――デビュー2年目にあたる2023年は、Aile The Shotaとしてはどんな1年になりましたか。
「本当の意味でAile The Shotaを確立した1年であるとともに、次の段階や目標がすごく明確になった1年でした。この2年間を“序章”としたいなという感覚。それが、腑に落ちるための1年だったなっていう感じです」
――この1年で見えたもの、確立できたものというのは?
「初めてのワンマンライブツアーがあったんですけど、それまではAile The Shotaと言いつつも、実感がない部分もかなりあって。そんな中で、本当に自分の音楽が好きで、自分のことを応援して愛してくれて、支えてくれる人たちだけがいるっていう空間を初めて味わうことができた。および、そこに向かうために、なぜ音楽やっているのか、何を伝えて、何を持って帰ってもらうべきなんだろうってことを考えた時期でもあったので、意義を持った上で“J-POP STAR”になるというのが自分の目標であり、夢であるということが確信になったという感じですね」
――今、お話にあった夢や目標に対する決意表明やAile The Shotaとして歌う意義というのものが4枚目のEP「Epilogue」に詰まってますね。2年間の“序章”を締め括る1枚の制作はどんなところからスタートしたんですか。
「タイトルも収録曲も方向性も全然決まってないときに、最初は、4枚目はHIP HOPをやって、この序章を終わらせようかなと思ってたんですよ。僕はJ-HIP HOPがかなり強いルーツで、自分の得意なフロウも出せたりするので、いわゆるHIP HOPマナーの曲を作るEPにしようかなって思いながら、ワンマンライブが始まって。ツアーのタイトルが「Prologue」に決まったのと同時に、4th EPのタイトルの頭文字は“E”というのは決まってて」
――どうしてですか?
「1、2、3枚目のEPの頭文字が、A、I、Lになってるんですよ」
――「AINNOCENCE」、「IMA」、「LOVEGO」……ほんとだ!気づきませんでした。もしかして最初から考えてました?
「いや、途中からなんですよ(笑)。「IMA」を作ってるときに“AI”になるなと思ったので、3枚目は「L」にして。4枚目のときには、自分の中で何かが終わるかもしれないという予感もあったので、何となく「AILE」になるようにしようとは考えてました。だから、ワンマンのタイトル「Prologue」が決まると同時に4枚目のEPのタイトルを「Epilogue」にしようって決めて。そこから方向性がより決まっていって。ただ、当初は「No Frontier」を入れる予定はなかったんですよ」
――どうしてですか?アニメ「AIの遺電子」のOPテーマですよね。
「そうですね。最初は4枚目のEPでHIP HOPをやろうと思っていたし、タイアップ楽曲で、曲に人格があったので、僕の作品に入れるとちょっとブレてしまうかもなと思ってたんですけど、ライブを通して、確実にAile The Shotaの言葉になったので入れようってなって。そのぐらいのタイミングでYohji Igarashiくんから「Pandora」のビートがきて、音的にもバランス取れるかもなって思って。そうこうしているうちに、飲みながら喋ってる延長で、日高さんの客演が決まって。まず、3つのピースが固まったんですね。「No Frontier」「Pandora」「J-POPSTAR」ができ始めたけど、まだリードとなる核のパーツが足りなかった。「No Frontier」や「LOVE」もそうなんですけど、ワンマンライブをしたことによって、自分にとって欠かせないものになったのが「IMA」だったので、「IMA」をプロデュースしてくれたKNOTTとリード曲を作りたいですって言って、急遽、姫路に行って、KNOTTとセッションして、「Epilogue」という曲を書いて、パチッと出来上がったっていうのが成り立ちですね」
――全4曲を改めて1曲ずつ振り返っていいですか。「No Frontier」は今年の7月にデジタルシングルとしてリリースされてました。
「去年の夏に制作してるので、まさに「IMA」をリリースしてる時期に書きました。当時は「AIの遺電子」の主人公の目線になりながら、自分の心と重ね合わせて、漫画の世界観と僕が生きてるこの世界線を重ね合わせて作った曲だったんですね。当初は、“すげえ曲ができたな”っていう感覚だけだったんですけど、ワンマンライブをしている中で、境界線によって傷ついている人のニュースを見て、何かもどかしいなと思う感情を抱いていて」
――<境界線に愛はない>と歌ってますね。
「そう、僕はありがたいことに、そのもどかしい感情を音に乗せて発信ができる立場であるっていうことを自覚し始めた時期でもあったので、今、僕がステージの上でマイクを持って“綺麗ごとを音に乗せて歌うこと”はめちゃめちゃ大事だと思って。前作の表題曲「LOVE」で描き切っちゃったなっていう思いがあったからこそ、4th EPはHIP HOPをやろうって思ってたんですけど、もう一度、愛に立ち返る曲として、「No Frontier」を歌えた。やっぱりツアーが大きかったですね。歌い続けていく中で、どんどん自分の言葉になっていった。今、Aile The Shotaが言いたい言葉になったっていう感じでしたね」
――その後が、「Pandora」ですね。ハードコアテクノというか。
「Yohjiくんには、ハードコアテクノ/ロッテルダムテクノのガバみたいにBPM160の曲をやりたいって言いました(笑)。テーマを決めずに、“Yohji Igarashiのビートで歌いたい”ってお願いして、音先行で作っていった曲ですね」
――ビートを受け取ってどんなことを歌おうと思いました?
「パンドラっていうワードが直感的にバッと降りてきたのを自分の中で砕いてみて。パンドラを調べていく中で、自分とパンドラの箱を開けたパンドラという人が重なって。僕は、日本の音楽シーンにあるタブーだったり、いらないNGや固定概念をぶっ壊す存在でいたいなって思ってるんですね。BMSG自体がそういうところであると思うんですけど、新しいものを作っていくスタンスなので、俺もそれを強く感じてる部分を描いてますね」
――アイロニーに満ちてますね。
「そうですね。特に2節目<悲しい話 運命共同体の未来>っていうのは、僕はずっと日本にいるから、国民性みたいなものも感じるんですよ。右向け右であったりとか、同調圧力とか、そういうものに対しても、それは違うんじゃないかってことを歌ってる。誰しもが思うからこそ、代弁者的な感覚もありながら言っていくことも気持ちよくハマった曲ですね。あと、気に入っているのは<JB>っていう」
――<ATS乗るYohji Igarashi>の後に<三つ星ってJBも謳ってる>と続きます。
「CreativeDrugStoreのJUBEEくんをネームドロップしてるのがすごい好きです。ちゃんと、JUBEEくんとも関係値があって、ネームドロップできてるっていうのがありがたいし、嬉しいですね。それに、まぁ、この曲はライブですごい武器になりますね」
――Aile The Shota史上最速のBPMですし、めちゃくちゃ盛り上がりそうですよね。そして、「J-POPSTAR」にはSKY-HIさんをフィーチャリングに迎えてます。
「Aile The Shotaとして出す作品にSKY-HIの名前が入るときは、絶対に僕がSKY-HIやBMSGに媚びないタイミングで、対等にかっこいい曲が作れそうだなっていうときにしたかったんですね。そんな中で、今回のフィーチャリングの決まり方は、日高さんから飲みの席で“「Tiger Style feat.Aile The Shota, JUNON, LEO」みたいにフェスで楽しいやつ、もう1個くらい欲しいよね”って言われたことが発端になってて。“次のEPでVLOTくんとHIP HOPマナーの曲を作ろうとしてて、オリジナルとか、原点みたいなことを歌おうと思ってるんですけど、やります?”って返したら、“わかった!俺、こんな歌詞書くわ”みたいに、日高さんがノリノリになってくれて。その決まり方が自然で、今だなって思ったんですよね。自然体であることがAile The Shotaの強みだし、案の定、ばっちりな曲になって。バランス的にも、いい意味で、Aile The ShotaっていうアーティストがSKY-HIというアーティストをフィーチャリングしたというだけなので、純度がすごい高いし」
――自分のルーツを振り返りながら、“J-POPSTAR”になるという決意と覚悟を表明してます。
「自分にとってのオリジナルがなんだろう、どう提示したら正解なんだろうっていうので、もう一段階成長させた答えが、「J-POPSTAR」っていうタイトルなんですけど、自分の音楽性って、日本の音楽シーンが産んだ偶然だと思ってて。ルーツとしては、特段、めちゃくちゃマニアックなR&Bにハマったわけでもなくて、ずっとJ-POPを聞いてきただけの高校生だった。メイドインジャパンの奇跡だと思ってるので、僕が“J-POPSTAR”になることってすげえ意味あるだろうなと思うし、ラップはしないけど、マインドとしてHIP HOPな曲にしたかったので、自分をボースティング、自己表現するってなったときに、ドリカムの名前を借りたりしました。」
――<ドリカムと同じステージで夢を語る>も<この歌声はお墨付き>も本当にあったことですよね。
「「D.U.N.K. (DANCE UNIVERSE NEVER KILLED)」というステージで、ドリカムと同じライブに出て、僕はMCで夢の話をして。マサさん(中村正人)と(吉田)美和さんに“声、いいね”って言ってもらえたことが僕の中で大きくて。ルーツ中のルーツというか、すごい存在なので、それを背負って、胸張りたいなって思って書きました。自分にプレッシャーかける歌詞だと思うんですけど、日高さんもいてくれるし、ボースティングしたいなと思って。超HIP HOPですね」
――<憧れたTV Show 歌って踊るアイドル>も聞いていいですか。
「僕が最初に買ったCDはKAT-TUNで、一番最初の憧れだったんですよ。直感的に“かっこよ!”って感じて。しかも、KAT-TUNをテレビの音楽番組で見てから、自分の人生は絶対テレビの向こう側だと思ってたんです。まだ特に何もやってないのに、絶対にいつか向こう側だなって感じたことが原点だったので、VLOTさんのビートで、<憧れたTV SHOW 歌って踊るアイドル>っていうのマジかっこいい、超リアルじゃんと思って。全部本当なんで気に入ってますね」
――ATSが<掴み取るPOPSTAR>から始まるに対し、SKY-HIは……
「もう、最初の2行で結論になってますよね(笑)。<掴み取りました/Yes,I’m a POPSTAR>で終わりです」
――あはははは!これをリアルとして言える人はそういないですね。
「超カッケーっす!<ドームのステージの上からWassup>って言えるラッパーは日高さんぐらいだし、何があってもかっこいいっすね、あの人は」
――BMSGのソロアーティストであるShotaさんとNovel Coreの2人をネームドロップしてます。
「それも粋でいいなと思って。それこそ、僕この曲にCoreも客演で呼びたいかもと思ってたんですけど、日高さんのこのドロップを見て、呼ばないのが美学だと思って。そして、最後に<ケツは持つぜ好きにやんな>で締めてる。最初の2行と後ろの1行がキモで、その間、めちゃめちゃ遊んでくれてるんですよ。普通、事務所の所属アーティストが社長にフィーチャリングのオファーをして、こういう曲はできないと思うんですよね。リスペクトとお互いの関係値がある上で、めっちゃ遊んでくれたのすごく嬉しくて。しかも、同じアーティストとして対等に話せてたのがすごい楽しいクリエイティブだったし、日高さんと曲作るのが好きなので、楽しかったですね。この曲をかけたことで次のフェーズ見えたなっていう気がします」
――次のフェーズに向かう最後の締めくくりが、「Epilogue」ですよね。
「何にもないところから、“とりあえずリード曲作ります”って姫路に飛び込んで、KNOTTの2人を困らせつつ(笑)。J-POPでありたいっていう話をしたり、「IMA」の次に歌えるような曲が欲しいってお願いして。「IMA」は僕の中で、空間をジャックできるいちばんの曲なんですね。例えば、ロックフェスに出たときに武器になる曲だったので、そういう曲をもう1個、欲しくて。「IMA」の進化版みたいなのを作りたいんですよね、みたいなところから、何となくきらめき感はこういう感じかな、みたいにゼロからKNOTTの2人が作ってくれている中で、僕も音が鳴ってるからこそ考えることもいろいろあって。自分のメモ帳もちょっと見たりして、命のことを歌いたいかもって思って」
――まさに暗いニュースが溢れる今に光を灯す“命の唄”になってます。
「ワンマンライブやってる時期にテレビをいろいろ見てて、SNSによる自殺のニュースが、僕の中に棘として刺さって、めっちゃ抜けなくて。もどかし過ぎる感情がずっとあったんですね。名前も顔も出さない人の1分くらいで書いたテキストで、人の心に一生抜けない釘を刺せる時代。それがすごく嫌だなと思って書いたのが「IMA」だったので。その状態で見たニュースが頭から抜けなくて。あと、別軸で身近な人の死に対して思うことがすごくあって。つらいことだけど、それでも死ってめちゃくちゃ普遍的なテーマじゃないですか」
――誰の元にも必ず訪れますからね。
「絶対的なものだから、終わりっていうものを描きたい、なんか歌いたい、何かを伝えたい、世界に何かを言いたい、あなたに対して何かを言いたいってなって。EPのタイトルは「Epilogue」に決まってたので、ビートを聴きながら、KNOTTに“Epilogueというタイトルで、<生きろ>ってことを歌いたいです”って伝えて、方向性がバチッと決まって。0から1が生まれたその日のうちに僕はサビの歌詞を書いて、バースもほぼ書いて歌ってみて。なんというか……心が作った曲ですね。1泊したホテルの部屋で、自分と向き合って歌詞を書いてる中で、涙が出たりしながらも紡いだ言葉なので、今までの僕の中で一番普遍的なサビのフレーズになってます。本当に届いてほしい曲です」
――<今を生きるあなたに届いてますか>って直接、歌いかけてますね。
「あなたにまだ会いたいって曲の中で言ったりもしてて。僕のパーソナルなところから生まれた曲ではありますけど、誰しもが経験してる曲だと思うんですよ。身近な人の死に対してもどかしさとか、それこそ自分自身が傷ついてる人もいる。なんなら僕の同業者で、この曲を聞いて救われる人もいるかもしれない。そういう思いも込めて作ったので、少しでも人に優しくできる人が増えたらいいなって思って書きました」
――「LOVE」では<愛を歌ってもいいですか?>と問いかけていたのが、「Epilogue」でははっきりと<愛しています>と確信を持って伝えてます。
「「Epilogue」を書いてるときに、「LOVE」の歌詞を振り返ったりはしてないんですね。伏線を回収しようとしたわけではなく、並べてみたら、自分の心の動きがそういうふうに出てた。美しい序章だったなと思いますね」
――序章を締め括るEPが完成して、ご自身ではどんな感想を抱きましたか。
「序章であるとともに、Aile The Shotaを完結できたなっていう感覚もあったりするんですね。永遠のテーマである“愛”や“命”を歌っているので、この4枚を渡せば、僕の伝えたかったことが詰まってる。本当のエピローグでもいいなと思うぐらいだし、ここでAile The Shota終わってもいいなっていう感覚もぶっちゃけあって。音楽やっててよかったなって思えたり、音楽やってた意味ってこれなんだ、こういうことを歌うために僕は音楽やってたんだなって思えたりした。ある種、もうやりきりましたっていうところなんですけど、だからこそ、もっと自然に、気楽に音楽やろうかなっていう気持ちになってますね。ライブをもっと楽しくするためにこういう曲作ろうかなとか、バズりそうなやつ作ります?みたいなのもやりたい。アルバムを作ったことないので、来年は絶対にアルバムを出したいなと思ってるんですけど」
――2024年から第1章が始まる?
「そうですね。アルバムが第1章になりますね。もうアルバムのタイトルも決まってます。これだっていうのがある。もう次は誰とやろうとか、どのプロデューサーにしようかって考えているし、4th EPのリード曲候補として制作していたChaki Zuluさんとの曲もあるので、“J-POPSTARの1stアルバムってこういうもんでしょ?”っていうのを作りたいなと思います。そのアルバムを核にしつつ、やっぱりHIP HOPシーンにもちょっと顔出したいので、同軸でHIP HOPのEPも作りたい。どっちが先になるかなって感じですけど、めっちゃ楽しみですね。BMSG自体が漫画っぽいじゃないですか。僕はAile The Shotaもすごく物語だなって思ってるので、少年漫画みたいな面白い展開にしていきたい。ある種、「ワンピース」のルフィじゃないですけど」
――J-POPSTARに俺はなる!って宣言しましたからね。
「そうそう(笑)。主人公でありたいっていう感覚もあるタイプなので、どんどん面白いことをしていきたいですね」
(おわり)
取材・文/永堀アツオ
写真/ハタサトシ
LIVE INFO
■Aile The Shota Oneman Tour “Dialog”
2024年2月12日(月)広島 CLUB QUATTRO
2024年2月25日(日)熊本 B.9 V2
2024年3月10日(日)札幌 PENNY LANE24
2024年3月20日(水)新潟 LOTS
■PANDORA organized by Aile The Shota
2024年3月28日(木)Zepp Haneda
出演 Aile The Shota / Bleecker Chrome / Js Morgan , etc.
Aile The Shota「Epilogue」DISC INFO
2023年12月6日(水)発売
初回生産限定盤(CD+Blu-ray)/POCS-23914/4,200円(税込)
通常盤(CD)/POCS-23039/1,300円(税込)
BMSG / Virgin Music Label and Artist Services