マルト・デムランの感性を凝縮したライフスタイル提案

松屋通りから奥に入ったエリアには、昭和時代からの小さなビルが集積し、飲食店を中心に様々な個店が立ち並ぶ。
マガジンハウスの裏手にさしかかると、グリーンを配した店舗が目に留まる。
穏やかな時間が流れる小さな庭のような「フィールシーン」の店頭風景だ。

小さな庭のようなフィールシーンの店頭。4階までの壁面のどこかにてんとう虫が……

ドアを開けると、家具や食器、服、照明などカラフルなプロダクトが迎えてくれる。

この1階はフランス人バイヤー、マルト・デムランのセレクトによる「PARADE(パラード)」。

彼女は1989年から13年間、パリ1区のブティック「アブサント」のオーナー兼バイヤーを務め、その後は舞台衣裳のデザイン、東京やニューヨークのセレクトショップのバイイングを手掛け、日本でもその感性、ライフスタイルには多くのファンを持つ。

今回は商品だけでなく、床の色からドアノブに至るまで彼女が選んだ。

什器に使っているビンテージの棚やテーブル、ソファなども商品。部屋のような店内には随所に発見があり、好きなものと出会えたら、まさにパレードのような高揚感を感じるだろう。

色使いを重視するマルトがデザインした5色の陶器皿「ラ・キュイジーヌ・ド・マルト」は、フィールシーンのオリジナル商品。ぜひ押さえておきたい。

パリのデザイナー、ジュリー・ランソンによる木と色糸の照明は、マルトが同店のために選んだ色糸で製作。
網目からやさしい光が注ぐ。

カーテンはパリの男性デザイナー2人によるファブリックブランド「レ・トゥーリスト」の生地から、綿素材を中心に植物をモチーフとした多彩な柄をセレクト。
同素材のマットやエプロンもある。

服はパッチワークやプリントなどで自然を表現したワンピースなどを、マルト・デムランならではのセレクションで、日本初上陸のブランドも多い。

オープンして間もないが、好評なのは多機能プランター「バックサック」。

空気、水、土の環境をバランス良く保つ繊維からなる素材で作られ、高強度で軽い。取手の付いたバッグ型で色やサイズも様々あるので、ガーデニングはもとより、部屋の装飾にも活躍する。

  • 1階はマルト・デムランのセレクションによる「パラード」。衣食住に関わるカラフルなアイテムが揃う。手前上のエスニックな照明はアフリカンファブリックを使ったランプ
  • マルト・デムラン。その自在な色使いから「色の魔術師」とも呼ばれる
  • フィールシーンのために選んだ色糸で作られたジュリー・ランソンの照明
  • マルトがデザインした「ラ・キュイジーヌ・ド・マルト」
  • 自然のモチーフを基調とした洋服、その色・柄から元気をもらえそう
  • 「レ・トゥーリスト」の生地を使ったカーテン
  • オープン以来、人気のプランター「バックサック」

蒐集家の部屋へ、繭の中へ、アートのギャラリーへ

2階・3階の空間はフランスのアンティークディーラーで室内装飾家のマチルド・ラブルシュが手掛けた。

経年変化によって浮かび上がるモノの本質を生かすディレクションが特徴。

2階は以前のオーナー(日本舞踊家)が稽古場として使っていたフロアを、当時の床や障子をそのまま使い、新たな空間へとリノベした。

テーマは「蒐集家(しゅうしゅうか)の部屋」。

同店をプロデュースした村松が30年にわたり収集したビンテージ家具やオブジェなどのコレクション、ガラスと紙を組み合わせるデコパージュという技法で植物や鳥、昆虫などを表現したジョン・デリアンのペーパーウェイトやトレイ、リサイクルガラス100%の手吹きガラスブランド「ラ・スフルリー」のグラス、ベルリンの陶器ブランド「クーンケラミック」のマグカップやプレート、NYのアリソン・オーウェンによる陶磁器の一輪挿し、フランスのパトリックによる木を削り出して表現された照明やキャンドルホルダーなど、粒揃いのプロダクトが集う。

「身に着けるアート」をコンセプトとするNYのジュエリーショップ「クリストファーニューヨーク」がフィーチャーするクリエイターたちのアクセサリーも魅力。

時間を超えてアートなプロダクトが暮らしとつながる感覚を楽しめる場だ。

  • 日本舞踊の稽古場をリノベーションした2階「蒐集家(しゅうしゅうか)の部屋」
  • フランス人アーティスト、パトリックが手掛ける木の照明とキャンドルホルダー
  • モーガン・ヒルやクリス・ハバナら気鋭のデザイナーによるアクセサリーはまさに「身に着けるアート」
  • 村松が収集したビンテージ家具に並ぶのは手拭きガラスの個性的なグラスやデキャンタ
  • 水彩画のようなアリソン・オーウェンの陶磁器の一輪挿し
  • 写真奥の壁面には室内装飾家マチルド・ラブルシュによるビンテージミラーをパッチワークしたようなアート作品も

3階は「繭の中」。

壁面にビンテージリネンを配した空間は繭に包まれる感覚を呼び起こす。

人にやさしい、環境にやさしいこと=ウェルネスがこの空間のテーマだ。

「ナヨウニ」のベッド回りのテキスタイルやキャンドル、インセンス、「コロンバ・レッディ」のクッションカバーやカーテン、「エコール・ド・キュリオジテ」のウェアなど、ナチュラルテイストのプロダクトが揃う。

ビンテージのレースを型に使い模様をつけるヴァレリー・カサドの陶器、ラムレザーを使ったマリアナ・メンデスのバッグ、コロンビアの民芸品である籠を生かした照明など、すっきりと整った空間ながら巡るといろいろな発見がある。

  • 3階「繭の中」。ビンテージリネンの生成り色がやさしく包んでくれる。コロンビア製の籠の照明がやさしい明りを注ぐ
  • グラデーションやアクセントカラーの紐を編んだマリアナ・メンデスのバッグ
  • 洋服は「コロンバ・レッディ」「エコール・ド・キュリオジテ」などを揃えるほか、今後はスペインのブランドとのコラボアイテムも発表予定
  • 幾つものスタイル、時代のビンテージパーツをミックスして作る世界にひとつだけのアクセサリー。今回は、デザイナーとバイヤーがリモートでテーマを出し合いながらセレクトしたコレクションが並んでいる。
  • ヴァレリー・カサドのレースの刺繍で模様をつけた陶器

4階はギャラリーで、オープニングを飾ったのはフランスの画家、エディ・ドゥビアン。

現在はリヨン美術館で展覧会を開くなど西欧で著名になったが、無名時代から村松氏が日本に紹介してきた。

4階のギャラリーでは順次、気になるアーティストを紹介。写真はエディ・ドゥビアン展

4つの顔、世界観を持つフィールシーン。それぞれの世界が共感を広げながら、ライフスタイルに新たなカルチャーを吹き込んでいく。

写真/遠藤純、フィールシーン提供
取材・文/久保雅裕

FEELSEEN(フィールシーン)

東京都中央区銀座3-12-7 銀座ビル1-4F
TEL.03-6260-6335
営業時間:12:00~19:00
※神戸に姉妹店あり
FEELSEEN KOBE(フィールシーン神戸)
TEL.080-4161-7085

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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