかな?とか、“自分を殺す”ということを肯定したいわけではないというのはすごく伝えたくて。逆に、ここまで思うAile The Shotaが、自分らしさを歌っていることを改めて解釈してくれるといいですね。自分が常に“らしく”いれているから“らしさ”を歌っているわけではなくて。“自分らしさ“を歌っている人ですらここまでなるっていうことにフォーカスしてくれると嬉しいです」
──“あなた色に完全に染まってもいい”と思いながらも、この恋は終わっていきますよね。
「過去にするというか…。不思議なのが、具体性を帯びる前に<人知れずに咲いて散った 願いは 月見想/綺麗だねって 抱きしめてくれますか>って書いていたんです。歌詞に導かれてしまったのかな?…先なんですよね、歌詞の方が。事象の方が後でした。“ああ、きれいにハマっちゃった”みたいなのがあって、“音楽の上で生きてるんだな、自分は”と思いました」

──サウンド的には電波の交信のような音が入っていますよね。
「蔦谷さんが僕の心情をくみ取ってくれました。ざわめきやノイズを表現したくて、間奏にグリッジ的な音を入れてくれて、あと、もともと入っていなかったギターも入れてくれたんです。ギター弾いてくれる人に対してのディレクションにも僕の話が伝わっていました。だから、その音にも全部、温度感があるんですよ。ボーカルが真ん中にいて、それを包むピアノとギター、そのほかの様々な音があります。一番痛い曲なんですけど、一番あったかいというか、ぬくもりがあって。そこが救いになればいいですよね。音楽が救いの曲になっていると思います」
──歌詞だけ見ると絶望ですけど…。
「音がなくて、この歌詞だけで見ると、“いや、見たくないよ”ってくらいの話だと思います。それが音楽のすごいところだなって。自分は普段、あまり“シンガーソングライターです”って自認しないようにしているんです。“アーティスト”っていう自認の方が合っていると思うんですけど、こうやって自分の中のJ-POPに向き合って生まれた曲に対しては、“シンガーソングライターです”と言いたいです。僕が聴いてきたシンガーソングライターの人たちのマナーに近しいことをできた気がしています。「月見想」はシンガーソングライターAile The Shotaの曲って感じです」
──J-POPの最前線で長く活躍してる方との制作を終えてどう感じましたか?
「まず、蔦谷さんのようなプロデューサーの方とセッションすると、ここまで曲がらずに僕のルーツが出るんだって感じました。もちろん、ダンスミュージックやR&B、ヒップホップがルーツにあって、そのルーツの色が強いプロデューサーとセッションすると、そこの化学反応がすごく起きるんです。ダンサーと曲を作ると超ダンス曲ができるのと同じ軸で、J-POPや歌謡曲のマナーを持った人とのセッションは初めてでした。だから、もっと蔦谷さんと曲を作りたいと思いました」
──もっとやりたいし、もっと学びたい?
「そうですね。ただ、しんどい沼に入った気もするんです。難しいという意味もそうですし、もっとしんどい思いをしなきゃいけないなって。もっと自分の感情を理解したり、理解できないところに持っていかないといけないです。僕は人生の中で客観視を大事にしていて…コントロールできるようにしておきたいんです。できない瞬間が、自分は嫌いだったりするので、恋愛をしている自分や怒っている自分、不機嫌な自分はすごく嫌いなんです。みんなもそうだとは思うんですけど、そうじゃなきゃでないものがありました」
──リアルポップを掲げているから…。
「はい。だから、忙しすぎると、曲が書けないと思っていました。インプットの中に日常の浮き沈みがないと書けないです。例えば、“友達の話を聞いて曲を書く“ってよく聞きますけど、どこで納得いくのかな?って。僕の心の入れ具合だと思うんですけど次の歌詞の種がどこにあるのか…ラブソングを恋愛をしないで書くのは難しいです。まぁ、27年くらい生きていて、恋愛のアーカイブもあるので。その過去に感じた感情が、歌詞のメモにあって、それを引っ張ってこようかな?とか、そういうバランスで書いていたりもしたんですけど、今、結構、迷っちゃっています」
──先ほどお話に出ていたShotaさんが好きなJ-POPならではのコード感やメロディラインに関してはどうですか?
「“ポップスを作る、真ん中を見つけちゃった”と思いました。蔦谷さんとのセッションを経て、自分の中での敵が増えたというか…歌、メロディ、ポップス、それぞれの美学とちゃんともう一回向き合って、“これを超えなきゃいけない”っていう壁みたいなものが見えました。ある程度、クリエイティブが進んでくると手癖も増えてくるので、それを守りながら壊していくというか…いや、逆かな? 壊しながら守っていくという段階に入れば、根っこを進化させ続けられるんじゃないかって。やっぱり向上心が大事ですよね。自分自身、ライブのステージ力もあげたいですし、クリエイティブのレベルも上げたいです。プロデューサーとしてももっと頑張りたいので、クリエイト、曲作りの先を見ちゃいました。先はまだ遠いですし、高いなって思いました」
──「月見想」はMVを撮影されているんですよね? 前作「向日葵花火」は胸キュンの青春ラブストーリー仕立てになっていましたが、今回はどんな内容になっていますか?
「「踊りませんか?」、「さよならシティライト」、「Foolish」、「SAKURA」、「向日葵花火」と続いてきたドラマ仕立てとは全く違います。これまでのMVはAile The Shotaは抽象的な存在で、ドラマが具体をやってくれていたんですけど、それが逆になっています。あくまでも僕の歌なので、具体を自分がやらなきゃと思って。キャストの方が抽象を描いて、僕が具体を担っています。いわゆるドラマではないので、絵として悲しさが出ている感じです」
──何か撮影裏話はありますか?
「“感情を込めたい”と思っていたんですけど、僕は役者ではないので、リアタイじゃない限り、感情を出すのは難しかったりするんです。“何かを演じる”というのが得意じゃないんですけど、一瞬、泣いてしまって、涙が止まらなくなって…。しかも、別にベストなタイミングじゃないときに泣いちゃいました。“カット”って、途中で撮影が止まったくらいに泣いちゃって。“もう一回出せるかな?”ってトライしてみましたけどやっぱり泣けなくて。“アーティストだな”と思いました」
──あはははは。
「でも、それでよかったと思います。自分の感情を自分で演じるのも違いますし。かといって、役者さんでよく、“涙を流すために違うことを考えたりする“って言うじゃないですか。それを自分の曲でするのも違いますし、そもそもできないから…。”この歌詞の中で、辛くなれたらいいな”と思っていたら涙が出たんです。そこもカメラが抑えていると思います。ボロ泣きしてるところは、メイキングの方を待ってください!」
──(笑)これからライブで「月見想」を歌っていくんですよね?
「歌唱はきついですね。ひょうひょうと歌いたくないですし。でも、感情は風化していくものでもあると思うので。もちろん、この時の絶望にはなれないですけど、そこに寄っていくことを歌唱するから…きつい!」
──ここにはホヤホヤの絶望がありますから。
「触ったらまだギリあったかいですね」
──あははは。そして、次は第4弾の冬ソングがリリースされることが発表されています。少しだけヒントをいただけますか?
「音楽ジャンル的な話で言うと、「月見想」で僕を知ってくれる人が増える気がしているんです。そこで、逆に行くか、その道の先を走るか。…その道にいます」
──シンガーソングライターによるJ-POP/歌謡曲のラインにいるんですね?
「僕の中ではこれまでで一番J-POPかもしれないです。「月見想」とはまた別軸ですけど、「月見想」を聴いて、“Aile The Shotaの音楽ってこんな感じかな?”と感じた先にありますし、すごくJ-POPです。一昨日にレコーディングが終わったばかりなんですけど、12月はすぐなので、楽しみに待っててください!」
(おわり)
取材・文/永堀アツオ
Photo/Satoshi Hata
RELEASE INFROMATION
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