──ニューアルバム『Kongtong Recordings』のお話を伺ううえで、まずはじめにコロナ禍という状況や期間は、安藤さんにどんな影響を及ぼしたのか?ということをお聞きしたいです。

相当きついですよね。日本は会社勤めの方が多いので、ちょっと感覚の共有は難しいかなと考えてはいますが、私たちはどこかこう舞台に立つことで保っているバランス感覚っていうのがきっとあって、その舞台がことごとく浮かんでは消えてしまった。だから、期待することが怖くなってしまうというか。アルバムには「UtU」というタイトルの曲がありますけど、軽く鬱っぽくなりましたね。やっぱり歌うっていうことで体のバランスを整えていたんだなあということをこの2年間で感じました。

──2016年に活動を一時休止された時にも「心の状態が虚無な状態だった」というようなことをおっしゃっていましたが、その時と似たような体験だったのかなと。

「そうなんですよ。なんかもう曲ができないなと思って。一回真っさらにして、さあ立ちあがろうとした時にコロナ禍に突入したから。ちょうど前作『Barometz』という、いわゆる復帰作をレコーディングしている最中、あともう少しで仕上がるという時に緊急事態宣言に入ってしまって、すべてが止まってしまったんですね。ようやく作ったものを自分の名前で出せるっていう瞬間だったから、出鼻をくじかれましたよね」

──今作『Kongtong Recordings』は、復帰してからのシナリオとして、安藤さんがイメージしていたものになっていますか?それとも、コロナ禍での経験があって、少し変化したりしましたか?

「そこは結構一直線に続いていたかなと思っていて。2016年にレコード会社を離れてしばらくぼんやりしていたんですけど、もう一回自分の初期衝動を思い出さなきゃいけないと思って。最近もよく思っていたんですけど、エイベックス後期はどこか自分の感受性に大きく蓋をして作品に向かうようにしないと、ちょっと社会性が保てなくなっていたんです。だけど感受性に蓋をすると、もはや作品を作る意味がなかったりとかして。そこに煮詰まっていたんだと思うんですけど、それで一度離れてから、もう一回“作る”ということにおいて何を楽しんでいたのかを思い出すために、2018年に『ITALAN』という自主制作盤を出したんです。今作でも一緒に制作してくれたShigekuniくんと共に、ある程度どっぷりとオルタナティブなことをやったんだけど、J-POPがミュージシャンの中でいうところの“大卒の社会人”だとしたら、『ITALAN』は“趣味でしょ?”って言われてしまうところがあって(笑)。それでもう一度レコード会社と一緒にやりましょうっていうことになって、『Barometz』に取り掛かったんですけど、昔と同じようなことをやる意味はないと思って。大人になってしまった自分がちゃんとまたときめくことのできる音と、今一度向き合わなきゃいけないという思いがあったから、『Barometz』は音像の楽しさを生かしながら、ある程度大衆性も探るような作品になったと思うんです。で、その後にコロナ禍になって宙ぶらりんな感じになっちゃったんですけど、その頃に“「進撃の巨人」のコンペに曲を出しませんか?”というお話をいただいて「衝撃」を作ったら、思っていた以上に反響があったんです」

──そこから今作の制作の流れが始まったと?

「ただ、「衝撃」は「進撃の巨人」という作品に私自身が随分とのめりこんで、現実世界とは違う世界観で作り上げたものなので、この曲ありきの次回作の制作になるのなら、ちょっと難しいぞと思っていたんです。この世の人々は、こんなに混乱した世の中でも、相変わらず表層は変わらないままじゃないですか。テレビの世界にしても、何にしても、爽やかで明るいまま。こんなに混乱した世界なら、本当はもっと人の叫び声が聞こえていてもおかしくないんだけど、やっぱり整頓された国だから、そういうものは出てこない。だから、そこに生々しい感情が向かないような気がして、「衝撃」と対になっていく曲を、と考えて、最初「サスペリア」っていうデモを作ったんですよ。今回それは入ってないんですけど(笑)」

──『サスペリア』って、あのホラー映画の?

「そう。私が小さい頃から夢中で観ていた映画なんですよ。小さい頃、ホラーはファンタジーに見えていたんですね。本当の怖さを知らないから。事件が起こる前に急に流れてくる不穏な音楽が好きで、「衝撃」も今の世の中とは違う、この世が終わるという瞬間を歌っていたわけだから、それに続くようなもの、サスペンスの世界みたいなものを作りたいなと思ってデモを作ったんですけど、だんだん明るい曲を歌いたくなってきちゃったんですよ」

──その変化には何か理由があったんですか?

「この2年間、暮らしもままならないし、病気の形もわからない、この世の中自体も信じられないというような感じになっていったじゃないですか。政すら信じられなくて、誰が正解を言っているのかわからない、もはや正解はないのかなというようなところで、作り物の猜疑心を歌うというか、サスペンスを歌うことにピンとこなくなってしまったんでしょうね。それで春ぐらいから、いわゆるポップス、カーペンターズみたいな曲を作ろうと思ってShigekuniくんと作り始めたのが、一曲目の「All the little things」なんです。まるでミュージカルのように開けていく、祝祭が感じられるようなものがひとつ形になったことで、今回のアルバムの答えが見えてきたというか」

──あと、今作の資料の中で安藤さんは「混乱の世の中で私が歌うのは泣ける歌じゃない」と書いていました。これはどういう想いからですか?

「さっきの話にもあったんですが、感受性のバランスということをずっと思っていて。感受性に蓋をしすぎると曲は生まれないんだけど、あまりに感受性に寄ると、今度は生活ができなくなる。このコロナ禍っていうのは結構ミュージシャンにとって、地獄絵図だったんじゃないかなと思うんですけど、泣けるって酔いしれる余裕があるからできることだったりするんじゃないかと思っていて。だから、あんまりそういう余裕がなかったかなって思ったし、そういうペシミスティックな快楽みたいなところは、ちょっと違うかなと思ったんです」

──なるほど。それでこういう心地よい作品が生まれたんですね。完成して改めて、どんな作品になったと思われますか?

「Shigekuniくんというパートナーに多大な力を貸していただき、何十年も音楽をやっていますけど、ようやく自分の作品を作れたなと思っています。今作でまた一つポップスの道というか、そういう世界に自分で帰ってきたっていうところで考えると、非常に満足感があります」

──そして、今回は安藤さんにレコチョク×USENの店舗用BGMアプリ「OTORAKU -音・楽-」の中で、オリジナルプレイリストを作成していただきました。安藤さんがイメージしたシチュエーションは、“原稿の締め切りに追われ、テーブルに片肘をつきながら眠気と闘う男は珈琲を啜り、昔の彼女を思い出しちゃったりなんだりしながら徐々に煮詰まりから脱却していく。そんな物語の曲”だと?

「ちょっと変な言い訳なんですけど、このリストを作ってって言われたその時、私が煮詰まっていたんですよ(笑)。それでいろいろと考えていたら、私はやっぱり夜型の人間なので、夜をともに過ごしているであろう仕事人間たちに捧げようかなと思って。“丑三つ時にどうぞ”っていう感じですかね。ちょっと怪しいですけど(笑)」

──ということは、そのときの安藤さんの様子や心情が多大に反映されている?

「はい、含まれています(笑)。物語としたので、起承転結をちゃんと作った方がいいかなと思って、どんどん煮詰まっていったら昔の彼女を思い出しちゃった、あ~あ……みたいな(笑)。そしてそこからだんだん抜けていくみたいな感じですね。自分の曲も入れてくださいと言われたので、まず「UtU」を一番最初に入れたんです。この曲はすごいアッパーなんですけど、煮詰まりきったというか、苛立ちの曲で。ずっと巡ってはいくんだけど、結局どこも変わらなくて、ルーティーンから抜けきらない。そういう自分の曲を中心に置きつつ、前半は脳みそがぐわんぐわんするような感じですね。最初はダウナーな感じなので、健全なところでかかっていたらちょっと嫌な気持ちになるかもしれません(笑)。ぜひ夜中に一人で聴いていただけたらと思います」

──インプットの一環として聴いている感じですか?

「そうなんですよ。そんなふうに生活の一部として私は音楽を聴かないんですけど、みなさんにはぜひ今作『Kongtong Recordings』を可愛がっていただいて、ご自身のサウンドトラックにしていただけたらいいなと思っています」

(おわり)

取材・文/大窪由香
写真/平野哲郎

OTORAKU -音・楽- PLAY LIST空間の音楽~深夜、ホテルの窓に映る男~ by 安藤裕子

原稿の締め切りに追われ、眠気と闘う男。珈琲を啜り、昔の彼女を思い出しちゃったりなんたりしながら徐々に煮詰まりから脱却していく……そんな真夜中の大都会、ホテルの部屋のためのBGM。

1.Courtney Barnett「Hopefulessness」
2.DJ Shadow「ビルディング・スティーム・ウィズ・ア・グレイン・オブ・ソルト」
3.ポーティスヘッド「ザ・リップ」
4.チェット・ベイカー「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」
5.Bill Evans Trio「ワルツ・フォー・デビイ [テイク1]」
6.Mount Kimbie「Blue Train Lines」
7.ザ・キュアー「インビトゥイーン・デイズ」
8.Cage The Elephant「Cry Baby」
9.ザ・フー「シー・ミー・フィール・ミー」
10.Stevie Wonder「神の子供たち」
11.Tears For Fears「Shout [7" Edit]」
12.Can「Moonshake」
13.Prince「America」
14.ザ・ビートルズ「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ [Remastered 2017]」
15.安藤裕子「UtU」


※「OTORAKU -音・楽-」アプリで提供される楽曲は、アーティストや著作権者、レコード会社等の都合により、予告なく配信を終了する場合があります。またソングリストによって曲順がシャッフルされる場合があります。

キュレータープレイリスト(OTORAKU -音・楽-)

レコチョク「レコログ」インタビュー

安藤裕子、ニューアルバム『Kongtong Recordings』ついにリリース!「ようやく自分の作品を作れたな、と思っています」

レコログ

LIVE INFO安藤裕子 LIVE 2022 Kongtong Recordings

2022年1月16日(日)COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール(大阪)
2022年1月22日(土)中野サンプラザホール(東京)

DISK GAREGE

DISC INFO安藤裕子『Kongtong Recordings』

2021年11月17日(水)発売
PCCA-6075/3,300円(税込)
ポニーキャニオン

Linkfire

MEDIA INFO

映画『そして、バトンは渡された』
2021年10月29日(金)全国公開

連続ドラマW『だから殺せなかった』(WOWOW)
2022年1月9日(日)22:00~

庄野雄治 編『コーヒーと短編』
表紙モデルの安藤裕子書き下ろし短編「謀られた猿」も収録。
2021年10月1日(金)発売
四六変形判ハードカバー/ISBN978-4-910215-06-8/1,430円(税込)
ミルブックス刊

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