いい歌でありさえすれば必ずヒットする。
これが歌の本来あるべき姿です。しかし、現実は強力なタイアップが付いていなければ売れない時代です。いかがなものか?と思います。この風潮に私はあえてアンチテーゼを投げかけたい。いい歌は売れるべきだし、たくさんの人たちに聴いてもらいたい。そんな“音楽愛”が私のポリシーです。
今回紹介するのは、岡大介さんのアルバム「にっぽんそんぐ 外国曲を吹き飛ばせ」に収録されている「東京」です。
歌は歌であって、実は歌ではない。かつて〈フォークの時代〉は、歌とはそういうものでした。ところが、年月が流れ、そんな中で歌は“たかが歌”に成り下がってしまったのです。だからこそ今、歌は〈原点〉に立ち返るべきだと私は思います。そんな「原点の歌」が岡大介さんのアルバム「にっぽんそんぐ」には凝縮されています。これぞ歌は歌であって、実は歌ではない〈本物〉の歌なのです。ということで、今回のゲストは「東京」を作り歌われているカンカラ三線の岡大介さんです。
現代の“演歌師”岡大介は声がかかればどこでも歌う!
明治、大正時代に街頭に立ち、社会風刺の演説を歌にして歌う“演歌師”と呼ばれる人たちがいました。そんな演歌師の巨頭が添田唖蟬坊でした。
今、唖蟬坊の再来か?と注目されているのが岡大介さんです。東京生まれ、44歳の彼は、当然のことながらリアルタイムで唖蟬坊を知りません。そんな彼がなぜ演歌師の存在を知るようになったのか?
高校時代に彼は叔父から教えられ吉田拓郎を知りました。拓郎からフォークソングにはまり、岡林信康、なぎら健壱、高田渡を知り、特に高田の作品「あきらめ節」(添田の詞に高田が曲をつけました)を通して唖蟬坊を知るようになりました。
「渡さんの作品を聴いて、そのルーツが知りたくなり、調べていったら、明治、大正の演歌師にたどりついたのです」
演歌師が醸し出すチンドン屋ふうの心うきうきとした浮遊感がフォークギターでは出せないということで、カンカラ三線を使って歌うようになりました。
「空き缶を利用した沖縄の三線“カンカラ三線”を教えてもらって弾いてみたら、そのしょぼい感じがぴったりだったんで、それ以来使っています」
唖蟬坊の「東京節」「ラッパ節」などのカバー曲の他に風刺をきかせたオリジナル曲「ホロホロ節」などを持ち歌に、岡さんは声がかかると飲み屋さんでもどこへでも出かけて行って歌う、まさに“現代の演歌師”です。
岡大介さんに興味を持たれた方はぜひ彼の“演歌”を聴いてみて下さい。彼はこれまでに5枚のアルバムをリリースしています。「かんからそんぐ 添田唖蟬坊・知道をうたう」「かんからそんぐⅡ 詩人・有馬敲をうたう」「かんからソングⅢ 籠の鳥・鳥取春陽をうたう」「にっぽんそんぐ 外国曲を吹き飛ばせ」「かんからそんぐⅣ カンカラ三線ひきがたり 演歌師・添田唖蟬坊生誕150周年記念」。
あなたのハートを鷲づかみにするのはどの歌でしょうか?こんなすごい歌、聴かなきゃ損!
radio encore「富澤一誠のこんないい歌、聴かなきゃ損!」 第12回 岡大介「東京」
「こんないい歌、聴かなきゃ損!(音声版)」第12回目のゲストには「東京」を歌われている、現代の“演歌師”岡大介さんをお迎えしてお送りします。こちらもぜひお楽しみください。
岡大介(おか・たいすけ)
●カンカラ三線・演歌師
●1978年、東京生まれ。自由民権運動から始まった明治大正演
●CD
★「かんからそんぐ~添田唖蝉坊・知道をうたう~」
(オフノート/2008年)
★「かんからそんぐ2~詩人・有馬敲をうたう~」
(オフノート/2010年)
★「かんからそんぐ3~籠の鳥・鳥取春陽をうたう~」
(オフノート/2015年)
★「にっぽんそんぐ~外国曲を吹き飛ばせ~」
(オフノート/2018年)
★「かんからそんぐ4〜演歌師・添田啞蟬坊生誕150年記念/カ
(オフノート/2022年)
●書籍
★『カンカラ鳴らして、政治を「演歌」する』
(dZERO/2021年)
関連リンク
富澤一誠
1951年、長野県須坂市生まれ。70年、東大文Ⅲ入学。71年、在学中に音楽雑誌への投稿を機に音楽評論家として活動開始し、Jポップ専門の評論家として50年のキャリアを持つ。レコード大賞審査員、同アルバム賞委員長、同常任実行委員、日本作詩大賞審査委員長を歴任し、現在尚美学園大学副学長及び尚美ミュージックカレッジ専門学校客員教授なども務めている。また「わかり易いキャッチコピーを駆使して音楽を語る音楽評論家」としてラジオ・パーソナリティー、テレビ・コメンテーターとしても活躍中。現在FM NACK5〈Age Free Music!〉(毎週木曜日24時から25時オンエア)、InterFM〈富澤一誠のAge Free Music~大人の音楽〉(毎月最終水曜日25時から26時オンエア)パーソナリティー。また「松山千春・さすらいの青春」「さだまさし・終りなき夢」「俺の井上陽水」「フォーク名曲事典300曲」「『こころの旅』を歌いながら」「私の青春四小節~音楽を熱く語る!」など著書多数。