――新曲「悪魔の子」はTVアニメ「進撃の巨人」のエンディングテーマとして書き下ろされた楽曲ですが、最初に依頼を受けた時の第一印象はどういうものでしたか?

「“いいんですか?”みたいな感じでした。もともと原作のマンガが大好きで読んでいましたし。ただ、マンガのほうは完結しているんですけれど、アニメでは完結していないので、どこまで書こうか、書いていいのか、を考えるのは大変でした。しかも、現実の世界の話ではないので、私の書いた曲のなかで1曲だけ飛び出したものになってしまうんじゃないか……みたいな気持ちがずっとありました。自分が歌っていておかしくないものにしたいというのがあったので、なんとか自分の方に寄せていくのがテーマだったような気がします」

――「進撃の巨人」のどんなところが好きなポイントですか?

「最初読んだ時には夢に巨人が出てきて、めちゃくちゃ怖くて途中で読むのを止めてしまったんです。でも、もう一度読み直した時に“なんて展開の速さなんだ!”と思って、すごく面白くて。私としては、単なるファンタジーでは全然なくて、現実の世界で起きていることに置き換えられるものが沢山あると思いました。そういうところで大人がハマっているんだと思います」

――「進撃の巨人」のストーリーには、正しさと別の正しさが衝突しているようなところがありますよね。それは今の社会に通じるものだと思いますし、そのあたりが曲のテーマにも投影されているような印象があります。

「そうですね。まさに、そこ一本で書いているというのがあります。こっちの正義があって、向こうの正義があって、その正しいところがぶつかっているだけということが、世の中には本当に多い。大人になるというのは、自分が正しいと思ったことを突き進められなくなることだと思います。たとえば、自分はこれをやりたいけど、でもこれが正しくないと言う人の気持ちもわかる、ということもありますし。そういう時に自分では答えが出せていないのに、この漫画では答えを出してくれる。そういう強さを持ってるところが憧れる面でもありますね。自分の正しさと相手の正しさが違ったときに、どうしたらいいんだろうっていうのは、私はたぶん死ぬまでずっと考え続けるんだろうなと思います」

――歌詞には「壁」や「戦争」のように「進撃の巨人」の世界に通じる言葉が出てきますが、それだけじゃないものになるよう意識して書いていったということですよね。

「そうですね。この曲で私のことを知る人も多いと思うので、“これが私の読み方だ”という感じの曲にはなっていると思います。聴いている人は“そういう見方もあるんだ”って思うかもしれないですけれど」

――「悪魔の子」という曲名はどういうイメージから出てきた言葉なんでしょうか?

「悪魔というのは「進撃の巨人」で出てくる言葉ではあるんですけれど。悪魔というものと、悪魔だと思われているものから生まれた子供たちがいて、その子供たちがまた子供を生んでいく。そうやって血を繋げていくということはどういうことなのかということはすごく考えました。その国に生まれただけで自分の運命が決まってしまっているっていうことは、多かれ少なかれ日本にも、どこの国にもあることだなって思ったので。それで「悪魔の子」にしました。でも、迷いましたね。“こんなタイトルでいいんだろうか?”とは思いました」

――曲を作るにあたっては、テレビサイズの89秒で伝わるメッセージの輪郭と、フル尺を聴いて伝わるメッセージの輪郭を、意識して大きさを変えたようなところはありますか。

「ありますね。というのも、ドラマ「生きるとか死ぬとか父親とか」のエンディングテーマの「縁(ゆかり)」という曲を書いたときも、フルで聴いてもらった人にまた違う気持ちを持ってもらわなきゃ意味がないなと思っていて。ドラマやアニメで聴いて、そこだけの曲って思われるのが、すごくもったいないなと思うんです。フルで聴いた時に“あ、そういうことだったんだ”って思えるような曲にしたかったんですよね。そうなっていると思います。だからフルで聴いてもらいたいですね」

――「縁」のときも、そういうタイプの曲を作ろうという意識があった?

「そうですね。釣りみたいな話ですけど、パクッと食べるんじゃなくて、飲み込んで針が引っかかっちゃってるっていう状態にしないと意味がないと思うんです。“それだけじゃないですよ”というのはずっと出していきたいですね。そこからヒグチアイの他の曲を聴いてもらっても、リンクするものがあるって思ってもらいたいですね」

――2021年9月から11月にかけて、「悲しい歌がある理由」、「距離」、「やめるなら今」と3ヵ月連続配信リリースもありました。これらの曲を収録したアルバムを制作中ということですが、どんな一枚になりそうでしょうか?

「今まではアルバムに向けて曲を作ってきたんですけれど、今回はとにかく“1曲で聴いてもらえるようにするにはどうすればいいんだろう”って考えながら作った曲ばかりなので、めちゃくちゃ濃いアルバムになっている感じがします。自分の中でも新しい作り方のアルバムですね」

――2022年はどういう年にしたいと思っていますか?

「コロナがあったというのもありますけれど、去年はプライベートでいろんなものを見にいったり、吸収したりできてなくて。2022年はもうちょっと自分の人生を豊かにすることをしたいなと思います。音楽がないと生きられないんじゃなくて、私の場合は生きている中に音楽があるので。生きるということを豊かにしていかないと、書けるものも書けない。もちろん働きますが、2022年は自分を豊かにすることを大事にしようと思っています」

──そして、今回はヒグチアイさんにレコチョク×USENの店舗用BGMアプリ「OTORAKU -音・楽-」の中で、オリジナルプレイリストを作成していただきました。ヒグチアイさんがイメージしたシチュエーションは、“真夜中カフェで一人”ということですが?

「私はお酒を飲まないので、お酒を飲む場所で流れている曲が全くわからないんですよ。なので、あまりリズムがあるものではなく、でも悲しすぎないというところで探した感じです」

――ジャンルも国も年代も幅広いセレクトですね。

「そう思います。私はふだんもずっと環境音を聴いていたりするので、新しい音楽に出会うことはほとんどないんですね。でも、ピアノを弾いている人はとにかく聴こうと思って。だから、ジャンルは関係なく聴いているというのがあるんだと思います。もともとニーナ・シモンだけは私の特別な場所にあるので、このプレイリストでもニーナ・シモンが真ん中にある気がしますね」

――ピアノにもいろんなタイプがありますが、どういうものが好みの傾向としてありますか?

「私もそういうタイプだと思うんですけど、そのピアノ自体が鳴っていて、音の響きが消えるところまでを感じている人がすごく好きですね」

――プレイリストの聴かれ方については、どんなイメージをしましたか?

「夜に一人で、冷静に自分に向かい合いたい時に聴く感じです。カフェだったら、少し暗くて、みんな一人で来ているような場所がいいですね。カフェじゃなくて、一人で歩いている時に聴くのもいいと思います。誰かといっしょに聴くわけでもないし、まわりがざわざわしているときに聴くわけでもない。元気になれる感じじゃないですし、自分のことを考えたい時にいいような気がします」

(おわり)

取材・文/柴 那典
写真/平野哲郎



 レコチョク×USEN「OTORAKU -音・楽-」SPECIAL バックナンバー 
2021.12.27 木下百花「悪い友達」インタビュー――好きな音楽と向き合って
2021.12.23 Non Stop Rabbit『TRINITY』インタビュー――三位一体が最強である!
2021.11.17 GARNiDELiA『Duality Code』インタビュー――もっと近くで歌っている感じ
2021.11.17 安藤裕子『Kongtong Recordings』インタビュー――まるでミュージカルのように
2021.08.04 鬼頭明里『Kaleidoscope』インタビュー――歌いこなせるとすごく気持ちいい
2021.05.26 flumpool「ディスタンス」インタビュー――一人は楽だけど、それはそれで寂しい


PLAY LIST空間の音楽 by ヒグチアイ~ピアノ曲集「真夜中カフェで一人」~

明るいとか暗いではなく、そこにある日常に寄り添う音楽。誰かと聴くわけじゃなく、自分に向き合いたいときにお聴きください。

1.ヒグチアイ「悲しい歌がある理由」
2.Nina Simone「Seems I'm Never Tired Lovin' You」
3.regina spektor「Samson」
4.ラファウ・ブレハッチ「Debussy: 版画 - 第1曲: 塔(バゴダ)」
5.細野晴臣「僕は一寸」
6.笹川美和「泣いたって」
7.フィオナ・アップル「Never Is a Promise」
8.トーリ・エイモス「Winter(2015 Remaster Version)」
9.ヒグチアイ「悪魔の子」
10.A Fine Frenzy「オールモスト・ラヴァー」
11.Hideyuki Hashimoto「yoru」
12.Fritz Kreisler/Franz Rupp「Londonderry Air (arr. Kreisler) (1993 Remastered Version)」
13.Michael Bubl?「Everything」
14.ルイス・キャパルディ「Grace [Acoustic]」
15.MIKA「Tiny Love」
16.Nina Simone「I Wish I Knew How It Would Feel to Be Free」
17.ヒグチアイ「ラジオ体操」

キュレータープレイリスト(OTORAKU -音・楽-)

レコチョク「レコログ」インタビュー ヒグチアイがTVアニメ「進撃の巨人」ED主題歌となる「悪魔の子」をリリース!新作について、音楽との向き合い方について語る

レコログ

LIVE INFOHIGUCHIAI band one-man live 2022

2022年3月11日(金) EX THEATER ROPPONGI(東京)
2022年3月27日(日) umeda TRAD(大阪)

イープラス

DISC INFOヒグチアイ「悪魔の子」

2022年1月10日(月)配信
ポニーキャニオン

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