Aile The Shotaの音楽力と人間力によって多幸感が溢れた、素晴らしいライブだった。3月16日、東京ガーデンシアターにて行われた、Aile The Shotaにとって自身最大規模のワンマンライブ『Aile The Shota Oneman Live “REAL POP”』。本公演を発表したのは2023年12月の東京・豊洲PIT(約3,000人キャパ)で、当時のAile The Shotaにとって東京ガーデンシアターを埋めることは大きな挑戦であったが、チケットは見事ソールドアウト。Aile The Shotaは常々「本質的で大衆的である音楽」を目指してきたが、その理想が形となり、芳醇なポップスがJ-POPシーンを塗り替える瞬間を目撃したようだった。
 
1曲目から、会場がどよめくほどの完成度だった。2つの巨大なミラーボールが煌びやかな光を会場中に散らす中、バンドメンバー(森光奏太(dawgss/Ba)、Hiromu(Key)、So Kanno(BREIMEN/Dr)、HIRORON(DJ))によるゴージャスな演奏が鳴り響き、ゆっくりと幕が開くとAile The Shota、バンドメンバー4人、ダンスクルー・ODORIの13人が並んでいる。シンプルだが豪華さを感じさせるステージセットも相まって、すでに圧巻の景色。「東京ガーデンシアター、『Aile The Shota Oneman Live “REAL POP”』、始めようか」の合図で“さよならシティライト”がスタート。聴覚的にも視覚的にも圧倒させたオープニングだった。その後も、歌・演奏・ダンス、どれも誤魔化しのない本格的な表現を組み合わせた音楽エンターテインメントが続く。
 
まずは自ら踊りながら歌って魅せた“so so good”、サビを丸ごとオーディエンスに歌わせた“常懐”、ODORIも登場しグルーヴで会場中を揺らした“DEEP”。ステージがまるで野外の解放感ある会場に見えたり、ディスコクラブのように見えたり、テレビの音楽番組のセットに見えたりと、パフォーマンスに合わせて東京ガーデンシアターの世界観が変わっていく。それが成せるのは、Aile The Shota自身が音楽史をつなぐような表現を見せて、80年代や平成のJ-POPレジェンドたちから現代のポップスターたちまでを次々と彷彿とさせるからだ。音楽史におけるさまざまの要素を、上辺をなぞるのではなく本質に向き合って吸収しながら、幅広いアウトプットで日本語の歌モノに昇華させているのがAile The Shotaであることを、冒頭の4曲から提示していた。
 
大学時代にアンダーグラウンドのダンスカルチャーに出入りしていたAile The Shotaは、昨年、ダンスクルーのオーディションを主催した。そこで選ばれた13人で結成されたのが、Aile The Shotaがプロデュースするダンスクルー・ODORIだ。“DEEP”をリミックスしたトラックに合わせて、13人がアーティスティックなパフォーマンスを繰り広げた約2分間は、周囲から「やばいね」という声が聞こえてくるほどの内容だった。Aile The Shotaには、ダンサーを「バックダンサー」としてではなく「アーティスト」として扱いたいといった想いがあり、それを形にしてみせるパートがここから続く。“Eternity”では2人のストーリーを描いた歌詞を具現化するようパフォーマンスが繰り広げられ、“sweet”ではステージのメインフロアをODORIに譲り、ODORIの色気漂う身体表現をAile The Shotaの歌声が引き立てる。Kenya Fujitaをゲストに招いた“hungover”でもODORIを真ん中に配置し、歌とダンスと楽器が三位一体となるステージを作り上げていた。そして「本質を大衆へ。それをテーマに掲げて全国から集めたクルーがあります。そんな彼らに書いた1stシングル。まずは愛とリスペクトを持って破壊したいと思います」と言ってから“Destroy”を披露。ミニマルな音数で構成されたトラックの一音一音を全身で表現していく様には、何度も歓声が上がっていた。
 
そしてLuuny Muunyだけが残り、SOTA(BE:FIRST)がジョイン。2人によるダンスパートを挟んで、Aile The Shota、SOTA、MANATO(BE:FIRST)から成るShowMinorSavageの出番だ。まずは踊って魅せる。力みのないパフォーマンスで人の心を大きく揺さぶるShowMinorSavageの真髄は、ダンスにも表れていた。「スペシャルに行きたいじゃないですか?」というAile The Shotaのフリから、今最も注目を集める実力派の新進気鋭トランペッター・寺久保伶矢も含めた編成で“Thinkn’ bout you”、“Ocean”を披露。3人がリスペクトするUSアーティストたちのスケール感を彷彿とさせるくらいのグルーヴと迫力と色気のあるアンサンブルに、3人の美声が重なると、今日本でこんなにも「本質的で大衆的」な音楽がこの規模感で鳴り響いていることに幸せと驚きを感じざるを得ないほどだった。
 
バンドメンバーのソロ回しから、トランペットが鳴り響くムーディな中でODORIが一人ずつパフォーマンスするパートを経て、「今日みたいな日はバカになって最高に楽しんじゃいましょうよ」と言葉を添えた“Foolish”、「この時代で一緒に《Love yourself》と唱えてみませんか」と呼びかけた“gomenne”。ブラックミュージックのクラシックなグルーヴから現代的なヒップホップのビートまでを鳴らすことができるバンドメンバーの演奏によって、ルーツを引き継いだ上で今の時代にしか生まれ得ないポップスが完成していた。
 
「音楽は寄り添ってくれる力を持っているなと思うし、俺はそういう音楽を作り続けて、少しでも長くあなたに寄り添いたいと思っている。あのとき、あの人のこの曲が俺を救ってくれたように」と語ってから、アカペラで歌い始めたのは“me time -remix-”。「僕の愛する人です!」と呼び込んだBMSGのボス・SKY-HIを強くハグ。Aile The Shotaは涙を堪えながら「俺、幸せですわ!」と叫んでいた。続けて2人で歌った“J-POPSTAR”は、2人の道のりは間違っていないのだと、いつも以上に自信が満ち溢れているように聴こえてきた。SKY-HIが去ると同時にODORIがステージに上がり、Aile The Shotaも踊ってから、次に呼び込んだゲストは渋谷eggmanに出入りしてた頃の兄貴的存在であるMaddy Somaだ。Aile The Shotaにとって二人の大事な存在をつなぎ、自身の出自を大事にしながら「J-POPSTAR」へと上がっていく意志も描くような流れだった。“new blood”はODORIのダンスサイファーも挟み、ダンスカルチャーへのリスペクトを濃く表現した形で披露された。
 
BMSG所属前の居場所について歌った“new blood”は、デビュー曲“AURORA TOKIO”につなげた。Aile The Shotaが昔からリスペクトしていたShin Sakiura(Gt)とSoulflexよりKenT(Sax)を招いて演奏したのは、Shin Sakiuraがプロデュースを手掛けた“AURORA TOKIO”と“Yumeiro”。そのあとは、Soulflexと制作した“FANCITY”、dawgssをフィーチャリングに迎えた“愛のプラネット”と、豪華なバンドアンサンブルとAile The Shotaの歌による極上のポップスが続く。
 
この日のAile The Shotaは、史上最大規模の会場にもかかわらず、ずっと自然体だった。「歌詞、届いてますか? 聴きながら考えたり思いを馳せたりしてみましたか? 何かのきっかけや俺が作る輪から、愛や平和につながったらいいなと、綺麗事ではなく本気で思ってます」。そんな言葉も、部屋で友達に話すようなトーンで語るから、綺麗事ではなく本当に想っていることが伝わってくる。

幼少の頃から愛するDREAMS COME TRUE公認の“空を読む”カバーを一番はピアノの伴奏だけで歌った時間も、『BMSG FES’24』のユニット・BMSG MARINEのために書き下ろした“Memoria”をスモークが雲のように浮かぶ中で歌った時間も、オーディエンスはあまりの美しい迫力に息をのんだ。そして、☆Taku Takahashiプロデュースの“アイノナミダ”。最後の《いつもの空が違うように見えた/少しだけ青く遠く綺麗に見えた》と歌うとき、Aile The Shotaの声が震えた。その後、しばらく涙が止まらない。「ずっと思い出したい人がいて、もう会えなくても、絶対にその悲しみを忘れたくないなと思って書いた曲だった」という。アーティストとしても、ひとりの人間としても、ここに辿り着くまでのことを思い出しているようだった。タオルで涙を拭いながら「自分の言葉に気付かされました」と言っていたが、これまで書いてきた言葉を今日ここで歌うことで、Aile The Shota自身に跳ね返っていた瞬間がたくさんあったのだろう。
 
最後は、一つひとつの楽器のプレイによって音源以上に踊れるグルーヴを生んだ“踊りませんか?”、大量の桜吹雪が舞う中で歌った“SAKURA”。“SAKURA”はライブ前日にリリースされたばかりの最新曲であり、Aile The Shotaのディスコグラフィの中でもっとも軽やかで疾走感のあるポップソングになっている。
 
アンコールに呼ばれてステージに戻ってきたAile The Shotaは、まず“No Frontier”を演奏。これは、楽曲のスケール感が大きく「ライブで歌うならフルバンドでやりたい」という想いから、これまでのライブでは「封印」されていた曲。演奏力も音色の作り方も巧みなバンドメンバーによって満を持して初披露された“No Frontier”は、抜群のダイナミズムを持って届けられた。続けた“IMA”は、この曲を書いた当時はAile The Shotaのフラストレーションを《誰かの腹を満たす 正しさは求めていない》などのリリックに込めたものであったが、この日は明るさと希望の音に聴こえてきた。
 
最後の曲を歌う前、Aile The Shotaは「言いたいことがあって」と語り始めた。「Aile The Shotaをやっている理由は、家族や仲間とか、愛する人たちの誇りになりたいから。今、ありがたいことにそうなれているんですよ。それは、一人ひとりのあなた(ファン)のおかげです。なのであなたは俺にとっての誇りです。命が尽きるまでずっと、俺もあなたにとっての誇りでありたいなと思います」。Aile The Shotaは、自分にとっての大切な人たちに、惜しみなく愛を注ぐ人だ。そもそも、その名前にも「Ai=愛」が入っている。そんな「愛」の循環が行われる中、最後は“LOVE”をミラーボールが輝く中で歌って、「あなたの誇りであれますように。愛してます、今日はどうもありがとうございました」と深々と頭を下げた。
 
SKY-HI、Maddy Soma、Shin Sakiura、KenT、MANATO、SOTA、Kenya Fujita、寺久保伶矢、そしてバンドメンバーとODORIがステージに並んだとき、Aile The Shotaは「俺の人生です」と表現した(MANATOいわく、ステージ前にも客演のみんなを眺めてそうつぶやいていたらしい)。『Aile The Shota Oneman Live “REAL POP”』は、Aile The Shotaが音楽と仲間を深く愛した27年間の人生の総括だった。無償の愛を与えれば、愛が返ってくる。Aile The Shotaがそれを体現しているから、彼のライブを観ていると、綺麗事に思えるそんなことも信じてみたくなる。ライブ中、Aile The Shotaは「俺、絶対に東京ドームでライブやるから。『紅白』にも絶対に出る」と宣言。それがただの夢ではなく、現実になることを想像させるには十分な3時間だった。

テキスト:矢島由佳子
写真:ハタサトシ

<リリース情報>

Digital Single 「SAKURA (Prod. Taka Perry)」 Release

Streaming & Download:https://orcd.co/ats_sakura
Music Video : https://youtu.be/QeVnDifOmUw

一覧へ戻る