大きな変容の入り口にある今、存在理由を改めて確立し、ファッションで培った経験値を生かす
南馬越一義氏ビームス執行役員・ディレクターズバンク室長
1962年生まれ。学生時代にビームスで販売員のアルバイトをし、85年に入社。レイビームス渋谷の店長を経て、89年からバイヤーとして活動。2004年、レディス部門のクリエイティブディレクター。フランス文化省主催の若手デザイナー支援コンクール「アンダム」の審査員としても活躍。2010年、ビームス創造研究所シニアクリエイティブディレクター。
コミュニケーションを促すストーリー
新型コロナの感染拡大でFBも多大な影響を受けました。ここへきて感染者数は減少していますが、ファッション消費、FBは今後、どう変わっていくと思いますか
「オンライン化が一気に進み、以前から台頭してきていたDtoCの勢いも加速しましたよね。当社の業績も長期化した緊急事態宣言下の外出自粛、店舗の休業や時短営業で落ち込みましたが、今期はECの伸びや実店舗の回復で黒字化が見えてきています。その実感からするとコロナ後も、全くの元には戻らないにしても、消費行動が大きく変わることはないと思うんです。ただ、ECはまだ伸び、実店舗は存在理由がもっと問われるでしょうね。今、一年間でスタイルが一変するということがないですよね。"足るを知る"というか、前年に買った服で事足りてしまっています。その中でインフルエンサーが発信したものがフォロワーに買われたり、当社でもスタッフがライブコマースでコーディネートを発信すると購買に結びついたりしています。デジタルもリアルも対個人の濃いコミュニケーションを築いていけるかが鍵ではないか。ファッションを軸にするなら、対象をセグメントしたニッチな提案でないと響かないのではないかと思います」
そうした提案で大事になるのは何なのでしょう
「ストーリーです。例えば、当社は来期、古着を素材に新たなデザインを生むブランド"スリュー"と組んで在庫品をリメイクした商品を展開します。在庫を減らすことはSDGsの観点からも重要とされますが、単純にカッコいいものを作り、結果的に環境にも寄与する。そんなストーリーからスリューとのコラボを選びました。また、ここ数年、サウナが人気ですよね。サウナーの間では、オロナミンCをポカリスエットで割った"オロポ"がサウナ後の定番ドリンクになっています。そこでオロポのロゴやキャラクターを入れたグッズを作り、今年8月に伊勢丹新宿本店のサウナイベントに出店しました。オロポをシンプルにブランド化したわけですが、予算比140%超と大好評でした。とりわけ売れたのが、オロポを黄金比率で配合できるジョッキです。その後も百貨店などからポップアップの依頼があり、ECでも売れ続けています。1人で複数個を買って、乾杯シーンをSNSに投稿する。そこまでのストーリーですね」
- オロポグッズを集積した「オロポスタンド」
- オロポのロゴが入ったジョッキはサウナーに大人気
- Tシャツにはかわいいキャラクターのイラストを施した
ビームスの名前を出さないBtoBの取り組み
FBのこれからについて、どんなあり方が考えられるでしょう
「ファッションで培ってきたノウハウを事業化することも、今後のキーになると思います。とくに百貨店や大手のセレクトショップなどスケールのある企業は、従来のモデルではシュリンクしていくでしょうね。例えば、IBMはコンピュータの開発で大成長を遂げましたが、現在はシステムを売っています。極端な話、ビームスも将来は服を売っていないかもしれない、それぐらい大きな変容の入り口にあるのが今だと思うんです」
ビームスではかなり前からFB以外の領域でビジネスをしてきましたね
「二十数年前からソフトを提供するBtoB事業を手掛けてきました。その機能を2010年にビームス創造研究所に集約し、現在はデザインワークを担うビームスクリエイティブ、ライセンスビジネスのビームスデザイン、そしてクライアントワークのディレクターズバンクの3部門に分けています。私が受け持つディレクターズバンクの仕事は、一言で言うとビームスの名前を出さないBtoB事業です。"スターバックス・リザーブ・ロースタリー東京"の監修や商業施設のフロアプランニングなど様々なオファーを受けています。2022年春には私たちが監修したスーパー銭湯"竜泉寺の湯スパメッツォ・オオタカ"が開業します。インテリアや館内着、グッズなどいろいろ作りました。サウナ室用のBGMも、ロンドンで活躍する日本のサイケバンド"BO NINGEN"に作ってもらいました。滅茶苦茶カッコいいので、ぜひ体感してほしいですね」
取り組むときの基準のようなものはあるのですか
「リテラシーですね。異業種の新たなコンセプトの実現をサポートしていますが、互いにリテラシーを持てればコモディティー的な分野と組むこともあります。これまでのビームスではやってこなかったことに様々な企業と連携して取り組み、新たなマーケットを創っていきたい」
写真/遠藤純
取材/久保雅裕
久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター
ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。