1877年の設立から130年以上を経た今も、世界中のセイラーたちに信頼されているノルウェー発のスポーツウェアブランド「HELLY HANSEN(ヘリーハンセン)」。
現在では、スノーフィールドでのスキーヤーやスノーボーダーをはじめ、山岳ガイドや登山家、冒険家たちの装備として、アウトドア活動のすべてを網羅するブランドだ。
そんなヘリーハンセンが、2013年4月26日に日本ヨット発祥の地、神奈川県の葉山マリーナに出店。
「私はこの店舗に来てまだ5年目ですが、もともと葉山マリーナとゴールドウインとの間で繋がりがあり、このショップを作る前からヘリーハンセンの取り扱いがあったと聞いています」とは、ヘリーハンセン 葉山マリーナ 店長の深谷広樹さん。
深谷広樹/左(ふかや・ひろき)ヘリーハンセン 葉山マリーナ 店長
2009年、株式会社式会社ゴールドウイン入社。入社12年目。THE NORTH FACEららぽーと船橋店、THE NORTH FACE +ラゾーナ川崎店、THE NORTH FACE +エスパル仙台店を経て2020年にHELLY HANSEN葉山マリーナ店に着任。
安西恵里奈/右(やすにし・えりな)ゴールドウイン ヘリーハンセン事業部
総合美容商社の広報・PRを経て、2019年、株式会社ゴールドウイン入社。PRを中心にメディアコミュニケーションを担当。
店舗は、ラジオ局「湘南ビーチFM」のスタジオ跡地に出来たという。
「日本で唯一ハーバーに構えるショップでもあり、ブランドとしてセイリングにアプローチしていきたい思いがありました」と、この場所で店舗を展開した狙いを語った。
利用客の中にはやはりセイリングオーナーなど、より実用的なユーザーも多い。
「80年代や90年代からヘリーハンセンを知っている方なども多く、"昔のこういうカラーリングはないの""こういうアイテムが欲しい"などや、かなり実用的な"この部分をもっと補強して欲しい"というご要望もいただきます。僕らもそれらの要望を本社の企画にフィードバックする事で、実際に商品化へと実現した例もあります」と深谷さん。
さらに「社内に学生セイラーのコーチをしている者が居て、彼らからのフィードバックも実用化しているんです。例えば、セイリングは海上以外に地上でのトレーニングも重要なのですが、2019年秋冬に彼らからのフィードバックをもとに専用のトレーニングウエアを開発しました。そこからさらに幅広いトレーニングのカテゴリーを設けています」と、フィードバックから新規事業の展開へ繋がった例を話すのは、ゴールドウイン ヘリーハンセン事業部の安西恵里奈さんだ。
日本ヨット発祥の地としてお馴染みで、特に1964年の東京オリンピックの開催に合わせて建設された葉山マリーナ。
昔から根強いファンが足繁く通っているという。
「葉山と逗子という場所は、より一層他の地域よりヘリーハンセンが定着できているエリアだと感じています」と深谷さん。
「このショップが出来る前から来店されているお客様も多く、昔の葉山の話を聞く機会も多いです。ロケーションが良いので、観光地として毎シーズン同時期に来られる方もいらっしゃいますし。あとは、いつもヘリーハンセンのアイテムを着て、365日のほぼ毎日、葉山マリーナからのクルージングに出られている方が居るんです。非常にありがたいですよね」。
葉山という土地に対してのローカルファンが、非常に多い事にも驚かされているそうだ。
ただ、やはり他店舗に比べて集客は天候や季節に左右されているのが現実だそう。
「なかなかまとまった集客が見込めないなどの苦労はありますが、ロケーションはどこにも負けないですし、ヨットを背景にヘリーハンセンの商品を選べるというのはここでしかできないですから。そこが最大の魅力だと思っています」と深谷さん。
7〜8月の夏シーズンは海水浴や観光の方で沢山の来客があり、ショップ前の道が夜まで渋滞する。
「これはもう毎年恒例の事で、我々スタッフもバスにも乗れないので歩いて逗子駅から通っています。その方が早いので(笑)。ただクルージングするには、冬の方が空気が澄んでいて、お勧めですね、富士山もしっかり見えるので」と葉山というロケーションの魅力について続けた。
このコロナの状況になって2年、「葉山と逗子への移住者が増えたと感じる」という。
「30~40代、さらには50代の方が、都心部から移住されてきたと感じています。ファミリーのお客様が増えて、特にキッズのライフジャケットを買われる方が増加しました。また別荘を持たれている方も週末にいらっしゃる回数が増えたと感じています。コロナになって海での開放感を求められる方が増えた、そういう場所を求められている現状なのかな」と深谷さんは状況を話す。
深谷さんは、この状況が落ち着いた際には、子供を含めたセーリングイベントを考えているという。
「金額的にもなかなかマリンスポーツのハードルは高いですから、お店を通してイベントで体験して欲しいですし、マリンスポーツへの興味を持つきっかけづくりはやっていきたいですね。さらにイベントに合わせて、環境への活動なども子供たちに伝えていきたいです」。
プライベートでは、小型船舶の免許を取得したという深谷さん。
「家族と釣りなどで海に出ていますが、それをフィードバックしつつ、もっと海のファンをつくりたいと考えています」と、次世代へ海の楽しさを伝えるという熱い思いを語った。
「ライフジャケットに関しては、その大切さを伝えるためにも、店舗での貸し出しを導入していきたいと思っています。確かにいきなりセイリングはハードルが高いので、ファミリー層に向けて海への導線作りとしてクルージング体験なども今後進めたいと考えています。私自身、この会社に入ってから陸から見る景色と海から見る景色の違い、それに風の力を受けて進むヨットを体感しました。そういう体験は共有したいですし。その辺りは葉山マリーナさんとも取り組みが出来たらいいですよね」安西さんも展望を話す。
また、ヘリーハンセンは葉山マリーナとの共同企画で、ヨットの帆であるセイルクロスの回収プロジェクト「VINDKRAFT(ヴィンドクラフト)」を行なっている。
「不要になったセイルを処分する際、産業廃棄物扱いになってしまうので、どんな状態のものでも、どんな種類のものでも、すべて回収させていただいています。それを再利用して製品にするというアップサイクルプロジェクトなんです」と深谷さん。
ヴィンドクラフトとは、ノルウェー語で風力という意味だそう。
また、この企画による製品化の際には、船の名前とホームポートが掲載されるという。
「ご協力いただいたセイルオーナーさんからは、"製品がショップに並んだ際には声を掛けて欲しい"と言われて喜んでいただいています。企画が始まってまだ3年くらいですが、隣接している葉山港にある大学や高校のヨット部の学生がセイルを持ってくるなど、少しずつ広まってきていると感じています」と企画として浸透しつつあるという。
「弊社の特別サイトには、セイルをどのくらい回収して、そこからどれだけ製品としてアップサイクルされたのかなどが紹介されています。これは、ヘリーハンセンの環境問題に対するアクションで"H2Oプロジェクト"という企画を立ち上げており、その取り組みの一環なんです。その他に海の浮遊ゴミを回収する装置"SEABIN(シービン)"の設置を進めており、将来的には色々なマリーナでシービンの設置をしていければと思っています。シービンによって回収された海ゴミの分析なども行い、マイクロプラスティックゴミを減らすための活動につなげていく予定です」と、安西さんは海を巡る様々な環境プロジェクトについて説明してくれた。
マリンスポーツを中心に、環境や教育まで、様々な方面へと展開を進めているヘリーハンセン。
その最も海に近いショップ、葉山マリーナ店は、海を愛する老若男女が集まる特異なショップという点から、今後の消費動向を把握する際の重要な拠点となっていくだろう。
写真/野﨑慧嗣
取材/久保雅裕(くぼ まさひろ)
取材・文/カネコヒデシ
ヘリーハンセン 葉山マリーナ画像提供:ゴールドウイン
住所:神奈川県三浦郡葉山町堀内50-2
TEL:046-876-2520
営業時間:10:00-19:00
定休日:火曜日(7・8月を除く)
久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター
ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。
カネコヒデシ
メディアディレクター、エディター&ライター、ジャーナリスト、DJ。編集プロダクション「BonVoyage」主宰。WEBマガジン「TYO magazine」編集長&発行人。ニッポンのいい音楽を紹介するプロジェクト「Japanese Soul」主宰。そのほか、紙&ネットをふくめるさまざまな媒体での編集やライター、音楽を中心とするイベント企画、アパレルブランドのコンサルタント&アドバイザー、モノづくり、ラジオ番組製作&司会、イベントなどの司会、選曲、クラブやバー、カフェなどでのDJなどなど、活動は多岐にわたる。さまざまなメディアを使用した楽しいモノゴトを提案中。バーチャルとリアル、あらゆるメディアを縦横無尽に掛けめぐる仕掛人。