洗練された日本のクリエイションを上質な空間とおもてなしで提案する。写真はザ トウキョウ 丸の内

上質で洗練されたホテルのような落ち着く空間

ザ トウキョウの立ち上げは、ステュディオスの創業から15年近くが経ち、主要顧客層が年齢を重ねる中で店に求められるものも変わってきたことによる。

しかしステュディオスの店作りを変えれば、「今のお客様を裏切ることになる」(谷正人CEO)ことから新たな業態の構想に至った。

その骨子を谷CEOはこう述べている。

「自分や社員が本当にお金を出して欲しいもの、今の洗練された大人のラインナップであること、ステュディオスの卒業生、東京発のブランドは好きだけどステュディオスには行かない方、華美な服やロゴものが苦手な方、外商までは行き過ぎだけど、しっかりサービスを受けたい方、そんな方々へ向けて新たな挑戦をしていきます」

この考えを体現した1号店、ザ トウキョウ 丸の内は有名ブランドのショップが集積する丸の内仲通り沿いに立地し、売り場面積は約100坪に上る。

国内外で活躍するインテリアデザイナーの森田恭通氏が「日の光が心地いい上質で洗練されたホテルのような落ち着く空間」をテーマに手掛けた店内は、中央に接客のメインステージとなるラウンジスペース、柱や壁面には建物の躯体を生かしたアートウォールが配置され、クリーンかつ特別感のある空間だ。

同様のコンセプト、規模で、昨年11月には六本木の東京ミッドタウン、今年3月には表参道ヒルズにも出店した。

澤之井頌子(さわのい・しょうこ)THE TOKYO WOMENS ディレクター

2014年にSTUDIOUS (現TOKYO BASE)に入社し、翌2015年に店長就任。新ブランドの店舗立ち上げや数店舗の店長を歴任し、2017年よりSTUDIOUS WOMENS バイヤーに就任。2021年よりTHE TOKYO 立上げ、WOMENSディレクターに就任。

大人へ向けたトウキョウクリエーションの新たな挑戦

商品はウィメンズとメンズを展開し、「エレガント・ラグジュアリー・オーセンティック」をキーワードにセレクト。

ウィメンズは「フミカウチダ」「マディソンブルー」「チカキサダ」「アンスクリア」、ジュエリーブランド「ビジュードエム」など、メンズはストリートの要素も取り入れ、「アンダーカバー」や「ヨウジヤマモト」などの日本を代表するブランド、さらにスニーカーや時計などのカスタム商品も常時品揃えしている。

商品構成比は、秋冬・春夏通して、ウィメンズ55%、メンズ45%。

ステュディオスがメンズ出身であることもあり、メンズのウエートが高いのも特徴と言える。

「ザ トウキョウだけ」の商品も魅力だ。

バイヤーが注目する日本人デザイナーとメイド・イン・ジャパンによるプロジェクトブランド「THE PERMANENT EYE(ザ パーマネント アイ)」を立ち上げ、通年商品として展開している。

第1弾として取り組んだのは、堀内太郎、西崎暢、久保嘉男、清水則之、武笠綾子、石川俊介、茅野誉之、川瀬正輝。気鋭のデザイナーの感性とトウキョウベースが培ってきた日本の生産背景を生かし、エレガントで買いやすい価格帯のリアルクローズに仕上げた。

「新規のお客様にも顧客様にもすごく喜ばれました」とザ トウキョウ ウィメンズディレクターの澤之井頌子さん。

ただ、「デザイナーの物作りをエントリー層に体感していただくことが目的の一つなのですが、顧客様は目の肥えた方々が多く、接客を通じて、デザインはもっと冒険してほしいという思いも感じた」と言う。

22年秋冬以降、すでにデザイナーでは石川俊介、茅野誉之、川瀬正輝らとの取り組みを進めている。

山川めぐみ(やまかわ・めぐみ)THE TOKYO 表参道 チーフセールス

2018年にTOKYO BASE入社、STUDIOUS業態に配属。新卒1年目でスターセールスの称号を手にし、店長に昇格。東京・大阪にて店長を歴任後、2021年 THE TOKYOオープン時に配属、六本木店・表参道店を店長として立ち上げる。

来店までのプロセス、来店時の接客で増す「幸せ度」

ザ トウキョウの最大の特徴は、予約優先営業だろう。

フリー客にも対応するセレクトブランドを編集する一方、来店予約客に対してはその好みや興味関心、ニーズに適う商品を調達する。

「セレクト型コミュニティーストア」を標榜する所以だ。

つまり基本的な品揃えは3店共通だが、スタッフにお客様がついているため、スタッフは接客だけでなく仕入れにも立ち合っている。

それだけに、既存店で自身の顧客を持ち、店長クラスの実績やコミュニケーション力などの資質を備えた人材が配属されている。

「今、このタイミングで何を提案させていただくべきか、常に考えています」とザ トウキョウ 表参道の山川めぐみさん。

その確度を高めるため、「事前にLINEでお客様とコミュニケーションをして、好きなものや気になっているもの、どんなお仕事をされているのか、最近はどんなお買い物をされたのか、今後はどんなお出かけの予定があるのかなどを伺います。お気に召しそうな商品があればLINEで画像を送って感想を確認しながら、来店日に向けてお客様と一緒に品揃えを絞り込んでいく」。

来店時には揃えた商品をラウンジのラックに掛け、会話を通して1点1点、さらにコーディネートも提案する。

日頃から収集している顧客情報の上に、来店当日のパーソナルな接客により平均3~4点の購入になり、客単価は既存業態の数倍となっている。

AW期の顧客の平均客単価は12万円に上る。

「空間、商品、接客による"プチ外商"のような体験に価値を見出していることを実感しています」と澤之井さん。

実際、これまで経験のなかったラウンジの空間やスタッフによるおもてなしに共感し、来店頻度が高まったお客様が多いという。

「幸せ度が高まるというか、お帰りになる頃にはみなさんがキラキラしている」。

幸せの経験価値が客単価、来店頻度を高めているのだ。

特別感を高める場作りとして、顧客だからこそ楽しめるパーソナルオーダーの受注会などコミュニティー型イベントも定期的に開催している。

来店予約をしたお客様をもてなすザ トウキョウ 丸の内のラウンジスペース。1時間で8組までの接客に対応

客層・ニーズはエリアによって各店各様

客層は丸の内と六本木では既存業態の顧客や両エリアに居住・勤務する30代~50代が中心で、表参道は原宿からの流入を含め10代~50代までと幅広い。

いずれのエリアもウィメンズでは子育て中の母親層が多いという。

その中で店ごとのニーズも見えてきた。丸の内は周辺にコンサバティブなブランドが多い中で、ザ トウキョウでは「モードなブランドがしっかり売れている」と澤之井さん。

オフィス向け需要もある立地だが、同店は自分の好みや気分に合うプライベート服探しの受け皿になっているのだ。

2店舗目は東京ミッドタウン(六本木)に出店

一方、六本木では丸の内よりも高単価なアイテムが売れている。

丸の内、六本木、表参道で接客経験のある山川さんは、六本木のお客様に「当初は例えばアウターでは10万円前後を中価格帯と位置づけ提案したが、響かなかった」と、ニーズの違いに驚いたという。

「値段は関係なく、求められるのは質が高く安心感を持てるもの。また新規客はエレガントでフェミニンなテイスト、顧客様はエッジの効いたモード系と、2極化している」とも。

3店舗目は表参道ヒルズに出店

表参道は出店して3カ月ほどだが、課題が明確になった。

客層が想定したより幅広く、ターゲットを絞り込みづらい。

また近隣にブランドの直営店や取扱店があり、ブランドのバッティングが多い。

「ザ トウキョウにしかないブランドやアイテムへの特化が必要」とし、バッティングしているブランドは別注に切り替えるなどして特別感を深掘りしていく考えだ。

MDの差別化が図れれば、「3店の中で最も可能性を秘めた店」とする。

THE TOKYOウィメンズディレクターの澤之井頌子さん(写真左)と、THE TOKYO表参道の山川めぐみさん

裾野を広げ、目的来店を増やす

とはいえ、1号店がオープンしてまだ半年余り。

スタッフが既存業態に在籍していた頃からの顧客に加え、その紹介客や新規来店客の顧客化も進め、ザ トウキョウ全体では売り上げの半分以上を顧客の購買が占めている。

業態の特性から想定内の結果だが、今後は各店で予約やフリーで来店する新規客の裾野を広げ、再来店率を高めていくことが課題だ。

「コアな顧客様に支えられているという実感はすごくあります。ただ、まだまだザ トウキョウという店自体を知っている人が少なく、店の存在を知ったとしても来店予約はやはりハードルが高い」と澤之井さん。

そこで今年3月にザ トウキョウの公式通販サイトを開設した。ECだが販売メインというよりは、ザ トウキョウが扱うブランドやアイテムを知り、興味を持ち、来店動機となるツールとしての役割を重視している。

LINEやインスタライブなどSNSを組み合わせてコミュニケーションの頻度を上げ、目的来店を増やすことに力を入れていく。

顧客層の厚みがザ トウキョウへの信頼の証しとなり、事業の成長を支え、さらなる価値作りの原動力となる。

そのためにも、「顧客様が友人や知人に"ザ トウキョウを紹介したい"と本音で思っていただける接客をしていく必要があります」と二人は話す。

「私たちもお客様の仕事や趣味、美容や健康、食などへの興味関心、ライフスタイルなどを日々学び、知識や経験を積んでいきたい」と、今後に意欲を見せる。

写真/野﨑慧嗣
取材・文/久保雅裕

  • ラウンジの両サイドにはセレクト、オリジナルのファッションが並ぶ
  • メンズも充実。ベーシックで汎用性の高いジャパンメイドを集積
  • コーディネートに取り入れたいバッグや靴などとの出会いも楽しみ
  • ユニセックスで身に着けられるジュエリーも揃う
  • 柱や壁は建物の躯体を生かしたアートウォールに仕上げ、アート性の高い心安らぐ空間に

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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