そのユニークなピアノスタイルで知られたジャズピアノの巨人、セロニアス・モンクは、モダン・ピアノの開祖、バド・パウエルに音楽理論を教えたほどの人物なのに、人気のほどはいまひとつでした。それは、独特のよじれたフレージングや、けつまずいたようなリズム感が、流麗なパウエル流バップ・スタイルを聴き慣れたファンに受け入れられ難かったからでした。

しかし、一度モンクの世界に馴染んでしまうと、誰にも似ていないオリジナリティに愛着がわくだけでなく、彼の音楽が実に聴き手の気持ちを自由にさせてくれることに気がつきます。まさにジャズなのですね。

まず最初は、初期のピアノトリオ演奏で、確かにふつうのリズム感とは違っているのですが、モンク流のドライヴ感の心地よさが聴き手を引き込みます。もちろんユニーク極まりないモンクのオリジナル曲の魅力も満載です。

しかしモンクは、パウエルやビル・エヴァンスのようにトリオ・フォーマットで演奏するより、自作曲をホーン奏者に演奏させてモンクス・ミュージックを世に問う方向に進みます。基本的にテナー奏者を入れたカルテット編成が好みのようで、最初のテナーマンがソニー・ロリンズでした。モンクにしては珍しく、スタンダード・ナンバーである「今宵の君は」などを演奏していますが、モンクとロリンズの相性はなかなか良かったのですね。

その流れは名盤『ブリリアント・コーナーズ』(Riverside)に引き継がれますが、この作品はアルトのアーニー・ヘンリーも参加した2管クインテット。地味な存在のヘンリーがモンクの世界で自由奔放にアイデアを飛翔させています。そしてもちろんロリンズも絶好調。

ロリンズと並ぶテナーの巨人、ジョン・コルトレーンはじめ、スイング時代から活躍するテナー・サックスの父と言われたコールマン・ホーキンスまでが参加した臨時セッション『モンクス・ミュージック』(Riverside)では、メンバーがけっこう間違えたりしているのですがジャズ的緊張感はいささかもゆるいではいません。これもまた名演です。

そのコルトレーンは一時マイルス・グループを離れ、モンクのサイドマンとなった時期があるのですが、彼はこの間にモンクから音楽理論を叩き込まれ、一気に上達します。『セロニアス・モンク・ウィズ・ジョン・コルトレーン』(Jazzland)は、その貴重な記録です。

モンクの次のテナーマンはジョニー・グリフィンで、彼はブルーノートなどにハードバップの名演をたくさん残していますが、モンクのサイドマン時代は完全にモンクス・ミュージックの枠に収まりつつ、しかも自らのアイデアも自在に表現しています。この辺りはモンクのリーダー・シップの巧みさですね。収録したのは有名なファイヴスポットでのライヴ盤『ミステリオーソ』(Riverdide)です。

その後リヴァーサイドからコロンビアに移籍したモンク・カルテットは、サイドマンもチャーリー・ラウズに変わります。彼はツアーの準備や楽譜の用意など、いわゆるバンド・マネージャー的な仕事も器用にこなし、その辺りをモンクから重用されたようです。しかし音楽的まとまり感は素晴らしく『モンクス・ドリーム』(Columbia)などは、まさにバンドが一体となってモンクの世界を表現しています。

ソロピアノでは、珍しくスタンダード・ナンバーを披露していますが、モンクが演奏すると聴き慣れた曲目まで、まるでモンクのオリジナルのように聴こえるから不思議です。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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