「バップの高僧」という変わったあだ名や、ステージの上で踊りだすパフォーマンスなど、セロニアス・モンクは奇矯なジャズマン伝説を象徴する大物ミュージシャンである。それだけに一度彼の世界にはまり込むと、ちょっとネジれたようなフシギな旋律がアタマの中で勝手に鳴り出す強力な個性の持ち主だ。

しかし最初は、ハードバップ・ファンにもとっつきがよい2管クインテットのアルバム『5モンク・バイ5』(Riverside)から聴いていこう。サッド・ジョーンズの気持ち良いトランペットに導かれた快適な《ジャッキー・イング》は、モンクの世界への入り口として最適だ。テナーサックスのチャーリー・ラウズは晩年のモンクカルテットを支えた重要人物で、このアルバムでもよいソロをとっている。

モンクの面白いところは、ジョン・コルトレーンのような当時の新人とも、また、スイング時代から活躍していたベテラン、コールマン・ホーキンスともうまく合ってしまうところだ。アルバム『モンクス・ミュージック』(Riverside)は、新旧二人のテナーマンとの共演が見もの。

モンクは、基本的にテナーサックス奏者を擁するカルテットでレギュラーコンボを組んだが、ジョニー・グリフィンをサイドに従えた時期が有名だ。『ミステリオーソ』(Riverside)はモンクのライヴの傑作として知られた名盤で、グリフィンのソロが熱い。

そしてコルトレーンと並ぶ大物テナー、ソニー・ロリンズをサイドに従えたモンクの代表作『ブリリアント・コーナーズ』(Riverside)では、ロリンズの個性を生かしつつモンクの世界を完璧に表現した、“モンクス・ミュージック”のマジックが素晴らしい。もう一人のサイド、アルトのアーニー・ヘンリーも、モンクによって良さを引き出されている。

モンクはピアノ奏者としても圧倒的な個性を誇っているが、バド・パウエルやビル・エヴァンスのようにトリオアルバムはあまり作っていない。『セロニアス・モンク・トリオ』(Prestige)は彼の貴重なトリオ演奏の傑作で、独特のリズム感やユニークな「間」の取り方が良くわかる。パウエル派ピアニストとはちょっと違うが、ノリの良さも抜群だ。

モンクがパウエルやエヴァンスと異なるのは、作曲家としても大いに活躍している点だ。モンクの書いた曲は、エリントン・ナンバーと並ぶジャズ・スタンダードとしてファンに知られている。そして、多くのミュージシャンが彼の曲を演奏することによって、モンクの世界は広がっていく。

ポール・モチアンの『モンク・イン・モチアン』(Bamboo)は、誰が、どういう演奏をしてもモンクの香りが漂ってくることを教えてくれる素晴らしい演奏。その効果はインスト・ナンバーに限らず、ヴォーカルにおいても発揮され、カーメン・マクレエの《ラウンド・ミッドナイト》からは、モンクの姿がくっきりと浮かび上がってくる。そして極め付きは、モンクに音楽理論を習ったこともあるバド・パウエルによるアルバム『セロニアス・モンクの肖像』(Columbia)だ。パウエルの個性とモンクの世界が高い次元で融合した傑作である。

最後は再びモンク自身のソロ・ピアノによる自作の名曲《ラウンド・ミッドナイト》の演奏をお聴きいただいて、個性的で非常に幅広いモンクの世界をお楽しみください。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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