基本ビジネスシーンを意識しているが、カジュアルにも着て欲しいし、綺麗めなレストランに行く時にも、うまく活用して欲しいというコンセプトのアウール。
着心地や最先端の機能美を兼ね備え、30代半ばから50代の男性をメインターゲットに、新しい価値を提案するブランドだ。
クリエイティブディレクターには戸賀 敬城(とが ひろくに)氏、デザイン監修に橋本 淳(はしもと じゅん)氏が参画し、メンズファッション業界で豊富な経験を持つ両氏がタッグを組んで、新しい息吹を吹きこむことを目指しているという。

「世の中、パジャマスーツや作業着スーツに振られている状況で、男が全くモテない方向に行っている気がしているんですよ。だから、少し色気のあるものを意識して、あえてぶつけてみました」と濱田さん。
昨年末くらいからアフターコロナに向けた仕掛けづくりもあり、「メンズをやりたい」という代表の近藤(広幸)氏の意向で、セレクトショップの社長経験がある濱田さんに陣頭指揮の白羽の矢が立ったそう。

「最初は悩みましたね。この歳になってブランドを立ち上げるのは大変だなって(笑)。でも、そんなチャンスは、なかなか無いですし、多分この時期では他社さんもやらないだろうから、少しは目立てるのかなという目論見もありました」

コロナ渦を経て、このタイミングで新ブランドを立ち上げたのは、新しいブランドが生まれていない状況もあるという。
「百貨店に行っても同じようなブランドしか並んでいない状況ですし、商業施設では同じようなセレクトショップが並ぶ中、大人向けのカジュアルとなるとコンサバなイメージが強い。そして、正直なところ価格的には少し高いですよね。普通に買うには無理があるんです」と濱田さん。
そこで、インポートやラグジュアリーブランドを着こなしてきた濱田さんと戸賀氏、橋本氏の3人で「"自分達でもこれだったら着られる"という洋服を提案したかったんです」と、ブランド立ち上げの経緯について話す。

バイカラーカーディガン(17600円/税込)

ただ、マーケットとしては決して隙間だとは思っていないという。
「日本人はリモート向きではないと思っているので、世の中の流れとして、恐らくアフターコロナでは会社に通い始めると思うんですよね。ただ、コロナ前とは違って、ムード的にスタイリングは変わってくるだろうと。若い世代の人たちはカジュアルなセットアップにTシャツでいいのですが、40代とか、管理職だと彼らと同じ格好はできない。それに、そこそこ稼いではいるけれど家のローンや教育費だったりで大変ですよね。アウールはそういう人たちにも買えて、かつ若いサラリーマンとは差別化できるところを提案しています」と想定しているマーケットについて語る。

「50歳といっても今は若いので、そこまでターゲットにしたいですね。だから、ハンティング・ワールドやコール ハーン、ジョン・スメドレーのようなブランドとコラボする事で、"おじさんでも買えるんだよ"という安心感を与えたいです。逆に、そういうブランド側もアフターコロナのテイストを、我々のクリエイティブで変えたいと感じてくれているようですし。だから、決して隙間を狙っている訳ではなく、世の中の変化に対応するブランドを作りたいという事なんですよ」と続ける。

アウールは着用シーンを意識したアイテムを展開している。
「今回は、かなりシーンを意識していますね。ちなみに、パンツには"リナーテ"や"マルペンサ"などイタリアにある空港の名前を付けていて、"リナーテ"は、国内とヨーロッパ域内中心の空港なので比較的仕事面で、"マルペンサ"は、海外出張などでももう少しカジュアルで良い時。名前はそのくらいのレベルで付けているのですが、一応ストーリーはあります(笑)。それぞれのパンツは、毎日履いてもシワにならなくて、膝が伸びない素材で作っています。スニーカーにもビジネスシューズにも合わせられてジャケットにも合う、海外出張で着て行けるスタイルですね。そういうシーンを思い浮かべてやってます」と深くシーンの想定をしているそう。

左ラック、左から4本すべて ピーティーリナーテ(19800円)/5本~8本目 ピーティーマルペンサ(15400円)/右ラック1本 ピーティーリーベロ(17600円)

また、2022年春夏では、ジュン・ハシモトとのダブルネームでラグジュアリースポーツのラインも展開する。
「そこは橋本さんの得意ゾーンで、それにラグスポ的な服を着る人って、高い自転車に乗っていたり、少し余裕がある方ですよね。そういう人たちに向けて、アウールで打ち出すよりもジュン・ハシモトという名前で打ち出す方が、心をくすぐるのかなと」と話す。

戸賀氏と橋本氏の起用に関しては、「"誰とやろうか"となった時に、まずは気心知れている人の方が良いかなと。ただ、戸賀さんはラグジュアリーで良いものを知っているけれど少しコンサバ、橋本さんはラグジュアリースポーツには強いけどイタリアっぽくはない。であれば、3人でやったら"中和されて面白いのが出来るのかな"と。それを近藤さんに提案したら"面白い"みたいな話になったんです。ラグジュアリーの良い物を経験した人たちが、"ここまでならOK"な提案をするのが肝だと考えました」との事。

「あとは例えば、休みの日に夫婦でレストランに行く時に、旦那さんに"これぐらいのお洒落はして欲しい"という女性の願望を叶えるためにも作っていますよ」と、「女性がどう見るか」を大事にしている濱田さん。
濱田さんは、社内のブランド説明会で女性社員に「自分の旦那さんやパートナーにこれを着て欲しいと思えるファッション」と語ったという。
「女性に受ける物を作らなければ、マッシュから出す意味がないんですよ。先々は顧客の女性たちが、ご自身のパートナーに"これを着て欲しい"と言って欲しいんです。だから、旦那さんやパートナーを紹介した時の特典はやりたい。今度、会社に提案してみます(笑)」と、ゆくゆくは女性顧客へのアプローチも考えているようだ。

左から、リネンシャンブレージャケット(26400円)/リネン混ワッシャーストライプジャケット(30800円)/リンクスストライプジャケット(30800円)/テックソラーレスーツ(49500円)/チェックプリントジャケット(28600円)

「基本的には、百貨店と高感度なファッションビルが中心の展開になると思いますが、今の時代、やはりネット戦略が重要ですよね。EC化率は、時代感的にいくとスタートは30%くらいで、最終的には50%くらい。多分、今はそのくらいがスタンダードになってきていると考えます」

オンライン、オフラインの両軸でブランドの世界観を発信する今後の流通戦略の方向性を語った。
既存のメンズブランドでは実現できなかったスタイリングやディテールで新しい世界観を表現したアウール。
ニューノーマルが求められる今に、新しい価値感を与えてくれるブランドとなるのだろうか。

写真/遠藤純
文字起こし/片岡まい
取材/久保雅裕(くぼ まさひろ)
取材・文/カネコヒデシ

濱田博人株式会社マッシュスタイルラボ 専務取締役

1965年5月17日生まれ、熊本出身。  大学卒業後、(株)サンエー・インターナショナルにて営業、MD、店舗開発、などを経験しマーケティング本部執行役員に就任。 (株)東京スタイルと(株)サンエー・インターナショナルが統合し設立された(株)TSIホールディングスの取締役を経て、2016年よりTSI傘下(株)ナノ・ユニバースの代表取締役に就任。 2020年2月に代表取締役退任後同社顧問を経て、6月より(株)マッシュホールディングス上席執行役員ファッション事業戦略本部本部長に就任。
2021年4月~現職

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

Journal Cubocci

カネコヒデシ

メディアディレクター、エディター&ライター、ジャーナリスト、DJ。編集プロダクション「BonVoyage」主宰。WEBマガジン「TYO magazine」編集長&発行人。ニッポンのいい音楽を紹介するプロジェクト「Japanese Soul」主宰。そのほか、紙&ネットをふくめるさまざまな媒体での編集やライター、音楽を中心とするイベント企画、アパレルブランドのコンサルタント&アドバイザー、モノづくり、ラジオ番組製作&司会、イベントなどの司会、選曲、クラブやバー、カフェなどでのDJなどなど、活動は多岐にわたる。さまざまなメディアを使用した楽しいモノゴトを提案中。バーチャルとリアル、あらゆるメディアを縦横無尽に掛けめぐる仕掛人。

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